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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第百二四話 白起、登城を奪う
 任地へ着任した白起は、鄢への攻撃の為、登城一帯の攻略に乗りだす。
 同年 黔中郡

 前線に到着した国尉白起は、将軍張唐や将軍胡傷から、現在の戦線の詳細を確認した。
「以上の理由から、鄢へ向かうには、まず登城を獲る必要があります。その為には周囲にある四つの城も同時に攻略する必要があります」
「なるほどな……ありがとう張唐将軍。しかし難しいな。登城一帯を奪えば、黔中郡のほぼ全てを掌握できるが……それでも鄢を陥せるとは到底思えぬ」
 進軍経路を確保するには、登城一帯を奪う必要がある。しかし、仮に進軍が可能になったところで、鄢という旧都の難攻不落さを変えることはできず、突破の糸口を探らなくてはならないという現状には、変わりなかった。
「張唐、優秀な将軍に兵を与え、四つの城を同時に攻撃せよ。私自ら登城を攻め、一帯を一気に掌握する」
「胡傷将軍と斯離(しり)将軍ならば、気心知れた仲故、我らに遅れを取らないでしょう。しかし懸念があります」
「申せ」
「我が軍はここまでで攻城兵器を消耗しすぎています。我が軍は今、騎馬兵が力を持て余しております故、敵を外に誘い出し、平地にて撃破すべきと存じます」
「では噂を流布するのだ。秦軍は風土病にかかり、馬が弱っている。平地に出てて来られれば、迎撃できぬとな」
「そのようにします」
「騎馬都尉は誰だ」
「楊摎殿です」
「蒙驁殿の友人か……。女人の様な妖艶さを持ち併せていながら、抜きん出た武勇と知力を持つ逸材だ。これまでの戦果や兵からの信頼も十分だ。なにより私もかの者の人柄を気に入っている。楊摎を将軍にし、騎馬主力を率いさせ、先鋒に配置するのだ。その機動力と突破力で、方を付けろ」
「御意」


 前279年(昭襄王29年)
 白起率いる秦軍は、登城一帯を攻撃した。
 楊摎率いる秦軍中央が楚軍全体を混乱させ、最も乱れた楚軍左翼を守る為に楚軍中央が兵を分けた所を見逃さず、胡傷率いる右翼が、楚軍中央へ突撃。
 斯離率いる左翼が弓で中距離攻撃を繰り広げ、楚軍へ追い討ちをかける。敗走する楚軍が城へ戻ろうと戦線を離脱し始めた所、伏兵として丘の上に潜んでいた張唐軍が、正面から攻撃し、楚軍を殲滅した。

 楚軍の大将軍項叔は、鄢に駐屯する軍を援軍として差し向けていた。楚軍の戦車部隊は秦軍の歩兵に大損害を与えたが、西県の重装騎兵が車輪の破壊や捨て身の飛び乗りで車両を乗っ取るなどし、撃退した。
 楚兵は秦兵の蛮族のような荒々しい戦い方に、絶句し、恐れをなした。

 平野での戦いが終わった頃、白起は孤立無援の登城に夜毎の降伏勧告で士気を極限まで下げた上で、猛攻を加え、陥落させた。
 登城一帯を掌握した後、白起は、偵察隊を出した。
「鄢周辺の詳細な地図が欲しい。作成してくるのだ。ここを足がかりにするにしても、あの丘の上の巨大な鄢を攻略する糸口を見つけなくては……勝てないぞ」
登城……現在の湖北省襄陽市樊城区北西
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