R-15
文学少女と天才ピアニスト その六
6
その後、ぼくと沙音は色々な店を見て回った。そして気が付けば時刻は昼を過ぎていた。
「もうこんな時間か、そろそろ昼食にするかい?」
「あっ、もうそんな時間なんだ……そうだね、ご飯食べよっか」
ぼくの言葉に沙音も同意するように頷く。ぼく達は飲食店を探すために歩き出したのだが、この辺りの地理には疎いので、どこにどんな店があるのかさっぱり分からない。
「沙音は何か食べたいか希望はあるか?」
適当に歩いても時間が過ぎるだけなので、ぼくは沙音にそう聞いてみた。
「う~ん……そうだな~……」
沙音はそう呟きながら考え込んでいる。少しして、彼女は何かを思いついたのかハッとした表情をしてぼくを見る。
「あっ!! そうだ、ハンバーガーが食べたくなった!!」
「ハンバーガーか……この辺で食べられるところはあるのかい?」
「ん~……ちょっと待って……駅の近くにバーガーショップがあったはず」
沙音はそう言ってスマホを取り出すと検索を始める。そして目的の店を見つけたようでぼくのほうへと顔を向ける。
「ここから近いみたいだし、ここにしようよ」
「了解、案内を頼むよ」
「まっかせて!!」
沙音は嬉しそうに笑って先導するように歩き始めた。そんな沙音の後に続いてぼくも歩き出す。
しかし、お嬢様でもハンバーガーを食べるものなのか。意外と庶民的というか、沙音らしいなと思う。
「あっ……サヨサヨ、あーしがハンバーガー食べるのが意外って思っているっしょ」
どうやらぼくが思っていたことが顔に出ていたらしい。
「ああ、失礼かもしれないけど、君はお嬢様だからハンバーガーとかジャンクフードはあまり食べないと思っていたよ」
ぼくが素直にそう言うと沙音は苦笑しつつ答える。
「あーしも普段はあんまり食べないけど、ハンバーガーとかってたまに無性に食べたくなるじゃん?」
「なるほどね……」
確かにたまにジャンクフードが食べたくなることはあるなとぼくも納得する。
「まあ、今日はサヨサヨが一緒だから、サヨサヨの言い方風に女子高生らしいお昼ご飯って感じっしょ」
沙音はニッと笑いながらそう言った。ぼくはそんな彼女の言葉に苦笑する。
「どちらかと言えば男子らしいお昼ご飯だと思うんだけど」
「え~、そんなことないっしょ」
ぼくの言葉に沙音は不満そうな表情を浮かべる。
「まっ、今はハンバーガーの気分だし、そんなことはどうでもいいっしょ」
「そうだね、ぼくも君とのランチデートがとても楽しいよ」
ぼくが微笑みながらそう言うと、沙音は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに照れくさそうにそっぽを向く。そして彼女は小さな声で呟いた。
「……そういうのサヨサヨに言われると、なんか照れるし……」
「ぼくは素直な気持ちを伝えただけだよ」
「まったく……そういうところはズルいよ、サヨサヨ」
沙音はジト目でぼくを睨んでくる。しかし本気で怒っていないことは分かっているので、ぼくはただニッコリと微笑み返す。
「む~……ムカつく!!」
沙音は頰を膨らませてそっぽを向きながらスタスタと歩き出す。そんな彼女の様子を見てぼくは思わず微笑んだあと、彼女の後を追うのだった。
それからすぐに機嫌を直した沙音と歩きながら他愛ない話をしていく。
そんな風に歩いていると、突然ぼくたちに声をかけてくる者がいた。
「ねぇ、彼女たち~、可愛いね? よかったら俺たちと一緒に遊ばない?」
声をした方を見るとチャラそうな男が二人、ぼくたちのほうを見ていた。
「フフフ、お世辞でもありがとうございます」
さっきまでとは打って変わって沙音は何処か気品溢れる話し方をする。そんな彼女を見た男たちは一瞬呆けたような表情を浮かべるが、すぐに我に返って笑みを浮かべる。
「いやいや、マジ可愛いよ!!」
「それに一緒にいる子も顔はそっくりだし……あれ? 君たちどっかで見たことあるような?」
男の一人がぼくたちの顔を見て何かに気づいたように言った。しかし、生憎ぼくはこの男に見覚えはなかった。
「君たちってモデルとかやっている?」
「いえ、ぼくたちはただの高校生ですよ」
ぼくはニッコリと微笑みながらそう答える。確かにぼくたちはモデルをやっているわけではないので嘘は言っていない。
「ぼくっ子……いい!! もう一人もお嬢様っぽい雰囲気!!」
「そうそう、この子たち、かなりレベル高くない?」
「それにやっぱり芸能人の誰かにスゲー似てるような?」
男たちはそう言いながらぼくたちの顔を覗き込んでくる。正直、あまり良い気はしないな。
「せっかくのお誘いは嬉しいのですが、すみません、私たちこれから用事があるので」
沙音は綺麗なお辞儀をしながらそう答えた。その振る舞いはまさにお嬢様のそれだ。
「そうなんですよ、ぼくたちこれからデートなんです」
ぼくも沙音に便乗してニコッと微笑みながらそう言った。
「え~ホントに~? 俺らを撒くためにウソついてない?」
男の一人は疑うような眼差しでぼくたちを見る。どうやらぼくたちの言ったことは信じてもらえないらしい。
実際はウソなのだから仕方ない。さて、どうしたものかと考えていると、街を歩く通行人の中で見覚えがある人物が通りかかる。
その人物は歩きながらこの状況をチラッと見ると、ぼくと目が合う。そして彼は歩みを止めると、ぼくはチャンスとばかりに行動を起こした。
「あっ~!! 竜也く~ん、おそっい~、ぼくめっちゃ待ってたんだからね」
ぼくはわざとらしく甘ったるい声で彼の名を呼び、彼に駆け寄る。いきなりの行動に沙音や男達だけでなく、当の天道さんも驚いた表情を浮かべていた。
そしてぼくは彼の腕に抱きつき、上目遣いで天道さんを見る。
「ちょっ……本郷、なんだよ急に……」
天道さんは一瞬困惑するので彼の耳元で囁いて事情を説明した。
「ちょっとナンパされて困っていてね」
「えっ!? あっ……あぁ!!」
ぼくの言葉で天道さんはやっと状況を理解したようだ。そしてぼくは沙音のほうを見ると目で合図を送る。すると沙音は頷くと男達のほうに向き直り口を開いた。
「ごめんなさい、この通り私たち彼氏持ちなので他を当たって下さい」
「だから、そういうことなんで、ナンパなら他所でお願いします」
沙音の言葉の後に天道さんもそう言った。そしてぼくと天道さんは男達に背を向けて歩き出す。沙音も男たちに頭を下げてから同じようにスタスタと歩いていった。すると男達は追ってくる気配はなかった。どうやら諦めて去ってくれたらしい。
「ふぅ~……何とか撒けたみたいだね……」
「そうだな……その……もう良いんじゃないか」
天道さんは恥ずかしそうに頰を赤く染めながらぼくから目を逸らす。そんな彼の様子を見て、ぼくは彼に抱きつきながら上目遣いで彼を見つめる。
「ん~? どうしてかな?」
「……分かってて言ってるだろ」
天道さんはぼくの言葉にますます顔を赤くする。
「フフフ、助けてもらったお礼とでも受け取ってくれたまえ」
「いや、それはそれで困るんだが……あと、さっきから当たってるんだが……」
天道さんは言いにくそうに呟く。まあ、ぼくの胸のことなんだろうけど。
「ん~? 胸のことかな?」
ぼくがそう言うと彼は気まずそうな表情をする。流石にこれはぼくが悪かったなと思い、ぼくは彼から離れる。その様子を見て天道さんはホッとしたような表情を浮かべた。すると、ちょうど沙音もこちらにやってきた。
「あっ、サヨサヨも大丈夫だった?」
「まあね」
ぼく達はお互いに頷き合うと、沙音が突然何かを思い出したようにぼくを見る。
「てか、あーしたちナンパされちゃったよ!!」
沙音は楽しそうに笑いながらそう言った。そういえば彼女ナンパされるのは嬉しいみたいなこと言っていたな。
「まあ、美少女が二人も歩いていればね……」
ぼくは少し呆れながら沙音の言葉に応える。天道さんも呆れた表情をしていた。
「そういえば、同じクラスの天道だよね、さっきはありがとう」
沙音は天道さんに気付いて向き直ると、先程のお礼を改めて言った。
「いや……俺はまたまた通りがかっただけだから礼を言われる筋合いは……」
天道さんは照れくさそうに頰を指で搔いた。そんな様子を見て沙音はニヤニヤと笑みを浮かべる。
「な~に、照れちゃってるの? 可愛いじゃん」
「か、からかうな!!」
沙音の言葉に天道さんは顔を赤くする。そんな彼の反応が楽しいのか、沙音はニヤニヤしながら彼を弄っている。
「まあまあ、そんなことよりも二人って知り合いだったん? めっちゃ良い感じ話してたし?」
沙音は天道さんとぼくを見ながらそう言う。どうやらさっきの会話を聞かれていたらしい。ぼくは恥ずかしそうに視線を逸らすと、沙音は何かに気付いたような笑みを浮かべながら口を開く。
「もしかして……サヨサヨの彼氏!! まさか、サヨサヨにこんなイケメンの彼氏がいたなんて……」
そんな沙音の言葉に天道さんは再び頰を赤らめた。
「ばっ……彼氏じゃないって!! ただの中学の──」
「ぼくたちは幼馴染みだからね、だから彼氏ではないよ」
ぼくは天道さんの言葉に重ねるようにそう言った。ぼくの言葉に天道さんはどこか嫌そうな顔を浮かべていたが、沙音は不満そうな表情を浮かべる。
「え~、彼氏じゃないの? てっきりそうだと思ったんだけど……」
「まあ、彼のことは嫌いじゃないが……」
ぼくはそう言って微笑むと天道さんのほうを見る。ぼくの言葉を聞いた途端沙音はニヤニヤと嬉しそうな笑みを浮かべた。そして天道さんはぼくから視線を外すように顔を横に向ける。
「ふ~ん、サヨサヨは満更でもない感じなんだ~」
沙音はぼくのほうをニヤニヤしながら見るので、ぼくは思わず苦笑した。そして沙音は天道さんのほうへ顔を向けると口を開いた。
「サヨサヨとの関係はともかく、助けてもらったのは事実だし、何かお礼したいな」
沙音は笑顔でそう提案するが、天道さんは手を左右に振って遠慮する。
「いやいや、別にお礼なんていいぞ、ただの通りすがりだし……」
「まあまあまあ、そんなこと言わずに何かさせてよ~」
そんなやり取りを沙音と天道さんはしていた。すると沙音が何かを閃いたかのような表情を浮かべたあと、すぐに口を開いた。
「あっ!! そうだ……天道ってお昼はまだ食べてない?」
沙音は思い出したかのようにそう尋ねる。天道さんは少し考えてから答える。
「いや……まだだけど……」
「そうなんだ!! 良かった!!」
沙音は嬉しそうに手を合わせると、言葉を続ける。
「だったら一緒にお昼食べない? あーしたち今からお昼にしようとしてたんだ~」
「まあ、それは構わないが……」
天道さんは少し戸惑ったような表情で頷く。
「じゃあ、決まり!! サヨサヨはそれで良い?」
「ぼくは沙音と天道さんさえ良ければ構わないよ」
ぼくの言葉を聞いた沙音は笑顔で頷き、再び天道さんのほうを見る。
「じゃあ決定だね!! ってことで……あーしたちはハンバーガー食べるつもりだけど天道もそれでいい?」
「俺は別に構わないが……本郷はいいのか? 俺が一緒で」
天道さんは少し心配そうにぼくを見る。
「ぼくは別に構わないよ、むしろ助けられた礼にお昼を奢らせてくれないかな?」
ぼくはそう言って微笑む。
「いや……奢るって……」
天道さんは戸惑いの表情を見せるが、ぼくはそんな天道さんの様子など気にもせず話を続ける。
「まあ、天道さんに借りを作るのは良いが、借りを作られるのはぼく的には癪だからね」
「お前……俺に何させようとしているんだよ……」
「さあ? なにかな?」
ぼくがそう言うと天道さんは苦笑する。そして沙音もぼくの言葉に笑っている。
「アハハ、ホント、二人とも仲良いじゃん」
「まあ……一応……幼馴染みだしな」
天道さんがそう言うと、沙音は何かを察したような表情をしたあと、ニヤリと笑った。
「ふ~ん……そっか~」
そして沙音は意味深な笑みを浮かべると天道さんのほうを見る。その視線に気付いた天道さんはバツの悪そうな表情を浮かべるのだった。
その後、ぼくと沙音は色々な店を見て回った。そして気が付けば時刻は昼を過ぎていた。
「もうこんな時間か、そろそろ昼食にするかい?」
「あっ、もうそんな時間なんだ……そうだね、ご飯食べよっか」
ぼくの言葉に沙音も同意するように頷く。ぼく達は飲食店を探すために歩き出したのだが、この辺りの地理には疎いので、どこにどんな店があるのかさっぱり分からない。
「沙音は何か食べたいか希望はあるか?」
適当に歩いても時間が過ぎるだけなので、ぼくは沙音にそう聞いてみた。
「う~ん……そうだな~……」
沙音はそう呟きながら考え込んでいる。少しして、彼女は何かを思いついたのかハッとした表情をしてぼくを見る。
「あっ!! そうだ、ハンバーガーが食べたくなった!!」
「ハンバーガーか……この辺で食べられるところはあるのかい?」
「ん~……ちょっと待って……駅の近くにバーガーショップがあったはず」
沙音はそう言ってスマホを取り出すと検索を始める。そして目的の店を見つけたようでぼくのほうへと顔を向ける。
「ここから近いみたいだし、ここにしようよ」
「了解、案内を頼むよ」
「まっかせて!!」
沙音は嬉しそうに笑って先導するように歩き始めた。そんな沙音の後に続いてぼくも歩き出す。
しかし、お嬢様でもハンバーガーを食べるものなのか。意外と庶民的というか、沙音らしいなと思う。
「あっ……サヨサヨ、あーしがハンバーガー食べるのが意外って思っているっしょ」
どうやらぼくが思っていたことが顔に出ていたらしい。
「ああ、失礼かもしれないけど、君はお嬢様だからハンバーガーとかジャンクフードはあまり食べないと思っていたよ」
ぼくが素直にそう言うと沙音は苦笑しつつ答える。
「あーしも普段はあんまり食べないけど、ハンバーガーとかってたまに無性に食べたくなるじゃん?」
「なるほどね……」
確かにたまにジャンクフードが食べたくなることはあるなとぼくも納得する。
「まあ、今日はサヨサヨが一緒だから、サヨサヨの言い方風に女子高生らしいお昼ご飯って感じっしょ」
沙音はニッと笑いながらそう言った。ぼくはそんな彼女の言葉に苦笑する。
「どちらかと言えば男子らしいお昼ご飯だと思うんだけど」
「え~、そんなことないっしょ」
ぼくの言葉に沙音は不満そうな表情を浮かべる。
「まっ、今はハンバーガーの気分だし、そんなことはどうでもいいっしょ」
「そうだね、ぼくも君とのランチデートがとても楽しいよ」
ぼくが微笑みながらそう言うと、沙音は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに照れくさそうにそっぽを向く。そして彼女は小さな声で呟いた。
「……そういうのサヨサヨに言われると、なんか照れるし……」
「ぼくは素直な気持ちを伝えただけだよ」
「まったく……そういうところはズルいよ、サヨサヨ」
沙音はジト目でぼくを睨んでくる。しかし本気で怒っていないことは分かっているので、ぼくはただニッコリと微笑み返す。
「む~……ムカつく!!」
沙音は頰を膨らませてそっぽを向きながらスタスタと歩き出す。そんな彼女の様子を見てぼくは思わず微笑んだあと、彼女の後を追うのだった。
それからすぐに機嫌を直した沙音と歩きながら他愛ない話をしていく。
そんな風に歩いていると、突然ぼくたちに声をかけてくる者がいた。
「ねぇ、彼女たち~、可愛いね? よかったら俺たちと一緒に遊ばない?」
声をした方を見るとチャラそうな男が二人、ぼくたちのほうを見ていた。
「フフフ、お世辞でもありがとうございます」
さっきまでとは打って変わって沙音は何処か気品溢れる話し方をする。そんな彼女を見た男たちは一瞬呆けたような表情を浮かべるが、すぐに我に返って笑みを浮かべる。
「いやいや、マジ可愛いよ!!」
「それに一緒にいる子も顔はそっくりだし……あれ? 君たちどっかで見たことあるような?」
男の一人がぼくたちの顔を見て何かに気づいたように言った。しかし、生憎ぼくはこの男に見覚えはなかった。
「君たちってモデルとかやっている?」
「いえ、ぼくたちはただの高校生ですよ」
ぼくはニッコリと微笑みながらそう答える。確かにぼくたちはモデルをやっているわけではないので嘘は言っていない。
「ぼくっ子……いい!! もう一人もお嬢様っぽい雰囲気!!」
「そうそう、この子たち、かなりレベル高くない?」
「それにやっぱり芸能人の誰かにスゲー似てるような?」
男たちはそう言いながらぼくたちの顔を覗き込んでくる。正直、あまり良い気はしないな。
「せっかくのお誘いは嬉しいのですが、すみません、私たちこれから用事があるので」
沙音は綺麗なお辞儀をしながらそう答えた。その振る舞いはまさにお嬢様のそれだ。
「そうなんですよ、ぼくたちこれからデートなんです」
ぼくも沙音に便乗してニコッと微笑みながらそう言った。
「え~ホントに~? 俺らを撒くためにウソついてない?」
男の一人は疑うような眼差しでぼくたちを見る。どうやらぼくたちの言ったことは信じてもらえないらしい。
実際はウソなのだから仕方ない。さて、どうしたものかと考えていると、街を歩く通行人の中で見覚えがある人物が通りかかる。
その人物は歩きながらこの状況をチラッと見ると、ぼくと目が合う。そして彼は歩みを止めると、ぼくはチャンスとばかりに行動を起こした。
「あっ~!! 竜也く~ん、おそっい~、ぼくめっちゃ待ってたんだからね」
ぼくはわざとらしく甘ったるい声で彼の名を呼び、彼に駆け寄る。いきなりの行動に沙音や男達だけでなく、当の天道さんも驚いた表情を浮かべていた。
そしてぼくは彼の腕に抱きつき、上目遣いで天道さんを見る。
「ちょっ……本郷、なんだよ急に……」
天道さんは一瞬困惑するので彼の耳元で囁いて事情を説明した。
「ちょっとナンパされて困っていてね」
「えっ!? あっ……あぁ!!」
ぼくの言葉で天道さんはやっと状況を理解したようだ。そしてぼくは沙音のほうを見ると目で合図を送る。すると沙音は頷くと男達のほうに向き直り口を開いた。
「ごめんなさい、この通り私たち彼氏持ちなので他を当たって下さい」
「だから、そういうことなんで、ナンパなら他所でお願いします」
沙音の言葉の後に天道さんもそう言った。そしてぼくと天道さんは男達に背を向けて歩き出す。沙音も男たちに頭を下げてから同じようにスタスタと歩いていった。すると男達は追ってくる気配はなかった。どうやら諦めて去ってくれたらしい。
「ふぅ~……何とか撒けたみたいだね……」
「そうだな……その……もう良いんじゃないか」
天道さんは恥ずかしそうに頰を赤く染めながらぼくから目を逸らす。そんな彼の様子を見て、ぼくは彼に抱きつきながら上目遣いで彼を見つめる。
「ん~? どうしてかな?」
「……分かってて言ってるだろ」
天道さんはぼくの言葉にますます顔を赤くする。
「フフフ、助けてもらったお礼とでも受け取ってくれたまえ」
「いや、それはそれで困るんだが……あと、さっきから当たってるんだが……」
天道さんは言いにくそうに呟く。まあ、ぼくの胸のことなんだろうけど。
「ん~? 胸のことかな?」
ぼくがそう言うと彼は気まずそうな表情をする。流石にこれはぼくが悪かったなと思い、ぼくは彼から離れる。その様子を見て天道さんはホッとしたような表情を浮かべた。すると、ちょうど沙音もこちらにやってきた。
「あっ、サヨサヨも大丈夫だった?」
「まあね」
ぼく達はお互いに頷き合うと、沙音が突然何かを思い出したようにぼくを見る。
「てか、あーしたちナンパされちゃったよ!!」
沙音は楽しそうに笑いながらそう言った。そういえば彼女ナンパされるのは嬉しいみたいなこと言っていたな。
「まあ、美少女が二人も歩いていればね……」
ぼくは少し呆れながら沙音の言葉に応える。天道さんも呆れた表情をしていた。
「そういえば、同じクラスの天道だよね、さっきはありがとう」
沙音は天道さんに気付いて向き直ると、先程のお礼を改めて言った。
「いや……俺はまたまた通りがかっただけだから礼を言われる筋合いは……」
天道さんは照れくさそうに頰を指で搔いた。そんな様子を見て沙音はニヤニヤと笑みを浮かべる。
「な~に、照れちゃってるの? 可愛いじゃん」
「か、からかうな!!」
沙音の言葉に天道さんは顔を赤くする。そんな彼の反応が楽しいのか、沙音はニヤニヤしながら彼を弄っている。
「まあまあ、そんなことよりも二人って知り合いだったん? めっちゃ良い感じ話してたし?」
沙音は天道さんとぼくを見ながらそう言う。どうやらさっきの会話を聞かれていたらしい。ぼくは恥ずかしそうに視線を逸らすと、沙音は何かに気付いたような笑みを浮かべながら口を開く。
「もしかして……サヨサヨの彼氏!! まさか、サヨサヨにこんなイケメンの彼氏がいたなんて……」
そんな沙音の言葉に天道さんは再び頰を赤らめた。
「ばっ……彼氏じゃないって!! ただの中学の──」
「ぼくたちは幼馴染みだからね、だから彼氏ではないよ」
ぼくは天道さんの言葉に重ねるようにそう言った。ぼくの言葉に天道さんはどこか嫌そうな顔を浮かべていたが、沙音は不満そうな表情を浮かべる。
「え~、彼氏じゃないの? てっきりそうだと思ったんだけど……」
「まあ、彼のことは嫌いじゃないが……」
ぼくはそう言って微笑むと天道さんのほうを見る。ぼくの言葉を聞いた途端沙音はニヤニヤと嬉しそうな笑みを浮かべた。そして天道さんはぼくから視線を外すように顔を横に向ける。
「ふ~ん、サヨサヨは満更でもない感じなんだ~」
沙音はぼくのほうをニヤニヤしながら見るので、ぼくは思わず苦笑した。そして沙音は天道さんのほうへ顔を向けると口を開いた。
「サヨサヨとの関係はともかく、助けてもらったのは事実だし、何かお礼したいな」
沙音は笑顔でそう提案するが、天道さんは手を左右に振って遠慮する。
「いやいや、別にお礼なんていいぞ、ただの通りすがりだし……」
「まあまあまあ、そんなこと言わずに何かさせてよ~」
そんなやり取りを沙音と天道さんはしていた。すると沙音が何かを閃いたかのような表情を浮かべたあと、すぐに口を開いた。
「あっ!! そうだ……天道ってお昼はまだ食べてない?」
沙音は思い出したかのようにそう尋ねる。天道さんは少し考えてから答える。
「いや……まだだけど……」
「そうなんだ!! 良かった!!」
沙音は嬉しそうに手を合わせると、言葉を続ける。
「だったら一緒にお昼食べない? あーしたち今からお昼にしようとしてたんだ~」
「まあ、それは構わないが……」
天道さんは少し戸惑ったような表情で頷く。
「じゃあ、決まり!! サヨサヨはそれで良い?」
「ぼくは沙音と天道さんさえ良ければ構わないよ」
ぼくの言葉を聞いた沙音は笑顔で頷き、再び天道さんのほうを見る。
「じゃあ決定だね!! ってことで……あーしたちはハンバーガー食べるつもりだけど天道もそれでいい?」
「俺は別に構わないが……本郷はいいのか? 俺が一緒で」
天道さんは少し心配そうにぼくを見る。
「ぼくは別に構わないよ、むしろ助けられた礼にお昼を奢らせてくれないかな?」
ぼくはそう言って微笑む。
「いや……奢るって……」
天道さんは戸惑いの表情を見せるが、ぼくはそんな天道さんの様子など気にもせず話を続ける。
「まあ、天道さんに借りを作るのは良いが、借りを作られるのはぼく的には癪だからね」
「お前……俺に何させようとしているんだよ……」
「さあ? なにかな?」
ぼくがそう言うと天道さんは苦笑する。そして沙音もぼくの言葉に笑っている。
「アハハ、ホント、二人とも仲良いじゃん」
「まあ……一応……幼馴染みだしな」
天道さんがそう言うと、沙音は何かを察したような表情をしたあと、ニヤリと笑った。
「ふ~ん……そっか~」
そして沙音は意味深な笑みを浮かべると天道さんのほうを見る。その視線に気付いた天道さんはバツの悪そうな表情を浮かべるのだった。