残酷な描写あり
R-15
神凪藝術高校①
流星達は戦術勉強室に移動して立体映像を交えて真昼が説明を始める。
「まず、フォーミュラフロントに求めるのは神凪を引っ張るリーダー、象徴になる事です」
「象徴?」
「そうです。これからは激動の時代なると予想されます。だからこそフォーミュラフロントには神凪の象徴して生徒達の希望になって欲しい。貴方達がいるから勝てる、フォーミュラフロントが戦っているんだから私達も負けられない、そんな存在に」
それにみぞれは言う。
「そ、それは真昼様のようになれということでしょうか?」
「広義的な意味ではそうです。精神的な支え、奮起する起爆剤、そう言うものになって欲しい。更に今から話す講義の内容を神凪に広めて衛士の損耗率を抑えて欲しい」
「私達も教導官になれと?」
「そうはいいません。だけど、私から学んだことを伝えて欲しいだけです。神凪は再起のガーデンと呼ばれるが同時に死者も多い。これを分析すると、心を折られた者ほど頑張ってきた過去が見えてくる。大切な人のために頑張り過ぎて傷を負う。そして自己犠牲の精神で死んでいく。民間人を庇って死ぬ。それがいかに愚かであるかを、伝えてほしい」
それに怒って立ち上がったのは瑠衣だった。
「そんな言い方はないんじゃないですか!? 誰かを守ることが悪いって言うんですか!?」
「悪いとは言わない、だが相手は選ぶべきだ。愛している相手、共に過ごした戦友ならば構いません。だが何の役にも立たない一般人を守って死ぬのは人類の損失です。それを犬死という。この世で最も唾棄すべき事だ」
「衛士は! 弱い人を守るために戦う存在ですよ!」
「違う。衛士はデストロイヤーを倒す存在です。結果的に弱い人を守ることに繋がりますが、それはデストロイヤーを倒した結果に過ぎない」
そこで言葉を切って、次の話へいく。
「デストロイヤー大戦が勃発してから約30年、未だ戦いは続いています。アジア、中国、南アフリカ、アフリカが陥落し、日本も横浜基地になるまではネストがありました。デストロイヤーはステルス飛行と長距離ワープホールのケイブで出現します。しかし残った各国の首都や一部エリアには出現しない。何故だかわかりますか? 宮川高城、答えて」
「エリアディフェンスや対デストロイヤー建築結界によって守られているからです」
「その通りだ。この二つは人類の安全圏を保障し、技術の開発を進める手助けをした。研究者や技術者が死んでは私達衛士も戦えないからね。そしてその結果、第二世代戦術機の量産と第三世代戦術機の一部配備が決定された。そして優れた衛士にはユニーク戦術機が与えられるのが当たり前になった。それは何故ですか? 赤火瑠衣」
突然当てられた瑠衣は狼狽する。授業では習わなかったからだ。授業で習うのは戦術機の使い方と戦術理論、そして自分の選んだ学科のことだけだ。世界史みたいなものは習わないのが一般的だった。
「強い衛士を更に強くする為、です」
「そうだ。では何故、強くする必要がある? 戦術機は一つにつき戦車が買えるほどの値段だ。ユニークとならば更にかかるだろう。そこまでして衛士に投資する価値はどこにあると思う?」
「えっと、戦車より強くて速くて柔軟な対応ができるから、です」
「違う。ラージ級以上に打撃を与えられるからだ。アーマードコアや戦車、航空機を並べて飽和攻撃すれば大抵の敵は倒せる。歩兵だってアンチデストロイヤーウェポンを使えば倒せる。だがラージ級以上はそうは行かない。結界に守られた奴らの装甲は衛士の戦術機でしか傷つけることはできない。だから衛士は優遇され、膨大な金がつぎ込まれて戦術機と精神安定のための訓練校が作られた」
真昼は端末を操作して世界地図と人口比率を表示させる。
「そして今の防衛軍に衛士に十分な支援ができるほどの戦力はない。何故だ? 五条フレデリカ」
「お金がないから!」
「違う。人がいないからだ。最初期の男性が戦術機を持っていた時代に、多くの男性は徴兵され殺された。そして幸運にも残された女性こそが戦える力があると発覚したのだ。兵器を運用するにも準備と兵士がいる。その半分以上が女性士官だ。男性は今や希少な存在となりつつある。防衛軍には武器が与えられているが、それを効果的に運用できる人員がいないのが現状だ。だが民間人から徴兵することは衛士の出生率を減らす事となりできない」
真昼はここまで言うと端末を再び操作して、次は衛士の次世代戦術理論についての話に移る。
「対デストロイヤー戦術は日々更新されています。そして現時点で有効だとされているのが5〜9人レギオンによる魔力スフィア戦術を見越した戦闘形態です。しかしこれでは個々のレギオンの実力に左右され戦果が安定しないと結論が出ました」
真昼は映像を操作する。
そこには五人と四人がそれぞれダイヤモンド型に陣形をとっている。
「そこで新しく世界標準戦術として開発されたのが円壱型陣形です。中心、または後方に司令塔を置いて前衛が敵を誘引、左右の中衛が撃破する陣形です。後方の司令塔は援護に留め周囲の警戒に努めます。9人レギオンは二つの部隊に分解してリーダーとサブリーダーが司令塔を務めます」
そこで流星が手を上げる。
「質問良いでしょうか?」
「どうぞ」
「その陣形の話は聞いたことないのですが、どこが開発したものなんですか?」
「クレスト社とその提携企業です。そして実戦テストはクレスト社のテスターと私達横浜衛士訓練校のレギオンが行いました」
真昼に渡されたレギオンの訓練として最適なメニュー。それがこの新陣形のテストベットも含まれていたのだ。そしてそれは有効に作用してシュミレーションでは大きな戦果の向上が見られた。
(またクレスト社)
「質問は以上ですか?」
「はい」
「では説明を続けます」
映像にデストロイヤーが現れラージ級がスモール級やミディアム級を引き連れて攻めてくる状況だ。
「この状況ではまず高所からの攻撃が有効です。周囲の建物を利用して高い位置から射撃を開始。一定のスモール級の減少を確認したら前衛が突撃、そしてすぐに後退して中衛後衛の射撃範囲に敵を呼び寄せます」
「この状況なら攻めちゃえば良いと思うよ! その方が早いもん」
「ちょっとフレデリカ!」
フレデリカの発言に真昼は冷静に反論する。
「確かに攻めた方が早いというのは間違っていません。街の被害や民間人への被害も抑えられると思ういます」
「でしょ? でしょ?」
「でも衛士の危険度は高くなります。この世界状況で何より優先されるべきは衛士の命です。この新陣形は攻撃的な陣形ではなく保守的な、衛士の命を最優先した防御の陣形なんです」
「でもそれで建物や民間人がやられちゃったら衛士がある意味ないですよね?」
フレデリカの次は瑠衣が言う。
「建物は治せます。民間人は衛士より重要度は低いです。エリアディフェスのある首都圏以外は既にケイブの射程範囲です。いつ死ぬか分からないは、私達衛士だけではなく民間人にも当てはまります。運が悪かった、と諦めてもらうしかないでしょう」
「そんな!」
「言いたいことはわかります。助けたい気持ちは私も一緒です。しかし現実問題衛士の減少は民間人の被害に直結します。一人でも衛士を生かしてその数を維持するのが最適解なんです。それが民間人を守ることにも繋がる」
真昼は端末を操作して映像を消す。そして扉を開けて言った。
「これから新戦術の実戦訓練をします。横浜衛士訓練校から高性能シュミレーターを持ってきているので、油断しないように。傷や痛みは本物と同じレベルに設定します。AIを搭載したデストロイヤーと民間人を含めた市街地戦です。現実と同じだと思って訓練するように」