残酷な描写あり
魔女と僕の物語
次の日なんとなく学校へ行く気にはならなかったものの昼休みにだけ、いつもの場所へ行った。
そこにはいつものように先客として彼女が待っていた。
「やぁ、今日はいつになくいいご身分だね」
そう彼女は笑う。
「水族館に行く約束をそろそろ果たそうと思ってね」
「やっとかぁ、待ちくたびれちゃったよ」
彼女は嬉しそうに笑う。
その日僕は彼女と水族館へ行く約束をした。
それから昼休み一杯どうでもいい中身のない話をした。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると僕は立ち上がって出入口へ体を向けた。
「せっかく来たのに授業は受けないの?」
彼女は不思議そうに言う。
「今日は君に会いたかっただけだから、もう帰るよ」
「わざわざ、水族館にいく約束をするためだけに来たのー?」
彼女から遠ざかる背中に少し大きな声を掛ける。
「そうだよー、だからまた明日なー」
その声に一度振り返って、彼女に向かって手を振って応える。
また、彼女に背を向けて歩き始める。
彼女がどういう顔で僕に声を掛けたのか、ちゃんと見ることは出来なかった。
でもとりあえず水族館デートの約束は取り付けたからまぁ良し。
それだけのことなのに、ほんのちょっとだけ謎の達成感を持ちつつ学校に背を向けた。
学校帰りに例の海に一人で来ていた。
「何もかもがめんどくさいな……」
波に吐き捨てるように言った。
ただもう今日は何も考えたくないと思い、波に沿って砂浜をひたすらに歩き始めた。
ジャリッ、ジャリッ――
この時間辺りに人はいない、耳に届くは自分が砂を踏みしめる音、波の音、海鳥のなく音、時折通るトラックの音くらいだ。
空を見上げると青空を泳ぐ雲がいくつかあった。
その雲のひとつを見上げながら、何かの形に見えないかなぁなんて考える。
「つめたっ……」
雲に意識を奪われていると気が付くと波に足を浸けてしまっていた。
ジュボッ、ジュボッと音をさせながら、歩き続ける。
堤防まで行っても、今日は誰も居ない。
靴も靴下も脱いで、その場で寝転がる。
「あー、眩しいなぁ」
波の音を聞きながら、太陽の眩しさに目を瞑る。
あの昔話はどこまでが本当なんだろうか、この力はどうするのが正解なんだろうか……。
そしてあの白髪の男は昔話に出てきた、彼女が拾ったという子供なのか……。
グルグルとそればかりが頭を駆け巡る。
ジリジリと太陽に肌を焼かれ、足にまとわりついた水分が蒸発していく。
雲と時間がゆっくりと流れていくのをただ仰向けのまま眺める。
その状態でどんどん空の色も水色から青い空になった頃、突然自分の顔に影が降ってきた。
「帰ったんじゃなかったの?」
彼女の声が昼休みぶりに聞こえた。
「良いだろ、別に」
僕がそう言うと「別にいいよー」といって僕の頭上に寝転がる。
「おい、なんで上に来るんだよ」
それに彼女も「別に良いでしょー」と返す。
彼女と二人で空を眺めて過ごす。
「なんで、ここに来たの?」
「んー、なんとなく君がいる気がしたからかな」
彼女はあっさりとした返事で応えた。
「なんか怖いんだけど……」と呟くと隣から「でも、居たじゃん」と彼女に返された。
「そうなんだよなぁ、なんかいろいろ押し付けられたりさ。キャパオーバー感が凄いんだよなぁ」
「それには私との約束も入ってる?」
彼女は四つん這いで上から僕とは逆方向から見下ろしている。
「入ってるって言ったら?」
彼女の目をまっすぐ見据えて言う。
「踏んであげる」
彼女は笑った。
「踏まれるのなら本望かもしれないな、あははは」
「ばか」
彼女はそういうとまた寝転がった。
「なんで、私の周りはみんな女に振り回されてるんだろーなー」
彼女の言葉にびっくりした。
「それはどういう意味?」
「だって、あなたの悩みの種も結局女なんでしょ」
僕は言い当てられたことにどきりとした。
「男なんてみーんな、ばかばっかり」
「しょうがないじゃん、男なんて女のために頑張ってしまう生き物なんだから」
「今度のその女には私も入ってる?」
「入ってるよ」
僕はなんでもないように言った。
「ならその言葉は許してあげる」
「あざーす」
僕が返すと二人して笑った。
「ねぇ、あの曇ってなんだかイルカに見えない?」
「どこの雲?」
「ほらあそこ、太陽の近くの」
「えーっ、イルカかぁ」
「イルカよ、芸術センスゼロね」
僕と彼女はそれからもしばらくくだらない話を延々と続けた。
なんだか昼休みの時間以上に充実した時間かもしれない。
少し空がオレンジ色になり始めた頃、彼女は立ち上がって「帰る」と言って帰ってしまった。
僕も起き上がって、少し黒くなった海の水平線を眺めると立ち上がった。
それから靴を履き、来た道を歩く。
砂浜の波打ち際を歩く。
波の音と歩く音だけがし、少しずつ暗くなっていく世界に少しだけ自分がおいていかれてしまっているようなノスタルジックな気分を味わう。
少し立ち止まって座り込む。
暗く群青色に変わり始めた空を見上げ。
やっぱりどうしようもない気持ちになる。
自分じゃないといけない、ただの好奇心で見つけたものに憑りつかれてる気さえする。
うじうじと、悩む自分を振り返っては自己嫌悪にも陥る。
「はぁ」
ため息しか出てこない。
砂浜に転がっていた棒で文字を書く。
『自分はどうしたいのか』
その文字を見つめてはぐちゃぐちゃと掻き消す。
三角座りをして、波と海とに反射する月をぼーっと見る。
それから数分、ただぼーっと眺めては家にも帰る気力もわかなかった。
流石にそろそろ帰らないと、家族が心配するな。
また立ち上がって今度こそ家路についた。
そこにはいつものように先客として彼女が待っていた。
「やぁ、今日はいつになくいいご身分だね」
そう彼女は笑う。
「水族館に行く約束をそろそろ果たそうと思ってね」
「やっとかぁ、待ちくたびれちゃったよ」
彼女は嬉しそうに笑う。
その日僕は彼女と水族館へ行く約束をした。
それから昼休み一杯どうでもいい中身のない話をした。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると僕は立ち上がって出入口へ体を向けた。
「せっかく来たのに授業は受けないの?」
彼女は不思議そうに言う。
「今日は君に会いたかっただけだから、もう帰るよ」
「わざわざ、水族館にいく約束をするためだけに来たのー?」
彼女から遠ざかる背中に少し大きな声を掛ける。
「そうだよー、だからまた明日なー」
その声に一度振り返って、彼女に向かって手を振って応える。
また、彼女に背を向けて歩き始める。
彼女がどういう顔で僕に声を掛けたのか、ちゃんと見ることは出来なかった。
でもとりあえず水族館デートの約束は取り付けたからまぁ良し。
それだけのことなのに、ほんのちょっとだけ謎の達成感を持ちつつ学校に背を向けた。
学校帰りに例の海に一人で来ていた。
「何もかもがめんどくさいな……」
波に吐き捨てるように言った。
ただもう今日は何も考えたくないと思い、波に沿って砂浜をひたすらに歩き始めた。
ジャリッ、ジャリッ――
この時間辺りに人はいない、耳に届くは自分が砂を踏みしめる音、波の音、海鳥のなく音、時折通るトラックの音くらいだ。
空を見上げると青空を泳ぐ雲がいくつかあった。
その雲のひとつを見上げながら、何かの形に見えないかなぁなんて考える。
「つめたっ……」
雲に意識を奪われていると気が付くと波に足を浸けてしまっていた。
ジュボッ、ジュボッと音をさせながら、歩き続ける。
堤防まで行っても、今日は誰も居ない。
靴も靴下も脱いで、その場で寝転がる。
「あー、眩しいなぁ」
波の音を聞きながら、太陽の眩しさに目を瞑る。
あの昔話はどこまでが本当なんだろうか、この力はどうするのが正解なんだろうか……。
そしてあの白髪の男は昔話に出てきた、彼女が拾ったという子供なのか……。
グルグルとそればかりが頭を駆け巡る。
ジリジリと太陽に肌を焼かれ、足にまとわりついた水分が蒸発していく。
雲と時間がゆっくりと流れていくのをただ仰向けのまま眺める。
その状態でどんどん空の色も水色から青い空になった頃、突然自分の顔に影が降ってきた。
「帰ったんじゃなかったの?」
彼女の声が昼休みぶりに聞こえた。
「良いだろ、別に」
僕がそう言うと「別にいいよー」といって僕の頭上に寝転がる。
「おい、なんで上に来るんだよ」
それに彼女も「別に良いでしょー」と返す。
彼女と二人で空を眺めて過ごす。
「なんで、ここに来たの?」
「んー、なんとなく君がいる気がしたからかな」
彼女はあっさりとした返事で応えた。
「なんか怖いんだけど……」と呟くと隣から「でも、居たじゃん」と彼女に返された。
「そうなんだよなぁ、なんかいろいろ押し付けられたりさ。キャパオーバー感が凄いんだよなぁ」
「それには私との約束も入ってる?」
彼女は四つん這いで上から僕とは逆方向から見下ろしている。
「入ってるって言ったら?」
彼女の目をまっすぐ見据えて言う。
「踏んであげる」
彼女は笑った。
「踏まれるのなら本望かもしれないな、あははは」
「ばか」
彼女はそういうとまた寝転がった。
「なんで、私の周りはみんな女に振り回されてるんだろーなー」
彼女の言葉にびっくりした。
「それはどういう意味?」
「だって、あなたの悩みの種も結局女なんでしょ」
僕は言い当てられたことにどきりとした。
「男なんてみーんな、ばかばっかり」
「しょうがないじゃん、男なんて女のために頑張ってしまう生き物なんだから」
「今度のその女には私も入ってる?」
「入ってるよ」
僕はなんでもないように言った。
「ならその言葉は許してあげる」
「あざーす」
僕が返すと二人して笑った。
「ねぇ、あの曇ってなんだかイルカに見えない?」
「どこの雲?」
「ほらあそこ、太陽の近くの」
「えーっ、イルカかぁ」
「イルカよ、芸術センスゼロね」
僕と彼女はそれからもしばらくくだらない話を延々と続けた。
なんだか昼休みの時間以上に充実した時間かもしれない。
少し空がオレンジ色になり始めた頃、彼女は立ち上がって「帰る」と言って帰ってしまった。
僕も起き上がって、少し黒くなった海の水平線を眺めると立ち上がった。
それから靴を履き、来た道を歩く。
砂浜の波打ち際を歩く。
波の音と歩く音だけがし、少しずつ暗くなっていく世界に少しだけ自分がおいていかれてしまっているようなノスタルジックな気分を味わう。
少し立ち止まって座り込む。
暗く群青色に変わり始めた空を見上げ。
やっぱりどうしようもない気持ちになる。
自分じゃないといけない、ただの好奇心で見つけたものに憑りつかれてる気さえする。
うじうじと、悩む自分を振り返っては自己嫌悪にも陥る。
「はぁ」
ため息しか出てこない。
砂浜に転がっていた棒で文字を書く。
『自分はどうしたいのか』
その文字を見つめてはぐちゃぐちゃと掻き消す。
三角座りをして、波と海とに反射する月をぼーっと見る。
それから数分、ただぼーっと眺めては家にも帰る気力もわかなかった。
流石にそろそろ帰らないと、家族が心配するな。
また立ち上がって今度こそ家路についた。