残酷な描写あり
第24話 こんなリンカーなんて
神崎 巳華! もかさんが調べているという話を、アメちゃんギャルの森永 胡桃さんから聞いて、こうして更衣室のロッカーを調べに来たら!
『Houuuuu!!』
「いきなりビンゴだなんて!」
この状況で一番マズい点は、ヒカリがロッカーを調べてしまっている事! ヒカリの真後ろに敵リンカーがいる事だ!
既に敵リンカーは臨戦態勢だ。対してヒカリはロッカーに体を入れてすぐには振り返れない!
僕に、攻撃の手が伸びる──!
──ドスッ!!
刺突音が耳を突く。
刺さった音? それはおかしな事だ。敵が貫手でもしたと?
『Quouuuuu!!』
そんなことは無い。敵リンカーがけたたましく悲鳴を上げたではないか。そしてその右腕に、ボールペンが剣のように突き刺されていた!
「『ラブずっきゅん』! 『ものを飛ばす』能力なんだから!」
「ぷらな! た、助かった……!」
更衣室の外を見張ってたぷらなの背後に、魔法少女のような可愛いフリル衣装を纏った人型の存在が出現していた。
ぷらなのリンカー『ラブずっきゅん』だ。能力を示す矢印、それが刻まれた腕からボールペンを射出してくれたんだ!
ヒカリと共に、更衣室の出入口付近へ即座に移動。ヒカリに指鉄砲を構えさせ、呪文を唱える!
「『ニンヒト』!」
ヒカリの指鉄砲に光が集束、三本の光線として射出される! それが『ニンヒト』!
敵は意外にも身軽だった、カンタンに避けられた!
正確な動き、さっきの攻撃といい! それじゃあ今、本体は──!
「素早い! けど通路みたく狭い更衣室、この画角なら、逆に追い詰めてやれる! ぷらな、このスキに神崎さんを叩くんだ!」
「え? だって今……」
「近くにいる筈だ! この動き方は見えてる動きだ、それに出入口にいたぷらなより、僕を優先して攻撃してきた! 攻撃の優先順位はロッカーを調べた者だ!」
「違うよタマキちゃん! 神崎先輩は部活動中なの! 校庭のずっと向こう側、テニスコートにあの人いるの!」
「え!?」
この倉庫のような更衣室は、校舎と共に高台に位置している。テニスコートを含んだ校庭は、その高台から下に位置する。
つまり更衣室出入り口のぷらなからは見えるが、校庭のずっと奥にあるテニスコートから更衣室の中を、しかもぷらながいるのに見るなんて到底不可能だ!
「タマキ、コイツ動き正確すぎるわ。コッチの動きに、反射的に反応してるみたい」
「まさか見えていない……のか!?」
確かにおかしい……! そもそもなんで急に現れたんだ?! 僕が……いや、ヒカリがロッカーを調べたからか?!
「一つ確実なのは、僕らがここに長居する意味はないという事だ! 牽制しながら後退を……」
僕らが敵リンカーから目を離さず、出入口へ踏み出したその瞬間──!
『Syurororororrr!!』
「なっ!?」
「一瞬で……いやワープか!?」
攻撃された時と同じだ! 急に現れた、あの瞬間と!
「タマキちゃ──!」
「ぷらなぁ!! まだ何もするんじゃないっ!!」
思わず大声でぷらなを止めてしまった。でも手を出させる訳にはいかない。拳を使わせる訳には。
代わりに『ニンヒト』を唱えて攻撃をした。見る為だ。おかげですれ違いざまに、引っ掻き攻撃を受けるけど……!
「うぅ……! いよいよ確実だ! コイツの動き方には、確実に法則性がある!」
「ルール……ってコト!?」
「そうだ! その1、特定の場所に触れた人間を獲物として狙う。触ったのはヒカリの筈だけど、リンカーとして繋がってるから僕も対象だ!」
「巻き込んだわね」
「その2、触れた瞬間から『縄張り』が発生する。『縄張り』の中では獲物に対して無類の強さとなる! その3、『縄張り』から出ようとする獲物を逃がさない、ワープする!」
場所に依存してトラップを仕掛けるこの感じ。食虫植物のウツボカズラ、というより有毒植物のマムシグサみたいな、逃さず仕留める為のリンカーなのか……!?
「『縄張り』に近づいちゃダメってコトなのよね!? 私、どうすれば……!」
「いいや、さっきのボールペンがヒントだ。そこからボールでも何でも投げりゃ、話は別だ!」
「あ! そっか!」
ぷらなはすぐさま転がっていたテニスボールを手に取った。
硬さは少し不安があるが、それを補う策ならある!
「一個教えたい! ベクトルっていうの、僕らの学年じゃまだ習わないけど、そういう物理の単語がある! 君の能力の『ものを飛ばす』のは、そのベクトルに由来した『方向を操る』能力、『ベクトル操作』だと思うんだ!」
「ええと……つまり?」
「手を合わせて、手のひらを飛ばしたい方向に向けてみるといい! かめはめ波みたいにね!」
ぷらながボールを持ったまま手首をくっつける。脇の下が閉じて肩を寄せていた。そりゃ慣れてないか、でも問題ない。
ぷらなの『ラブずっきゅん』のビジョンと手が重なり──ボールは勢いよく射出される!
──メゴォッ!
『Syurururouuuu!!』
まるでストレートパンチでも与えたみたいだった。射出されたボールにパワーが込められ、敵リンカーの頬を突いて歪ませる!
「空間ベクトル! 二つの有向線分を合わせると、それらは角の二等分線を取り和となる! カンタンに言えば、真ん中へ飛ぶ足し算したパワーになるってところかな!」
「当たるわ……! 外にいるから攻撃が当たる! タマキちゃんの役に立ってるよ!」
「ボールならこの室内にもある! さあ好きなだけ、ぶつけてやるんだ!!」
敵リンカーが怯んだスキに、端っこにあったボールカゴを雑に放って中身を撒き散らす。僕らは当たらないと知りながらも牽制の『ニンヒト』を続ける一方、ぷらなは嬉々としてボールを集め始めた。キラキラした顔で両指にボールを挟んでいるじゃないか。
……攻撃の為にこんなキラキラした目をするの、ちょっと怖っ……。
「いっぱい持ったよ! 6個が限界かしら?」
「一度じゃなくても大丈夫だよ! 正確に、そして重い一撃を……っ!?」
「え?」
僕が声を上げるよりも。ぷらなが気づくよりも。その者はぷらなを蹴り飛ばし、更衣室に押し込んだ。
「乱暴だと、文句でも言う?」
「か、神崎 巳華! ……さん!」
右腕のキズに、頬に殴られた痕! やっぱり、この人がリンカーの本体──!
「あんたら……1年? 赤いスカーフはそうだよね。うちの生徒じゃない子までいて、テニス部の女子更衣室になんの用?」
「穏便に解決できる方法として、まずはゆっくり話し合いできる状況にしてほしいところですが。この醜い植物のバケモノを止めて」
神崎さんの整った顔がわずかに歪む。少しの反応、クールな印象というウワサは果たしてその通りみたいだ。
「あんたっ……。なるほど、見えているのなら、話に聞いてたストーカーとやらはあんた達ってことか」
「ターゲット……!? タマキちゃん、やっぱ私たち狙われてたんだよっ!」
「どうだろうね。狙ったのはむしろ僕ら……というか、狙われてるのが神崎さんかも」
ぷらなは首を傾げた。ヒカリも敵リンカーに指鉄砲を構えたまま疑問を口にする。
「どういう事かしら、タマキ」
「『話に聞いてたストーカー』と、神崎さん、いま貴女はそう言いましたよね? 事前に聞いてるからそんな言い回しになる。貴女はここ最近で、ストーカー被害に遭っているからだ」
神崎さんは眉をピクリと動かした。
「それで?」
「それを誰か……例えば、神子柴 もかさんに相談したり、あるいは誰か──人ならざる姿をした者に、手段を貰ったんじゃないですか?」
「あっ! タマキちゃんそれって……!」
「アナタ、疑ってるのね? 『ドグラマグラ』の関与を」
二人とも、いい感じに盛り上げてくれるなぁ……。神崎さんがリアクション薄いから助かるけど……。
「神崎さん、僕らのこの能力は『リンカー』という。人の願いや精神の具現化だ。貴女の能力は、自分を追う者に逆襲したいが為の『トラップに誘い込む』能力なんじゃないですか?」
「知ったふうなクチを、さっきから……!」
「少なくとも僕らは、貴女の考えるストーカーじゃない! むしろ同じリンカー能力者として、貴女の力にだってなれる! この状況、悪いのはどっちかっていうと勝手に貴女のロッカーを漁った僕らだ、それを謝ります! ……どうでしょうか?」
キッ、と見据えてくる神崎さん。その返事は──
「……チッ」
ため息と、舌打ちだ。
「理由が一つだけ、って決めつけるのがホントに不愉快」
眉を寄せ、惜しげも無く顔を歪ませていた。なぜそれほどまで怒りを露わにするのか解らないぐらいだ。
「知ったふうなクチって言ったのはそこだよ。残念だったね、双子の能力者ちゃん。私は頼まれてあんたらをとっ捕まえるよう言われたワケ。人ならざる者じゃなくて、おじさんに。正真正銘の人間にね」
「えっ!?」
『ドグラマグラ』じゃない!? それに、堂々と人前に顔を見せるような人物が!?
「ま、なんにせよもう終わり。安心して、私は命を奪ったりしない。私の『キラースネーク』はそんな下品なマネしないから」
そう言い終えたと共に。腕を振り上げ『キラースネーク』が迫る──!
「聞く耳持たぬって事らしいわね」
「おりゃりゃーっ!」
ぷらながラッシュを繰り出して対抗する! しかし!
尽くかわされた! まるで全て視えているような──いや!
「本体がいるからなおさら正確な動きになるに決まってる! 『ニンヒト』!」
『ニンヒト』の呪文によってヒカリが放つ三本の光線! 強化されたそれらは目にも止まらぬ速さで、敵本体である神崎 巳華に向けられるもしかし、『キラースネーク』によって阻まれてしまう!
「クソっ! 『縄張り』に入ってるせいで、もはやコイツの地の利は盤石になっちまってる!」
「私が、神崎先輩が近づくのに気づいてれば……!」
「いや、僕が警戒しなかった時点でマズかった! 過ぎた事はいい、いま何より厄介なのはこの素早さだ!」
『縄張り』の外に出ようとすると現れる、このワープしてるような動き!
何か僕らが気づいてないルールがあるのか!?
そう考えていたら、神崎 巳華が苦戦する僕らを分析し始める。噂のクールさはどうやら『冷徹』という事らしい。
「あんたら二人セットで能力者なの? いや、そっちのクールちゃんがリンカーっていう事か。能力は『ビーム』。そっちのお友達は『殴る』のがメイン。ま、私の敵じゃないね」
「ちょっと早計すぎませんかねぇ……!」
「どうかな」
『──Syurururu!!』
言い返している間にも猛攻は続く。繰り出されるラッシュ攻撃。こっちはヒカリと『ラブずっきゅん』で2体いるというのに、それを捌くだけで精一杯だ。
「『ニンヒト』!」
これだけの至近距離で放った光線さえ、グニャリと曲がって避けられる! そればかりか──!
『Syuruoo!!』
「くっ!」「うっ……!」
クローがヒカリの頬を掠め、僕にも斬撃ダメージが伝達してしまう!
「粘るじゃん。けどもう息切れみたいだね。こっちはまだ部活中だからね。終わらせてあげるよ、帰宅部──」
コツン。
そんな軽い音がしたような気がした。神崎さんの頭に、ちっちゃい何かが当たったのだ。
アメだった、棒付きの。
神崎さんは目が点になっていた。何が起きたか僕らもさっぱりだった。
現れた人物に、上げられた声に、僕らは理解と共に困惑が増す。
「何やってんのアンタら……!?」
「くるみちゃん!?」
そうだくるみさんだ! プリン頭ヘアーの、アメちゃんギャル!
神崎さんがギロリとくるみさんを睨みつける。その鋭さにくるみさんは思わず身を引いていた。
「……誰、あんた」
「通りすがりの下級生ですけど! そーゆーアンタはなんだってウチのダチとトラブル起こしてんの!? なんであたしの話からこーなるかさっぱり分からん!」
「次から次へと……」
「アンタがあのバケモンの飼い主!? さっきからぷらな達が襲われてんだけど、何なの!?」
──え?
僕ら3人は顔を見合わせた。驚いたのだ、くるみさんの発言に。
「……くるみさん、今、なんて?」
「見えてるんだよ! くるみちゃん、『リンカー能力者』だ!」
僕は正直、焦っていた。それを分かっていたかのように、ヒカリは声を上げる。
「2人とも安心できないわ。くるみは自覚がないかもしれない、それでいて神崎に狙われたら!」
「そう来るよね、分かってる! くるみさんっ!! 君は超能力者だ! その能力で、神崎さんの攻撃に備えて!」
「は? 何言ってんだし!?」
「攻撃してぇ!!」
言ってみたけどくるみさんは狼狽えてる、当たり前だ、これが正常な反応だ!
「わっかんないけど、あたしの能力とか言った!? まさかコレ!?」
くるみさんが手首をスナップ! すると棒付きアメが四本、指の間に挟まって……いや、出現した……!?
「へ?」
「はぁ?」
「ウッソでしょ、ちょっとタマキ」
まさか、あれがリンカー能力……!? 全員して困惑して硬直してしまってるぞ……!
リンカーの平和利用なんてもんじゃない、平和な願いで誕生したリンカーだ! 『アメを作る』、ただそれだけの!
「まさかタマキさぁ、こういうのって戦う為の能力ってワケ!? なワケないでしょ、そのバケモンとぜってぇ違うって!」
「……ハァ、耳障り。部外者はさっさと失せて」
神崎 巳華が裏拳でくるみさんを払う。
その瞬間だった。リンカーを──『キラースネーク』を手に宿らせ攻撃したのだ。
一般人同然のくるみさんに、情け容赦ない攻撃を与えた。棒付きのアメが地面にコツツン、と落ちたのだ。
「ねえタマキちゃん。コイツ、どこまでがトラップなの? どこまでが自分の『縄張り』なの?」
僕もだ。僕もだけど、誰よりぷらなが感情を溢れさせていた。普段、キャピキャピしてる彼女から想像できないほど、低く感情を漏らした声色だった。
「……入口をラインとしたとこ! この中が対象なんだ!」
「これじゃパンチできないわよね?」
「そうさ、パンチもキックも当てられない! この巣の中にいる限り! こんなリンカーなんて──!」
「そうよね! こんなリンカーなんて、吹っ飛ばしちゃうんだから!」
「ぷらなっ!! 君は今、真剣にムチャをしようとしているな!」
「大マジメだよっ! 私にはやりたいことがあるの! 放課後にお友達と遊びに出かけるの! お医者さんじゃなくって、お家にすぐ帰るんじゃなくって! お友達とゲーセン行ってみたり、コスメ見たり、雑貨屋さん行ったり! いっぱいいっぱいメモしたんだからっ!」
メモ? 病院に来たとき、慌てて探したのはそれだったのか!
「やりたいこといっぱいあるの! だから一緒に戦うって、そう決めたのっ!」
「ぷらな……」
「だからこんなトコに閉じ込められてたまるもんかっ! ましてや友達を痛めつける、あんな人なんか──!」
ぷらなが我先にと、駆け出す!
「ボッコボコにしちゃう!」
「いいかい、それは僕らも同じ発想だ! けど考え方は──」
僕らも駆け出す! 三人とも同じだ、同じタイミング、同じ方向へ向かった!
その前に『縄張り』を出る事になる。出口の前に、『キラースネーク』とかいうリンカーの追跡が始まるのだ。
今、まさに僕らを狙い始める。
『Hololouuuuu!!』
そんな事はお構いなしだ。向かう先は──本体である神崎 巳華!
「コイツを如何に倒してやるかって事だ!」
『Syurororororrr!!』
確かに敵リンカー『キラースネーク』の『トラップ』能力にはルールがいくつかある! けどいま特筆すべき単純なルールは──!
「『縄張り』から出ようとすれば、目の前に現れる! ニンヒト!」
「うりゃあぁっ!!」
ヒカリの光線、そしてぷらなの『ラブずっきゅん』が繰り出すラッシュ!
女子更衣室は『縄張り』となり、その中で『キラースネーク』に攻撃は当たらない。僕らの攻撃はやはり全てかわされてしまった。
外では本体である神崎さんが、その手に『キラースネーク』を宿らせくるみさんに襲いかかっている。
僕らと対峙する『キラースネーク』。やっぱり、そういう事か──!
「さあて解ったぞ、このトリックが! くるみさんが来てくれたから解った、ぷらなとタッグを組んだから解った!」
「どういうこと、タマキちゃん?」
「2体いるってことかしら?」
「3体だよ、ヒカリ。あとここぞというシーンの決め時を奪おうとしないでぇ……?」
「本体のおマヌケさんが手を上げてくれたからよ、横着しちゃって」
「待って! 私はわかんないんだけど!?」
「こういう事さ! ニンヒト!」
放ったのは敵リンカーの左右に各2撃、それにド真ん中で計5撃! 通常でも避けきれない、腕でガードでもしなきゃならない場面だろう。それを──
『Usyu!?』
『Syuouuuu!!』
「──っ!? いっつぅ!」
避けきれないばかりか、二体に分離して全て当たるではないか!
「増えた!?」
「そうさ増えた! より正確に言うなら、元々この部屋で統合した状態で構えてたんだろうね。攻撃担当と『縄張り』から逃さない追跡担当」
「ワープに見せかけたってコトかしら」
「どうだろうね。もう関係ないけど」
僕らは一歩、外へ出る。追跡も攻撃も無い。敵の本体と、対峙する!
「あんたらホント生意気な……!」
「言いたい事がそれだけですか? 才色兼備が聞いて呆れる」
「言うわねタマキ。煽り役、奪われちゃったわね」
「あっ、うぇ……。そうじゃなくって……。ええい! 神崎さん、もう抵抗はやめて下さい! リンカーの秘密はとっくに暴かれてますよ!」
「うっさい!」
神崎さんはけしかける。三体の『キラースネーク』を!
それらの拳が迫る、その眼前で、ぷらなが両手のひらを突き出し構える。防御の体勢であり、それは──!
──カックゥン!!
手のひらに触れた敵リンカー内二体が、真後ろに吹っ飛ばされるのだ!
「なっ……! 私の『キラースネーク』達が、飛ばされた!?」
「『ものを飛ばす』改め、『方向を操る』! だったわよね、タマキちゃん!」
「ああそうさ!」
笑顔を向けられる、だから笑顔で返す!
「こんな……こんな事っ!!」
「それが貴女の限界!」
「えいっ!!」
残る一体を、ぷらなが殴りつける! 『ベクトル操作』によってより強く飛ぶのだ!
「私らからもプレゼントよ」
「『ニンヒト』っ!!」
光が収束し、放たれる。一際大きく、空気を震わせる強い意思の光線。吹き飛んでいく『キラースネーク』に、追い討ちを叩きつける!!
『Syurororrrrrr!!』
「うぶっ……!?」
神崎さんは嗚咽を漏らして倒れた。
「ちょっと、悪いことした気分」
「優しいのねタマキちゃん。私なんて、全力でパンチしちゃったよ!」
「物騒な……」
「あら、私もマジになってニンヒトしたわよ」
「物騒ゼロ号!」
「ワケわかんなすぎ、助かった……」
あ、くるみさん安心しきってペタンと座り込んでる。なるほど、ギャルっていうのも良い……。
「違う違う! ともかく神崎さんのロッカーを調べ直さないと……」
「そうね。依頼したおじさん──『ドグラマグラ』に繋がるヒントをね」
神崎さんが気絶しているのを確認し、ぷらなに見張らせ、僕らは更衣室へ再度入る。
『Houuuuu!!』
「いきなりビンゴだなんて!」
この状況で一番マズい点は、ヒカリがロッカーを調べてしまっている事! ヒカリの真後ろに敵リンカーがいる事だ!
既に敵リンカーは臨戦態勢だ。対してヒカリはロッカーに体を入れてすぐには振り返れない!
僕に、攻撃の手が伸びる──!
──ドスッ!!
刺突音が耳を突く。
刺さった音? それはおかしな事だ。敵が貫手でもしたと?
『Quouuuuu!!』
そんなことは無い。敵リンカーがけたたましく悲鳴を上げたではないか。そしてその右腕に、ボールペンが剣のように突き刺されていた!
「『ラブずっきゅん』! 『ものを飛ばす』能力なんだから!」
「ぷらな! た、助かった……!」
更衣室の外を見張ってたぷらなの背後に、魔法少女のような可愛いフリル衣装を纏った人型の存在が出現していた。
ぷらなのリンカー『ラブずっきゅん』だ。能力を示す矢印、それが刻まれた腕からボールペンを射出してくれたんだ!
ヒカリと共に、更衣室の出入口付近へ即座に移動。ヒカリに指鉄砲を構えさせ、呪文を唱える!
「『ニンヒト』!」
ヒカリの指鉄砲に光が集束、三本の光線として射出される! それが『ニンヒト』!
敵は意外にも身軽だった、カンタンに避けられた!
正確な動き、さっきの攻撃といい! それじゃあ今、本体は──!
「素早い! けど通路みたく狭い更衣室、この画角なら、逆に追い詰めてやれる! ぷらな、このスキに神崎さんを叩くんだ!」
「え? だって今……」
「近くにいる筈だ! この動き方は見えてる動きだ、それに出入口にいたぷらなより、僕を優先して攻撃してきた! 攻撃の優先順位はロッカーを調べた者だ!」
「違うよタマキちゃん! 神崎先輩は部活動中なの! 校庭のずっと向こう側、テニスコートにあの人いるの!」
「え!?」
この倉庫のような更衣室は、校舎と共に高台に位置している。テニスコートを含んだ校庭は、その高台から下に位置する。
つまり更衣室出入り口のぷらなからは見えるが、校庭のずっと奥にあるテニスコートから更衣室の中を、しかもぷらながいるのに見るなんて到底不可能だ!
「タマキ、コイツ動き正確すぎるわ。コッチの動きに、反射的に反応してるみたい」
「まさか見えていない……のか!?」
確かにおかしい……! そもそもなんで急に現れたんだ?! 僕が……いや、ヒカリがロッカーを調べたからか?!
「一つ確実なのは、僕らがここに長居する意味はないという事だ! 牽制しながら後退を……」
僕らが敵リンカーから目を離さず、出入口へ踏み出したその瞬間──!
『Syurororororrr!!』
「なっ!?」
「一瞬で……いやワープか!?」
攻撃された時と同じだ! 急に現れた、あの瞬間と!
「タマキちゃ──!」
「ぷらなぁ!! まだ何もするんじゃないっ!!」
思わず大声でぷらなを止めてしまった。でも手を出させる訳にはいかない。拳を使わせる訳には。
代わりに『ニンヒト』を唱えて攻撃をした。見る為だ。おかげですれ違いざまに、引っ掻き攻撃を受けるけど……!
「うぅ……! いよいよ確実だ! コイツの動き方には、確実に法則性がある!」
「ルール……ってコト!?」
「そうだ! その1、特定の場所に触れた人間を獲物として狙う。触ったのはヒカリの筈だけど、リンカーとして繋がってるから僕も対象だ!」
「巻き込んだわね」
「その2、触れた瞬間から『縄張り』が発生する。『縄張り』の中では獲物に対して無類の強さとなる! その3、『縄張り』から出ようとする獲物を逃がさない、ワープする!」
場所に依存してトラップを仕掛けるこの感じ。食虫植物のウツボカズラ、というより有毒植物のマムシグサみたいな、逃さず仕留める為のリンカーなのか……!?
「『縄張り』に近づいちゃダメってコトなのよね!? 私、どうすれば……!」
「いいや、さっきのボールペンがヒントだ。そこからボールでも何でも投げりゃ、話は別だ!」
「あ! そっか!」
ぷらなはすぐさま転がっていたテニスボールを手に取った。
硬さは少し不安があるが、それを補う策ならある!
「一個教えたい! ベクトルっていうの、僕らの学年じゃまだ習わないけど、そういう物理の単語がある! 君の能力の『ものを飛ばす』のは、そのベクトルに由来した『方向を操る』能力、『ベクトル操作』だと思うんだ!」
「ええと……つまり?」
「手を合わせて、手のひらを飛ばしたい方向に向けてみるといい! かめはめ波みたいにね!」
ぷらながボールを持ったまま手首をくっつける。脇の下が閉じて肩を寄せていた。そりゃ慣れてないか、でも問題ない。
ぷらなの『ラブずっきゅん』のビジョンと手が重なり──ボールは勢いよく射出される!
──メゴォッ!
『Syurururouuuu!!』
まるでストレートパンチでも与えたみたいだった。射出されたボールにパワーが込められ、敵リンカーの頬を突いて歪ませる!
「空間ベクトル! 二つの有向線分を合わせると、それらは角の二等分線を取り和となる! カンタンに言えば、真ん中へ飛ぶ足し算したパワーになるってところかな!」
「当たるわ……! 外にいるから攻撃が当たる! タマキちゃんの役に立ってるよ!」
「ボールならこの室内にもある! さあ好きなだけ、ぶつけてやるんだ!!」
敵リンカーが怯んだスキに、端っこにあったボールカゴを雑に放って中身を撒き散らす。僕らは当たらないと知りながらも牽制の『ニンヒト』を続ける一方、ぷらなは嬉々としてボールを集め始めた。キラキラした顔で両指にボールを挟んでいるじゃないか。
……攻撃の為にこんなキラキラした目をするの、ちょっと怖っ……。
「いっぱい持ったよ! 6個が限界かしら?」
「一度じゃなくても大丈夫だよ! 正確に、そして重い一撃を……っ!?」
「え?」
僕が声を上げるよりも。ぷらなが気づくよりも。その者はぷらなを蹴り飛ばし、更衣室に押し込んだ。
「乱暴だと、文句でも言う?」
「か、神崎 巳華! ……さん!」
右腕のキズに、頬に殴られた痕! やっぱり、この人がリンカーの本体──!
「あんたら……1年? 赤いスカーフはそうだよね。うちの生徒じゃない子までいて、テニス部の女子更衣室になんの用?」
「穏便に解決できる方法として、まずはゆっくり話し合いできる状況にしてほしいところですが。この醜い植物のバケモノを止めて」
神崎さんの整った顔がわずかに歪む。少しの反応、クールな印象というウワサは果たしてその通りみたいだ。
「あんたっ……。なるほど、見えているのなら、話に聞いてたストーカーとやらはあんた達ってことか」
「ターゲット……!? タマキちゃん、やっぱ私たち狙われてたんだよっ!」
「どうだろうね。狙ったのはむしろ僕ら……というか、狙われてるのが神崎さんかも」
ぷらなは首を傾げた。ヒカリも敵リンカーに指鉄砲を構えたまま疑問を口にする。
「どういう事かしら、タマキ」
「『話に聞いてたストーカー』と、神崎さん、いま貴女はそう言いましたよね? 事前に聞いてるからそんな言い回しになる。貴女はここ最近で、ストーカー被害に遭っているからだ」
神崎さんは眉をピクリと動かした。
「それで?」
「それを誰か……例えば、神子柴 もかさんに相談したり、あるいは誰か──人ならざる姿をした者に、手段を貰ったんじゃないですか?」
「あっ! タマキちゃんそれって……!」
「アナタ、疑ってるのね? 『ドグラマグラ』の関与を」
二人とも、いい感じに盛り上げてくれるなぁ……。神崎さんがリアクション薄いから助かるけど……。
「神崎さん、僕らのこの能力は『リンカー』という。人の願いや精神の具現化だ。貴女の能力は、自分を追う者に逆襲したいが為の『トラップに誘い込む』能力なんじゃないですか?」
「知ったふうなクチを、さっきから……!」
「少なくとも僕らは、貴女の考えるストーカーじゃない! むしろ同じリンカー能力者として、貴女の力にだってなれる! この状況、悪いのはどっちかっていうと勝手に貴女のロッカーを漁った僕らだ、それを謝ります! ……どうでしょうか?」
キッ、と見据えてくる神崎さん。その返事は──
「……チッ」
ため息と、舌打ちだ。
「理由が一つだけ、って決めつけるのがホントに不愉快」
眉を寄せ、惜しげも無く顔を歪ませていた。なぜそれほどまで怒りを露わにするのか解らないぐらいだ。
「知ったふうなクチって言ったのはそこだよ。残念だったね、双子の能力者ちゃん。私は頼まれてあんたらをとっ捕まえるよう言われたワケ。人ならざる者じゃなくて、おじさんに。正真正銘の人間にね」
「えっ!?」
『ドグラマグラ』じゃない!? それに、堂々と人前に顔を見せるような人物が!?
「ま、なんにせよもう終わり。安心して、私は命を奪ったりしない。私の『キラースネーク』はそんな下品なマネしないから」
そう言い終えたと共に。腕を振り上げ『キラースネーク』が迫る──!
「聞く耳持たぬって事らしいわね」
「おりゃりゃーっ!」
ぷらながラッシュを繰り出して対抗する! しかし!
尽くかわされた! まるで全て視えているような──いや!
「本体がいるからなおさら正確な動きになるに決まってる! 『ニンヒト』!」
『ニンヒト』の呪文によってヒカリが放つ三本の光線! 強化されたそれらは目にも止まらぬ速さで、敵本体である神崎 巳華に向けられるもしかし、『キラースネーク』によって阻まれてしまう!
「クソっ! 『縄張り』に入ってるせいで、もはやコイツの地の利は盤石になっちまってる!」
「私が、神崎先輩が近づくのに気づいてれば……!」
「いや、僕が警戒しなかった時点でマズかった! 過ぎた事はいい、いま何より厄介なのはこの素早さだ!」
『縄張り』の外に出ようとすると現れる、このワープしてるような動き!
何か僕らが気づいてないルールがあるのか!?
そう考えていたら、神崎 巳華が苦戦する僕らを分析し始める。噂のクールさはどうやら『冷徹』という事らしい。
「あんたら二人セットで能力者なの? いや、そっちのクールちゃんがリンカーっていう事か。能力は『ビーム』。そっちのお友達は『殴る』のがメイン。ま、私の敵じゃないね」
「ちょっと早計すぎませんかねぇ……!」
「どうかな」
『──Syurururu!!』
言い返している間にも猛攻は続く。繰り出されるラッシュ攻撃。こっちはヒカリと『ラブずっきゅん』で2体いるというのに、それを捌くだけで精一杯だ。
「『ニンヒト』!」
これだけの至近距離で放った光線さえ、グニャリと曲がって避けられる! そればかりか──!
『Syuruoo!!』
「くっ!」「うっ……!」
クローがヒカリの頬を掠め、僕にも斬撃ダメージが伝達してしまう!
「粘るじゃん。けどもう息切れみたいだね。こっちはまだ部活中だからね。終わらせてあげるよ、帰宅部──」
コツン。
そんな軽い音がしたような気がした。神崎さんの頭に、ちっちゃい何かが当たったのだ。
アメだった、棒付きの。
神崎さんは目が点になっていた。何が起きたか僕らもさっぱりだった。
現れた人物に、上げられた声に、僕らは理解と共に困惑が増す。
「何やってんのアンタら……!?」
「くるみちゃん!?」
そうだくるみさんだ! プリン頭ヘアーの、アメちゃんギャル!
神崎さんがギロリとくるみさんを睨みつける。その鋭さにくるみさんは思わず身を引いていた。
「……誰、あんた」
「通りすがりの下級生ですけど! そーゆーアンタはなんだってウチのダチとトラブル起こしてんの!? なんであたしの話からこーなるかさっぱり分からん!」
「次から次へと……」
「アンタがあのバケモンの飼い主!? さっきからぷらな達が襲われてんだけど、何なの!?」
──え?
僕ら3人は顔を見合わせた。驚いたのだ、くるみさんの発言に。
「……くるみさん、今、なんて?」
「見えてるんだよ! くるみちゃん、『リンカー能力者』だ!」
僕は正直、焦っていた。それを分かっていたかのように、ヒカリは声を上げる。
「2人とも安心できないわ。くるみは自覚がないかもしれない、それでいて神崎に狙われたら!」
「そう来るよね、分かってる! くるみさんっ!! 君は超能力者だ! その能力で、神崎さんの攻撃に備えて!」
「は? 何言ってんだし!?」
「攻撃してぇ!!」
言ってみたけどくるみさんは狼狽えてる、当たり前だ、これが正常な反応だ!
「わっかんないけど、あたしの能力とか言った!? まさかコレ!?」
くるみさんが手首をスナップ! すると棒付きアメが四本、指の間に挟まって……いや、出現した……!?
「へ?」
「はぁ?」
「ウッソでしょ、ちょっとタマキ」
まさか、あれがリンカー能力……!? 全員して困惑して硬直してしまってるぞ……!
リンカーの平和利用なんてもんじゃない、平和な願いで誕生したリンカーだ! 『アメを作る』、ただそれだけの!
「まさかタマキさぁ、こういうのって戦う為の能力ってワケ!? なワケないでしょ、そのバケモンとぜってぇ違うって!」
「……ハァ、耳障り。部外者はさっさと失せて」
神崎 巳華が裏拳でくるみさんを払う。
その瞬間だった。リンカーを──『キラースネーク』を手に宿らせ攻撃したのだ。
一般人同然のくるみさんに、情け容赦ない攻撃を与えた。棒付きのアメが地面にコツツン、と落ちたのだ。
「ねえタマキちゃん。コイツ、どこまでがトラップなの? どこまでが自分の『縄張り』なの?」
僕もだ。僕もだけど、誰よりぷらなが感情を溢れさせていた。普段、キャピキャピしてる彼女から想像できないほど、低く感情を漏らした声色だった。
「……入口をラインとしたとこ! この中が対象なんだ!」
「これじゃパンチできないわよね?」
「そうさ、パンチもキックも当てられない! この巣の中にいる限り! こんなリンカーなんて──!」
「そうよね! こんなリンカーなんて、吹っ飛ばしちゃうんだから!」
「ぷらなっ!! 君は今、真剣にムチャをしようとしているな!」
「大マジメだよっ! 私にはやりたいことがあるの! 放課後にお友達と遊びに出かけるの! お医者さんじゃなくって、お家にすぐ帰るんじゃなくって! お友達とゲーセン行ってみたり、コスメ見たり、雑貨屋さん行ったり! いっぱいいっぱいメモしたんだからっ!」
メモ? 病院に来たとき、慌てて探したのはそれだったのか!
「やりたいこといっぱいあるの! だから一緒に戦うって、そう決めたのっ!」
「ぷらな……」
「だからこんなトコに閉じ込められてたまるもんかっ! ましてや友達を痛めつける、あんな人なんか──!」
ぷらなが我先にと、駆け出す!
「ボッコボコにしちゃう!」
「いいかい、それは僕らも同じ発想だ! けど考え方は──」
僕らも駆け出す! 三人とも同じだ、同じタイミング、同じ方向へ向かった!
その前に『縄張り』を出る事になる。出口の前に、『キラースネーク』とかいうリンカーの追跡が始まるのだ。
今、まさに僕らを狙い始める。
『Hololouuuuu!!』
そんな事はお構いなしだ。向かう先は──本体である神崎 巳華!
「コイツを如何に倒してやるかって事だ!」
『Syurororororrr!!』
確かに敵リンカー『キラースネーク』の『トラップ』能力にはルールがいくつかある! けどいま特筆すべき単純なルールは──!
「『縄張り』から出ようとすれば、目の前に現れる! ニンヒト!」
「うりゃあぁっ!!」
ヒカリの光線、そしてぷらなの『ラブずっきゅん』が繰り出すラッシュ!
女子更衣室は『縄張り』となり、その中で『キラースネーク』に攻撃は当たらない。僕らの攻撃はやはり全てかわされてしまった。
外では本体である神崎さんが、その手に『キラースネーク』を宿らせくるみさんに襲いかかっている。
僕らと対峙する『キラースネーク』。やっぱり、そういう事か──!
「さあて解ったぞ、このトリックが! くるみさんが来てくれたから解った、ぷらなとタッグを組んだから解った!」
「どういうこと、タマキちゃん?」
「2体いるってことかしら?」
「3体だよ、ヒカリ。あとここぞというシーンの決め時を奪おうとしないでぇ……?」
「本体のおマヌケさんが手を上げてくれたからよ、横着しちゃって」
「待って! 私はわかんないんだけど!?」
「こういう事さ! ニンヒト!」
放ったのは敵リンカーの左右に各2撃、それにド真ん中で計5撃! 通常でも避けきれない、腕でガードでもしなきゃならない場面だろう。それを──
『Usyu!?』
『Syuouuuu!!』
「──っ!? いっつぅ!」
避けきれないばかりか、二体に分離して全て当たるではないか!
「増えた!?」
「そうさ増えた! より正確に言うなら、元々この部屋で統合した状態で構えてたんだろうね。攻撃担当と『縄張り』から逃さない追跡担当」
「ワープに見せかけたってコトかしら」
「どうだろうね。もう関係ないけど」
僕らは一歩、外へ出る。追跡も攻撃も無い。敵の本体と、対峙する!
「あんたらホント生意気な……!」
「言いたい事がそれだけですか? 才色兼備が聞いて呆れる」
「言うわねタマキ。煽り役、奪われちゃったわね」
「あっ、うぇ……。そうじゃなくって……。ええい! 神崎さん、もう抵抗はやめて下さい! リンカーの秘密はとっくに暴かれてますよ!」
「うっさい!」
神崎さんはけしかける。三体の『キラースネーク』を!
それらの拳が迫る、その眼前で、ぷらなが両手のひらを突き出し構える。防御の体勢であり、それは──!
──カックゥン!!
手のひらに触れた敵リンカー内二体が、真後ろに吹っ飛ばされるのだ!
「なっ……! 私の『キラースネーク』達が、飛ばされた!?」
「『ものを飛ばす』改め、『方向を操る』! だったわよね、タマキちゃん!」
「ああそうさ!」
笑顔を向けられる、だから笑顔で返す!
「こんな……こんな事っ!!」
「それが貴女の限界!」
「えいっ!!」
残る一体を、ぷらなが殴りつける! 『ベクトル操作』によってより強く飛ぶのだ!
「私らからもプレゼントよ」
「『ニンヒト』っ!!」
光が収束し、放たれる。一際大きく、空気を震わせる強い意思の光線。吹き飛んでいく『キラースネーク』に、追い討ちを叩きつける!!
『Syurororrrrrr!!』
「うぶっ……!?」
神崎さんは嗚咽を漏らして倒れた。
「ちょっと、悪いことした気分」
「優しいのねタマキちゃん。私なんて、全力でパンチしちゃったよ!」
「物騒な……」
「あら、私もマジになってニンヒトしたわよ」
「物騒ゼロ号!」
「ワケわかんなすぎ、助かった……」
あ、くるみさん安心しきってペタンと座り込んでる。なるほど、ギャルっていうのも良い……。
「違う違う! ともかく神崎さんのロッカーを調べ直さないと……」
「そうね。依頼したおじさん──『ドグラマグラ』に繋がるヒントをね」
神崎さんが気絶しているのを確認し、ぷらなに見張らせ、僕らは更衣室へ再度入る。