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作者: 甲斐てつろう
#3
『ヒーローに、ならなきゃ。』
快は朦朧とした意識の中で目を開ける。
するとそこはいつも通っている精神科の待合室だった。
子供たちが無邪気に走り回っている。

「うぇえええんっ」

目の前の席に座る赤ちゃんが泣き出してしまった。
抱いている母親は泣き止まない我が子を大変そうにあやしている。
そこへ快が立ち上がる。

「ホラ、怖くないよ」

玩具を手に取った快が見事に赤ちゃんを泣き止ませた。

「ありがとうございますっ」

母親から感謝され優越感に浸る。
しかし快は余裕を見せていた。

「いえいえ、良かったです!」

親指を立てて笑顔を見せる快の姿はまるで理想のヒーローそのものだった。



次に快は駅付近の路地裏にいた。

「ポテトいる?」

「いらないですっ」

不良たちにに女性が絡まれている。
明らかに嫌そうだ。
そこへヒーローが現れる。

「はぁぁっ!」

快が華麗なキックを決めて不良たちを追い払った。

「覚えてろよ〜!」

助けられた女性は嬉しそうにしている。

「ありがとうございますっ!」

「無事で何よりです!」

ヒーローとして認められた快は満足そうにまた親指を立てた。



その足で自宅へと戻った快。
玄関の扉を開けるとある人物が迎えてくれた。

「快、お疲れ!」

「今日もヒーロー頑張ったみたいね!」

それは死んだはずの両親だった。
快の記憶とは裏腹に温かく迎え入れてくれる。

「父さん、母さん!」

そのまま居間に上がろうとした時、両親は一度快を呼び止めた。

「そうだ、言い忘れてたよ」

「何?」

そしてある一言。
それは快の深層心理を表した言葉でもあった。


「おかえり!」


まるで家族の象徴であるかのような優しい言葉。
快は両親に言った事のない言葉。
その言葉を聞いた快は笑顔で答えたのだった。

「ただいま!」




しかし現実の快は美宇と言い合いをした後、自室のドアに背をつけて眠っていた。
夢の中で快は理想を叶えていたのである。

「フォオオオオン……」

快の精神の中に第六ノ罪獣デモゴルゴンが入り込んでいるのだ。
ヤツは一体何をしようとしているのだろうか。





更なる夢の続きの中で快は両親と共にカナンの丘に来ていた。
そこに聳える一本の木の下で星を眺めている。

「そいえば父さん」

「何だ?」

快は父親に気になった事を聞いてみる。

「あの時、俺に言おうとしてた事って何だったの……?」

それは死ぬ前に父親が言おうとしていた事。
美宇も知らないと言っていたためここで聞いてみる。
しかし。

「あの時ってどの時だ……?」

父親はポカンとした表情をする。

「え、あの時……」

それに一度驚く快であったが彼自身もすぐに分からなくなった。

「……って何だっけ」

快も完全に忘れてしまっていた。
そもそも両親はここで生きているのである。

「良いじゃない、今こうして快は立派にヒーローしてるんだから」

そこで母親がまとめる。

「そうだね、ようやく夢が叶ったんだから」

今日助けた人々の笑顔を思い出す。
誰もが自分を讃えていた。

「みんなに愛されてる気がするよ」

快の心は優越感で満ちていた。
ホッと胸を撫で下ろしていると背後から声が聞こえる。


『目を覚まして!これは現実じゃない!』


その声に驚き快はハッと後ろを見たが何もいない。

「どうしたの?」

母親が問うので快も答えた。

「いや、何か声が聞こえた気がして……」

しかし今はその声が何と言っていたのかすら分からない。
ただ何処か懐かしく感じる両親との時間を過ごす事を優先し快はもう一度前を向いたのだった。





一方ここはConnect ONE本部。
休憩室でTWELVEの隊員たちが暇そうにしていた。

「あー罪獣出ねぇと暇だなぁ」

紙コップのコーヒーを片手に伸びをする竜司。
共にいた陽も同情する。

「訓練とか報告以外にする事ないもんね……」

「そのうえ罪獣が出た時のために待機だろ?外出れねぇし何なら娯楽施設でも作って欲しいもんだぜ」

そう言って辺りを見回す。
確かに竜司が暇になるのも仕方ないほどに何もない。
ただ軍事施設として必要最低限の設備だけがそこにはある。
すると視界に休憩室に入ってきたばかりの職員が入ってきた。

「ここを何のための場所だと思ってる?れっきとした軍事施設だ、お前らの暇つぶしの場所じゃない」

いつものように嫌味を言う元自衛官や警官の集まりである彼ら。

「また俺らに仕事奪われたとか言いに来たのか?悪いけど俺らも訳も分からず"必要だから"って言われて来てるだけなんだよ」

「それは分かってる、俺たちじゃ機体と接続できない事もな」

そんな一言の後に続ける。

「だからこそお前らは俺ら全員の期待を背負っている事になる、今みたいな態度の奴のためにモチベ上げて仕事できると思うか?」

割と正論を言われて何も言い返せない竜司。

「まぁ確かに……言えてる」

「だから俺らの事も考えて待機してる時間も仕事だと思ってくれ」

そんな話をしていると小さな影が。

「誰があんた達のためなんかに働くかっつーの!」

持参の水筒に入った自分で淹れたコーヒーを飲みながら彼らの間を割って入っていく蘭子。
偉そうに竜司たちとも離れた席にドカっと座った。
そのまま何事も無かったかのように携帯ゲーム機の電源を入れてヘッドホンを身につける。

「うわ切断厨とか死ねっ!」

オンラインゲームでの相手にキレる様子を見た職員たちは更なる怒りを募らせた。

「おい」

「最近こんなんばっか、手応えあるやつがいない……っ」

「おいっ!」

ヘッドホンのせいか全く聞こえていない蘭子に痺れを切らして机を思い切り叩く職員。

「何っ⁈」

蘭子は逆ギレしてヘッドホンを外しそちらを見た。

「舐めてんのか……?」

「何が?」

「今は待機の時間だろ?こんなもんして緊急警報が聞こえなかったらどうする⁈」

ヘッドホンを指差して怒りをぶつける職員。
しかし蘭子は全く反省する様子がない。

「ウザ、聞こえるくらいのボリュームにしてるから良いでしょ」

その発言が更に職員の怒りを煽る。

「そういう問題じゃないだろ!プロとして雇われたからにはしっかりしろって意味だよ!!」

怒号を聞いて一瞬五月蝿そうな表情をした蘭子は竜司とは違い言い返した。

「あたしにそんな意思はない、ただ新生さんが舞台を与えてくれたからやってるだけ!」

「舞台?何の事だ」

「教えないっ!」

そのやり取りに呆れた職員はため息を吐いた。

「ったく子供かよ、つくづく何でコイツらなんだって思っちまう……」

その蘭子を見下すような言葉に本人はこう返す。

「あたしにはこれしか無いの、変なプライドで勝手に羨んで居場所奪わないでよ……」

その言葉に陽が反応した。

「(居場所って……)」

新生長官に言われた事。
ここが居場所になるまで頑張ろうと思っていた最中である。

「コイツだって羨むのやめる事出来たんだから」

「え、あ……うん」

蘭子はそんな陽を指差して言う。
陽はただ頷くだけだった。

「何で俺らがお前らを羨んでる事になる……?」

「世の中そーゆーもんだってコイツが言ってたからだよ」

そして陽に全ての責任を押し付けるような発言をしてその場を去って行く蘭子。

「え、ちょ……!」

急に責任を押し付けられるような形になり戸惑う陽。

「待って……っ!」

慌てて何とか職員たちをくぐり抜け蘭子を追いかける。

「んじゃ失礼しまっす……」

どさくさに紛れて竜司も退散した。





去って行く蘭子を追いかける陽と竜司。
以外と蘭子は歩きが速く追いつくのに時間が掛かった。
その内に居住区に辿り着いていたのだ、住み込みの者たちが暮らす所である。

「ここあたしの部屋だからこれ以上着いて来ないで」

いい加減ウザいと感じたのか振り返って二人に言う蘭子。
しかし竜司は引き下がらなかった。

「あのなぁ、俺たち仲間なんだからもうちょっと愛想良くしようぜ?職員たちも……」

そこまで言いかけた所で蘭子は遮る。

「仲間って言った?ふざけんな、簡単にそんな言葉口にすんじゃないっつーのっ……!」

「それどういう意味だよ……?」

竜司の言葉を無視して自室の扉を開ける蘭子。
その扉から部屋の様子が見えた。

「……?」

蘭子が部屋に入り扉を閉めようとしている間、その内装を二人は見つめる。
壁側に設備の整ったゲーミングPCなどが置いてあり点けっぱなしのモニターには何やら蘭子本人らしき写真が写っていた。
そしてその隣に仲良さそうに男性が写っている。

「あ……っ」

二人がその写真を見ている事に気付いた蘭子は慌てて扉を閉める。

「覗くなヘンタイッ!」

その声を最後に扉は完全に閉められてしまった。

「蘭子ちゃん、何か抱えてんのかな……?」

不思議そうな顔をする竜司だったがすぐに気を取り戻す。

「はぁー、何でこんな気の難しい娘に燃えちゃうのかねー?」

「え?」

「何なら言い寄って来た女、片っ端から抱いて男らしくなってやりゃ良かったぜ」

陽は竜司のその言葉も意味が分からなかったため聞き流す事にした。
その時だった。

『至急、TWELVEの隊員は司令室に集合して下さい』

突然館内放送が流れたのだ。
TWELVE隊員の呼び出しである。

「え、新生さんの声?」

「何か珍しいな」

そう言いながらも司令室へと向かう二人。
二人が行ったのを見計らってひょっこりと顔を出した蘭子もそそくさと向かった。



一方館内放送はもう一人の隊員の耳にも届いていた。

「ふむ……」

名倉隊長だ。
彼は今まで資料室でゼノメサイアに関する資料を読み漁っていた。
呼び出しがあったため仕方なく資料を元の場所に戻す。
その時、たまたま通りかかった職員に聞こえるほどの声で言われた。

「何でTWELVEのヤツが資料なんか」

「一丁前に働いてますよアピールか?」

そんな風に言われて少し傷付くが無視して進もうとする。
新生長官に呼ばれているため急がねばならない。
すると声を掛けられた。

「おい、同期がいるのに無視か?」

今声を掛けた職員は名倉隊長の自衛官時代の元同期らしい。
思わず立ち止まってしまった。

「今度はちゃんと仲間の気持ちも考えてやれよ」

そう言われて思わず歯軋りをする名倉隊長。
拳も震えながら握り締めていた。

「っ……」

そして資料室を出て行き新生長官の指定した司令室へと向かった。





名倉隊長が司令室にやって来ると既に新生長官と他のTWELVE隊員たちが揃っていた。

「遅いっ、待ったんだけど!」

明らかに苛立っている蘭子が隊長にも容赦なく言ってくる。

「す、すまん……」

思わず小さな声で謝る。
そこで新生長官がまとめた。

「まぁまぁ、急に呼び出された訳だし許してあげて」

「むぅ、新生さんが言うなら……」

何とか宥められる蘭子。
そこで新生長官は本題に入る。

「早速本題だけどね、ある住宅地で異常反応が見られたんだ」

そう告げた新生長官はモニターの電源をつける。
しかし他の職員たちは不満そうな顔をしていた。

「マジでおかしくなっちまったのか……?」

そう言いながらもTWELVEの反応を待っている。
そしてモニターがつけられ画面に映るものを見た。

「これは……」

その場にいた時止技術主任が新生長官を止める。

「もう良いだろ継一、ここには何も映っていない」

時止を始めとした他の職員たちにはただの住宅地のように映っているらしい。
しかしTWELVE隊員たちの反応は違った。

「何これ……」

「罪獣の力ですか?」

彼らの反応を見て職員たちは驚く。
TWELVEの目には何が映っているのだろう。

「今から君たちにはこれの調査をして来て欲しい」

そういう新生長官。
彼らの目に映っているのはただの住宅地の一帯が闇のオーラのようなものに包まれている映像だった。

「……了解っ、TWELVE出動だ」

名倉隊長の合図で一斉に出動するTWELVE。
司令室から出て行った彼らを見て職員たちは絶句していた。

「本当に頭イカれた奴らなのか……⁈」

時止主任も新生長官に言う。

「……どういうつもりだ継一?まさか本当に何か見えるのか?」

そう問われた新生長官はニヤリと笑ってこう呟いた。

「だから彼らを選んだんだよ」




そしてTWELVEはConnect ONE専用車両エリヤに乗りながら指定された住宅地へと向かった。

「……着いたぞ」

運転している名倉隊長は到着するとブレーキを踏む。
目の前には明らかに異常な空間が広がっている。
後部座席から身を乗り出した蘭子が言った。

「どうすんの?普通に入っちゃって大丈夫なやつ?」

すると外を見た竜司が発言をし陽も続ける。

「歩いてる人いるから大丈夫じゃね?」

「というか本当に見えてないんだね……」

いつもと変わらないような雰囲気で歩いている住人らしき姿を見て不思議に思う。

「ならば行ってみるか?」

提案する名倉隊長。
一同は頷いたのでアクセルを踏む。
そしてとうとう空間に突入した。

「……どうだ?何か感じるか?」

後部座席の隊員たちに問う名倉隊長。
一瞬振り返ると驚いた。

「え……」

何と誰もいないのだ。
ついこの瞬間までそこにいたと言うのに。

「どこへ行った……?」

急激に不安になる名倉隊長。
一方で他の隊員たちは何処に行ってしまったのか。

「あれ、みんな……?」

陽は何故か廃墟のような所にいた。

「俺、何してたっけ……?」

竜司は控室のような部屋に座っていた。
服装もレーサーのようなものに変わっている。

「そうだ、ここは……」

蘭子は何か大会の会場のような所にいた。
激しい声援が聞こえている。

「あれ……?」

そして車を運転していたはずの名倉隊長も気がつくと自衛官のような服装になり軍用車両を運転していた。
背後には部下たちの姿がある。

「そうだ、俺はこれから……」


TWELVE隊員たちは何故か夢を見ていた。
乗っていた車両のエリヤは何故かパーキングエリアに停められている。
その中で眠りについている一同。

「やはりね……」

司令室では新生長官が意味深に呟いた。

「第六ノ罪獣デモゴルゴン、その愛の海の中でライフ・シュトロームに理想を……」

神に祈るような姿勢で呟く。

「元自衛官の名倉雄介、少年兵だった陽・ドゥブジー、F1レーサーだった早川竜司、プロゲーマーだった茜 蘭子。彼らが理想の夢を超えて現実に還れますように……」

TWELVE隊員たちは夢の中で謎の愛の海に浮かんでいた。
生命に直接干渉を受けている。
快と同様に彼らは夢から覚める事は出来るのだろうか。





つづく
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