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作者: 甲斐てつろう
#2
『ヒーローに、ならなきゃ。』
そんな風に瀬川とConnect ONEの話をしていると後ろから声を掛けられた。

「何コソコソ話してるの?」

なんとそれは愛里だった。
この話が聞かれてしまえば更に傷付けてしまうかも知れない。

「いや何でもないんだ……」

何とか誤魔化そうとするが意味はなかった。

「えー?Connect ONEが凄いとか言ってたじゃん」

聞かれてしまっていた。

「確かに凄かったよね、純希くんと遠くから見たけど凄い迫力だったよ〜」

もうバレてしまっては仕方がないので快は心配していた事を聞く事にした。

「大丈夫なの?この話して……」

すると愛里はやはり違和感のある笑顔を見せて返す。

「うん、乗り越えて行かなきゃいけない事だから。目を背けてても仕方ないもんね」

そしてあの人物を話題に出した。

「英美ちゃんは逃げずに立ち向かって行った、私もそんな風になりたいの」

英美という名を聞いて快の心には刺さるものがあった。

「英美さんか……」

「うん、どんなに辛い時でも頑張って前に進んだのを見習わなきゃね」

そして快に向かっても言う。

「まずは陸上競技大会だね!」

「あぁ……」

「快くんもヒーロー目指してるなら一緒に頑張ろ!」

手を差し伸べて来るが正直今の快は複雑だった。
少し成長したと思えたが結局まだヒーローとは思われていないのが窺える愛里の発言からまた少し卑屈になってしまった。

「うん、一緒に……え?」

視線は合わせずとりあえずその手を取り握手をした。
そこで気付く、愛里は今"陸上競技大会"と言った。
自分は今年も出ないつもりだったのに一緒に頑張るとつい言ってしまったのだ。





そして体育の時間、クラス対抗陸上競技大会の練習が始まった。
快は個人種目の中で不人気のため余った走り幅跳びを選択し下手くそなジャンプを見せていた。

「二メートル二五!」

全然記録が伸びず自分の力不足を不甲斐なく感じる。

「(クッ、与方さんにも頑張るって言っちゃったのに……)」

愛里との約束を思い出し悔しがる。

「いまいち記録伸びないねぇ……」

担当の先生も快の跳んだ距離を測ってそう呟いた。
他の生徒たちは軽々と三メートルを越える記録を出していると言うのにこのままでは最下位確定だ。

「(ヒーローになれない、寧ろ足を引っ張ってる……)」

もしクラスが負ける事があれば快の責任はかなり大きくなってしまうだろう。
その時の気まずさを想像してしまい震える。



休憩時間となり水飲み場に行くと行列が出来ていたため快はグラウンドの石垣に腰掛けていた。
すると瀬川が隣にやって来る。

「おう。与方さんとの約束、本当に出るのか?」

「そりゃ今更断れないよ、あんな風に言っちゃったから……」

それにはもっと別の理由もあった。

「それに今の与方さん、危なっかしいし……」

現在の愛里の様子のおかしさは見抜いていた。
彼女こそ無理をしているのではないのだろうか。

「んで、お前自身の調子はどうなんだ?」

「最悪だね」

「やっぱりな、無理すんなって……」

持って来ていた水筒で水分を補給しながら二人は話す。

「やっぱりまだ事件のこともあるだろ……?」

「いやそれは良いんだ、寧ろ乗り越えたと思ってるよ」

そして純希や愛里との出来事から成長できた事を伝える。

「事件の時は何も出来ない自分に落ち込んだけどさ、純希や与方さんと接して少しずつ出来る事から成長していけば良いって分かったんだ」

「おぉ、それ良いじゃん」

「でもさ、改めて自分に出来る事を考えてみたら余りにも周りとの差が凄くてさ。成長して行ったとしてもその頃には周りはもっと高い所にいる、そう思っちゃってね……」

「なるほどなぁ……」

「このままだと与方さんとの約束は守れても俺自身を守れない……」

今の快の悩みを理解し頷く瀬川。
何かアドバイスをしてやれないかと考える。
その間にも快のネガティブは加速していった。

「走り幅跳びでもクラスの足引っ張っちゃうだろうしそれでもし負けたとしたら責任を感じて余計クラスにいづらくなるだろうなぁ……」

そしてその快の言葉を聞いた瀬川は閃いた。

「よし、じゃあ分かった。俺も覚悟決めるよ」

「何が?」

「今年は俺も出る!勝たせてやるから安心しろ!」

なんと今までワイワイしたのが嫌いだからという理由で出ていなかった瀬川が陸上競技大会に出る事を宣言したのだ。

「いいの?こーゆーの嫌いなんじゃ……」

「確かにお前を悪く言ったような奴らが喜ぶ大会だ、本当はプライド的にもそいつらの協力なんてしてやりたくねぇんだが」

しかし宣言した。

「でもお前が責任感じるかも知れないなら勝たせてやらなきゃ!そっちの方が大事だ、俺がいりゃ絶対勝てるからよ!」

確かに瀬川は器用で運動神経もバツグンだ。
徒競走の練習の記録もぶっち切りだったらしく居れば確実に戦力になるだろう。

「一緒にヒーローになろうぜ!」

「……ありがとう」

少し安心したように微笑む快であった。





快と瀬川がそんなやり取りをしている最中、グラウンドでは愛里が休憩時間なのにも関わらず走る練習をしていた。

「はっ、はっ……」

立ち止まった所で心配するように咲希が近づきペットボトルの水を渡す。

「休憩時間なんだから休憩しなよ」

「ありがと」

しかし愛里は水を受け取り一気に半分ほど飲み干すとペットボトルを咲希に返し言った。

「でも頑張らなきゃ、英美ちゃんみたいに強くなって辛いこと乗り越えないと……!!」

そしてまた走り出す。
その背中を見ながら咲希は呟いた。

「アイツが強い?バカ言わないでよ……」

英美の顔を思い浮かべながら何やら意味深な言葉を呟く咲希の真意は一体どんなものなのだろうか。





つづく
つづきます
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