残酷な描写あり
R-15
カプテリオ突入
「消息不明?」
宿場の駐機場にクラーケンの姿が見当たらなかったので、自分達が泊る宿の主人に聞いたらすぐに話を聞けた。やはりあのアルマは相当目立つようだ。スピラスはここで多くのアーティファクトを発掘したが、一月ほど前にカプテリオへ潜ってから帰ってこないという。
「一月か……」
クリオが呟いて俯く。一月前なら、彼がエクスカベーターになってすぐメルセナリアに向かっていれば会えたはずだ。とはいえ前の中古アルマではとてもここまで旅してこれないし、旅費もなかった。方舟でミスティカに同行したからこそ、ラタトスクという性格は悪いが長旅をものともしないアルマを手に入れ、十分な旅費も得られたのだ。
「カプテリオで消息を絶つ発掘隊は後を絶たないからね。消息不明のエクスカベーターは数えきれないほどだ。ただ、死亡が確認された者もあまりいない。遺構は大昔の人間が住んでいた施設だって話だし、帰ってこれないけど脱出方法を探しているということは十分考えられるよ」
宿の主人は人の良さそうな中年女性で、探し人が遺構から帰ってこないと聞いて落ち込むクリオを励ますようにカプテリオの発掘状況を教えてくれた。ドーム状の地上部分からは垂直に近い角度で地下へ通路が伸びており、現在地下200メートル地点まではMAPが作られているらしい。直線距離では短いが、そこまで到達するのには相当に長い迷路を進まされる。垂直の通路を飛び降りればすぐに到達するだろうが、その高さを落ちて平気なアルマは存在しないのだ。確認されている死亡者の中には足を踏み外して落ちたエクスカベーターもいる。
「その200メートル地点にガーディアンでもいるのか?」
発掘の最深部は強力なガーディアンに妨げられて止まっていることが多い。だが主人は首を振った。
「あそこにはガーディアンはいないよ。大きな穴が開いていて、そこから入ったエクスカベーターは誰も戻ってきていないんだ。スピラスさん達もあの穴に挑戦するって言ってたね」
誰も帰ってこれない地下の穴。誰からともなく、その穴のことを奈落と呼ぶようになったという。
「奈落……ですか」
ミスティカが渋い顔をした。奈落という言葉は、神話言語でこの町と同じ『インフェロ』となる。何か関連があるのか、それとも単なる偶然か。カプテリオの訳から考えて、奈落の向こうにはとんでもない危険が待ち受けているに違いない。
「よーし、そんじゃ俺達もその奈落の底へ行ってみようぜ。出てこれなくなってる連中のためにハシゴでも作ってやるか」
重い空気になりつつあるところを、ホワイトが明るい声で吹き飛ばす。さりげなくスピラス達が生存していることを前提に語るので、クリオも少し心が軽くなった。
「そうだね、みんな困ってるだろうからオイラ達が助けにいかなきゃ!」
「ええ、明日必要な資材を揃えたらすぐに行きましょう」
次の日、インフェロの町で工事用の資材をナンディに積み込んだ一行はカプテリオに向かう。周辺のキャンプは危険なので素通りし、ドームの入口にある管理所を訪ねた。
「初回から奈落を目指すんですか? あまりおすすめはできませんが、ミスティカ様の御一行なら攻略できるかもしれませんね」
当然ながら、管理所の事務員はミスティカ達のことを知っていた。なるほど、確かに名声がプラスになることもあるようだ。無名の一行だったら面倒なやり取りをする羽目になっていただろうことは想像に難くない。何となく居心地の悪い気分をしながら、それでも報道のおかげですんなり発掘許可が降りそうだと思い事務員に笑顔を向けるミスティカだった。
「この遺構は少し変わっていまして、色々なところから小型のガーディアンが襲ってきます。くれぐれもご注意を」
「そいつは退屈しなそうだ」
不安そうな顔をするクリオとミスティカを追い立てながら、ホワイトが白い歯を見せて笑う。職員相手に弱気な態度を見せても良いことはない。格安の発掘料に喜ぶ素振りも見せて、あくまで自信があるという態度でアピールをするホワイトの姿に、クリオは頼もしいような、煩わしいような複雑な気持ちを抱いた。自分の気持ちは自分のものだ。素直な感情を表に出してはいけない世界が、なんとなく面倒に思える。
ドームの中に入ると、方舟で見たような黒っぽい光沢を放つ金属の壁に囲まれていた。地面に開いた穴から下に続く遺構の内部は、やはり謎の動力によって淡い光が各所から闇を照らし、空間の広さを見せつけてくる。
「なるほど、行ったり来たりしながら少しづつ降りていくしかないようだ」
「ナンディさん、よろしくお願いします」
ミスティカがアルマによく分からない声掛けをする。光のせいで底まで見えてしまったため、あまりの高さに肝が冷えたのだ。ナンディは優しい吠え声を上げると、安定した足場を伝って下へ降りていく。その後に続いてラタトスクが軽快な足取りで足場を飛び移ると、クリオが小さい悲鳴を上げた。
「気を付けろよ、足を踏み外したら死亡者リストに名前が載るぞ」
ラタトスクがわざと搭乗者を怖がらせているように見えたホワイトは呆れたように声をかけ、シヴァで後方を警戒しつつ足場を伝って降りた。
『さっそく敵が出ましたよ』
ラタトスクの楽しげな声が響く。すぐに周囲をレーダーで検索すると、二足歩行だが人型とはいえない、首のないダチョウのような形をした機械が多数、飛び跳ねる動作で近づいてくる。
「あれは『ゴブリン』だ! 数に任せて侵入者を排除しようとしてくるぞ」
ゴブリンという名称も、太古の地球で語られていたような生物の姿とはまるで違うものを指すようになっている。すかさずナンディの角から電撃が放たれると、最初の数機が弾けるように宙を舞って縦穴の通路を落ちていく。更に襲い掛かってくる数機が熱線のようなものを発射してラタトスクを攻撃するが、悪戯リスは踊るように回避すると反撃もせずにシヴァの後ろへ隠れる。クリオは戦闘員ではないので間違った行動ではないが、機体がラタトスクだと何故だか無性にイラつく。ホワイトはシヴァの腕から刃を出すと、攻撃してきた数機をその場で両断した。
「あまり強くはないが、とにかく数が多い。ペース配分に気を付けろ!」
「わかりました!」
ホワイトの警告を受け、ミスティカは操縦桿を握ってナンディと心を通わせるために深呼吸をする。すぐに意識が広がっていく感覚に包まれた。一度コツを掴めば難しくはないようだ。クリオは自由奔放なラタトスクの操縦桿にしがみつくので精一杯である。ちょうどミスティカが初めてナンディに乗った時と同じ状態だ。
「こんなところで苦戦している場合じゃないからな」
二人の様子を見て心配は要らなそうだと判断したホワイトは、刃を振って一気に周囲のゴブリンを斬り払った。その後ナンディとシヴァの両機が襲い来るゴブリンを蹴散らしながら進み、垂直通路から横穴のように伸びる進入口を見つけて入り込んだ。ここからしばらくは落ちる心配のない迷路を進むようだ。ゴブリンもいなくなり、ラタトスクはいつの間にかナンディとシヴァの間に入り込んでいる。
「ラタトスクさんはとても軽快な動きをするんですね」
「オイラの言うことを聞いてくれよー」
『あなたの望むままに動いていますよ』
「まあ、安全を確保してくれれば十分さ」
一行のカプテリオ探索はこうして賑やかに始まるのだった。
宿場の駐機場にクラーケンの姿が見当たらなかったので、自分達が泊る宿の主人に聞いたらすぐに話を聞けた。やはりあのアルマは相当目立つようだ。スピラスはここで多くのアーティファクトを発掘したが、一月ほど前にカプテリオへ潜ってから帰ってこないという。
「一月か……」
クリオが呟いて俯く。一月前なら、彼がエクスカベーターになってすぐメルセナリアに向かっていれば会えたはずだ。とはいえ前の中古アルマではとてもここまで旅してこれないし、旅費もなかった。方舟でミスティカに同行したからこそ、ラタトスクという性格は悪いが長旅をものともしないアルマを手に入れ、十分な旅費も得られたのだ。
「カプテリオで消息を絶つ発掘隊は後を絶たないからね。消息不明のエクスカベーターは数えきれないほどだ。ただ、死亡が確認された者もあまりいない。遺構は大昔の人間が住んでいた施設だって話だし、帰ってこれないけど脱出方法を探しているということは十分考えられるよ」
宿の主人は人の良さそうな中年女性で、探し人が遺構から帰ってこないと聞いて落ち込むクリオを励ますようにカプテリオの発掘状況を教えてくれた。ドーム状の地上部分からは垂直に近い角度で地下へ通路が伸びており、現在地下200メートル地点まではMAPが作られているらしい。直線距離では短いが、そこまで到達するのには相当に長い迷路を進まされる。垂直の通路を飛び降りればすぐに到達するだろうが、その高さを落ちて平気なアルマは存在しないのだ。確認されている死亡者の中には足を踏み外して落ちたエクスカベーターもいる。
「その200メートル地点にガーディアンでもいるのか?」
発掘の最深部は強力なガーディアンに妨げられて止まっていることが多い。だが主人は首を振った。
「あそこにはガーディアンはいないよ。大きな穴が開いていて、そこから入ったエクスカベーターは誰も戻ってきていないんだ。スピラスさん達もあの穴に挑戦するって言ってたね」
誰も帰ってこれない地下の穴。誰からともなく、その穴のことを奈落と呼ぶようになったという。
「奈落……ですか」
ミスティカが渋い顔をした。奈落という言葉は、神話言語でこの町と同じ『インフェロ』となる。何か関連があるのか、それとも単なる偶然か。カプテリオの訳から考えて、奈落の向こうにはとんでもない危険が待ち受けているに違いない。
「よーし、そんじゃ俺達もその奈落の底へ行ってみようぜ。出てこれなくなってる連中のためにハシゴでも作ってやるか」
重い空気になりつつあるところを、ホワイトが明るい声で吹き飛ばす。さりげなくスピラス達が生存していることを前提に語るので、クリオも少し心が軽くなった。
「そうだね、みんな困ってるだろうからオイラ達が助けにいかなきゃ!」
「ええ、明日必要な資材を揃えたらすぐに行きましょう」
次の日、インフェロの町で工事用の資材をナンディに積み込んだ一行はカプテリオに向かう。周辺のキャンプは危険なので素通りし、ドームの入口にある管理所を訪ねた。
「初回から奈落を目指すんですか? あまりおすすめはできませんが、ミスティカ様の御一行なら攻略できるかもしれませんね」
当然ながら、管理所の事務員はミスティカ達のことを知っていた。なるほど、確かに名声がプラスになることもあるようだ。無名の一行だったら面倒なやり取りをする羽目になっていただろうことは想像に難くない。何となく居心地の悪い気分をしながら、それでも報道のおかげですんなり発掘許可が降りそうだと思い事務員に笑顔を向けるミスティカだった。
「この遺構は少し変わっていまして、色々なところから小型のガーディアンが襲ってきます。くれぐれもご注意を」
「そいつは退屈しなそうだ」
不安そうな顔をするクリオとミスティカを追い立てながら、ホワイトが白い歯を見せて笑う。職員相手に弱気な態度を見せても良いことはない。格安の発掘料に喜ぶ素振りも見せて、あくまで自信があるという態度でアピールをするホワイトの姿に、クリオは頼もしいような、煩わしいような複雑な気持ちを抱いた。自分の気持ちは自分のものだ。素直な感情を表に出してはいけない世界が、なんとなく面倒に思える。
ドームの中に入ると、方舟で見たような黒っぽい光沢を放つ金属の壁に囲まれていた。地面に開いた穴から下に続く遺構の内部は、やはり謎の動力によって淡い光が各所から闇を照らし、空間の広さを見せつけてくる。
「なるほど、行ったり来たりしながら少しづつ降りていくしかないようだ」
「ナンディさん、よろしくお願いします」
ミスティカがアルマによく分からない声掛けをする。光のせいで底まで見えてしまったため、あまりの高さに肝が冷えたのだ。ナンディは優しい吠え声を上げると、安定した足場を伝って下へ降りていく。その後に続いてラタトスクが軽快な足取りで足場を飛び移ると、クリオが小さい悲鳴を上げた。
「気を付けろよ、足を踏み外したら死亡者リストに名前が載るぞ」
ラタトスクがわざと搭乗者を怖がらせているように見えたホワイトは呆れたように声をかけ、シヴァで後方を警戒しつつ足場を伝って降りた。
『さっそく敵が出ましたよ』
ラタトスクの楽しげな声が響く。すぐに周囲をレーダーで検索すると、二足歩行だが人型とはいえない、首のないダチョウのような形をした機械が多数、飛び跳ねる動作で近づいてくる。
「あれは『ゴブリン』だ! 数に任せて侵入者を排除しようとしてくるぞ」
ゴブリンという名称も、太古の地球で語られていたような生物の姿とはまるで違うものを指すようになっている。すかさずナンディの角から電撃が放たれると、最初の数機が弾けるように宙を舞って縦穴の通路を落ちていく。更に襲い掛かってくる数機が熱線のようなものを発射してラタトスクを攻撃するが、悪戯リスは踊るように回避すると反撃もせずにシヴァの後ろへ隠れる。クリオは戦闘員ではないので間違った行動ではないが、機体がラタトスクだと何故だか無性にイラつく。ホワイトはシヴァの腕から刃を出すと、攻撃してきた数機をその場で両断した。
「あまり強くはないが、とにかく数が多い。ペース配分に気を付けろ!」
「わかりました!」
ホワイトの警告を受け、ミスティカは操縦桿を握ってナンディと心を通わせるために深呼吸をする。すぐに意識が広がっていく感覚に包まれた。一度コツを掴めば難しくはないようだ。クリオは自由奔放なラタトスクの操縦桿にしがみつくので精一杯である。ちょうどミスティカが初めてナンディに乗った時と同じ状態だ。
「こんなところで苦戦している場合じゃないからな」
二人の様子を見て心配は要らなそうだと判断したホワイトは、刃を振って一気に周囲のゴブリンを斬り払った。その後ナンディとシヴァの両機が襲い来るゴブリンを蹴散らしながら進み、垂直通路から横穴のように伸びる進入口を見つけて入り込んだ。ここからしばらくは落ちる心配のない迷路を進むようだ。ゴブリンもいなくなり、ラタトスクはいつの間にかナンディとシヴァの間に入り込んでいる。
「ラタトスクさんはとても軽快な動きをするんですね」
「オイラの言うことを聞いてくれよー」
『あなたの望むままに動いていますよ』
「まあ、安全を確保してくれれば十分さ」
一行のカプテリオ探索はこうして賑やかに始まるのだった。