R-15
その後
結晶の中に入っていた間に、私の誕生日の9月3日は過ぎていた。
でも、驚くべきことに、その日に両親から誕生日のメッセージが別々に入っていた。
今までの関係を考えれば、だからどうということもないけど、遠くでそれぞれ別の家庭を持っていても、私の親でもあるんだなと感じる。
もちろん、返信などしない。
少し遅くなったけど、既読が付いて、生きていることが分かるだけで十分だろう。
別に私の方からは何も言うことはない。
でも、何か人生での一大事があれば、教えてやってもいいかなとは思う。
例えば、結婚とか。
そういうわけで私の方は簡単に日常生活を再開できたけど、やはり問題は先輩の方だった。
この二か月間のことは、警察にはずっと黙秘、家族には私と一緒にいたことは話したそうだけど、何をしていたかについては内緒で通したそうだ。
そのため、先輩から、『両親が私に会いたがっている』と言われた時は、どんな風に問い詰められるのかと、覚悟を決めたものだった。
実際には、なぜか大歓迎されただけだったけど。
知らない人を前に、俯いたまま一言もしゃべれない私に対して、先輩のご両親は終始ご機嫌だった。
やはりあれは、将来の予行演習的なものだったのだろうか。
学校の方は、オリジナルと桧原さんが言っていた通り、田沢先生が骨を折ってくれたようだ。
新学期が始まってからでも一か月近くになるけど、少なくとも学校側から何か言われることはなかった。
生徒の間でも、二人の学年が違うこともあって、一緒にいなくなっていたことは、あまり気付かれていないようだった。
まぁ、別に何か言われても無視していればいいだけだけど。
校内では他人として振舞うというのは変わっていないので、すぐに噂も消えるだろう。
ちなみにペアリングは学校でつけるわけにはいかないので、ネックレスとして身に付けている。
そして、私的には日常に戻った平日の午前。
私はカバンを持って、体育館横の出入り口で靴を履き替える。
もちろんサボりだけど、私はコソコソしたりはせずに、堂々と裏門へと歩いて行く。
そこにいつもの声が掛けられる。
「おーくーたーだーみー!」
振り返れば、体育教官室の窓から田沢先生が身を乗り出している。
全く、今日は用事があるというのに・・・
私は嫌そうな顔をしながら体育教官室の窓の下まで戻っていく。
「何ですか?」
「何ですかじゃないだろ、お前。どうせ浜名先生にも言ってないんだろ」
「言ってません」
誰だよ、そいつ・・・
「あぁ、もういい。早退理由はなんだ」
田沢先生はもう諦めた様子で言う。
「サボりです」
「だから、日誌に書けることを言え」
そんな時に先輩がひょこっとやって来る。多分裏門で待っていたのに私が来ないので、様子を見に来たのだろう。
「げ、田沢じゃん・・・」
「だからお前は、面と向かって呼び捨てにするな。 ・・・で、なんだ、お前も帰るのか?」
「私はこれからあーちゃんと映画デートでーす」
先輩は私の手を取って、ぎゅっと抱き寄せてくる。
ちょ、人前でそんな・・・
私は思わず赤面してしまう。
だが、田沢先生はそれで納得してくれたようだ。
「・・・気を付けて行くんだぞ」
田沢先生は大きな溜息を吐く。
きっと問題児がもう一人増えたとか思ってるんだろうなぁ・・・
「あ、田沢~、約束だからラーメン奢ってね~」
「だから、呼び捨てにするんじゃない」
そんな会話を残して、私たちは学校の裏門を出る。
そしてそこで、しっかりと指を絡めて手を繋ぐ。
その柔らかい温かな手から、先輩の愛情と勇気が伝わってくる。
それだけでもう映画館は攻略したも同然だ。そうすれば、最終目標の海デートも近くなる。
「先輩、来年の夏、楽しみですね」
「え? 早すぎでしょ」
そう言って笑う先輩の腕に、私は抱き着いていった。
でも、驚くべきことに、その日に両親から誕生日のメッセージが別々に入っていた。
今までの関係を考えれば、だからどうということもないけど、遠くでそれぞれ別の家庭を持っていても、私の親でもあるんだなと感じる。
もちろん、返信などしない。
少し遅くなったけど、既読が付いて、生きていることが分かるだけで十分だろう。
別に私の方からは何も言うことはない。
でも、何か人生での一大事があれば、教えてやってもいいかなとは思う。
例えば、結婚とか。
そういうわけで私の方は簡単に日常生活を再開できたけど、やはり問題は先輩の方だった。
この二か月間のことは、警察にはずっと黙秘、家族には私と一緒にいたことは話したそうだけど、何をしていたかについては内緒で通したそうだ。
そのため、先輩から、『両親が私に会いたがっている』と言われた時は、どんな風に問い詰められるのかと、覚悟を決めたものだった。
実際には、なぜか大歓迎されただけだったけど。
知らない人を前に、俯いたまま一言もしゃべれない私に対して、先輩のご両親は終始ご機嫌だった。
やはりあれは、将来の予行演習的なものだったのだろうか。
学校の方は、オリジナルと桧原さんが言っていた通り、田沢先生が骨を折ってくれたようだ。
新学期が始まってからでも一か月近くになるけど、少なくとも学校側から何か言われることはなかった。
生徒の間でも、二人の学年が違うこともあって、一緒にいなくなっていたことは、あまり気付かれていないようだった。
まぁ、別に何か言われても無視していればいいだけだけど。
校内では他人として振舞うというのは変わっていないので、すぐに噂も消えるだろう。
ちなみにペアリングは学校でつけるわけにはいかないので、ネックレスとして身に付けている。
そして、私的には日常に戻った平日の午前。
私はカバンを持って、体育館横の出入り口で靴を履き替える。
もちろんサボりだけど、私はコソコソしたりはせずに、堂々と裏門へと歩いて行く。
そこにいつもの声が掛けられる。
「おーくーたーだーみー!」
振り返れば、体育教官室の窓から田沢先生が身を乗り出している。
全く、今日は用事があるというのに・・・
私は嫌そうな顔をしながら体育教官室の窓の下まで戻っていく。
「何ですか?」
「何ですかじゃないだろ、お前。どうせ浜名先生にも言ってないんだろ」
「言ってません」
誰だよ、そいつ・・・
「あぁ、もういい。早退理由はなんだ」
田沢先生はもう諦めた様子で言う。
「サボりです」
「だから、日誌に書けることを言え」
そんな時に先輩がひょこっとやって来る。多分裏門で待っていたのに私が来ないので、様子を見に来たのだろう。
「げ、田沢じゃん・・・」
「だからお前は、面と向かって呼び捨てにするな。 ・・・で、なんだ、お前も帰るのか?」
「私はこれからあーちゃんと映画デートでーす」
先輩は私の手を取って、ぎゅっと抱き寄せてくる。
ちょ、人前でそんな・・・
私は思わず赤面してしまう。
だが、田沢先生はそれで納得してくれたようだ。
「・・・気を付けて行くんだぞ」
田沢先生は大きな溜息を吐く。
きっと問題児がもう一人増えたとか思ってるんだろうなぁ・・・
「あ、田沢~、約束だからラーメン奢ってね~」
「だから、呼び捨てにするんじゃない」
そんな会話を残して、私たちは学校の裏門を出る。
そしてそこで、しっかりと指を絡めて手を繋ぐ。
その柔らかい温かな手から、先輩の愛情と勇気が伝わってくる。
それだけでもう映画館は攻略したも同然だ。そうすれば、最終目標の海デートも近くなる。
「先輩、来年の夏、楽しみですね」
「え? 早すぎでしょ」
そう言って笑う先輩の腕に、私は抱き着いていった。