残酷な描写あり
R-15
第八五話 東西互帝
秦の丞相魏冄は、斉王に拝謁する為、臨淄へ赴く。
秦王は司馬錯を巴蜀に向かわせる決定を下した後、その後任を決めなくてはならなかった。漢中軍を率いるのに最も相応しいのは、漢中軍で戦ってきた人間。秦王は、優れた人間を自分の手で登用しようと思い、曲を将軍に昇格させることにした。
後任に選んだのは、漢中軍で高い戦績を残していた胡傷だった。彼はかつての函谷関の戦いで、白起と同じように武関を守る為奮戦し、魏と韓を攻めた折でも、司馬錯の指揮下で勇猛果敢に戦い、城を陥す活躍をしていた。
「将軍胡傷よ、そなたは名将任鄙や大将軍司馬錯、そして国尉白起に将軍となるのだ」
「御意!」
同年 臨淄
魏冄は秦からの使者として、臨淄を訪れた。その豪華絢爛な馬車の列に、斉王は嫉妬の目を向けていた。蘇秦はそんな斉王を見て、見栄ばかりを気にする薄っぺらさを、心の中で侮蔑した。
魏冄は宮殿に入り、玉座に座る斉王に拝謁した。
「秦国丞相、魏冄にございます。此度の歓待、恐悦至極にございます」
「そう畏まるな、穣候よ。此度は両国の同盟を検討する友好の使者として、西の果てから東の果てまで、遠路はるばる感謝するぞ」
「ありがとうございます。蘇秦丞相にも、ご挨拶申しあげます」
魏冄は少しぶっきらぼうに、蘇秦に一礼した。
蘇秦も礼をし、それを見届けた斉王は、魏冄に座席へ座るよう伝えた。
「斉王様、早速ながら、一つ質問させてください」
「なんだ穣候よ、なんでも聞いてくれ」
「ではお聞きします。今天下には、竜虎が並び立っています。それは誰のことかお分かりになりますでしょうか」
「それはつまり……余と、秦王のことか」
「左様にございます。竜とは秦王様であり、虎とは斉王様です。しかし天下には、複数の王が並び立っています。それはいわば、竜や虎を騙るも、同じことにございます。故に私は、斉王様に献策致します。我が秦王様と斉王様は、王を越す新たな号を称するのです」
「ほう……して、それはどういう号なのだ」
「帝(てい)です。秦王様を西帝とし、斉王様を東帝とする。そして、今や風前の灯火となった周に代わって、覇者としてその威厳を、天下に示すのです」
「おお……それはよい。天下の諸王は、我らに平伏すであろう。天下を牛耳るのは中原の古臭い小国ではなく、名実ともに、我らのものとなるのだな!」
有頂天となった斉王を見てほくそ笑む蘇秦を見て魏冄は、表情に感情が現れる彼がまだ、クチバシの黄色い青二才であると感じた。
「して穣候の、その帝とはどこから引用したのだ?」
「我らが共通の祖先、三皇五帝からです」
「ということはつまり、黄帝だな。そうか、我らはあの偉大なる黄帝と肩を並べる、偉大なる存在となるのか」
斉王は大笑いをし、満悦の様子であった。
後任に選んだのは、漢中軍で高い戦績を残していた胡傷だった。彼はかつての函谷関の戦いで、白起と同じように武関を守る為奮戦し、魏と韓を攻めた折でも、司馬錯の指揮下で勇猛果敢に戦い、城を陥す活躍をしていた。
「将軍胡傷よ、そなたは名将任鄙や大将軍司馬錯、そして国尉白起に将軍となるのだ」
「御意!」
同年 臨淄
魏冄は秦からの使者として、臨淄を訪れた。その豪華絢爛な馬車の列に、斉王は嫉妬の目を向けていた。蘇秦はそんな斉王を見て、見栄ばかりを気にする薄っぺらさを、心の中で侮蔑した。
魏冄は宮殿に入り、玉座に座る斉王に拝謁した。
「秦国丞相、魏冄にございます。此度の歓待、恐悦至極にございます」
「そう畏まるな、穣候よ。此度は両国の同盟を検討する友好の使者として、西の果てから東の果てまで、遠路はるばる感謝するぞ」
「ありがとうございます。蘇秦丞相にも、ご挨拶申しあげます」
魏冄は少しぶっきらぼうに、蘇秦に一礼した。
蘇秦も礼をし、それを見届けた斉王は、魏冄に座席へ座るよう伝えた。
「斉王様、早速ながら、一つ質問させてください」
「なんだ穣候よ、なんでも聞いてくれ」
「ではお聞きします。今天下には、竜虎が並び立っています。それは誰のことかお分かりになりますでしょうか」
「それはつまり……余と、秦王のことか」
「左様にございます。竜とは秦王様であり、虎とは斉王様です。しかし天下には、複数の王が並び立っています。それはいわば、竜や虎を騙るも、同じことにございます。故に私は、斉王様に献策致します。我が秦王様と斉王様は、王を越す新たな号を称するのです」
「ほう……して、それはどういう号なのだ」
「帝(てい)です。秦王様を西帝とし、斉王様を東帝とする。そして、今や風前の灯火となった周に代わって、覇者としてその威厳を、天下に示すのです」
「おお……それはよい。天下の諸王は、我らに平伏すであろう。天下を牛耳るのは中原の古臭い小国ではなく、名実ともに、我らのものとなるのだな!」
有頂天となった斉王を見てほくそ笑む蘇秦を見て魏冄は、表情に感情が現れる彼がまだ、クチバシの黄色い青二才であると感じた。
「して穣候の、その帝とはどこから引用したのだ?」
「我らが共通の祖先、三皇五帝からです」
「ということはつまり、黄帝だな。そうか、我らはあの偉大なる黄帝と肩を並べる、偉大なる存在となるのか」
斉王は大笑いをし、満悦の様子であった。