残酷な描写あり
R-15
第百四八話 華陽の戦い 中編
森林内での魏軍の捜索は難航した。捜索範囲を広げた矢先、魏軍は十五万の大軍で、白起率いる秦軍へ攻撃を仕掛ける。
白起は数日をかけて魏軍を捜索するも、見つけることはできなかった。魏冄からの命令は、森林の中にいる筈の魏軍を見つけ、討伐せよとあった。しかし魏軍は最早、森林にいないことは明らかであった。
白起は森林の外側まで、捜索の範囲を広げようとした。その頃は既に、捜索を開始してから八日が経過していた。
白起が兵の配置を整え、捜索の連絡網に穴が空かないように徹底し、森林の外までまで兵を広げた直後、後方の白起の下に情報が届けられた。
「斥候からの報告! 魏軍およそ十五万が接近しています!」
「十五万だと! 魏にそんな余裕はないはずだが、それは真(まこと)なのか!」
「真にございます! 全然の部隊は既に迎撃の構えを取り、斥候は全て帰還しています!」
「なんと……予想もしていなかった。丞相からの報告には……たかが数万であると……」
白起は、魏冄に陥れられたような気がした。将兵の中には、魏冄と白起による軍閥が、内部で争いを起こしているという話す者もいた。
当事者である白起には、その意識はなかった。しかし今回の出来事で、魏冄によって、自分が死地に立たされたことを悟った。
「私がなにをしたというのですか丞相……いいや今は、下らぬ感傷に浸っている場合では無い。私は武将であり、政治家ではない。勢力争いなど、実力でねじ伏せてやる。私は武安君だ。武でこの場を安んじてみせよう」
白起はすぐさま、二千の騎馬別働隊を編成した。それを騎都尉の楊摎に率いさせ、敵軍の背後に回るように指示を出した。本来の目的である魏将芒卯の討伐を達成する為、逃げ道を防ぐ狙いがあった。
「幸い私の部隊の総数を、敵は知らない。まだ勝機はある。お前ならどう戦うか、司馬靳よ」
「我が軍の総数ならば、敵軍より上回っています。しかし本隊がいない今……我が軍の総数は四万。敵軍の三分の一です。戦い方など……まずは撤退し、華陽城の本隊へ合流するしか……!」
「それはできない。丞相の本隊にも役目がある故、ここは我が隊で片付けねばならぬ」
「しかし、可能なのですか……?」
「できる。私ならばな。それも圧勝できる算段が、ついさっき思い浮かんだ」
白起の目線の先には、今頃、楊摎達が到着しているであろう、川があった。
白起は部隊を二つに分けた。一つに主力の重装騎兵を固め、三万の本隊とし、敵軍を引き付けた。
見え透いた陽動に芒卯は引っかからず、少数の重装歩兵が魏軍本陣までの道に立ち塞がり、無謀な突撃をせず、盾として秦軍を防ぐに留まった。魏軍は重装歩兵と数の優位を活かす為、秦軍と正面衝突を行った。
秦軍はその動きに合わせて衝突し、戦線は横に伸び、秦軍は今にも穴が空きそうになっていた。しかし、楚攻めでも活躍した西県の兵を中心とした騎兵部隊が遊撃部隊として動き、押し返しては移動し、また押し返すことを続けていた。
「白起将軍、これでは、敵に抜かれるのは時間の問題ですぞ!」
「焦るな、司馬靳殿。そなたは大将軍の孫だ。秦の将来を担う将として、もう少し冷静でいてくれ」
「申し訳ござらん……!」
「あのような目に見えた陽動を行う部隊三万も、敵軍の側面を攻撃しようと狙う軽騎兵別働隊五千も、全て陽動。我が軍の本隊は、戦闘が始まる前に敵軍後方へ回った、楊摎率いる騎馬部隊だ」
白起は森林の外側まで、捜索の範囲を広げようとした。その頃は既に、捜索を開始してから八日が経過していた。
白起が兵の配置を整え、捜索の連絡網に穴が空かないように徹底し、森林の外までまで兵を広げた直後、後方の白起の下に情報が届けられた。
「斥候からの報告! 魏軍およそ十五万が接近しています!」
「十五万だと! 魏にそんな余裕はないはずだが、それは真(まこと)なのか!」
「真にございます! 全然の部隊は既に迎撃の構えを取り、斥候は全て帰還しています!」
「なんと……予想もしていなかった。丞相からの報告には……たかが数万であると……」
白起は、魏冄に陥れられたような気がした。将兵の中には、魏冄と白起による軍閥が、内部で争いを起こしているという話す者もいた。
当事者である白起には、その意識はなかった。しかし今回の出来事で、魏冄によって、自分が死地に立たされたことを悟った。
「私がなにをしたというのですか丞相……いいや今は、下らぬ感傷に浸っている場合では無い。私は武将であり、政治家ではない。勢力争いなど、実力でねじ伏せてやる。私は武安君だ。武でこの場を安んじてみせよう」
白起はすぐさま、二千の騎馬別働隊を編成した。それを騎都尉の楊摎に率いさせ、敵軍の背後に回るように指示を出した。本来の目的である魏将芒卯の討伐を達成する為、逃げ道を防ぐ狙いがあった。
「幸い私の部隊の総数を、敵は知らない。まだ勝機はある。お前ならどう戦うか、司馬靳よ」
「我が軍の総数ならば、敵軍より上回っています。しかし本隊がいない今……我が軍の総数は四万。敵軍の三分の一です。戦い方など……まずは撤退し、華陽城の本隊へ合流するしか……!」
「それはできない。丞相の本隊にも役目がある故、ここは我が隊で片付けねばならぬ」
「しかし、可能なのですか……?」
「できる。私ならばな。それも圧勝できる算段が、ついさっき思い浮かんだ」
白起の目線の先には、今頃、楊摎達が到着しているであろう、川があった。
白起は部隊を二つに分けた。一つに主力の重装騎兵を固め、三万の本隊とし、敵軍を引き付けた。
見え透いた陽動に芒卯は引っかからず、少数の重装歩兵が魏軍本陣までの道に立ち塞がり、無謀な突撃をせず、盾として秦軍を防ぐに留まった。魏軍は重装歩兵と数の優位を活かす為、秦軍と正面衝突を行った。
秦軍はその動きに合わせて衝突し、戦線は横に伸び、秦軍は今にも穴が空きそうになっていた。しかし、楚攻めでも活躍した西県の兵を中心とした騎兵部隊が遊撃部隊として動き、押し返しては移動し、また押し返すことを続けていた。
「白起将軍、これでは、敵に抜かれるのは時間の問題ですぞ!」
「焦るな、司馬靳殿。そなたは大将軍の孫だ。秦の将来を担う将として、もう少し冷静でいてくれ」
「申し訳ござらん……!」
「あのような目に見えた陽動を行う部隊三万も、敵軍の側面を攻撃しようと狙う軽騎兵別働隊五千も、全て陽動。我が軍の本隊は、戦闘が始まる前に敵軍後方へ回った、楊摎率いる騎馬部隊だ」