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作者: 唯響-Ion
残酷な描写あり R-15
第百四六話 韓での政変
 優柔不断な韓王は、臣下に説得され、遂に魏を見限りる。そして魏へ奇襲するも、反撃される。
 前273年(昭襄王34年) 韓 新鄭

 韓の宮廷は、荒れていた。韓王は都の新鄭にて、一世一代の決断を迫られていた。
「韓王様! ご決断ください! 最早魏には秦と抗う力はなく、強い味方ではなく、重たい足枷となっております!」
「そうです! 魏と袂を分かつ時が来たのです!」
「暴鳶は死に、魏も大梁を包囲される程に弱体化しております! 生き残る為には秦に走るしかありませぬ!」
 臣下は、長らく共に秦に抗ってきた魏を見限り、秦と連衡するべきだと意見していた。その意見はずっと存在していたが、魏が大梁を包囲されてからその勢いは増し、今や宮廷の一大勢力と化していた。
 だが優柔不断な韓王は、長年続けてきた方策を変える決断を、下せずにいた。
「なにを迷われているのですか、韓王様」
「余は、重鎮の暴鳶が、魏や趙との会盟は不動のものであると力説していたのが、忘れられぬのだ。どうして功臣の願いを、無下にできようか!」
「暴鳶将軍が正しかったのなら、此度の韓の衰退はありません! いかに功があろうと、死んでしまったのは、魏との会盟に拘り無謀な救援を敢行したからです。つまり、その死は必定!」
「貴様……なんたる言い草!」
 韓王は憤慨した。しかし数多の臣下は韓王に食いかかるように意見し、決断させようとした。
「韓王様! 韓王様が守りたいものは、先代が滅ぼした晋ですか! それとも韓ですか!」
「三晋の会盟に拘っては、韓は滅びます! どうかご決断ください!」
 連日続く臣下の懇願に、韓王は根負けした。
 その決断が正しいのか間違っているのかは、分からない。だが、自分にすべきことは、ただ臣下の声に耳を傾けることだと、韓王はそう思うようになった。
「韓の未来は皆に掛けるぞ。宰相の張厥(ちょうかい)に命令だ! 軍を率いて、魏へ奇襲だ! 余が書簡を認め、秦へ援軍を求める!」

 韓は魏を見限り、国境付近の城を攻めた。
「魏を攻めろ! 秦の援軍はすぐに来る! 首級を挙げて信用を勝ち取るのだ!」
 しかし魏は韓の攻撃にすぐさま対応し、反撃した。
「暴鳶が死ねばすぐにこのザマとは……秦にも勝るとも劣らぬ信義の無さだ……!」
 将軍芒卯率いる魏軍は、韓を追撃した。両軍は泥沼の戦闘を続け、韓は遂に自国領まで攻められる結果となった。
 軍事拠点となっている華陽にて、韓は必死な抵抗を続けていた。
 魏の猛攻に耐えきれなくなり、あと数日で陥落しかねない程、押された韓軍。その韓軍の元に、遂に希望の光が差した。
「西を見るのだ! 秦軍だぞ!」
 秦軍が現れ、韓軍は沸き立った。魏軍は防御の布陣に切り替え、秦軍との交戦に備えた。
新鄭……現在の中華人民共和国河南省鄭州市

華陽……現在の河南省鄭州市新鄭市の北
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