残酷な描写あり
43 「遠雷の魔女は語らない〜将来の夢〜」
シスは毎日毎日、猫のとこに通ってた。
その度に猫が食べられそうなものを持って行くんだ。猫が食べてる姿を見て、自由に過ごしているところを見て、シスはそれだけで本当に満足なの。
自然に笑顔になれて、幸せな気持ちになれて、心がポカポカしてくるから、この距離感が一番良いんだってわかるんだ。猫は犬と違って、たくさん触ったりするものじゃないんだなぁって。
孤児院では一匹だけ犬を飼っている。子供達の遊び相手として。
それから、シスターが言うには「命の大切さを学ぶ為」なんだって。
孤児院の子供達は犬のジョニーのことがすっごく大好きで、毎日交代でお散歩に行ってるみたい。シスは……、犬は大きくて、大きな声で「ワン!」って鳴くし、すごい勢いで向かってくるからちょっと苦手、かな。
だからってわけじゃないかもしれないけど、シスはジョニーのお散歩のローテーションから外されちゃってるんだ。でもシスはそれで良かったって思ってる。ジョニーもシスのことは好きじゃないみたいだし。
だからみんなの意見があって、シスは犬と一緒に遊ぶことはなかったんだよね。
「ジョニーはね、子供達の顔をすっごいべろべろ舐めるんだよ。よだれ一杯にして嬉しそうにさ」
小さな声で猫に話しかける。
今はちょっと話すくらいなら、猫も逃げなくなったから嬉しい。
「シス、犬はあんまり好きじゃないかな。こうやって静かに可愛いとこ見てるだけがいい。走り回るのもあんまり得意じゃないから、犬と遊んでるとすぐ疲れちゃいそうだもん」
あ、夕方の鐘が鳴っちゃった。
教会では決まった時間に鐘を鳴らすようになってて、夕方に鳴る最後の鐘はみんなが孤児院に帰る合図の鐘。
シスはゆっくり立ち上がって、猫が飲んですっかり空になったお皿を拾ってお別れの挨拶をした。
「それじゃあ、また明日ね」
帰ったら夕食のお手伝い、お風呂、寝る前の読書の時間に、歯磨きをしてからベッドに入る。
毎日同じことの繰り返し。でもそれはとても幸せなことだってわかってる。世の中には寝る場所も、食べる物にだって困ってる人がいるんだから。与えてもらうことがどれだけ幸せなことか、シスはちゃんとわかってる。
だから孤児院のみんながシスのこと好きじゃなくて、意地悪したりしてきても平気だ。
魔女だって悪口言われても平気。それを見て見ぬふりしてるシスターのことだって、大騒ぎしないようにしてるだけだから、それも仕方ないことだってわかってる。
孤児院の子供は、いつまでもここにいるわけじゃないから。
確か十六歳になったら孤児院を出ていかなくちゃいけないんだ。その年齢になったら、自分で働いて生活出来るようになるって意味だから。子供達は孤児院を出て、お仕事と住む場所を見つけて生活していく。
シスも十六歳になったら出て行くことになる。まだまだもっと先のお話だけど、早くお仕事見つけて孤児院を出て行けるようにお勉強たくさん頑張って、生活出来るだけの能力を身につけるんだ。
「そしたら、猫さんと一緒に住みたいなぁ」
小さく小さく声を漏らしただけなのに、ベッドの下からドンって叩かれた。
「うるっさいわよ! しゃべんな!」
「……ごめん」
シスは、さっきよりもっと小さい声で謝る。
孤児院にいると、みんなといると……。
シスがしゃべったらみんなが怒る。
だから出来るだけしゃべらないようにしてるんだけど。
たまに、わかっててもつい口から言葉が出てくることがあるから……シスは本当にバカだな。
だからみんなにバカにされちゃうのに。
必要なことだけ、はいといいえしか言っちゃいけないみたいになってるから……。
シスがしゃべると、みんな嫌そうな顔をする。だんだんシスターもそんな顔が増えてきてる。神父様がいなくなってから、少しずつ、少しずつ。
シスの居場所がちょっとずつ、だんだんなくなってきてる気がして……。
今、シスは五歳だから……。
まだあと……?
十……一年、かな?
長いなぁ、早く猫さんと一緒に暮らしたいのに。
そんなことを考えて目を閉じる。
早く寝ないと、シスターが確認した時に寝てないことがバレちゃったら説教部屋に閉じ込められちゃう。
たくさん勉強したくて本を読んでても、怒られてお仕置き用の棒で叩かれちゃったから。
だからシスは夜は早く寝て、朝早く起きてお勉強するんだ。
賢くなれば、もしかしたらもっと早くここを出ていけるかもしれないから。
早く一人で暮らせるようにならないと、猫さんが先に死んじゃうかもしれないもの。
本に書いてあったんだ。
猫の寿命は、人間よりもっとずっと短いって。
人間は七十年とか、八十年とか、ちゃんと健康的に暮らしていればそれだけ長く生きられるけど。
猫さんはどんなに大事に育てても、二十年くらいしか生きられないって、本に書いてあった。
シスも多分、猫さんよりずっと長生きになると思うし。
少しでも長く猫さんと一緒に暮らせるようにならなくちゃ……。
その為には、早寝早起きをしなく……ちゃ……。
お休みなさい、ヨキ……。猫さん……。
その度に猫が食べられそうなものを持って行くんだ。猫が食べてる姿を見て、自由に過ごしているところを見て、シスはそれだけで本当に満足なの。
自然に笑顔になれて、幸せな気持ちになれて、心がポカポカしてくるから、この距離感が一番良いんだってわかるんだ。猫は犬と違って、たくさん触ったりするものじゃないんだなぁって。
孤児院では一匹だけ犬を飼っている。子供達の遊び相手として。
それから、シスターが言うには「命の大切さを学ぶ為」なんだって。
孤児院の子供達は犬のジョニーのことがすっごく大好きで、毎日交代でお散歩に行ってるみたい。シスは……、犬は大きくて、大きな声で「ワン!」って鳴くし、すごい勢いで向かってくるからちょっと苦手、かな。
だからってわけじゃないかもしれないけど、シスはジョニーのお散歩のローテーションから外されちゃってるんだ。でもシスはそれで良かったって思ってる。ジョニーもシスのことは好きじゃないみたいだし。
だからみんなの意見があって、シスは犬と一緒に遊ぶことはなかったんだよね。
「ジョニーはね、子供達の顔をすっごいべろべろ舐めるんだよ。よだれ一杯にして嬉しそうにさ」
小さな声で猫に話しかける。
今はちょっと話すくらいなら、猫も逃げなくなったから嬉しい。
「シス、犬はあんまり好きじゃないかな。こうやって静かに可愛いとこ見てるだけがいい。走り回るのもあんまり得意じゃないから、犬と遊んでるとすぐ疲れちゃいそうだもん」
あ、夕方の鐘が鳴っちゃった。
教会では決まった時間に鐘を鳴らすようになってて、夕方に鳴る最後の鐘はみんなが孤児院に帰る合図の鐘。
シスはゆっくり立ち上がって、猫が飲んですっかり空になったお皿を拾ってお別れの挨拶をした。
「それじゃあ、また明日ね」
帰ったら夕食のお手伝い、お風呂、寝る前の読書の時間に、歯磨きをしてからベッドに入る。
毎日同じことの繰り返し。でもそれはとても幸せなことだってわかってる。世の中には寝る場所も、食べる物にだって困ってる人がいるんだから。与えてもらうことがどれだけ幸せなことか、シスはちゃんとわかってる。
だから孤児院のみんながシスのこと好きじゃなくて、意地悪したりしてきても平気だ。
魔女だって悪口言われても平気。それを見て見ぬふりしてるシスターのことだって、大騒ぎしないようにしてるだけだから、それも仕方ないことだってわかってる。
孤児院の子供は、いつまでもここにいるわけじゃないから。
確か十六歳になったら孤児院を出ていかなくちゃいけないんだ。その年齢になったら、自分で働いて生活出来るようになるって意味だから。子供達は孤児院を出て、お仕事と住む場所を見つけて生活していく。
シスも十六歳になったら出て行くことになる。まだまだもっと先のお話だけど、早くお仕事見つけて孤児院を出て行けるようにお勉強たくさん頑張って、生活出来るだけの能力を身につけるんだ。
「そしたら、猫さんと一緒に住みたいなぁ」
小さく小さく声を漏らしただけなのに、ベッドの下からドンって叩かれた。
「うるっさいわよ! しゃべんな!」
「……ごめん」
シスは、さっきよりもっと小さい声で謝る。
孤児院にいると、みんなといると……。
シスがしゃべったらみんなが怒る。
だから出来るだけしゃべらないようにしてるんだけど。
たまに、わかっててもつい口から言葉が出てくることがあるから……シスは本当にバカだな。
だからみんなにバカにされちゃうのに。
必要なことだけ、はいといいえしか言っちゃいけないみたいになってるから……。
シスがしゃべると、みんな嫌そうな顔をする。だんだんシスターもそんな顔が増えてきてる。神父様がいなくなってから、少しずつ、少しずつ。
シスの居場所がちょっとずつ、だんだんなくなってきてる気がして……。
今、シスは五歳だから……。
まだあと……?
十……一年、かな?
長いなぁ、早く猫さんと一緒に暮らしたいのに。
そんなことを考えて目を閉じる。
早く寝ないと、シスターが確認した時に寝てないことがバレちゃったら説教部屋に閉じ込められちゃう。
たくさん勉強したくて本を読んでても、怒られてお仕置き用の棒で叩かれちゃったから。
だからシスは夜は早く寝て、朝早く起きてお勉強するんだ。
賢くなれば、もしかしたらもっと早くここを出ていけるかもしれないから。
早く一人で暮らせるようにならないと、猫さんが先に死んじゃうかもしれないもの。
本に書いてあったんだ。
猫の寿命は、人間よりもっとずっと短いって。
人間は七十年とか、八十年とか、ちゃんと健康的に暮らしていればそれだけ長く生きられるけど。
猫さんはどんなに大事に育てても、二十年くらいしか生きられないって、本に書いてあった。
シスも多分、猫さんよりずっと長生きになると思うし。
少しでも長く猫さんと一緒に暮らせるようにならなくちゃ……。
その為には、早寝早起きをしなく……ちゃ……。
お休みなさい、ヨキ……。猫さん……。