残酷な描写あり
R-15
~忍者の噂~
序章~忍者の噂~
「遂に出たんだよ、この街にも! 忍者が出たんだよ!」
余計な仕事だな。とは言え、相手が警官となると無視する訳にもいかない。
「忍者って、最近ネットとかでよく噂になっている奴ですか? 確かにそれっぽい画像や動画見ますけど、眉唾じゃないですか?」
人気の少ない窪んだ駐輪所の階段に、先輩警官と後輩警官が腰掛けながら、ちょっとした職務放棄と言ったところか。
此処は物騒な歓楽街だ。日も暮れてきて、ボチボチ人で溢れ返る時間帯だけに、警官達の装備も重々しい。
調べたみたところ、この二人はこの歓楽街の最寄りの派出所勤務のようだ。同じの職場の人間とは言え他言は望ましくないな。
「この目で見たんだよ! あれは間違いなく忍者だったんだよ!」
興奮した口調で話しながら、先輩警官は手慣れた感じで手際良くジョイントを作っていく。呆れたものだ。曲りなりにも警察官だというのに。その光景に何一つ反応しない後輩警官の様子を伺う限り、こいつも常習犯だな。
ライターで炙られたジョイントから漂う香ばしい草臭さがここにも届く。今や日本警察の権威は地の底にまで堕ちた。――正義には程遠い。
とは言え、治安維持に務める組織は必要だ。何処の地域も壊れた法律を基準にしつつ、警察組織は辛うじて機能していた。
「一昨日の話だけど、巡回してた時に、ホント偶然だったんだけど、雑ビルと居酒屋の間の裏路地から聞こえた小さな物音が気になってよ、様子を見に路地の奥の方に入ったら……」
ジョイントを咥えたまま、両手をパンッと合唱して見せる。
「正に鉢合わせってヤツさ、距離にして五メートルそこら! 薄暗かったが確実に睨まれてたぜ」
後輩警官にジョイントが回す。控え目に吸い込み、深く押し込んで余韻を楽しんでいる。
一応、立場が近しいだけに、この警官共の堕落振りには腹が立つ――告発してくれようか。
「全身黒ずくめでよ、マスクして頭巾と言うよりはフードっぽかったな」
よく覚えてるよ。口を開けて馬鹿面したお前の顔をな。
「顔は見えなかった。マスクとバイザーかなんかしてて、目は怪しく緑色に光ってやがった」
時代と共に臨機応変に変化してきた。太平の世ならば、忍び装束もマスクも不要だ。そして混沌とした今の時代では最新鋭のデバイスだって活用する。
今の世ほど、忍者が業を磨き、活性化してる時代はなかったと言えるだろう。それだけこの国はかつてない程に崩壊している。
「それで、どうなったんですか?」
「壁を蹴り上げて、パイプやらなんやら、掴めたり足場になそうところをどんどん上って行って、行き止まりを乗り越えていった。あっという間だったな」
「確かに忍者って感じですね。この街も益々物騒になってきてるなぁ。たまにインターネットで騒がれる忍者の動画みたいですね」
いい兆候だ、インターネットと言う言葉だけで、この先輩警官に話は――その程度にまで落ちる。
忍者を見た。そんな噂は携帯端末のカメラ、街頭の防犯やドローンのカメラに溢れている。忍ぶには限界があった。
故に敢えて放置する方針を取り。少しばかり監視しておくのだ。以外にこの手段は有効である。――インターネットは胡散臭い。
「噂じゃ忍者ってのはデカイ企業や政治家なんかが雇い主になっているって言う、陰謀論的な噂もあるじゃねぇか。こんな北側に需要があるのかね?」
「日本中無法状態ですからねぇ。自分等も、なんでこんなご時世に警察やってんのか、分かんなくなりますよ」
再び回ってきたジョイントを後輩警官が吸い込み、煙を真上にふわりと吐き出している。忍者の雇い主か。
現状、警察も含めて形ばかりの政府機関の意向などはお構いなしに、国外の企業がシノギを削りあい、反社会的な組織が幅を利かせている。本来、国として機能していれば許される事ではない。しかし、その様な勝手をした者のみが生き残れるのが日本の現状だ。
国や法律に頼る者から消えていく。自己責任の名の元に自律して行動してきた事で、この国の人達はなんとか消えずに済んでいる。そして我等は――そんな人々の為に現代に蘇った。
伝承されてきた知恵と業を、遺憾無く発揮する為の体制を整えて、この国の混沌を断つ為に。
「警察なんかで世の中どうにかなるもんじゃねぇだろ。給料分働いて、たまに職権で美味しく頂いとくのさ」
この様子なら忍者の話が膨らむ心配はなさそうだ。ろくでもない連中だが、良しとしておこう。
この街の警察官なら、これぐらいが丁度良いのだろうか。東北エリアでも最大を誇る、この大歓楽街、輝紫桜町(キシオウチョウ)なら。
欲望と堕落にまみれたこの街は嫌いだ。雑多で猥雑なネオンの煌めきが止まないその雰囲気に紛れる犯罪組織の温床。警察も行政機関も放置せざるを得ない厄介な街だ。
「うわぁ、引くわぁ……悪徳警官だね」
唐突に上から発せられた男の声に警官二人にびくりと衝撃が走った。
「お巡りさんがこんな所でおサボりしてていいの? しかもそれダメな奴じゃん」
警官共に気を取られて割り込んできた気配に気付けなかった。見上げて見ると、柵に両腕を置きながらこちらを見下ろす男がいた。
長くボリュームのある七三分けの黒髪にははビビットピンクのウィッグを絡めていて、黒とピンクのスカジャンをわざとらしくはだけさせて肩を露出させていた。輝紫桜町の男娼と言う風体だ。
「今時、こんなもん限りなく白なグレーじゃねぇか。それよりもお前の持ってるヤツの方がよっぽどアウトだからな」
「さぁて、何の事やら……。身体検査でもしてみるかい? 優しくしてよね」
柵にもたれてスカジャンを更にはだけさて見せる。女物のトップスだろうか、肩どころか背中まで大きく露出している。中性的な顔立ちのその表情は、常にこちらを小馬鹿にしている様な不敵な笑みを浮かべていて気色悪い。
「ったく、何時から聞いてたんだ?」
「忍者がどうのこうのって話から。おもしろそうな話だね」
大分、最初の方から聞いていたらしい。上の方など気にもしていなかったが、それにしても盗み聞きをしてながら、この馴れ馴れしい態度。まったく鬱陶しい。
この歓楽街では嫌でもこう言う人種が視界に入ってくるがとにかく嫌だった。色々あるのかも知れないが、それでも嫌悪感の方が勝るな。
「お前には関係ない話だ! 向こうに行けよ、ホモ野郎」
こちらの思いに重なる様に後輩警官が対弁してくれる。周りの空気が沈黙で少し重々しくなった。
背を向ける男娼の左目はカラーコンタクトか義眼なのか、ほぼ暗紫色の眼球に赤い瞳孔。その目が後輩警官と睨み合っているが、表情は意外にも柔らかく、こいつ何言ってんだろと言った調子できょとんとしていた。
「俺ホモじゃないし」
どの口が言っているのだ。金の為とは言え、想像したくもないが、男に抱かれている奴がホモではないと、意味が分からん。
「おいおい、良くない言い方だぞ。勘弁してやれよ」
意外にも先輩警官がこの男娼を庇った。そうなってしまっては、こちらからはもう何も言う事はなかった。でもだ、だってだと、こんなのにムキになって反論する事もあるまい。
「そうそう、クソみたいな口の利き方は良くないよ、おつむの程度がバレるぜベイビー」
勝ち誇ったの様な鼻持ちならない笑みを浮かべながら、根元まで吸い尽くした煙草をこちらにはらりと投げ捨てた。
「忍者捕まえたら教えてね、紺ちゃん」
中指を立てながら男娼がネオンの灯りが乱れ飛ぶ通りの方へ去っていく。女々しい仕草の男にはウンザリさせられる。
「ったく、何なんスか? アイツは」
「伊藤ちゃんよぉ、お前はこの辺来たばかりだから知らないだろうけど、アイツはあれでいいんだよ……意外とイイ男なんだぜ」
先輩警官は笑いながら吸い終えたジョイントを地面へ磨り潰した。いやにあの男娼の肩を持っているが、ソッチの趣味でも持っているのだろうか。こんな不埒に街に長くもいれば性癖も歪むか。
後輩警官は怪訝な顔のまま先輩警官の後を付いて二人が去って行く。やれやれ、無駄足だったか。
物陰に紛れる黒地の布を畳み“隠れ身”を解除する。気配を消し去る事が出来れば、単純な手段でも有効に忍べる。そんなものだ。
雑居ビルと雑居ビルとの小さな隙間、一気に駆け上って地上から離れる。足がかけられる場所が数か所あれば、十五メートルそこらの高さは簡単に駆け上れる。
四階建ての屋上、換気ダクトは轟音を立て、美味そうな匂いを噴き出している。東北最大級の大歓楽街、輝紫桜町の大通りを睨み、慢性的に頭に過る、行く末を憂う。
ウイルスパンデミックによる経済破綻と、大震災によって崩壊した首都を皮切りに日本が分断して半世紀以上が過ぎてしまった。その中でも取り分けこの地、東北旧六県を解体、再編成された“六連合特別自治区”は厄介な事になっていた。
だからこそ、この俺が派遣されたのだ。我等は常に存在し続けている。動乱、戦乱、泰平であっても必要悪の如く生き永らえて来た。長い歴史を以てしても、これほど混沌に落ちぶれた時代は、この島国にはない。
この地がまだ日本であるのなら、我等忍者の領分。皮肉にも、陰の我等は栄の時を迎えていた。――それも悪くなかろう。
「遂に出たんだよ、この街にも! 忍者が出たんだよ!」
余計な仕事だな。とは言え、相手が警官となると無視する訳にもいかない。
「忍者って、最近ネットとかでよく噂になっている奴ですか? 確かにそれっぽい画像や動画見ますけど、眉唾じゃないですか?」
人気の少ない窪んだ駐輪所の階段に、先輩警官と後輩警官が腰掛けながら、ちょっとした職務放棄と言ったところか。
此処は物騒な歓楽街だ。日も暮れてきて、ボチボチ人で溢れ返る時間帯だけに、警官達の装備も重々しい。
調べたみたところ、この二人はこの歓楽街の最寄りの派出所勤務のようだ。同じの職場の人間とは言え他言は望ましくないな。
「この目で見たんだよ! あれは間違いなく忍者だったんだよ!」
興奮した口調で話しながら、先輩警官は手慣れた感じで手際良くジョイントを作っていく。呆れたものだ。曲りなりにも警察官だというのに。その光景に何一つ反応しない後輩警官の様子を伺う限り、こいつも常習犯だな。
ライターで炙られたジョイントから漂う香ばしい草臭さがここにも届く。今や日本警察の権威は地の底にまで堕ちた。――正義には程遠い。
とは言え、治安維持に務める組織は必要だ。何処の地域も壊れた法律を基準にしつつ、警察組織は辛うじて機能していた。
「一昨日の話だけど、巡回してた時に、ホント偶然だったんだけど、雑ビルと居酒屋の間の裏路地から聞こえた小さな物音が気になってよ、様子を見に路地の奥の方に入ったら……」
ジョイントを咥えたまま、両手をパンッと合唱して見せる。
「正に鉢合わせってヤツさ、距離にして五メートルそこら! 薄暗かったが確実に睨まれてたぜ」
後輩警官にジョイントが回す。控え目に吸い込み、深く押し込んで余韻を楽しんでいる。
一応、立場が近しいだけに、この警官共の堕落振りには腹が立つ――告発してくれようか。
「全身黒ずくめでよ、マスクして頭巾と言うよりはフードっぽかったな」
よく覚えてるよ。口を開けて馬鹿面したお前の顔をな。
「顔は見えなかった。マスクとバイザーかなんかしてて、目は怪しく緑色に光ってやがった」
時代と共に臨機応変に変化してきた。太平の世ならば、忍び装束もマスクも不要だ。そして混沌とした今の時代では最新鋭のデバイスだって活用する。
今の世ほど、忍者が業を磨き、活性化してる時代はなかったと言えるだろう。それだけこの国はかつてない程に崩壊している。
「それで、どうなったんですか?」
「壁を蹴り上げて、パイプやらなんやら、掴めたり足場になそうところをどんどん上って行って、行き止まりを乗り越えていった。あっという間だったな」
「確かに忍者って感じですね。この街も益々物騒になってきてるなぁ。たまにインターネットで騒がれる忍者の動画みたいですね」
いい兆候だ、インターネットと言う言葉だけで、この先輩警官に話は――その程度にまで落ちる。
忍者を見た。そんな噂は携帯端末のカメラ、街頭の防犯やドローンのカメラに溢れている。忍ぶには限界があった。
故に敢えて放置する方針を取り。少しばかり監視しておくのだ。以外にこの手段は有効である。――インターネットは胡散臭い。
「噂じゃ忍者ってのはデカイ企業や政治家なんかが雇い主になっているって言う、陰謀論的な噂もあるじゃねぇか。こんな北側に需要があるのかね?」
「日本中無法状態ですからねぇ。自分等も、なんでこんなご時世に警察やってんのか、分かんなくなりますよ」
再び回ってきたジョイントを後輩警官が吸い込み、煙を真上にふわりと吐き出している。忍者の雇い主か。
現状、警察も含めて形ばかりの政府機関の意向などはお構いなしに、国外の企業がシノギを削りあい、反社会的な組織が幅を利かせている。本来、国として機能していれば許される事ではない。しかし、その様な勝手をした者のみが生き残れるのが日本の現状だ。
国や法律に頼る者から消えていく。自己責任の名の元に自律して行動してきた事で、この国の人達はなんとか消えずに済んでいる。そして我等は――そんな人々の為に現代に蘇った。
伝承されてきた知恵と業を、遺憾無く発揮する為の体制を整えて、この国の混沌を断つ為に。
「警察なんかで世の中どうにかなるもんじゃねぇだろ。給料分働いて、たまに職権で美味しく頂いとくのさ」
この様子なら忍者の話が膨らむ心配はなさそうだ。ろくでもない連中だが、良しとしておこう。
この街の警察官なら、これぐらいが丁度良いのだろうか。東北エリアでも最大を誇る、この大歓楽街、輝紫桜町(キシオウチョウ)なら。
欲望と堕落にまみれたこの街は嫌いだ。雑多で猥雑なネオンの煌めきが止まないその雰囲気に紛れる犯罪組織の温床。警察も行政機関も放置せざるを得ない厄介な街だ。
「うわぁ、引くわぁ……悪徳警官だね」
唐突に上から発せられた男の声に警官二人にびくりと衝撃が走った。
「お巡りさんがこんな所でおサボりしてていいの? しかもそれダメな奴じゃん」
警官共に気を取られて割り込んできた気配に気付けなかった。見上げて見ると、柵に両腕を置きながらこちらを見下ろす男がいた。
長くボリュームのある七三分けの黒髪にははビビットピンクのウィッグを絡めていて、黒とピンクのスカジャンをわざとらしくはだけさせて肩を露出させていた。輝紫桜町の男娼と言う風体だ。
「今時、こんなもん限りなく白なグレーじゃねぇか。それよりもお前の持ってるヤツの方がよっぽどアウトだからな」
「さぁて、何の事やら……。身体検査でもしてみるかい? 優しくしてよね」
柵にもたれてスカジャンを更にはだけさて見せる。女物のトップスだろうか、肩どころか背中まで大きく露出している。中性的な顔立ちのその表情は、常にこちらを小馬鹿にしている様な不敵な笑みを浮かべていて気色悪い。
「ったく、何時から聞いてたんだ?」
「忍者がどうのこうのって話から。おもしろそうな話だね」
大分、最初の方から聞いていたらしい。上の方など気にもしていなかったが、それにしても盗み聞きをしてながら、この馴れ馴れしい態度。まったく鬱陶しい。
この歓楽街では嫌でもこう言う人種が視界に入ってくるがとにかく嫌だった。色々あるのかも知れないが、それでも嫌悪感の方が勝るな。
「お前には関係ない話だ! 向こうに行けよ、ホモ野郎」
こちらの思いに重なる様に後輩警官が対弁してくれる。周りの空気が沈黙で少し重々しくなった。
背を向ける男娼の左目はカラーコンタクトか義眼なのか、ほぼ暗紫色の眼球に赤い瞳孔。その目が後輩警官と睨み合っているが、表情は意外にも柔らかく、こいつ何言ってんだろと言った調子できょとんとしていた。
「俺ホモじゃないし」
どの口が言っているのだ。金の為とは言え、想像したくもないが、男に抱かれている奴がホモではないと、意味が分からん。
「おいおい、良くない言い方だぞ。勘弁してやれよ」
意外にも先輩警官がこの男娼を庇った。そうなってしまっては、こちらからはもう何も言う事はなかった。でもだ、だってだと、こんなのにムキになって反論する事もあるまい。
「そうそう、クソみたいな口の利き方は良くないよ、おつむの程度がバレるぜベイビー」
勝ち誇ったの様な鼻持ちならない笑みを浮かべながら、根元まで吸い尽くした煙草をこちらにはらりと投げ捨てた。
「忍者捕まえたら教えてね、紺ちゃん」
中指を立てながら男娼がネオンの灯りが乱れ飛ぶ通りの方へ去っていく。女々しい仕草の男にはウンザリさせられる。
「ったく、何なんスか? アイツは」
「伊藤ちゃんよぉ、お前はこの辺来たばかりだから知らないだろうけど、アイツはあれでいいんだよ……意外とイイ男なんだぜ」
先輩警官は笑いながら吸い終えたジョイントを地面へ磨り潰した。いやにあの男娼の肩を持っているが、ソッチの趣味でも持っているのだろうか。こんな不埒に街に長くもいれば性癖も歪むか。
後輩警官は怪訝な顔のまま先輩警官の後を付いて二人が去って行く。やれやれ、無駄足だったか。
物陰に紛れる黒地の布を畳み“隠れ身”を解除する。気配を消し去る事が出来れば、単純な手段でも有効に忍べる。そんなものだ。
雑居ビルと雑居ビルとの小さな隙間、一気に駆け上って地上から離れる。足がかけられる場所が数か所あれば、十五メートルそこらの高さは簡単に駆け上れる。
四階建ての屋上、換気ダクトは轟音を立て、美味そうな匂いを噴き出している。東北最大級の大歓楽街、輝紫桜町の大通りを睨み、慢性的に頭に過る、行く末を憂う。
ウイルスパンデミックによる経済破綻と、大震災によって崩壊した首都を皮切りに日本が分断して半世紀以上が過ぎてしまった。その中でも取り分けこの地、東北旧六県を解体、再編成された“六連合特別自治区”は厄介な事になっていた。
だからこそ、この俺が派遣されたのだ。我等は常に存在し続けている。動乱、戦乱、泰平であっても必要悪の如く生き永らえて来た。長い歴史を以てしても、これほど混沌に落ちぶれた時代は、この島国にはない。
この地がまだ日本であるのなら、我等忍者の領分。皮肉にも、陰の我等は栄の時を迎えていた。――それも悪くなかろう。