残酷な描写あり
R-15
旧友の悩み②
「アンタ、何考えてるの?」
依奈は訝しげな目で愛花を見る。
「何とは?」
「何でそんなに私に構うのかって話よ」
「それは先程も言ったとおり、今ここで引いてしまっては後悔するかもしれないからです」
(つ、強い。押しが強い)
依奈の我慢の限界が近づくところで、真昼が割って入る。
「愛花ちゃんのそういうところ好きだよ。依奈ちゃんも諦めて私達の助けを受けなよ。プライドで死ぬなんてつまらない真似したくないでしょ?」
「……わかったわよ」
真昼は視点が違う。
生きるか、死ぬかなのだ。
大勢の衛士が自分の功績や仲間の為、目的の為に戦う中で真昼は生死のことしか考えていない。愛花をたとえで言えば、故郷を奪還できなくても、生きて衛士訓練学校を卒業できればそれで良いのだ。
生きることが最優先。夢やプライドはその後についてくる付属物でしかない。それが真昼を修羅の如き活躍を続けられる理由だった。自分と仲間を常に生き残らせるために、他の全てを諦めさせて戦ってきた。
大切な思い出や、愛着のある戦術機を打ち捨てさせて、少しでも生存率を高める。それをラプラスで強制させてきた。その結果が今の真昼だ。
その真昼が言うのなら依奈も従うしかない。キャリアは同じでもあまりにも実績が違いすぎる。
真昼は衛士の頂点だ。
「百由ちゃん、第四世代のデータ上げたの覚えてるよね。それで自分のと合わせて試作品ぐらい作ってるんでしょ? それを依奈ちゃんに使わせてあげて」
「ちょっと待って!」
聞き捨てならないと待ったをかけたのは天葉だった。
「第四世代って、どういうこと?」
百由は第四世代戦術機を独自で開発して初代アールヴヘイムの一人を廃人にしている。それのせいで今でも恨まれているし、学園内での立場も危うい。
第四世代戦術機の副作用によって壊れた精神は1年経っても回復の兆候を見せていない。
それを百由が研究続けているのに、思うところはあれど何も言うつもりはない。しかし真昼の方は別だ。
「データを上げたってどいうこと? 真昼も第四世代戦術機の実験に協力していたの?」
「そうだよ。クレスト社の依頼でね。違法薬物でフィードバックを抑えてたから、前の戦いでバレて怒られちゃったけど」
「違法薬物って……そのデータを百由にあげたの?」
「百由ちゃんは元々第四世代戦術機の研究を続けていた。第四世代戦術機は百由ちゃんだけのオリジナルじゃないしね。革新的な戦術機として世界中で研究が進められている。その過程でちょっと無理する必要はあるけど、かなり高いレベルで実用化したのがあったんだ」
正確には真昼が支援を受けていたのはクレスト社ではなくGE.HE.NA.だ。しかしクレスト社との繋がりが表立ってある以上、そしてクレスト社が人造衛士の制作に関わっていると知られているので、GE.HE.NA.の隠れ蓑としてクレスト社の名前を使っているのだ。
(精神連結型戦術機)
それが第四世代戦術機の別名であった。
使用者の魔力や精神力を通じて一体化して力を増幅させてデストロイヤーを殲滅する。その意味では戦術機は第一世代から精神に直結することを前提とした道具だ。だが、第四世代の精神連結とは単に魔力で繋がるというだけの意味ではない。
ファンネルと呼ばれる小型の戦術機を浮遊させてそこから魔力ビームを照射して対象を破壊する。
「クレスト社は発想転換させて、動かすには真昼は必要ない脳波で操作できる小型機を作ったの。ビットではなく、ファンネルと呼ばれる電力で動く小型機。そして魔力を使うのは魔力ビームを発射する瞬間だけ。そうすれば使用者の負荷は最小限で済む」
「でもそれには違法な薬物が必要だったんでしょ!? それを依奈にやらせる気!?」
「私が薬物を使ったのは完全に初めてのテストだったからだよ。私のデータが蓄積され改良は進んでいた。最終的に自律防御からシールド戦術機やガトリングなんかも取り付けていたしね。だから負荷が高くなったんだけど。ファンネル戦術機だけなら負荷はそれほどでもない」
「でも……やっぱり駄目だよ」
真昼は端末を操作して天葉と衣奈にあるデータを見せる。
「私達の戦術データ?」
「これが何だって言うの?」
「依奈ちゃんの戦績、明らかに悪いよね。周囲にフォローされて、なんとかやっていけているレベル。まぁ自覚してるよね。じゃなきゃスランプで悩んでるとは思わないしだろうし」
真昼の煽るような言葉に、衣奈は鋭い目つきで真昼を睨み付ける。
「何が言いたいの?」
「チームが変わって勝手が違って戸惑っているのがデータを見ているとよくわかる。でも対策として具体的な行動を何一つ起こしてない。周りにフォローしてもらうのを待ってばかりで自分から助けてと声を上げてない。プライドが邪魔しているんだね。アールヴヘイムの司令塔の私がこんなはずないって現実を認められていない」
「真昼、言い過ぎだよ」
天葉の言葉を無視して真昼は言った。
「そんなやつはいつか仲間を殺す害悪だ。端的にいうけど衛士やめたら? 衛士やる意味ないよ。昔の仲間のお情けで強いレギオンに入れてもらって足引っ張って恥ずかしくないの?」
「アンタ!!」
依奈が掴みかかる前に天葉が真昼の頬を叩いた。
「天葉ちゃん?」
「真昼、いくら貴方でも言って良いことと悪いことがある。今のは駄目だよ。依奈もスランプを脱却する為に努力している。それは私がよく知ってる。悩んで苦しんでいるんだ」
「悩んで苦しんで解決したら苦労しないよ。具体的な行動を起こさないと解決しない。例えば、これとかね」
真昼は百由の工房に置かれている第四世代戦術機を差して言った。
「今のまま、なぁなぁで戦った結果仲間を危険に晒すくらいなら、リスクを取って廃人になるか使いこなしてチームに貢献できるかの二択を取った方がマシだよ。依奈ちゃんのせいで他の誰かが死ぬくらいなら依奈ちゃんが廃人になる方がダメージは少ない」
「真昼!! アンタ!」
「待って、天葉」
掴みかかりそうになる天葉を衣奈が止めた。
「百由、第四世代戦術機を使うとして、練習が始められるのはいつになるの?」
「えっと、もう、ほぼできてるから、今からでもできるわ」
「じゃあ、今すぐやりましょう」
「衣奈!?」
心配する天葉に衣奈は真面目な顔で言った。
「真昼の言う通りよ。今の私は仲間を危険に晒している。だから、力が必要なの。たとえ廃人になる危険があっても」
「……わかった」
天葉と衣奈と百由は戦術機と機材を持って実験室に向かってしまった。取り残された形になる愛花と葉風は真昼を見る。真昼の足は震えていて、今にも泣きそうだった。
「ごめんね、二人とも。せっかく葉風ちゃんのユニーク戦術機を作ろって話だったのに」
「いえ、それは大丈夫です」
「真昼様もわざわざ敵役をしなくてもよろしいのに。そんな泣きそうな顔をなさって。ハンカチです。涙を拭いてください」
「ありがとう、愛花ちゃん」
真昼はポロポロと涙を流して、それを愛花のハンカチで拭いた。
「いつも、ああ言うことを仰っているんですか?」
「そうだね。教官役の時はいつもお前達は弱い、仲間を殺す、衛士なんてやめてしまえ、それが嫌だったら食らいついて見せろって叱咤激励してるね」
「それは大変でしたね。もし横浜衛士訓練学校の教導官に正式に任命された時もそうなさるのですか?」
「うん、横浜の衛士は優しすぎるから、厳しい人がいないといけないんだ。あはは、みんなに嫌われちゃうね」
愛花と葉風は真昼を抱きしめた。
「大丈夫ですよ、真昼様の優しさは私達は理解してます」
「うん、その生徒達も戦場で生き残った時に感謝すると思う」
「そうかな、そうだと良いな。わざとでも嫌われるのは辛いから。天葉ちゃんからも嫌われちゃったかな」
「安心してください、真昼様。真昼様の優しい部分を天葉様に力説しておきます」
愛花は強くそう宣言するのだった。
それに真昼はおかしくて笑った。
依奈は訝しげな目で愛花を見る。
「何とは?」
「何でそんなに私に構うのかって話よ」
「それは先程も言ったとおり、今ここで引いてしまっては後悔するかもしれないからです」
(つ、強い。押しが強い)
依奈の我慢の限界が近づくところで、真昼が割って入る。
「愛花ちゃんのそういうところ好きだよ。依奈ちゃんも諦めて私達の助けを受けなよ。プライドで死ぬなんてつまらない真似したくないでしょ?」
「……わかったわよ」
真昼は視点が違う。
生きるか、死ぬかなのだ。
大勢の衛士が自分の功績や仲間の為、目的の為に戦う中で真昼は生死のことしか考えていない。愛花をたとえで言えば、故郷を奪還できなくても、生きて衛士訓練学校を卒業できればそれで良いのだ。
生きることが最優先。夢やプライドはその後についてくる付属物でしかない。それが真昼を修羅の如き活躍を続けられる理由だった。自分と仲間を常に生き残らせるために、他の全てを諦めさせて戦ってきた。
大切な思い出や、愛着のある戦術機を打ち捨てさせて、少しでも生存率を高める。それをラプラスで強制させてきた。その結果が今の真昼だ。
その真昼が言うのなら依奈も従うしかない。キャリアは同じでもあまりにも実績が違いすぎる。
真昼は衛士の頂点だ。
「百由ちゃん、第四世代のデータ上げたの覚えてるよね。それで自分のと合わせて試作品ぐらい作ってるんでしょ? それを依奈ちゃんに使わせてあげて」
「ちょっと待って!」
聞き捨てならないと待ったをかけたのは天葉だった。
「第四世代って、どういうこと?」
百由は第四世代戦術機を独自で開発して初代アールヴヘイムの一人を廃人にしている。それのせいで今でも恨まれているし、学園内での立場も危うい。
第四世代戦術機の副作用によって壊れた精神は1年経っても回復の兆候を見せていない。
それを百由が研究続けているのに、思うところはあれど何も言うつもりはない。しかし真昼の方は別だ。
「データを上げたってどいうこと? 真昼も第四世代戦術機の実験に協力していたの?」
「そうだよ。クレスト社の依頼でね。違法薬物でフィードバックを抑えてたから、前の戦いでバレて怒られちゃったけど」
「違法薬物って……そのデータを百由にあげたの?」
「百由ちゃんは元々第四世代戦術機の研究を続けていた。第四世代戦術機は百由ちゃんだけのオリジナルじゃないしね。革新的な戦術機として世界中で研究が進められている。その過程でちょっと無理する必要はあるけど、かなり高いレベルで実用化したのがあったんだ」
正確には真昼が支援を受けていたのはクレスト社ではなくGE.HE.NA.だ。しかしクレスト社との繋がりが表立ってある以上、そしてクレスト社が人造衛士の制作に関わっていると知られているので、GE.HE.NA.の隠れ蓑としてクレスト社の名前を使っているのだ。
(精神連結型戦術機)
それが第四世代戦術機の別名であった。
使用者の魔力や精神力を通じて一体化して力を増幅させてデストロイヤーを殲滅する。その意味では戦術機は第一世代から精神に直結することを前提とした道具だ。だが、第四世代の精神連結とは単に魔力で繋がるというだけの意味ではない。
ファンネルと呼ばれる小型の戦術機を浮遊させてそこから魔力ビームを照射して対象を破壊する。
「クレスト社は発想転換させて、動かすには真昼は必要ない脳波で操作できる小型機を作ったの。ビットではなく、ファンネルと呼ばれる電力で動く小型機。そして魔力を使うのは魔力ビームを発射する瞬間だけ。そうすれば使用者の負荷は最小限で済む」
「でもそれには違法な薬物が必要だったんでしょ!? それを依奈にやらせる気!?」
「私が薬物を使ったのは完全に初めてのテストだったからだよ。私のデータが蓄積され改良は進んでいた。最終的に自律防御からシールド戦術機やガトリングなんかも取り付けていたしね。だから負荷が高くなったんだけど。ファンネル戦術機だけなら負荷はそれほどでもない」
「でも……やっぱり駄目だよ」
真昼は端末を操作して天葉と衣奈にあるデータを見せる。
「私達の戦術データ?」
「これが何だって言うの?」
「依奈ちゃんの戦績、明らかに悪いよね。周囲にフォローされて、なんとかやっていけているレベル。まぁ自覚してるよね。じゃなきゃスランプで悩んでるとは思わないしだろうし」
真昼の煽るような言葉に、衣奈は鋭い目つきで真昼を睨み付ける。
「何が言いたいの?」
「チームが変わって勝手が違って戸惑っているのがデータを見ているとよくわかる。でも対策として具体的な行動を何一つ起こしてない。周りにフォローしてもらうのを待ってばかりで自分から助けてと声を上げてない。プライドが邪魔しているんだね。アールヴヘイムの司令塔の私がこんなはずないって現実を認められていない」
「真昼、言い過ぎだよ」
天葉の言葉を無視して真昼は言った。
「そんなやつはいつか仲間を殺す害悪だ。端的にいうけど衛士やめたら? 衛士やる意味ないよ。昔の仲間のお情けで強いレギオンに入れてもらって足引っ張って恥ずかしくないの?」
「アンタ!!」
依奈が掴みかかる前に天葉が真昼の頬を叩いた。
「天葉ちゃん?」
「真昼、いくら貴方でも言って良いことと悪いことがある。今のは駄目だよ。依奈もスランプを脱却する為に努力している。それは私がよく知ってる。悩んで苦しんでいるんだ」
「悩んで苦しんで解決したら苦労しないよ。具体的な行動を起こさないと解決しない。例えば、これとかね」
真昼は百由の工房に置かれている第四世代戦術機を差して言った。
「今のまま、なぁなぁで戦った結果仲間を危険に晒すくらいなら、リスクを取って廃人になるか使いこなしてチームに貢献できるかの二択を取った方がマシだよ。依奈ちゃんのせいで他の誰かが死ぬくらいなら依奈ちゃんが廃人になる方がダメージは少ない」
「真昼!! アンタ!」
「待って、天葉」
掴みかかりそうになる天葉を衣奈が止めた。
「百由、第四世代戦術機を使うとして、練習が始められるのはいつになるの?」
「えっと、もう、ほぼできてるから、今からでもできるわ」
「じゃあ、今すぐやりましょう」
「衣奈!?」
心配する天葉に衣奈は真面目な顔で言った。
「真昼の言う通りよ。今の私は仲間を危険に晒している。だから、力が必要なの。たとえ廃人になる危険があっても」
「……わかった」
天葉と衣奈と百由は戦術機と機材を持って実験室に向かってしまった。取り残された形になる愛花と葉風は真昼を見る。真昼の足は震えていて、今にも泣きそうだった。
「ごめんね、二人とも。せっかく葉風ちゃんのユニーク戦術機を作ろって話だったのに」
「いえ、それは大丈夫です」
「真昼様もわざわざ敵役をしなくてもよろしいのに。そんな泣きそうな顔をなさって。ハンカチです。涙を拭いてください」
「ありがとう、愛花ちゃん」
真昼はポロポロと涙を流して、それを愛花のハンカチで拭いた。
「いつも、ああ言うことを仰っているんですか?」
「そうだね。教官役の時はいつもお前達は弱い、仲間を殺す、衛士なんてやめてしまえ、それが嫌だったら食らいついて見せろって叱咤激励してるね」
「それは大変でしたね。もし横浜衛士訓練学校の教導官に正式に任命された時もそうなさるのですか?」
「うん、横浜の衛士は優しすぎるから、厳しい人がいないといけないんだ。あはは、みんなに嫌われちゃうね」
愛花と葉風は真昼を抱きしめた。
「大丈夫ですよ、真昼様の優しさは私達は理解してます」
「うん、その生徒達も戦場で生き残った時に感謝すると思う」
「そうかな、そうだと良いな。わざとでも嫌われるのは辛いから。天葉ちゃんからも嫌われちゃったかな」
「安心してください、真昼様。真昼様の優しい部分を天葉様に力説しておきます」
愛花は強くそう宣言するのだった。
それに真昼はおかしくて笑った。