残酷な描写あり
R-15
第七四話 突然の脅威
美女と戯れていた魏冄の許を、弟の羋戎が慌ただしく訪ねてくる。そして前線で動きがあったことを知り、魏冄は対処策を講じる。
同年 咸陽 丞相府
酒を呑みながら、美女に肩たたきや足揉みをさせ、日頃の疲れを癒す魏冄。そんな魏冄の許を、軍の重鎮である弟の羋戎が慌ただしく訪ねてきた。
「兄上! 一大事です!」
目を丸くしてる魏冄は、美女たちに「部屋を出ろ」と命じ、立ち上がった。
羋戎は部屋を出ていく美女たちが、やたら背が低く幼い顔立ちのように思えて、兄の趣味に薄気味悪さを感じた。だが今は、そんなことに触れている時間はなかった。
「なんだ、どうしたんだ羋戎。もう病は治ったのか?」
「いえ治っていませんが、そんなことをいっている場合ではないのです。前線で動きがありました。今、白起や司馬錯が敵と交戦中です」
「なんだと? 今は軍を動かすなと、命令してあるのだぞ。趙から賄賂を貰い、中原で戦をしないことを約束したということはそなたも知っているだろう。やつら丞相の命令に背くなど、言語道断だ」
「兄上、こちらから仕掛けたのではありません。白起や司馬錯は、懸命に交戦しているのです」
羋戎の言葉に魏冄は笑った。白髪混じりの髭をなでながら、余裕の表情を浮かべていた。
「懸命などというが、韓と魏など、小物じゃないか」
「敵は韓と魏のみに非ず! 趙、斉、楚、燕を含む六国の全てです!」
魏冄の顔から、余裕の笑みが消え去った。逡巡する魏冄に羋戎は、蘇秦と和平を結ぶ為の会合を行うべきだと進言した。
魏冄は、弟に対しては素直で、聞く耳を持っていた。
「まずは趙だ。すぐさま趙へ使者を送って、合従軍を離脱させるのだ」
「趙は兵を挙げて前線に駐屯してはいますが、未だに交戦していません。形だけの出兵と思われるので、離脱させることはできるでしょう」
「そうか……今交戦しているのはどこだ」
「魏、韓、楚、斉です」
「ではすぐに蘇秦に会おう。燕が交戦していないのは、つまり本気で我らと争うつもりはないということ。この合従軍は、実際に六国が兵を挙げられるという証明をしたかったのだろう。韓と魏は形振り構っていられず反抗していて、そして楚は国内をまとめるために結果を出したい、そして斉は合従の本当の目的を知らず、上手く蘇秦に扇動された。概ねそういうところであろう」
「ようやく調子を取り戻して来られましたな、兄上。すぐさま使者を送り、蘇秦と会合できるように取り計らいます」
羋戎は病の体を押し、秦王に丞相魏冄が蘇秦と会合する旨を伝え、了承を得た。秦王にとって、合従軍という脅威は、恐怖であった。前線で善戦しているという報告を聞いても、白起や司馬錯という名将の存在より、恐怖の感情の方がより強く感じられた。
酒を呑みながら、美女に肩たたきや足揉みをさせ、日頃の疲れを癒す魏冄。そんな魏冄の許を、軍の重鎮である弟の羋戎が慌ただしく訪ねてきた。
「兄上! 一大事です!」
目を丸くしてる魏冄は、美女たちに「部屋を出ろ」と命じ、立ち上がった。
羋戎は部屋を出ていく美女たちが、やたら背が低く幼い顔立ちのように思えて、兄の趣味に薄気味悪さを感じた。だが今は、そんなことに触れている時間はなかった。
「なんだ、どうしたんだ羋戎。もう病は治ったのか?」
「いえ治っていませんが、そんなことをいっている場合ではないのです。前線で動きがありました。今、白起や司馬錯が敵と交戦中です」
「なんだと? 今は軍を動かすなと、命令してあるのだぞ。趙から賄賂を貰い、中原で戦をしないことを約束したということはそなたも知っているだろう。やつら丞相の命令に背くなど、言語道断だ」
「兄上、こちらから仕掛けたのではありません。白起や司馬錯は、懸命に交戦しているのです」
羋戎の言葉に魏冄は笑った。白髪混じりの髭をなでながら、余裕の表情を浮かべていた。
「懸命などというが、韓と魏など、小物じゃないか」
「敵は韓と魏のみに非ず! 趙、斉、楚、燕を含む六国の全てです!」
魏冄の顔から、余裕の笑みが消え去った。逡巡する魏冄に羋戎は、蘇秦と和平を結ぶ為の会合を行うべきだと進言した。
魏冄は、弟に対しては素直で、聞く耳を持っていた。
「まずは趙だ。すぐさま趙へ使者を送って、合従軍を離脱させるのだ」
「趙は兵を挙げて前線に駐屯してはいますが、未だに交戦していません。形だけの出兵と思われるので、離脱させることはできるでしょう」
「そうか……今交戦しているのはどこだ」
「魏、韓、楚、斉です」
「ではすぐに蘇秦に会おう。燕が交戦していないのは、つまり本気で我らと争うつもりはないということ。この合従軍は、実際に六国が兵を挙げられるという証明をしたかったのだろう。韓と魏は形振り構っていられず反抗していて、そして楚は国内をまとめるために結果を出したい、そして斉は合従の本当の目的を知らず、上手く蘇秦に扇動された。概ねそういうところであろう」
「ようやく調子を取り戻して来られましたな、兄上。すぐさま使者を送り、蘇秦と会合できるように取り計らいます」
羋戎は病の体を押し、秦王に丞相魏冄が蘇秦と会合する旨を伝え、了承を得た。秦王にとって、合従軍という脅威は、恐怖であった。前線で善戦しているという報告を聞いても、白起や司馬錯という名将の存在より、恐怖の感情の方がより強く感じられた。