残酷な描写あり
11-2 親友の言うことには。
「日和ー!!みてみて、可愛くない? 今推しのモデル、長谷川ゆうき!」
授業休みの間に、突然雑誌を取り出して見せてきたのは弥生だ。
今日は三つ編みを巻いて後頭部で団子をしている。
それは日和も一緒で「久しぶりに髪型を弄らせて!」と言ってきた弥生にやられた。
ここ最近は……多分置野家に住むようになり、登校時間がズレてしまった辺りから髪は弄られていなかった。
それは日和だけでなく弥生も登校の時間が少し遅くなったことで、更に弥生の至福の時間が減り、ついには無くなってしまったようだ。
それが、今日は珍しく早めに来た弥生はやけに上機嫌な弥生だった。
久しぶりに日和の髪を纏められたからかと思っていたが、どうやらそれだけではなかったらしい。
「長谷川ゆうき、さん。あ、同じ髪型してるんだね」
弥生が見せてきた雑誌はファッション誌のようだが、モデルもファッションも興味のない日和はモデルの髪型のみに注目せざるを得ない。
細身で長くウェーブした髪をハーフアップにし、上半分は三つ編みにして団子に纏めている。
今の日和達と同じ髪型だ。
どうやらこれをやりたかったようで、弥生はウキウキとしていて、すっきりとした顔を見せている。
相当楽しかったらしい。
「そー、これがしたくて日和の髪でさせて貰ったの! 私じゃ短いからちっちゃい団子になっちゃうし、やっぱ日和くらいじゃないとお花みたいにならないよねー」
「ほら」と言われてみせられたのはスマートフォンの画面。
今回は相当気合を入れていたようで、嬉しくはないが髪を纏めた後に写真を撮られた。
画面はその写真を写している。
「お花……確かに、お花みたい」
そう言われてやっと、三つ編みの端がぼこぼことしていて花のように見えることに気付いた。
雑誌の女性も三つ編みの外側が少し広がっていて、まるで花弁の様相だ。
これがお洒落、というものだろうか。
しかし日和の思考は残念ながら『髪形への興味』よりも『この髪形をする労力』の方が大きかった。
日和が容姿を気にする未来はまだまだ遠い。
あと、こういう使い方でならば写真を撮られるのも許してしまう。
「にしても今日ムシムシしない? あっつーい」
「だって今日も雨の予報だよ? 今も少しずつ降ってるし……――」
その時だった。
教室の窓側から「うわっ」っと声が上がった。
振り向くとクラスメイト達が一斉に窓を見て、叫んだようだ。
「うわー、すごい雨。梅雨だけど、これで外出たくないね」
「……うん、そうだね」
先程までしとしと降っていた雨は、まるでバケツをひっくり返したように降り注いでいる。
これでは屋上で食事をとるのは難しそうだ。
「へぇ……中々綺麗な服ね」
「あ、波音」
他の生徒と同じく窓を見ていたら、近くで声がした。
振り向けばいつの間にか波音が隣に立っている。
その目は雑誌に向けられ、写真に映るモデルを覗いていた。
「水鏡さん! ねえ、水鏡さんはユッキーに興味ある?」
「ユッキー?」
目を爛々と輝かせる弥生に波音は首を傾げる。
雑誌のモデルを指で示す弥生に、波音は静かに首を横へと振った。
波音が見ていたのはモデルではなく、モデルが来ている衣装だったようだ。
衣服に目が行く程ファッションが気になっている波音でも、モデルの方は認知していないらしい。
寧ろ日々妖を追いかけ戦う術士に、そういった趣味を堪能できる時間はあるのだろうか。
「ごめんなさい、知らないわ。有名な子なの?」
「今はまだ発展途上だと思う。モデルは色々大変なんだろうなぁ。テレビでたまに見るけど」
「ふぅん……私、テレビはあまり見ないから分からなかったわ」
そう口にする波音はやはりモデルにはあまり興味が無い、といった表情をしている。
そこは多分、日和と同じ顔だ。
二人連続で『知らない』と言われてしまったことを気にしたのだろうか、弥生がガタ、と音を立てて立ち上がる。
「モテルはね、自分から輝かないとだめなんだよ!」
「……っ!?」
「輝く?」
「そ、ユッキーが輝けばきっと皆にもっと見て貰えて、人気も爆上がりだと思うんだよね! もっとユッキー見たい!」
突然立ち上がり熱弁を始める弥生に日和は驚いたが、弥生は気付けば"ユッキー"を連呼し、思いを馳せている。
日和と波音は彼女の口から零れるユッキーへの愛に気圧された。
特に術士達と出会ってやっと他人を認知した日和である。
他者に特別な情などあまり湧かない日和にとっては既に理解し難い領域の話だ。
「輝くって……具体的にはどうするのよ?」
「うーん……自分が輝くには、か。自己主張じゃなくて、自分を隠さず魅せる事じゃない?
だってテレビや雑誌に出てるんだよ?取り繕った姿なんてどこにでもいるじゃん!モデルは自分自身を見られてるんだから、もっと自分魅せなきゃ!」
「なるほど……深いわね」
波音の難しい問いに対して、弥生の回答は言葉の意味を読み解くことですら難しい、とさえ日和は思う。
しかし波音は理解したのか、笑顔で返ってきた回答に頷き納得している。
やはり分からない。日和には到底理解のできない世界だ。
授業が終わり昼食の時間になった。
しかし雨は多少落ち着いたものの、未だ静かに降り続けている。
やはり屋上での昼食は難しいだろう。
どうしようかと思っていた日和だが、杞憂だったようで早速波音がやってきた。
「日和、行くわよ」
「えっ、行くってどこへ?」
突然腕を掴まれ、日和はよく分からないまま波音に引っ張られてついていく。
行く先は――屋上だった。
「ちょ、波音! 雨降ってるよね…――えっ」
波音が開け放った屋上への扉、その先はなんと雨を知らない屋上だった。
地面は乾き、空は雨雲の曇天だが、いつもとなんら変わらない風景に日和は目を丸くする。
「あそこに天気なんて関係無しの男がいるじゃない」
にっと笑う波音が指差した先、玲がいつもの場所で立っていた。
食事の準備をしていたようだが、日和と波音の姿に気付くとにこりと笑い、手を上げる。
「あ、ちゃんと来たね。良かった」
「これ、どうなってるんですか?」
思わず日和は玲の所へ駆け寄り、食い気味に問う。
「僕の水と自然の水は別物だから、ちょっと水のカーテンみたいなものを張って屋根を作ったんだ。下はさっさと乾かして、ね」
術士の力は『物は使い様』といったところだろうか。
まさかそんな使い方をするとは思わず、日和には衝撃でしかない。
「なんだか水の力を最大限に使ってますね……そんなこともできるんだ……」
「まあね。規模的には咲栂にお願いしてもいいけど、これぐらいなら大したことないよ」
多分玲は感覚が麻痺している。
それとも水の性質を変えることと、水量を出すことでは疲労のしやすさが違うのだろうか。
日和の中でそういった疑問が浮かびながらも、口には出さず飲み込んだ。
ちなみに性質を変える方が疲れるらしいのだと、後に竜牙が教えてくれた。
竜牙の場合は土を石や岩、砂に変えるために少しばかり力が必要らしい。
「そういえば大事な話があるって聞いたんだけど、何?」
「師隼が東京に行くんだって、多分五日間位かかるみたいだよ」
波音はいつもの場所に座り込むと、早速口を開いた。
玲はご飯を飲み込み返事をすると緑茶を喉に流す。
「ふぅん……」と箸でおかずを取りながら相槌を返した波音だったが、ぴくりと止まって視線が玲へと向いた。
「ちょっと待って、なら誰が世話役するの?」
「そりゃあ……有栖先輩じゃない?」
玲の答えに波音の表情がさぁ、っと一気に青くなる。
「……波音?」
「あ、麗那先輩か……そう、そうよね……」
波音が明らかに動揺をし始めた。
様子の変わり具合には鈍い日和でも、流石に分かる程だ。
「波音、どうかしたんですか……?」
「波音は麗那が苦手らしい」
日和は小声で竜牙に訊くと、同じく小声で答えてくれた。
波音の様子を見るに、相当苦手らしい。
「そうなんですか……」
先日話を聞いてくれた日和からすると、苦手になる理由がよく分からない。
それでも聞けば傷を抉るだけだろう。
よって、それ以上は日和から口に出すことはない。
「まあそこまで気にしなくて良いと思う。いつも通りにやれば問題ないよ、きっと」
「そう、よね……いつも通り。……ええ、いつも通りにやるわ」
気を楽にさせようとした玲の笑顔付きの言葉だったが、波音の表情は余計に落ちて項垂れた。
見た目の雰囲気からではいつも通りに振る舞うことは難しそうに感じるが、これもなんだか口出ししてはいけない気がする。
それからも波音は曖昧な返事をしながらもそもそと弁当を頬張っていて、やはり元気がない。
中々声をかけづらくて、結局日和は関わることはできなかった。
その後の授業の様子こそ普通だったが、帰宅時はそっけない。
真っ先に「気をつけて帰りなさいよ」と言って波音は帰ってしまった。
「あっれ、水鏡さんどうしたの?」
その様子には流石の弥生も気になったのか、不思議な顔でこちらに話しかけてきた。
「ちょっと、落ち込んでるみたい」
「なんだか珍しいね。日和も顔がうずうずしてて珍しいけど?」
「え?」
変な事を言う弥生に思わず素っ頓狂な声が出して日和は目を丸くする。
自分の何処がうずうずしているのだろうか。
「何? 水鏡さんを元気づけたいとかそういうやつ?買い物でもする?」
どことなく弥生も目がきらきらとしている。
女子力の高い弥生だ、買い物の気配に期待しているのだろう。
「でも、何したらいいか分からないし……」
確かに、波音を気にしているのは確かだ。
自分がうずうずしているのかは、よく分からないけど。
「水鏡さんが好きそうなもの、プレゼント探しにいこ!」
急な提案だが、残念ながら波音が何を喜ぶのかは全く分からない。
寧ろ自分だって分からないのに。
それでも落ち込んだままの波音はやはりどこか寂しくて、気になってしまう。
友人としてどうするべきか分からない日和は、弥生の案に乗ることにした。
授業休みの間に、突然雑誌を取り出して見せてきたのは弥生だ。
今日は三つ編みを巻いて後頭部で団子をしている。
それは日和も一緒で「久しぶりに髪型を弄らせて!」と言ってきた弥生にやられた。
ここ最近は……多分置野家に住むようになり、登校時間がズレてしまった辺りから髪は弄られていなかった。
それは日和だけでなく弥生も登校の時間が少し遅くなったことで、更に弥生の至福の時間が減り、ついには無くなってしまったようだ。
それが、今日は珍しく早めに来た弥生はやけに上機嫌な弥生だった。
久しぶりに日和の髪を纏められたからかと思っていたが、どうやらそれだけではなかったらしい。
「長谷川ゆうき、さん。あ、同じ髪型してるんだね」
弥生が見せてきた雑誌はファッション誌のようだが、モデルもファッションも興味のない日和はモデルの髪型のみに注目せざるを得ない。
細身で長くウェーブした髪をハーフアップにし、上半分は三つ編みにして団子に纏めている。
今の日和達と同じ髪型だ。
どうやらこれをやりたかったようで、弥生はウキウキとしていて、すっきりとした顔を見せている。
相当楽しかったらしい。
「そー、これがしたくて日和の髪でさせて貰ったの! 私じゃ短いからちっちゃい団子になっちゃうし、やっぱ日和くらいじゃないとお花みたいにならないよねー」
「ほら」と言われてみせられたのはスマートフォンの画面。
今回は相当気合を入れていたようで、嬉しくはないが髪を纏めた後に写真を撮られた。
画面はその写真を写している。
「お花……確かに、お花みたい」
そう言われてやっと、三つ編みの端がぼこぼことしていて花のように見えることに気付いた。
雑誌の女性も三つ編みの外側が少し広がっていて、まるで花弁の様相だ。
これがお洒落、というものだろうか。
しかし日和の思考は残念ながら『髪形への興味』よりも『この髪形をする労力』の方が大きかった。
日和が容姿を気にする未来はまだまだ遠い。
あと、こういう使い方でならば写真を撮られるのも許してしまう。
「にしても今日ムシムシしない? あっつーい」
「だって今日も雨の予報だよ? 今も少しずつ降ってるし……――」
その時だった。
教室の窓側から「うわっ」っと声が上がった。
振り向くとクラスメイト達が一斉に窓を見て、叫んだようだ。
「うわー、すごい雨。梅雨だけど、これで外出たくないね」
「……うん、そうだね」
先程までしとしと降っていた雨は、まるでバケツをひっくり返したように降り注いでいる。
これでは屋上で食事をとるのは難しそうだ。
「へぇ……中々綺麗な服ね」
「あ、波音」
他の生徒と同じく窓を見ていたら、近くで声がした。
振り向けばいつの間にか波音が隣に立っている。
その目は雑誌に向けられ、写真に映るモデルを覗いていた。
「水鏡さん! ねえ、水鏡さんはユッキーに興味ある?」
「ユッキー?」
目を爛々と輝かせる弥生に波音は首を傾げる。
雑誌のモデルを指で示す弥生に、波音は静かに首を横へと振った。
波音が見ていたのはモデルではなく、モデルが来ている衣装だったようだ。
衣服に目が行く程ファッションが気になっている波音でも、モデルの方は認知していないらしい。
寧ろ日々妖を追いかけ戦う術士に、そういった趣味を堪能できる時間はあるのだろうか。
「ごめんなさい、知らないわ。有名な子なの?」
「今はまだ発展途上だと思う。モデルは色々大変なんだろうなぁ。テレビでたまに見るけど」
「ふぅん……私、テレビはあまり見ないから分からなかったわ」
そう口にする波音はやはりモデルにはあまり興味が無い、といった表情をしている。
そこは多分、日和と同じ顔だ。
二人連続で『知らない』と言われてしまったことを気にしたのだろうか、弥生がガタ、と音を立てて立ち上がる。
「モテルはね、自分から輝かないとだめなんだよ!」
「……っ!?」
「輝く?」
「そ、ユッキーが輝けばきっと皆にもっと見て貰えて、人気も爆上がりだと思うんだよね! もっとユッキー見たい!」
突然立ち上がり熱弁を始める弥生に日和は驚いたが、弥生は気付けば"ユッキー"を連呼し、思いを馳せている。
日和と波音は彼女の口から零れるユッキーへの愛に気圧された。
特に術士達と出会ってやっと他人を認知した日和である。
他者に特別な情などあまり湧かない日和にとっては既に理解し難い領域の話だ。
「輝くって……具体的にはどうするのよ?」
「うーん……自分が輝くには、か。自己主張じゃなくて、自分を隠さず魅せる事じゃない?
だってテレビや雑誌に出てるんだよ?取り繕った姿なんてどこにでもいるじゃん!モデルは自分自身を見られてるんだから、もっと自分魅せなきゃ!」
「なるほど……深いわね」
波音の難しい問いに対して、弥生の回答は言葉の意味を読み解くことですら難しい、とさえ日和は思う。
しかし波音は理解したのか、笑顔で返ってきた回答に頷き納得している。
やはり分からない。日和には到底理解のできない世界だ。
授業が終わり昼食の時間になった。
しかし雨は多少落ち着いたものの、未だ静かに降り続けている。
やはり屋上での昼食は難しいだろう。
どうしようかと思っていた日和だが、杞憂だったようで早速波音がやってきた。
「日和、行くわよ」
「えっ、行くってどこへ?」
突然腕を掴まれ、日和はよく分からないまま波音に引っ張られてついていく。
行く先は――屋上だった。
「ちょ、波音! 雨降ってるよね…――えっ」
波音が開け放った屋上への扉、その先はなんと雨を知らない屋上だった。
地面は乾き、空は雨雲の曇天だが、いつもとなんら変わらない風景に日和は目を丸くする。
「あそこに天気なんて関係無しの男がいるじゃない」
にっと笑う波音が指差した先、玲がいつもの場所で立っていた。
食事の準備をしていたようだが、日和と波音の姿に気付くとにこりと笑い、手を上げる。
「あ、ちゃんと来たね。良かった」
「これ、どうなってるんですか?」
思わず日和は玲の所へ駆け寄り、食い気味に問う。
「僕の水と自然の水は別物だから、ちょっと水のカーテンみたいなものを張って屋根を作ったんだ。下はさっさと乾かして、ね」
術士の力は『物は使い様』といったところだろうか。
まさかそんな使い方をするとは思わず、日和には衝撃でしかない。
「なんだか水の力を最大限に使ってますね……そんなこともできるんだ……」
「まあね。規模的には咲栂にお願いしてもいいけど、これぐらいなら大したことないよ」
多分玲は感覚が麻痺している。
それとも水の性質を変えることと、水量を出すことでは疲労のしやすさが違うのだろうか。
日和の中でそういった疑問が浮かびながらも、口には出さず飲み込んだ。
ちなみに性質を変える方が疲れるらしいのだと、後に竜牙が教えてくれた。
竜牙の場合は土を石や岩、砂に変えるために少しばかり力が必要らしい。
「そういえば大事な話があるって聞いたんだけど、何?」
「師隼が東京に行くんだって、多分五日間位かかるみたいだよ」
波音はいつもの場所に座り込むと、早速口を開いた。
玲はご飯を飲み込み返事をすると緑茶を喉に流す。
「ふぅん……」と箸でおかずを取りながら相槌を返した波音だったが、ぴくりと止まって視線が玲へと向いた。
「ちょっと待って、なら誰が世話役するの?」
「そりゃあ……有栖先輩じゃない?」
玲の答えに波音の表情がさぁ、っと一気に青くなる。
「……波音?」
「あ、麗那先輩か……そう、そうよね……」
波音が明らかに動揺をし始めた。
様子の変わり具合には鈍い日和でも、流石に分かる程だ。
「波音、どうかしたんですか……?」
「波音は麗那が苦手らしい」
日和は小声で竜牙に訊くと、同じく小声で答えてくれた。
波音の様子を見るに、相当苦手らしい。
「そうなんですか……」
先日話を聞いてくれた日和からすると、苦手になる理由がよく分からない。
それでも聞けば傷を抉るだけだろう。
よって、それ以上は日和から口に出すことはない。
「まあそこまで気にしなくて良いと思う。いつも通りにやれば問題ないよ、きっと」
「そう、よね……いつも通り。……ええ、いつも通りにやるわ」
気を楽にさせようとした玲の笑顔付きの言葉だったが、波音の表情は余計に落ちて項垂れた。
見た目の雰囲気からではいつも通りに振る舞うことは難しそうに感じるが、これもなんだか口出ししてはいけない気がする。
それからも波音は曖昧な返事をしながらもそもそと弁当を頬張っていて、やはり元気がない。
中々声をかけづらくて、結局日和は関わることはできなかった。
その後の授業の様子こそ普通だったが、帰宅時はそっけない。
真っ先に「気をつけて帰りなさいよ」と言って波音は帰ってしまった。
「あっれ、水鏡さんどうしたの?」
その様子には流石の弥生も気になったのか、不思議な顔でこちらに話しかけてきた。
「ちょっと、落ち込んでるみたい」
「なんだか珍しいね。日和も顔がうずうずしてて珍しいけど?」
「え?」
変な事を言う弥生に思わず素っ頓狂な声が出して日和は目を丸くする。
自分の何処がうずうずしているのだろうか。
「何? 水鏡さんを元気づけたいとかそういうやつ?買い物でもする?」
どことなく弥生も目がきらきらとしている。
女子力の高い弥生だ、買い物の気配に期待しているのだろう。
「でも、何したらいいか分からないし……」
確かに、波音を気にしているのは確かだ。
自分がうずうずしているのかは、よく分からないけど。
「水鏡さんが好きそうなもの、プレゼント探しにいこ!」
急な提案だが、残念ながら波音が何を喜ぶのかは全く分からない。
寧ろ自分だって分からないのに。
それでも落ち込んだままの波音はやはりどこか寂しくて、気になってしまう。
友人としてどうするべきか分からない日和は、弥生の案に乗ることにした。