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作者: 甲斐てつろう
#4
『ヒーローに、ならなきゃ。』
現れた赤銀の巨人、ゼノメサイア。
勢いよく変身したはいいものの明らかに足下を気にしていた。

『クッ……』

前回は何も考えずに戦った結果大勢を巻き込んでしまった。
今回は人々を踏み潰さぬように気をつけるがそれだと上手く立っていられない。

「グギェエエエッ!!」

マルコシアスは翼を広げながら滑空して突っ込んで来る。

『オォワッ……』

それを何とか避けるがまた変なバランスで体勢を崩しそうになってしまう。

『クゥゥッ……』

やはり人を気にしていてはまともに戦えない。

「グォォォォォッ」

マルコシアスは再び滑空に入る。
そして爪でゼノメサイアの胸を切り裂いた。

『ウアッ、グゥッ』

まともに防ぐ事が出来ず往復で背中にも食らってしまう。
そしてとうとう地面に倒れ込んでしまった。
建物が崩れる感触が皮膚に伝わる。

『あぁ、やっちゃった……!』

それでもマルコシアスは止まってくれない。
何とか身体を起こして構える。

『ハァァッ!』

するとマルコシアスは上半身を前に倒した。

「ギエンッ」

『ッ……⁈』

よく見ると背中にいくつもの"銃口"のようなものが付いている。
嫌な予感がした。

「ギュオォォォォッ!!!」

その銃口から大量のミサイルのようなものを発射した。

『ハァッ⁈』

何とか足下を気にしながらも横に避ける。
しかし何とミサイルは追尾性能付きだった、全弾背中に命中してしまう。

『ウアァァァッ……!!』

背中が物凄く熱かった。
もがき苦しむ事しか出来ない。

『グゥッ……』

せめて人さえいなければと考える。
周りを見るとやはり逃げている人々が大勢いた。
しかしその人たちも戦っていては見えない。

『クソっ、人さえ居なければ……!!』

しかしそんな事を考えている間もマルコシアスは待ってはくれない。

「ギエェェェッ!!」

鳥のような足でゼノメサイアの肩を鷲掴みし空へと連れ去って行った。

『ドォォアァァァッ……』

鋭い爪が肩に食い込んで痛い。
そんな間にもマルコシアスはどんどん高く飛んでいく。
間違いなくコレは落ちたら死ぬ。
そんな事を考えながらゼノメサイアはただされるがままに空に連れ去られて行った。

「ギュオォォォォ!!」

そして軽く雲を越えた辺りでマルコシアスは大量のミサイルを放った。
遠くから円状になって徐々にこちらに向かって来ている。

『まさか……』

着弾するタイミングで離して一気に食らわせるつもりなのでは。
そんな事をされては流石に死んでしまう。
徐々に迫る大量のミサイル。

『ヤバい、このままじゃ死ぬ……!』

快はまだ死ぬ訳にはいかない、何故ならまだヒーローになれていないから。
誰かに必要とされるヒーローになるまでは絶対に死んではいけないと言い聞かせて来た。
そしてようやく1人応援してくれる者が現れたばかりなのだ。

『与方さん……!』

快の頭には愛里の顔が浮かんでいる。
せっかく英美さんが託してくれたのだ、彼女のためにも死ぬ訳にはいかない。

『おおぉぉぉっ!!』

そして一気に覚悟を決めた。

『オラァァァッ!!』

マルコシアスの足の爪と皮膚の間に指を突っ込んでグリグリとほじくる。

『オォォォッ……!』

「ギエェェェアッ……」

マルコシアスはあまりの痛みに悶え苦しんで暴れる。
爪の間からは血が流れて来た。

『オォッ!』

それでもやめない、だんだんと高度が下がって来た。
そして。

「グガァァァァッ!!!」

ゼノメサイア目掛けて放たれたミサイルはマルコシアス自身に命中した。
その衝撃でゼノメサイアを離してしまう。

『あ』

支えるものを失ったゼノメサイアは落下していく、そこまでは考えていなかった。
今この高度で落とされては流石に死んでしまう。

『オワァァァァッ!!!』

落下速度は勢いを増していく。

『やばいやばいやばいやばい』

徐々に地面が近づいていく。
このままでは死んでしまうだろう。

『あぁダメだ!俺はまだ死ぬ訳には……!』

落下しながら空に浮かぶ月に手を伸ばす。
まだ羽ばたけていない、スタートラインに立ったばかりなのだ。
こんな所で死ぬ訳にはいかないと心で叫ぶ。

『くぅっ……』

しかしあまりの恐怖に目を閉じてしまう。
地面まであと少しだ。

そして時間が過ぎる。

五……

四……

三……

二……

一……





『………あれ?』

いつまで経っても地面の感触がしない。
何よりまだ生きているのだ。

『何だ……?』

恐る恐る目を開けてみる。
すると。

『ッ……⁈』

なんと自分の身体が宙に浮いていた。
これもゼノメサイアの能力だというのだろうか。

『浮いてる……いや、飛んでる!』

そこで愛里が英美に言われたというのあの言葉を思い出す。
快は今夢に向かって羽ばたいたのだ、だから飛んでいる。
そう納得し自由に飛んでみせた。

『おぉ、飛んでる……飛んでるぞぉ!』

そこに煙を纏いながらマルコシアスが降りて来る。
傷だらけだ。

「ギャルルル……」

『……!!』

あれだけの威力の攻撃を受けてまだ生きているとはとてつもない生命力の持ち主のようだ。

『でもこれなら!!』

しかしこれなら地上に被害を出す事はない。
突然自信に満ち溢れゼノメサイアは更に高く飛翔した。

『デリャアァァァァッ!!!』

高い空で風を切って飛ぶ。
下からマルコシアスが追いかけて来ているが明らかにスピードは落ちている。
なのでこちらの方が速い。

「ギャエエエッ!!」

背中から大量のミサイルを放つ。

『ハッ、セヤッ!』

しかしゼノメサイアはそれらを全て華麗にかわしていく。
この空中での機動力にマルコシアスは驚いていた。
そしてそのままゼノメサイアは一気に下降しマルコシアスの顔面に蹴りを入れた。

『ハッ!』

マルコシアスの顔が大きく歪む。

「ギャオォォ……」

そのまま力を無くして落ちて行くマルコシアス目掛けてゼノメサイアは空中でエネルギーを溜めた。
そして一気にそれを放つ。

『ライトニング・レイ!!!』

神の雷は一直線にマルコシアスへと向かっていった。
そして命中。

「グゴオォォォ……ッ!!」

そのまま空中で大爆発を起こし消滅した。
ゼノメサイアの勝利である。

『はぁ、少しはヒーローっぽくなれたかな……?』

そんな事を考えながら快は人間態に戻り帰宅するのであった。





その後マルコシアスとゼノメサイアが現れた地区は停電。
快と美宇の家は何とか無事だった、空中で戦い被害を減らしたお陰だろう。

「…………」

相変わらずただいまは言わない。
激戦を終えて電気の消えた自宅に帰って来ると姉である美宇が駆けてきた。

「あぁ〜よかったぁ!」

前回同様泣きながら抱きしめてくる。

「ちょ、避難してなかったの⁈」

「バイト先に電話したら帰ったっていうから!心配でずっと待ってたの……!!」

やはり快は姉に死ぬ直前の母親を重ねてしまう。
愛情というものが何なのか余計に分からなくなった。

「もう、疲れたから!」

そう言って無理やり引き剥がし部屋へと向かった。



キャンプ用のランタンだけが灯された部屋に戻った快はベッドに寝てスマホを見ていた。

「(与方さんのLINE、これか)」

愛里にお礼が言いたかったためクラスLINEから彼女を追加して個人チャットにメッセージを入力する。
今日の勝利は彼女の言葉によるものが大きい、彼女のお陰で夢に羽ばたく事が出来た。

「"今日はありがとうございました"、違うな……」

何と打てばいいか分からずに迷う。

「まずは無事を報告した方がいいのか……」

愛里に何と送るべきか試行錯誤していると。


『また罪獣出たけど無事ですか?よければお返事下さい』


何と愛里の方からLINEを送ってきたのだ。

「!!」

向こうから来た事に驚いて思わず固まってしまうが返事を送る事にした。

『無事です。与方さんと英美さんの言葉のお陰で少しだけヒーローに近づけた気がします、ありがとう』

そう返すと即座に返事が。

『無事でよかった!夢に近づけたのもよかったね!』

先ほどまで丁寧語だったのが砕けた口調に変わった事で安心しているのが伝わって来る。

「……ははっ」

まだまだヒーローとしては未熟すぎるが応援してくれる者が1人現れた。
これはきっと救いになる事に違いないだろう。

そんな快の首にはグレイスフィアがネックレスとして掛けられていた。




つづく
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