残酷な描写あり
R-15
真昼の姉妹について①
◆
まずは一人目の姉妹誓約、私のお姉様だった夕立時雨の話をしようかな。妹のシノアちゃん達にはあまり話したくないんだ。私がそうあれ、と望んでいると勘違いさせちゃうといけないから。
姉は姉、妹は妹、と区切りはつけていたんだ。だからこの話を聞いてもあまり風聴しないでくれると嬉しいかな。
うん、ありがとう。
私が横浜衛士訓練校に入学したのは家族の為だった。私の家は貧困でも裕福でもなかったけど、衛士の家族には莫大な支援金が配られる。だから家族の役に立ちたいと思ったのが最初の理由。
私の適正数値は50で、実技と座学の点数が良かったから補欠合格になった……っていう事になってるけど、補欠合格の条件に一つに突き抜けた何かがあるっていうのが条件なんだ。
それが私のラプラスの力だと思う。カリスマと似ているが、しかし効果が違うのでスキルども断言出来ない、でも優秀な能力を秘めていそうだから入学させよう、そんな感じだったんじゃないかな。
当時は私が自分がラプラスを持っているって知らなかったから、私は無意識に人を支配していた。といっても私が近くにいると体調や成績が良くて気分が良くなるから自然と私に好意的になる、そんな感じ。
そうして私はクラスの人気者になった。
誰もが私に好意的で、先輩も気軽に話しかけてきて、色々教えたり、配慮してくれる。私は子供の頃からそうだったから、それが当たり前だと思っていた。だから不自然に思わなかったけど、不自然に思った人がいたんだ。
そう。それが時雨お姉様。
時雨お姉様はユーザーザインで色々できる人だった。だからこそ自分を消す事はできても、自分を目立たせる事はできなかった。する必要もなかっただろうしね。
時雨お姉様は、よく言われるように優秀な人だったけど、自己中心的な、利己的な部分が強くあって、都合の悪い事は全部消してしまう癖があったんだ。
でも私の記憶に関する記憶は消さなかった。いや、もっと正確に言うなら消しにくかった。まるでは既に誰かの支配を受けているように時雨お姉様の能力に対抗したんだ。
そこで時雨お姉様は自ら乗り込んで調べにきたわけなの。
入学してすぐに学園を掌握する一ノ瀬真昼は何者で、何を考えているのか、それを見定める為に。
時雨お姉様は休み時間に私の前に現れるとこう言った。
「やあ、初めまして。私は夕立時雨。この騒ぎは君の仕業なのかな?」
最初は意味がわからなかったけど、今思い返してみれば支配しているのは君の仕業か? って直接的に言ってきたんだよね。でも当時の私は無意識でやってから、「何の話ですか?」って言ったんだ。
そこで時雨お姉様は私の監視を兼ねて、一緒に過ごすようになっていったんだ。向こうも私に興味があったみたいだし、私も先輩に教えてもらうことができれば優秀な衛士になれると思ってそれを受け入れた。
それが続いて、ある時、時雨お姉様は記憶を消して人を操作している場面を私に見られたんだ。私は本人の同意なく人の精神を操ることが悪いことだと思ったから糾弾した。今思えば、お前が言うな、って話なんだけどね。
「人の記憶を消すのが悪い? 君も当たり前にやっていることじゃないか。おかしいと思わなかったのかい? 自分に最初から好意的なクラスメイトに、見知らぬ先輩達。全部君が自分に好意を持つようにしてるからそうなっていたんだよ」
それを言われて初めて自分の異常性に気付いた。
「ボクには耐性があるから効果が無いようだけど、誰も言わないから言ってあげるよ。補欠合格の君に対等に接するのも、そもそも補欠合格したのも、全部君の能力のおかげだ。君自身の性格や言動のお陰じゃない」
ハッキリと、言われた。
私は自分の努力のおかげって思ったけど、ラプラスの能力のおかげだったんだって。
私自身には何も価値がないんだって教えられた。
でもその時、ふと思ったんだ。自分とは真逆の、自分を消すことができるしぐれお姉様は自分のことをどう思っているんだろうって。
「ボクが、この能力をどう思っているか、だって? 便利な能力だよ。日常生活でも、戦闘でも、役に立つスキルだ」
でも、それって、何でも都合の良いようにできるなんて人間性を失っていきませんか? どうせ後で都合の良いようにするから別にいいやって生きることが乱雑になりませんか?
「……それは君も同じことだろう。常に他人に好意だけを持たれて好きなように振る舞える。そんな人間がまともな感性を持つ、維持できるはずが無い」
かもしれません。私が優しくされるのが当たり前で、尊重されるのが当たり前で。
そんな風に生きてきました。
「随分と幸せな生活だね。それが何で衛士なんかになったんだい?」
家族の為に。
お金の為に。
そして出来るなら誰かを不幸から救って、幸せを守りたいから。
「発想が凡人だ。何故だ? ボクと君で何が違う。力は方向性は違うが人を操ると言う意味では同じはずだ。にも関わらず何故そんなに当たり前の台詞が言える? 何故そんなに凡人共に気を使う? 全部めちゃくちゃにしちゃえば良いじゃ無いか」
めちゃくちゃ?
「人が幸せを見てると妬ましく無いのか? 人が不幸に陥った時に優越感を感じないのか? それを好きに起こせるはずだ、君のその力なら。馬鹿みたいに笑って生きている奴らみんな不幸の底に落として踏みつけることが……!」
時雨様はそれがしたいんですか?
「わからない。だが惨めになる。ボクが好きに動かしている筈なのに、まるで一人遊びをしている子供のように自分が滑稽で馬鹿みたいに思えてくる。それも全部、凡人共が私より幸せそうにしているから……!」
時雨様はご自分のことを不幸だと思っているんですか? 人を操る力を持っていることを不幸だと感じているですか? 他人を操れてしまうから、他人の気持ちを信じられない。
そんな状態にあるんじゃないですか?
「黙れ」
私は今、自分が他人を操っていた事を知りました。それはもしかしたら自分の意思でオンオフできるようなものじゃなく、一生付き合っていかなきゃいけないものかもしれません。でも、私が支配していたとしても行動自体は実際に起きた事です。それを受け入れてしまえば、たとえ自分が操って他人を操作して得たものだとしても、受け入れられるものではありませんか?
「それは何も知らず生きていた君だから言える理論だ。常に自分で都合のように記憶を操作できる状態で生きてきたボクが、今更そんな事できるわけないだろう。他人は全部NPCで、ボクはそれを操るプレイヤーだ」
じゃあ、私の能力が効かず、また私にもその能力が効かないなら、同じプレイヤーという事になりますね。
「何を言っている」
人を操る者同士、そして操縦者同士には干渉できない。お互いの力が反発して支配も記憶消去もできない。なら私達は他人です。世界で唯一、本当の意味で他人です。
時雨様の例えするなら、この人生というゲームで数少ないプレイヤー同士という事になりますね。
「……」
そして今はデストロイヤーという共通の敵がいる。ならプレイヤー同士、協力しても良いんじゃないでしょうか?
「協力? 君と?」
そうです。私達は衛士として戦う立場にあります。その経緯は置いておいて、人を操る能力者同士協力すれば、絶対に負けないプレイングができると思いませんか?
人間にも、デストロイヤーにも。
「だから、協力か。あはは。確かに、ゲーム理論で言えば協力するのが最善だね。生存率も上がるし、戦闘力も上がる。君のその他者を支配する能力の本質は他者を最適化して補助、強化する事で、君に従うと良い結果が得られると無意識から心を屈服させる事だ。戦闘面に限られば味方の能力を大きく引き上げるキーパーソンになるだろう」
そ、そうなんですね?
「自覚していないのが問題だけど、わかった良いだろう。ボクは君と協力しよう。そしてボクは」
そして、私と時雨様は姉妹誓約の契りを結び、初代アールヴヘイムに捩じ込まれ、活躍を始めた。その間にも美鈴お姉様の監修のもと能力のオンオフ、強弱、増幅減衰、発展展開など強化していった。
結局のところ、後から知っていった時雨お姉様の状態的に『自分と同じ能力を持ち、自分の思想や言動を認めてくれる対等な理解者』が欲しかったんだと気が付いた。
先輩後輩という間柄だったけれど、同じプレイヤーとして接していたからこそ、私と時雨お姉様は強く繋がれたのだと思う。
こんな感じかな。色々省略したけど、私と時雨様の出会いはこんな感じだよ。
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まずは一人目の姉妹誓約、私のお姉様だった夕立時雨の話をしようかな。妹のシノアちゃん達にはあまり話したくないんだ。私がそうあれ、と望んでいると勘違いさせちゃうといけないから。
姉は姉、妹は妹、と区切りはつけていたんだ。だからこの話を聞いてもあまり風聴しないでくれると嬉しいかな。
うん、ありがとう。
私が横浜衛士訓練校に入学したのは家族の為だった。私の家は貧困でも裕福でもなかったけど、衛士の家族には莫大な支援金が配られる。だから家族の役に立ちたいと思ったのが最初の理由。
私の適正数値は50で、実技と座学の点数が良かったから補欠合格になった……っていう事になってるけど、補欠合格の条件に一つに突き抜けた何かがあるっていうのが条件なんだ。
それが私のラプラスの力だと思う。カリスマと似ているが、しかし効果が違うのでスキルども断言出来ない、でも優秀な能力を秘めていそうだから入学させよう、そんな感じだったんじゃないかな。
当時は私が自分がラプラスを持っているって知らなかったから、私は無意識に人を支配していた。といっても私が近くにいると体調や成績が良くて気分が良くなるから自然と私に好意的になる、そんな感じ。
そうして私はクラスの人気者になった。
誰もが私に好意的で、先輩も気軽に話しかけてきて、色々教えたり、配慮してくれる。私は子供の頃からそうだったから、それが当たり前だと思っていた。だから不自然に思わなかったけど、不自然に思った人がいたんだ。
そう。それが時雨お姉様。
時雨お姉様はユーザーザインで色々できる人だった。だからこそ自分を消す事はできても、自分を目立たせる事はできなかった。する必要もなかっただろうしね。
時雨お姉様は、よく言われるように優秀な人だったけど、自己中心的な、利己的な部分が強くあって、都合の悪い事は全部消してしまう癖があったんだ。
でも私の記憶に関する記憶は消さなかった。いや、もっと正確に言うなら消しにくかった。まるでは既に誰かの支配を受けているように時雨お姉様の能力に対抗したんだ。
そこで時雨お姉様は自ら乗り込んで調べにきたわけなの。
入学してすぐに学園を掌握する一ノ瀬真昼は何者で、何を考えているのか、それを見定める為に。
時雨お姉様は休み時間に私の前に現れるとこう言った。
「やあ、初めまして。私は夕立時雨。この騒ぎは君の仕業なのかな?」
最初は意味がわからなかったけど、今思い返してみれば支配しているのは君の仕業か? って直接的に言ってきたんだよね。でも当時の私は無意識でやってから、「何の話ですか?」って言ったんだ。
そこで時雨お姉様は私の監視を兼ねて、一緒に過ごすようになっていったんだ。向こうも私に興味があったみたいだし、私も先輩に教えてもらうことができれば優秀な衛士になれると思ってそれを受け入れた。
それが続いて、ある時、時雨お姉様は記憶を消して人を操作している場面を私に見られたんだ。私は本人の同意なく人の精神を操ることが悪いことだと思ったから糾弾した。今思えば、お前が言うな、って話なんだけどね。
「人の記憶を消すのが悪い? 君も当たり前にやっていることじゃないか。おかしいと思わなかったのかい? 自分に最初から好意的なクラスメイトに、見知らぬ先輩達。全部君が自分に好意を持つようにしてるからそうなっていたんだよ」
それを言われて初めて自分の異常性に気付いた。
「ボクには耐性があるから効果が無いようだけど、誰も言わないから言ってあげるよ。補欠合格の君に対等に接するのも、そもそも補欠合格したのも、全部君の能力のおかげだ。君自身の性格や言動のお陰じゃない」
ハッキリと、言われた。
私は自分の努力のおかげって思ったけど、ラプラスの能力のおかげだったんだって。
私自身には何も価値がないんだって教えられた。
でもその時、ふと思ったんだ。自分とは真逆の、自分を消すことができるしぐれお姉様は自分のことをどう思っているんだろうって。
「ボクが、この能力をどう思っているか、だって? 便利な能力だよ。日常生活でも、戦闘でも、役に立つスキルだ」
でも、それって、何でも都合の良いようにできるなんて人間性を失っていきませんか? どうせ後で都合の良いようにするから別にいいやって生きることが乱雑になりませんか?
「……それは君も同じことだろう。常に他人に好意だけを持たれて好きなように振る舞える。そんな人間がまともな感性を持つ、維持できるはずが無い」
かもしれません。私が優しくされるのが当たり前で、尊重されるのが当たり前で。
そんな風に生きてきました。
「随分と幸せな生活だね。それが何で衛士なんかになったんだい?」
家族の為に。
お金の為に。
そして出来るなら誰かを不幸から救って、幸せを守りたいから。
「発想が凡人だ。何故だ? ボクと君で何が違う。力は方向性は違うが人を操ると言う意味では同じはずだ。にも関わらず何故そんなに当たり前の台詞が言える? 何故そんなに凡人共に気を使う? 全部めちゃくちゃにしちゃえば良いじゃ無いか」
めちゃくちゃ?
「人が幸せを見てると妬ましく無いのか? 人が不幸に陥った時に優越感を感じないのか? それを好きに起こせるはずだ、君のその力なら。馬鹿みたいに笑って生きている奴らみんな不幸の底に落として踏みつけることが……!」
時雨様はそれがしたいんですか?
「わからない。だが惨めになる。ボクが好きに動かしている筈なのに、まるで一人遊びをしている子供のように自分が滑稽で馬鹿みたいに思えてくる。それも全部、凡人共が私より幸せそうにしているから……!」
時雨様はご自分のことを不幸だと思っているんですか? 人を操る力を持っていることを不幸だと感じているですか? 他人を操れてしまうから、他人の気持ちを信じられない。
そんな状態にあるんじゃないですか?
「黙れ」
私は今、自分が他人を操っていた事を知りました。それはもしかしたら自分の意思でオンオフできるようなものじゃなく、一生付き合っていかなきゃいけないものかもしれません。でも、私が支配していたとしても行動自体は実際に起きた事です。それを受け入れてしまえば、たとえ自分が操って他人を操作して得たものだとしても、受け入れられるものではありませんか?
「それは何も知らず生きていた君だから言える理論だ。常に自分で都合のように記憶を操作できる状態で生きてきたボクが、今更そんな事できるわけないだろう。他人は全部NPCで、ボクはそれを操るプレイヤーだ」
じゃあ、私の能力が効かず、また私にもその能力が効かないなら、同じプレイヤーという事になりますね。
「何を言っている」
人を操る者同士、そして操縦者同士には干渉できない。お互いの力が反発して支配も記憶消去もできない。なら私達は他人です。世界で唯一、本当の意味で他人です。
時雨様の例えするなら、この人生というゲームで数少ないプレイヤー同士という事になりますね。
「……」
そして今はデストロイヤーという共通の敵がいる。ならプレイヤー同士、協力しても良いんじゃないでしょうか?
「協力? 君と?」
そうです。私達は衛士として戦う立場にあります。その経緯は置いておいて、人を操る能力者同士協力すれば、絶対に負けないプレイングができると思いませんか?
人間にも、デストロイヤーにも。
「だから、協力か。あはは。確かに、ゲーム理論で言えば協力するのが最善だね。生存率も上がるし、戦闘力も上がる。君のその他者を支配する能力の本質は他者を最適化して補助、強化する事で、君に従うと良い結果が得られると無意識から心を屈服させる事だ。戦闘面に限られば味方の能力を大きく引き上げるキーパーソンになるだろう」
そ、そうなんですね?
「自覚していないのが問題だけど、わかった良いだろう。ボクは君と協力しよう。そしてボクは」
そして、私と時雨様は姉妹誓約の契りを結び、初代アールヴヘイムに捩じ込まれ、活躍を始めた。その間にも美鈴お姉様の監修のもと能力のオンオフ、強弱、増幅減衰、発展展開など強化していった。
結局のところ、後から知っていった時雨お姉様の状態的に『自分と同じ能力を持ち、自分の思想や言動を認めてくれる対等な理解者』が欲しかったんだと気が付いた。
先輩後輩という間柄だったけれど、同じプレイヤーとして接していたからこそ、私と時雨お姉様は強く繋がれたのだと思う。
こんな感じかな。色々省略したけど、私と時雨様の出会いはこんな感じだよ。
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