残酷な描写あり
第9話 故郷を壊されたメルウクの巨人戦士・ユミロ
「俺は、俺は奴らが憎い! 俺たちの星を滅茶苦茶に壊した。――本当は戦いたくない。だが戦わなければ殺される。奴ら、一部の人を除いて殺し回っていた。同じ種族同士で、戦争を引き起こさせていた」
ユミロの生まれ故郷であるメルウクという美しい星は、DGの侵略に遭い必死の抵抗もむなしく壊滅的な被害を被った。
メルウク人はこの世界における人型生物としてはかなり巨大な体躯、そして尋常ではない耐久力、贅力を持ち合わせていた。
そのため優秀な兵士になると考え、DGが彼の星に攻め入ったのではないかとアレクサンドレアルは考えていた。
その中でユミロは苦難を耐え忍びながら、どうにかDGの幹部ポストに食い込むことができた。それは、内側からDGを破壊するためである。
その後彼は霊界と霊量士の存在を知り、彼らの悪行の秘密を知った今こそ彼らの野望を止めなければと画策していたのである。
つまり霊界の王のためというのは嘘であり、その逆であった。また彼は、DGを非道な組織にした犯人を知っていた。
また、かつて侵略するために別の星にいた際、彼は1人の白い服の男に出会ったという。その男はDGの施設をことごとく破壊しながら、誰かを探していたようであったという。
ユミロは男から探している者の特徴を教えてもらい探すのを手伝う代わりにその場を見逃してもらったという経緯があった。
「あの女神を止められるのは、その男だけなのだ」
その言葉が頭からずっと離れることがなかったユミロは、白い服の男が何者なのか疑問を抱きながら、その女神についての情報を少しだけ入手できたという。
それを把握したうえで、改めてDGよりもはるかに恐ろしい存在がおり、世界を壊そうとしているのがその女神であるということを彼らに話した。
「女神か……その白い服の男の動向も気になる」
「なんか怪しいんですけどねえ。そもそもなんで神様をどうにかするために人探しって」
「エレクトリール、それは私も同感だ。それに神などという曖昧な存在、居るとは思えない」
「あの、な、それについてだが。恐らくその男、ハーネイト、お前を探していたんじゃないか、と思う」
そしてハーネイトの容姿から男の探していたその人ではないかと考え、それと同時にメルウク人らしいとも言える、力を試したいためがためにいきなり彼を襲ったのであったとそう告げたのであった。
「ふぇえええ?あ、ああ?な、何故だ」
「それはこちらの台詞です。た、確かに只者ではないなあとは思いましたけど?あの悪魔さんも、どうも貴方に妙な事ばかり言ってきてましたし」
ハーネイトはその話を聞いて唖然とした顔をしていた。なぜ自分なのか、いや、そもそも本当の話なのだろうか。疑問が次々と溢れ出て、彼の頭を混乱させる。そしてエレクトリールも話の流れからしてそれはどうなのと突っ込む。
「はははは、ハーネイトよ。お主も災難だな」
「国王は人事のように笑わないでください」
機士国王もハーネイトにどこか他人事のようなことを意地悪気味に言い彼を呆れさせた。
この時エレクトリールは、ハーネイトの秘密についてもっと迫りたいと思い、彼らにしっかりついていこうと考えていたのであった。
それからも、ハーネイトはユミロの話をしっかりと受け止めていた。モーナスから話を聞いていた以上に、DGは非道な連中であることを改めて把握した。
また、エレクトリールは最初ユミロをDGだからと倒そうとしたが、事情を聴き武器を収めたのである。しかし、ユミロはエレクトリールの顔を睨みつけていた。それはまるで、知り合いか何かを見るような、けれども単純な関係ではないように彼は見えた。
「俺、もっと力欲しい。強い奴と戦って、あの男を倒す。霊界の王になりたいという人の皮を、被った悪魔、ゴールドマン、そして黒い衣の女……」
「あの悪魔も霊界がどうのこうのと言っていたが、何なのだ」
「霊界、それは一部の人しか、見ることのできない世界だ。そこに行けたものは強大な力を授かる、と言う。だが俺は……」
ユミロ曰く、実際にそのような場所が存在するのだろうか疑問を抱いていた。他の人から聞いた話をそのまま出しただけで彼本人はその存在についてはかなり懐疑的であった。というのも、
ユミロは幽霊とか実体のないものを見たことがないためであった。霊というものについて恐らく錯覚か何かだろうと。故に神の存在についても同様であったが、それについては白い男から聞いた話で少しは実感できたようであった。
「うーん、どうなのだろう。ユミロの肩に何かが取り付いている。それが仮に霊界から来たものと言うか、幽霊かなにかとしたら素質はあると思うんだけど。あれ、そういえばなんで俺も見えるのだ」
ユミロはハーネイトの指摘に対し、目を開き驚くも彼自身が疑問に感じたことに対して、今までDGの中で聞いた話について彼に話し始めた。
「見えるのか、そうなのか。ハーネイト、あいつらと同じ力、持っているかも。DGは、戦争を起こして利益を巻き上げる存在。と思っていた、だが今の実態は違う。人の魂を集め、ある物を作ろうとしている。そしてそれと、同じようなものが、ハーネイトの、体の中から感じる」
「えぇ?それってもしかして、これのことか?違う? 」
「まさか、大王様から預かったそれが? 」
ハーネイトは事務所で直した例の結晶を手元に呼び戻した。それを見てユミロは後ずさりをした。
「な、な……なぜ、なぜだ! それは。お、恐ろしい。なぜ、その宝玉を! 」
「まさか私の星の秘宝が……。だから狙われたのか。しかしあのビビりようは並ではないですねハーネイトさん」
「そうみたいだな。と言うかエレクトリール、そのことをなぜ早く言わない。持っている私も危ないだろう!」
ユミロは声を震わせながら宝玉から目をそらしていた。その本来の持ち主、エレクトリールは至って平然とハーネイトにそういい、彼はそんなものを預けさせるなと珍しく怒っていた。
「す、すみません。そこまで恐ろしいものとは聞かされていなかったものでして」
「はあ、仕方ないな。なあユミロ、私と共に来ないか?見たところ根が悪そうには見えない。もしこちらの要望に従うならば待遇は保証しよう。その能力の高さ、幹部にしたいほどだ。私の一撃を防ぐほどの肉体強度、気になる」
ハーネイトはユミロの目的を理解し、その力を借りれば今の状況をこちら側に有利にできるのではないかと考えた。
彼のやり方として、戦った相手が少しでもこちらの利益になるならば仲間にする傾向がある。今までもそうして配下に多くの人間を携えてきたという。
それから霊宝玉を再度格納しつつ、ユミロに対してこちら側に来るようハーネイトが声をかけた。
「何だ、要望、だと?敵を仲間に引き入れるとは、大した男、だな」
「いや、同じく戦う理由がありそうだなって。共通項なんて1つあれば十分なんだよ。要は、そのDGのボスを倒せばいい、ということだな? 」
「あ、ああ。確かに、同じ目的だ。うむ。それと金髪で左目にレンズをつけた、いつも左手に何かを抱えている男がそこにいる紫の服を着た男のことを、恨んでいると言っていた。写真見せてもらったからわかる」
ハーネイトの言葉に、ユミロはそう答える。そしてその人物の特徴から、彼は脳内である人物の姿を思い出す。
「その特徴、……ああ、ボルナレロか。しかしなぜ。まだ機士国で研究をしていたのでは?この前連絡して長話した時はそう言っていたが」
「MAGT(先進研究開発機構)の魔獣研究科リーダーか。あれは2年前に解体された。彼とは違う人物、ハイディーンと言う人物が進めていた研究を危険視したうえでのことだ」
するとルズイークが、ボルナレロと言う男についてハーネイトに何があったかを説明した。
「全員追放という決定は私たちもどうかと思ったけれど、ハーネイトが別の所に行ってから入ってきた、黒づくめの魔法使いの声を聴いているうちに、私たちは正常な判断ができなくなっていたようなの」
そしてアンジェルも説明を付け足す。それを聞いてハーネイトはあの時国を離れたのは早計だったと考えていた。
悪意ある魔法からの防衛法についての指導もしておけば事態を未然に防げたかもしれない。そう思うと悔しくてたまらなかった。そう彼は思っていた。
しかしまだこの3人が魔法に関して抵抗力があっただけ幸運であり、そうでなければ逃げる意思すら失われていた可能性があった。
「ジュラルミン軍事長官に突然付き人と称して現れた魔法使い。それが現れてからジュラルミンの様子が徐々におかしくなり、つい1月前に突然大量の機械兵を連れて我らを襲おうとしたのだ。以前から私兵を持ったり、過激な言動も目立っていたのだが、父の代からいた家臣の中では最も理性的だった。見た目はともかく」
ハーネイトは国王の話を聞き、その魔法使いのような人物が今回の1件に関わっているのではないかと推測し、しかもそれが計画的なものであったことも理解した。
そして国王は、科学者の追放が、実はDGに彼らを取り込ませるための計略であった可能性を指摘した。解散や追放を違和感なく行い、それからDGサイドに研究者たちを迎え入れようとしたのではないかとハーネイトは考えていた。
そうなるとその魔法使いは精神干渉型に特化した能力者ではないかと分析し、思い当たる人物を脳内で探していた。
「その研究者の男、本当はいいやつだ。しかし何かおかしい」
「ああ。ボルナレロもジュラルミンも本当はいいやつだ。付き合いも長かったから」
ハーネイトが機士国に住んでいた際に、ジュラルミンに生活面で助けられたことを覚えていた。そしてボルナレロの研究を見て高く評価し、仕事で稼いだ金の一部を研究費として提供していた。
このジュラルミンとボルナレロは共通して、魔獣に家族を殺されており、ハーネイトの活躍を聞き親近感を持つようになったのである。
だからこそ、二人がそのような事態を起こしていること自体がおかしいのであった。好奇心旺盛なうえに魔法科学、工学の心得もあるボルナレロならともかく、特にジュラルミンについては敵の魔法使いの姦計にはまっている可能性が高かったのである。
またボルナレロはプライドが高く、なかなか本当のことを言えなかったのかもしれないと彼は考えていた。そして、その裏にある事情を一切知らされていないことについても見抜いていた。
そう考えると彼らを見逃すことができなかった。しかし1人で乗り込むにも機士国の警戒網は厳重で、何かあった場合不測の事態に陥る可能性が高く攻めあぐねていた。
ハーネイト自身はどうとなっても、他の国を人質ならぬ国質にされたり、行動がばれて機士国王たちを危険にさらす可能性が考えられたが故に思うように動けない状況であった。
何より相手は同じ魔法使いだとするなら、探索や感知系の魔法を張り巡らしている可能性もないとはいえず、情報が揃うまで攻めに出るのは高いリスクが伴うと考えていたのであった。
「私たちも未熟だった、と言うことだな」
「そうね。あのような魔法があるなんて。不覚だったわ」
「いや、私も責任がある。もっと防御系の魔法を3人に教えていれば、魔法使いの術にかからず、ジュラルミンの異変にいち早く気付いた可能性が」
ハーネイトは自身のミスについて3人に謝った。しかし彼らはそれを気にせず、今はハーネイトとの再会を喜んでいたのであった。
「大事なのは、これからだよな。DGとその魔法使いの接点、目的、霊界。探らなきゃならんものが多すぎるぜ」
「ハーネイト1人ではさすがに荷が重そうだわ」
「外部に出ていたエージェントたちに現在情報を集めさせているが、他にも同様の存在を得て収集活動を行わなければならない」
ルズイークたちはこの事件に関して裏で大きなものが操っているのではないかと考えていた。
「こうなると、機士国の解放も同時に行わないといけないな。期待は薄いが、ジュラルミンの洗脳が解ければ前後に何があったか把握できるはずだ。魔法探偵の名に懸けて、この事件の解決を誓おう」
ハーネイトは決意を固めながら、少しだけ笑顔で4人を見た。その時、話を聞いていたユミロはハーネイトに話しかける。
「俺、その戦いに加わりたい。俺、足速い。情報、たくさんある。他の幹部のこと、ハーネイトの持っていたアイテムのことある程度わかる。DG倒すなら、今をもって離反、する!もう、あそこいたくない。まだ、教えたいこと山ほどある。霊量士(クォルタード)、その話もする」
ユミロはハーネイトの力を評価しつつ、その戦いに加わって故郷を破壊したDGを倒したいと告げた。
この時すでにユミロは、ハーネイトの固有能力の1つの影響を受けていた。そう、彼の顔。特に笑顔を見てしまったものは魅了されてしまうのであった。この力を彼自身は詳しくは把握していないが、多くの盗賊や犯罪者を改心させ半ば隷属させるほどの力を持っており、今回もそれが発動した模様であった。
彼の屈託のない笑顔は、昔ある戦争を止めたこともあるほどでいかに強力かがわかる。
「ハーネイトさん。いくら何でもいきなり敵だった人を加えるなんて」
「いや、これは追い風かもしれない。ユミロ、改めてDGに関する情報を知っている限りすべて教えてくれるか?それとボルナレロの居所もだ」
「ああ。それならすべて、話すとも。それで、いいのか? 」
「勿論だ。それで十分。何においても情報は大切。いきなり大収穫だ。しっかり面倒見てあげるからあとは任せて。私力仕事とか少し苦手だしさ……」
「どこがだ、全く。ハーネイトだってその見た目で実は怪力だからな」
「な、あれは、その……機士国王、その話は」
「ハーネイト、ありが、とう(しかし、なぜエレクトリールがこのような場所に。どういう、ことだ)」
ユミロは彼の対応に大泣きしながら感謝をし、ハーネイトたちに敵の幹部や規模について丁寧に教えた。
一方で、時折エレクトリールの表情を見ながら警戒しつつ、やや不満な表情も見せていた。それを軽く武器の手入れをしながら話をしていたハーネイトは気づき、彼女のことを知っているのかなと考えたものの、今はそれどころではないとしてボルナレロの行方についても話をした。
「彼は、この先にある、シャリナウという、小さな町にいるはずだ。しばらく、魔獣を操る実験をすると。場所の案内もできる」
「ふむ、そうか。敵は一人一人が強い代わりに数が少ないか。それを機械兵や魔獣などで補う。それだけでも相当助かる。ありがとう、ユミロ。共に、来てくれるか? 」
「勿論、だ。俺、ハーネイトの仲間になる。霊界の話は、他の幹部の方が、知っているはず、だ。捕まえて絞り出せばいいと思う。わかることだけは後で話す」
ユミロは大きな声でハーネイトにそう言い、雄叫びを上げた。ようやく運が向いてきた。ユミロはそう考え、DGから離反することを決めたのであった。
「わかった。しかしその巨体だと目立つな。それに傷も負っている。少し不本意かもしれないが、召喚契約を結べばユミロを目立たずに運べるし、傷を負っても早く治せる。しばらく隠密行動をとりたいが故の苦肉の手段だ」
「構わない。戦う時はいつでも呼び出してくれ」
ユミロはそれに快諾し、胸にこぶしを当てて任せろとポーズをとる。
「了解した。改めて、よろしくねユミロ! 」
「こちら、こそだ。今後ともよろしく」
こうして、予想外の戦力をいきなり手に入れたハーネイトはボルナレロを探しに行こうと考えていた。
「はあ、本当にあなたのカリスマ力は桁違いね。昔から暴走族やら盗賊やら、何でも取り込んでしまうのは分かっていたけれど。恐ろしいわね」
「大したものだ。確かに雰囲気から性根が腐っているわけじゃなさそうだしな。ハーネイトが仲間にする連中って、どこかそういう感じなんだよなあ。同類気が合うという奴か?」
「しかしこれで、奴らの状態が少しずつ分かってきた。流石だなハーネイトは。この状態で最善の手を引き寄せるか」
「まあ、成り行きですよ成り行き。見えざる王の手、その力もあるのかな……」
ハーネイトの手腕に驚く3人に対し、ハーネイトはあくまで結果的にそうなっただけだと謙遜していた。
「本当によくやりますね。確かにあのタイプは寝返りそうにはなさそうですが。しかしDGは本当にやり方が卑劣です。それにあの結晶のこと。そのために襲ったというならば許さないです。あの連中を。そしてユミロさんたちに酷いことをした件についてもです」
エレクトリールは故郷で起きたことも含め、DGのやり方に対し憤っていた。
「そうだな。彼もずっとつらい思いをしながら戦ってきたんだろう。もうこれ以上、同じ目に遭う奴らを増やさないようにしないといけない」
「ハーネイトの言うとおりだ。それに、白い男により別の星ではDGは壊滅状態になっていると彼から聞いたが、今度こそ彼らを葬る好機なのかもしれないぞ」
「そうですね、モーナスのおじさんからも前回と行動パターンが異なるようだと言っていたし、敵さんも何か問題があるのかもしれない。チャンスは、最大限に生かした者の所にだけ微笑む」
ハーネイトとアレクサンドレアルはそう考え、DGの蛮行を止めることを決意した。
「ねえ、話は宿に入って続きをしない?他に誰か襲ってきたら怖いわ」
「ああ。ではリノスに向かおう。この距離だとリンドブルグは1日近くかかる」
「ああ、慎重に動こう。しかし、女神……か。何の女神なのだろう」
ハーネイトはアンジェルの提案に従い、リノスで一泊しながら話の続きを行おうと言い、召喚ペンに入れたユミロも含め、4人を連れてリノスに向かうのであった。
街まで向かう途中、ハーネイトはルズイークたちからわずかに離れ、1人で考え込んでいた。日が落ち行く中、ひたすら白い服の男とその男が言っていた女神を止める者についてであった。
「ハーネイトさん、どうかしましたか?顔に疲れが出ていますよ」
「え、ああ、大丈夫、問題ないよ」
「でしたらよいのですが」
エレクトリールの声掛けにやや反応が遅れ言葉を返したハーネイトは、徐々に星が見え始めた空を見つめていた。
ユミロの生まれ故郷であるメルウクという美しい星は、DGの侵略に遭い必死の抵抗もむなしく壊滅的な被害を被った。
メルウク人はこの世界における人型生物としてはかなり巨大な体躯、そして尋常ではない耐久力、贅力を持ち合わせていた。
そのため優秀な兵士になると考え、DGが彼の星に攻め入ったのではないかとアレクサンドレアルは考えていた。
その中でユミロは苦難を耐え忍びながら、どうにかDGの幹部ポストに食い込むことができた。それは、内側からDGを破壊するためである。
その後彼は霊界と霊量士の存在を知り、彼らの悪行の秘密を知った今こそ彼らの野望を止めなければと画策していたのである。
つまり霊界の王のためというのは嘘であり、その逆であった。また彼は、DGを非道な組織にした犯人を知っていた。
また、かつて侵略するために別の星にいた際、彼は1人の白い服の男に出会ったという。その男はDGの施設をことごとく破壊しながら、誰かを探していたようであったという。
ユミロは男から探している者の特徴を教えてもらい探すのを手伝う代わりにその場を見逃してもらったという経緯があった。
「あの女神を止められるのは、その男だけなのだ」
その言葉が頭からずっと離れることがなかったユミロは、白い服の男が何者なのか疑問を抱きながら、その女神についての情報を少しだけ入手できたという。
それを把握したうえで、改めてDGよりもはるかに恐ろしい存在がおり、世界を壊そうとしているのがその女神であるということを彼らに話した。
「女神か……その白い服の男の動向も気になる」
「なんか怪しいんですけどねえ。そもそもなんで神様をどうにかするために人探しって」
「エレクトリール、それは私も同感だ。それに神などという曖昧な存在、居るとは思えない」
「あの、な、それについてだが。恐らくその男、ハーネイト、お前を探していたんじゃないか、と思う」
そしてハーネイトの容姿から男の探していたその人ではないかと考え、それと同時にメルウク人らしいとも言える、力を試したいためがためにいきなり彼を襲ったのであったとそう告げたのであった。
「ふぇえええ?あ、ああ?な、何故だ」
「それはこちらの台詞です。た、確かに只者ではないなあとは思いましたけど?あの悪魔さんも、どうも貴方に妙な事ばかり言ってきてましたし」
ハーネイトはその話を聞いて唖然とした顔をしていた。なぜ自分なのか、いや、そもそも本当の話なのだろうか。疑問が次々と溢れ出て、彼の頭を混乱させる。そしてエレクトリールも話の流れからしてそれはどうなのと突っ込む。
「はははは、ハーネイトよ。お主も災難だな」
「国王は人事のように笑わないでください」
機士国王もハーネイトにどこか他人事のようなことを意地悪気味に言い彼を呆れさせた。
この時エレクトリールは、ハーネイトの秘密についてもっと迫りたいと思い、彼らにしっかりついていこうと考えていたのであった。
それからも、ハーネイトはユミロの話をしっかりと受け止めていた。モーナスから話を聞いていた以上に、DGは非道な連中であることを改めて把握した。
また、エレクトリールは最初ユミロをDGだからと倒そうとしたが、事情を聴き武器を収めたのである。しかし、ユミロはエレクトリールの顔を睨みつけていた。それはまるで、知り合いか何かを見るような、けれども単純な関係ではないように彼は見えた。
「俺、もっと力欲しい。強い奴と戦って、あの男を倒す。霊界の王になりたいという人の皮を、被った悪魔、ゴールドマン、そして黒い衣の女……」
「あの悪魔も霊界がどうのこうのと言っていたが、何なのだ」
「霊界、それは一部の人しか、見ることのできない世界だ。そこに行けたものは強大な力を授かる、と言う。だが俺は……」
ユミロ曰く、実際にそのような場所が存在するのだろうか疑問を抱いていた。他の人から聞いた話をそのまま出しただけで彼本人はその存在についてはかなり懐疑的であった。というのも、
ユミロは幽霊とか実体のないものを見たことがないためであった。霊というものについて恐らく錯覚か何かだろうと。故に神の存在についても同様であったが、それについては白い男から聞いた話で少しは実感できたようであった。
「うーん、どうなのだろう。ユミロの肩に何かが取り付いている。それが仮に霊界から来たものと言うか、幽霊かなにかとしたら素質はあると思うんだけど。あれ、そういえばなんで俺も見えるのだ」
ユミロはハーネイトの指摘に対し、目を開き驚くも彼自身が疑問に感じたことに対して、今までDGの中で聞いた話について彼に話し始めた。
「見えるのか、そうなのか。ハーネイト、あいつらと同じ力、持っているかも。DGは、戦争を起こして利益を巻き上げる存在。と思っていた、だが今の実態は違う。人の魂を集め、ある物を作ろうとしている。そしてそれと、同じようなものが、ハーネイトの、体の中から感じる」
「えぇ?それってもしかして、これのことか?違う? 」
「まさか、大王様から預かったそれが? 」
ハーネイトは事務所で直した例の結晶を手元に呼び戻した。それを見てユミロは後ずさりをした。
「な、な……なぜ、なぜだ! それは。お、恐ろしい。なぜ、その宝玉を! 」
「まさか私の星の秘宝が……。だから狙われたのか。しかしあのビビりようは並ではないですねハーネイトさん」
「そうみたいだな。と言うかエレクトリール、そのことをなぜ早く言わない。持っている私も危ないだろう!」
ユミロは声を震わせながら宝玉から目をそらしていた。その本来の持ち主、エレクトリールは至って平然とハーネイトにそういい、彼はそんなものを預けさせるなと珍しく怒っていた。
「す、すみません。そこまで恐ろしいものとは聞かされていなかったものでして」
「はあ、仕方ないな。なあユミロ、私と共に来ないか?見たところ根が悪そうには見えない。もしこちらの要望に従うならば待遇は保証しよう。その能力の高さ、幹部にしたいほどだ。私の一撃を防ぐほどの肉体強度、気になる」
ハーネイトはユミロの目的を理解し、その力を借りれば今の状況をこちら側に有利にできるのではないかと考えた。
彼のやり方として、戦った相手が少しでもこちらの利益になるならば仲間にする傾向がある。今までもそうして配下に多くの人間を携えてきたという。
それから霊宝玉を再度格納しつつ、ユミロに対してこちら側に来るようハーネイトが声をかけた。
「何だ、要望、だと?敵を仲間に引き入れるとは、大した男、だな」
「いや、同じく戦う理由がありそうだなって。共通項なんて1つあれば十分なんだよ。要は、そのDGのボスを倒せばいい、ということだな? 」
「あ、ああ。確かに、同じ目的だ。うむ。それと金髪で左目にレンズをつけた、いつも左手に何かを抱えている男がそこにいる紫の服を着た男のことを、恨んでいると言っていた。写真見せてもらったからわかる」
ハーネイトの言葉に、ユミロはそう答える。そしてその人物の特徴から、彼は脳内である人物の姿を思い出す。
「その特徴、……ああ、ボルナレロか。しかしなぜ。まだ機士国で研究をしていたのでは?この前連絡して長話した時はそう言っていたが」
「MAGT(先進研究開発機構)の魔獣研究科リーダーか。あれは2年前に解体された。彼とは違う人物、ハイディーンと言う人物が進めていた研究を危険視したうえでのことだ」
するとルズイークが、ボルナレロと言う男についてハーネイトに何があったかを説明した。
「全員追放という決定は私たちもどうかと思ったけれど、ハーネイトが別の所に行ってから入ってきた、黒づくめの魔法使いの声を聴いているうちに、私たちは正常な判断ができなくなっていたようなの」
そしてアンジェルも説明を付け足す。それを聞いてハーネイトはあの時国を離れたのは早計だったと考えていた。
悪意ある魔法からの防衛法についての指導もしておけば事態を未然に防げたかもしれない。そう思うと悔しくてたまらなかった。そう彼は思っていた。
しかしまだこの3人が魔法に関して抵抗力があっただけ幸運であり、そうでなければ逃げる意思すら失われていた可能性があった。
「ジュラルミン軍事長官に突然付き人と称して現れた魔法使い。それが現れてからジュラルミンの様子が徐々におかしくなり、つい1月前に突然大量の機械兵を連れて我らを襲おうとしたのだ。以前から私兵を持ったり、過激な言動も目立っていたのだが、父の代からいた家臣の中では最も理性的だった。見た目はともかく」
ハーネイトは国王の話を聞き、その魔法使いのような人物が今回の1件に関わっているのではないかと推測し、しかもそれが計画的なものであったことも理解した。
そして国王は、科学者の追放が、実はDGに彼らを取り込ませるための計略であった可能性を指摘した。解散や追放を違和感なく行い、それからDGサイドに研究者たちを迎え入れようとしたのではないかとハーネイトは考えていた。
そうなるとその魔法使いは精神干渉型に特化した能力者ではないかと分析し、思い当たる人物を脳内で探していた。
「その研究者の男、本当はいいやつだ。しかし何かおかしい」
「ああ。ボルナレロもジュラルミンも本当はいいやつだ。付き合いも長かったから」
ハーネイトが機士国に住んでいた際に、ジュラルミンに生活面で助けられたことを覚えていた。そしてボルナレロの研究を見て高く評価し、仕事で稼いだ金の一部を研究費として提供していた。
このジュラルミンとボルナレロは共通して、魔獣に家族を殺されており、ハーネイトの活躍を聞き親近感を持つようになったのである。
だからこそ、二人がそのような事態を起こしていること自体がおかしいのであった。好奇心旺盛なうえに魔法科学、工学の心得もあるボルナレロならともかく、特にジュラルミンについては敵の魔法使いの姦計にはまっている可能性が高かったのである。
またボルナレロはプライドが高く、なかなか本当のことを言えなかったのかもしれないと彼は考えていた。そして、その裏にある事情を一切知らされていないことについても見抜いていた。
そう考えると彼らを見逃すことができなかった。しかし1人で乗り込むにも機士国の警戒網は厳重で、何かあった場合不測の事態に陥る可能性が高く攻めあぐねていた。
ハーネイト自身はどうとなっても、他の国を人質ならぬ国質にされたり、行動がばれて機士国王たちを危険にさらす可能性が考えられたが故に思うように動けない状況であった。
何より相手は同じ魔法使いだとするなら、探索や感知系の魔法を張り巡らしている可能性もないとはいえず、情報が揃うまで攻めに出るのは高いリスクが伴うと考えていたのであった。
「私たちも未熟だった、と言うことだな」
「そうね。あのような魔法があるなんて。不覚だったわ」
「いや、私も責任がある。もっと防御系の魔法を3人に教えていれば、魔法使いの術にかからず、ジュラルミンの異変にいち早く気付いた可能性が」
ハーネイトは自身のミスについて3人に謝った。しかし彼らはそれを気にせず、今はハーネイトとの再会を喜んでいたのであった。
「大事なのは、これからだよな。DGとその魔法使いの接点、目的、霊界。探らなきゃならんものが多すぎるぜ」
「ハーネイト1人ではさすがに荷が重そうだわ」
「外部に出ていたエージェントたちに現在情報を集めさせているが、他にも同様の存在を得て収集活動を行わなければならない」
ルズイークたちはこの事件に関して裏で大きなものが操っているのではないかと考えていた。
「こうなると、機士国の解放も同時に行わないといけないな。期待は薄いが、ジュラルミンの洗脳が解ければ前後に何があったか把握できるはずだ。魔法探偵の名に懸けて、この事件の解決を誓おう」
ハーネイトは決意を固めながら、少しだけ笑顔で4人を見た。その時、話を聞いていたユミロはハーネイトに話しかける。
「俺、その戦いに加わりたい。俺、足速い。情報、たくさんある。他の幹部のこと、ハーネイトの持っていたアイテムのことある程度わかる。DG倒すなら、今をもって離反、する!もう、あそこいたくない。まだ、教えたいこと山ほどある。霊量士(クォルタード)、その話もする」
ユミロはハーネイトの力を評価しつつ、その戦いに加わって故郷を破壊したDGを倒したいと告げた。
この時すでにユミロは、ハーネイトの固有能力の1つの影響を受けていた。そう、彼の顔。特に笑顔を見てしまったものは魅了されてしまうのであった。この力を彼自身は詳しくは把握していないが、多くの盗賊や犯罪者を改心させ半ば隷属させるほどの力を持っており、今回もそれが発動した模様であった。
彼の屈託のない笑顔は、昔ある戦争を止めたこともあるほどでいかに強力かがわかる。
「ハーネイトさん。いくら何でもいきなり敵だった人を加えるなんて」
「いや、これは追い風かもしれない。ユミロ、改めてDGに関する情報を知っている限りすべて教えてくれるか?それとボルナレロの居所もだ」
「ああ。それならすべて、話すとも。それで、いいのか? 」
「勿論だ。それで十分。何においても情報は大切。いきなり大収穫だ。しっかり面倒見てあげるからあとは任せて。私力仕事とか少し苦手だしさ……」
「どこがだ、全く。ハーネイトだってその見た目で実は怪力だからな」
「な、あれは、その……機士国王、その話は」
「ハーネイト、ありが、とう(しかし、なぜエレクトリールがこのような場所に。どういう、ことだ)」
ユミロは彼の対応に大泣きしながら感謝をし、ハーネイトたちに敵の幹部や規模について丁寧に教えた。
一方で、時折エレクトリールの表情を見ながら警戒しつつ、やや不満な表情も見せていた。それを軽く武器の手入れをしながら話をしていたハーネイトは気づき、彼女のことを知っているのかなと考えたものの、今はそれどころではないとしてボルナレロの行方についても話をした。
「彼は、この先にある、シャリナウという、小さな町にいるはずだ。しばらく、魔獣を操る実験をすると。場所の案内もできる」
「ふむ、そうか。敵は一人一人が強い代わりに数が少ないか。それを機械兵や魔獣などで補う。それだけでも相当助かる。ありがとう、ユミロ。共に、来てくれるか? 」
「勿論、だ。俺、ハーネイトの仲間になる。霊界の話は、他の幹部の方が、知っているはず、だ。捕まえて絞り出せばいいと思う。わかることだけは後で話す」
ユミロは大きな声でハーネイトにそう言い、雄叫びを上げた。ようやく運が向いてきた。ユミロはそう考え、DGから離反することを決めたのであった。
「わかった。しかしその巨体だと目立つな。それに傷も負っている。少し不本意かもしれないが、召喚契約を結べばユミロを目立たずに運べるし、傷を負っても早く治せる。しばらく隠密行動をとりたいが故の苦肉の手段だ」
「構わない。戦う時はいつでも呼び出してくれ」
ユミロはそれに快諾し、胸にこぶしを当てて任せろとポーズをとる。
「了解した。改めて、よろしくねユミロ! 」
「こちら、こそだ。今後ともよろしく」
こうして、予想外の戦力をいきなり手に入れたハーネイトはボルナレロを探しに行こうと考えていた。
「はあ、本当にあなたのカリスマ力は桁違いね。昔から暴走族やら盗賊やら、何でも取り込んでしまうのは分かっていたけれど。恐ろしいわね」
「大したものだ。確かに雰囲気から性根が腐っているわけじゃなさそうだしな。ハーネイトが仲間にする連中って、どこかそういう感じなんだよなあ。同類気が合うという奴か?」
「しかしこれで、奴らの状態が少しずつ分かってきた。流石だなハーネイトは。この状態で最善の手を引き寄せるか」
「まあ、成り行きですよ成り行き。見えざる王の手、その力もあるのかな……」
ハーネイトの手腕に驚く3人に対し、ハーネイトはあくまで結果的にそうなっただけだと謙遜していた。
「本当によくやりますね。確かにあのタイプは寝返りそうにはなさそうですが。しかしDGは本当にやり方が卑劣です。それにあの結晶のこと。そのために襲ったというならば許さないです。あの連中を。そしてユミロさんたちに酷いことをした件についてもです」
エレクトリールは故郷で起きたことも含め、DGのやり方に対し憤っていた。
「そうだな。彼もずっとつらい思いをしながら戦ってきたんだろう。もうこれ以上、同じ目に遭う奴らを増やさないようにしないといけない」
「ハーネイトの言うとおりだ。それに、白い男により別の星ではDGは壊滅状態になっていると彼から聞いたが、今度こそ彼らを葬る好機なのかもしれないぞ」
「そうですね、モーナスのおじさんからも前回と行動パターンが異なるようだと言っていたし、敵さんも何か問題があるのかもしれない。チャンスは、最大限に生かした者の所にだけ微笑む」
ハーネイトとアレクサンドレアルはそう考え、DGの蛮行を止めることを決意した。
「ねえ、話は宿に入って続きをしない?他に誰か襲ってきたら怖いわ」
「ああ。ではリノスに向かおう。この距離だとリンドブルグは1日近くかかる」
「ああ、慎重に動こう。しかし、女神……か。何の女神なのだろう」
ハーネイトはアンジェルの提案に従い、リノスで一泊しながら話の続きを行おうと言い、召喚ペンに入れたユミロも含め、4人を連れてリノスに向かうのであった。
街まで向かう途中、ハーネイトはルズイークたちからわずかに離れ、1人で考え込んでいた。日が落ち行く中、ひたすら白い服の男とその男が言っていた女神を止める者についてであった。
「ハーネイトさん、どうかしましたか?顔に疲れが出ていますよ」
「え、ああ、大丈夫、問題ないよ」
「でしたらよいのですが」
エレクトリールの声掛けにやや反応が遅れ言葉を返したハーネイトは、徐々に星が見え始めた空を見つめていた。