第一球、俺様に相応しい舞台
…――九回、ツーアウト、満塁。しかし、四点のビハインド。
たとえ満塁ホームランを打とうとも同点にしかならない状況。
時折、吹き抜ける風が爽やかな六月の午後。
俺様は、とある高校のグラウンドに在るネクストパッターズサークルへと立つ。
カカカ。
五点、入れろってか? ハンッ! 上等ッ! やってやんよ。
自慢の超ロングなリーゼントが、まばゆくも黄金色に煌めく。
俺様の。
ぶっとんだ、極上の熱さを魅せてやんよッ!
蒼空は青く透き通り、燃えるような赤をも含む。俺を照らし出す。その赤は真っ赤に燃える陽光。ソレをバックにホームラン宣言。カカカ。笑えんぜ? 俺の宣言を受けた敵チームのピッチャーの青い顔はな。きっちり殺してやんぜ? コラ?
まあ、そうは言ってもピッチャーも次で仕留める、と青くなった顔を隠しつつ。
「だから、草野〔くさの〕。アンタの打順じゃないからネ。アンタは次だからさ」
と言って、あざ嗤う矢瑞佳織〔しみず・かおり〕の眼鏡女郎。
眼鏡なクセして体育会系という離れ業をやってのける佳織の言う通り。今、バッターボックスに立っているのは俺じゃない。しかも、ツーストライク、スリーボールと追い詰められたバッターは緊張で萎縮し、今にも泣き出しそうだ。
カカカ。
充分に分かてんよ。俺の打順は次だってな。
だからこそじゃねぇか。俺様にとって、この上なく相応しい舞台だってのはよ。
四点、獲るだけじゃ、つまんねぇだろうが?
ああん?
ピンチで満塁ホームランを打つだけの打者だったら掃いて捨てるほどいんだよ?
「心底のアホね。アンタに打順が回ってくる前に今の打者がアウトになって終わりだわよ。てか、遅刻してくるアンタが悪い。毎回、毎回、なんで遅刻するかな」
しかも決まって到着するのは九回の表か裏。
アホか。
呆れる、赤ぶち眼鏡な眼鏡女郎、矢瑞佳織。
まあまあ、凡人様はソコで黙って控えてな。
千両役者が満を持してのご登場だ、ってな。
カカカ。
ぶぉん、という不穏な音を立てて、ゆさゆさっと揺れる稲光りするリーゼント。
そして、俺はネクストパッターズサークルで素振りを始める。
首を傾げ、コキキと音を鳴らしてからバットを構え、そして、一回、二回、三回とバットを素振る。その風圧で小石が舞い、ついでにとばかりにも眼鏡女郎の愛らしいスカートを、まくし上げる。狙った。奴は眼鏡女郎だが美少女だからな。
パンツくらい拝ませろ。五点とって、きっかり逆転してやんだからよ。カカカ。
キャッと小さな声をあげてスカートの裾を押さえる眼鏡女郎。
ういな。
うい。意外と。まあ、可愛いと言っておいてやる。サービスだ。色んな意味な。
そして、いくらか顔を赤くしてから言い放つ。男子にとってはご褒美なソレを。
「アホ。スパッツだわよ。スパッツを、はいてるわよ。残念、無念で、珍念さん」
「いや、それはそれでエロい。エモい。黒いソレこそが神だな」
カカカ。
「ど変態が。アホ。一回、墓場に送ってあげようか。草野球〔くさの・きゅう〕」
これで死んでも本望だな。魅惑のデルタ地帯を覆う黒い領域を見れたのだから。
まあ、そんなこたぁどうでもいい。男は、みんな、変態だ。それよりも、今、舞った小石をだな。撃ち抜く。カキーンなんて爽やかな音はしないが、ソレでも小石は一直線に向かう。俺様が、この試合を殺し合いへと昇華させるソコへとな。
緊張した面持ちで敵さんのピッチャーが自身渾身のストレートを打者に投げる。
これまた緊張して萎縮するバッターが、ヘロヘロとした腰つきでバットを振る。
ぷるん。
なんて、それこそ可愛らしい音さえ聞こえてきそうなソレだ。
そして。
ピッチャーが投げた球の球道の、かなり上方をバットが通過しようとした瞬間。
先ほど俺様が撃ち抜いた小石が到達する。ソコにだ。カカカ。
カキーン。なんて胸がすくような音はしない。むしろ、ゴキというG〔分からないヤツは自分で調べろ〕が床を這いずり回るような音が響き渡る。そうして前に転がるボール。三振だと高を括っていたピッチャーを始め守備陣の意表を突く。
「ストップッ! ストップ!」
コーチャーズボックスで両手のひらを前に突き出したモブキングの二人が言う。
一塁側、三塁側ともに、な。
カカカ。
一体、何が起こったと思う? なんだと思う? アホどもが。
さっきの小石をピッチャーが投げた球に当てたんだよ。なに? 意味が分からんだと。なぁに、簡単な事よ。小石を当てて球道を変えたんだよ。つまり球道のかなり上方を通過しようとしていたバットに当たるよう。撃ち抜いた小石を使い。
そうして内野ゴロでの内野安打のできあがりってな。カカカ。
さて、じゃ、後は、お約束なホームランで仕上げまっしょい。逝くぜってなッ!
九回、ツーアウト、満塁で三点のビハインドになったからこその満塁弾でなッ!
カカカ。
たとえ満塁ホームランを打とうとも同点にしかならない状況。
時折、吹き抜ける風が爽やかな六月の午後。
俺様は、とある高校のグラウンドに在るネクストパッターズサークルへと立つ。
カカカ。
五点、入れろってか? ハンッ! 上等ッ! やってやんよ。
自慢の超ロングなリーゼントが、まばゆくも黄金色に煌めく。
俺様の。
ぶっとんだ、極上の熱さを魅せてやんよッ!
蒼空は青く透き通り、燃えるような赤をも含む。俺を照らし出す。その赤は真っ赤に燃える陽光。ソレをバックにホームラン宣言。カカカ。笑えんぜ? 俺の宣言を受けた敵チームのピッチャーの青い顔はな。きっちり殺してやんぜ? コラ?
まあ、そうは言ってもピッチャーも次で仕留める、と青くなった顔を隠しつつ。
「だから、草野〔くさの〕。アンタの打順じゃないからネ。アンタは次だからさ」
と言って、あざ嗤う矢瑞佳織〔しみず・かおり〕の眼鏡女郎。
眼鏡なクセして体育会系という離れ業をやってのける佳織の言う通り。今、バッターボックスに立っているのは俺じゃない。しかも、ツーストライク、スリーボールと追い詰められたバッターは緊張で萎縮し、今にも泣き出しそうだ。
カカカ。
充分に分かてんよ。俺の打順は次だってな。
だからこそじゃねぇか。俺様にとって、この上なく相応しい舞台だってのはよ。
四点、獲るだけじゃ、つまんねぇだろうが?
ああん?
ピンチで満塁ホームランを打つだけの打者だったら掃いて捨てるほどいんだよ?
「心底のアホね。アンタに打順が回ってくる前に今の打者がアウトになって終わりだわよ。てか、遅刻してくるアンタが悪い。毎回、毎回、なんで遅刻するかな」
しかも決まって到着するのは九回の表か裏。
アホか。
呆れる、赤ぶち眼鏡な眼鏡女郎、矢瑞佳織。
まあまあ、凡人様はソコで黙って控えてな。
千両役者が満を持してのご登場だ、ってな。
カカカ。
ぶぉん、という不穏な音を立てて、ゆさゆさっと揺れる稲光りするリーゼント。
そして、俺はネクストパッターズサークルで素振りを始める。
首を傾げ、コキキと音を鳴らしてからバットを構え、そして、一回、二回、三回とバットを素振る。その風圧で小石が舞い、ついでにとばかりにも眼鏡女郎の愛らしいスカートを、まくし上げる。狙った。奴は眼鏡女郎だが美少女だからな。
パンツくらい拝ませろ。五点とって、きっかり逆転してやんだからよ。カカカ。
キャッと小さな声をあげてスカートの裾を押さえる眼鏡女郎。
ういな。
うい。意外と。まあ、可愛いと言っておいてやる。サービスだ。色んな意味な。
そして、いくらか顔を赤くしてから言い放つ。男子にとってはご褒美なソレを。
「アホ。スパッツだわよ。スパッツを、はいてるわよ。残念、無念で、珍念さん」
「いや、それはそれでエロい。エモい。黒いソレこそが神だな」
カカカ。
「ど変態が。アホ。一回、墓場に送ってあげようか。草野球〔くさの・きゅう〕」
これで死んでも本望だな。魅惑のデルタ地帯を覆う黒い領域を見れたのだから。
まあ、そんなこたぁどうでもいい。男は、みんな、変態だ。それよりも、今、舞った小石をだな。撃ち抜く。カキーンなんて爽やかな音はしないが、ソレでも小石は一直線に向かう。俺様が、この試合を殺し合いへと昇華させるソコへとな。
緊張した面持ちで敵さんのピッチャーが自身渾身のストレートを打者に投げる。
これまた緊張して萎縮するバッターが、ヘロヘロとした腰つきでバットを振る。
ぷるん。
なんて、それこそ可愛らしい音さえ聞こえてきそうなソレだ。
そして。
ピッチャーが投げた球の球道の、かなり上方をバットが通過しようとした瞬間。
先ほど俺様が撃ち抜いた小石が到達する。ソコにだ。カカカ。
カキーン。なんて胸がすくような音はしない。むしろ、ゴキというG〔分からないヤツは自分で調べろ〕が床を這いずり回るような音が響き渡る。そうして前に転がるボール。三振だと高を括っていたピッチャーを始め守備陣の意表を突く。
「ストップッ! ストップ!」
コーチャーズボックスで両手のひらを前に突き出したモブキングの二人が言う。
一塁側、三塁側ともに、な。
カカカ。
一体、何が起こったと思う? なんだと思う? アホどもが。
さっきの小石をピッチャーが投げた球に当てたんだよ。なに? 意味が分からんだと。なぁに、簡単な事よ。小石を当てて球道を変えたんだよ。つまり球道のかなり上方を通過しようとしていたバットに当たるよう。撃ち抜いた小石を使い。
そうして内野ゴロでの内野安打のできあがりってな。カカカ。
さて、じゃ、後は、お約束なホームランで仕上げまっしょい。逝くぜってなッ!
九回、ツーアウト、満塁で三点のビハインドになったからこその満塁弾でなッ!
カカカ。