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作者: 甲斐てつろう
#3
『ヒーローに、ならなきゃ。』
委員長が先導してくれたお陰でその場で言い合いなどには発展せず先に進めているがどうしても良くない雰囲気が漂っていた。

「「…………」」

皆黙ってしまっている。
そこで快のスマホに通知が来た。
詳細を確認すると声を出したらバレてしまうため愛里がメッセージで話しかけてきたのだ。

『私のせいかな……?』

そんな事を思わせてしまう事に少し胸が痛む。
何とか明るい空気を作って愛里の不安を削がねばと思い快は瀬川に話しかける事にした。

「せ、瀬川……お前この映画好きだったっけ……?」

何とかその場に合った話題を考えて話かけてみる。

「えっ、ま、まぁ……」

すると瀬川は一度驚いたような顔をして快を避けるようにそっぽを向いた。
しかし快はそれが納得できずに更に話しかけてしまう。

「お前からこの話聞いた事なかったからさ、ホラお前と言えばSF……」

そこまで言いかけると瀬川は露骨に快を無視するように委員長へ話しかけた。

「そいえばさ……!!えっと、次どこいく?」

話す内容も決まっておらず本当に快を無視するために話しかけたようである。

「〜〜っ」

とうとう快は我慢の限界がやって来た。
思っている事を瀬川に伝えるべく出来るだけ大きな声を出す。

「何だよ!そっちから"歩み寄れ"って言ったのにさ!!」

「っ……⁈⁈」

その声を聞いた一同は驚く。
瀬川はより大きなリアクションを取っていた。

「あれから考えたんだよ歩み寄る意味をさ……!そんで自分なりに理解したつもりだった、だからあの時出来なかった分今こうして頑張って歩み寄ったのに……!」

そして瀬川の顔をしっかり見て歯軋りした後、快は走ってその場を去ろうとする。

「快くんっ!!」

このままではあの中で愛里が独りになってしまう。
しかしそんな事を考えている余裕がないほど今の快の頭の中はモヤモヤで溢れていた。

「〜〜っ」

そして快が居なくなった後、愛里は小さな声で一同に伝えた。

「快くんね、私がみんなと仲良く出来るように色々考えてくれた。本当に良い人だよ……?」

その言葉を聞いた一同は少し考えるような顔をしていた。

「みんなも分かってるはずなのに、一回でも喧嘩しちゃったらもう戻れないの?そんなの嫌だよ……!!」

そう言って愛里は快を追いかけて行く。
瀬川も一瞬足を動かそうとするがどうしても躊躇ってしまい進めなかった。

「っ……!!」

楽しいはずのテーマパークで寂しい空気が異様なまでに流れていた。





走った快はそのままトイレに入り個室にこもった。
用を足すわけではなくただ狭い孤独な空間で想いを溢れさせていた。

「(何でだよ、せっかく歩み寄ってるのに何も上手く行かない……!!)」

これが答えでは無かったのだろうか。
それが分からずにイライラして貧乏ゆすりをしてしまう。

「(やっと答えを見つけて成長できたと思ったのに、また振り出しに戻っちまう……!!)」

自尊心がどんどん削がれて行く。
このままでは少し前のような状態に意識が戻ってしまう。
そこであの言葉を思い出した。


『自分に出来る事を少しずつやって成長していく』


それを考え出すともう止まらない。
とにかく自分が納得できる範囲にまで今すぐ成長したくなってしまった。

「そうだ、俺に今出来る事はゼノメサイアだ。それなら上手くやれる、きっとヒーローになれる……!!」

そしてヒーローらしからぬ事を考えてしまうのだった。


「あぁ、早く罪獣でてくれないかなぁ……」


何と自ら人々を危険に晒すのを望んでしまったのである。
するとそのタイミングで。

「グゴォオォォォォッ……!!」

外から雄叫びが聞こえ地響きが伝わって来る。
これはつまり罪獣が出たと言う事。

「よし、ヒーローになってやる……!!」

そのまま快はトイレを出て外の罪獣を確認しに行った。





現れた罪獣はルシフェルだった。
しかし以前と姿が違い、まるで溶岩のような性質と外見になっていたのだ。

『来いゼノメサイアぁ!今日こそは負ける訳にはいかねぇ!』

その溶岩のような体を見せつけるように叫ぶ。

『従者の力も借りてんだからなぁ!!』

その様子をテーマパークから眺める快のいた班の一同。

「こんな時に罪獣かよ!!」

委員長は恐怖に慄き叫ぶ。
一方で瀬川は居なくなった快と愛里を心配するような素振りを見せていた。

「おい逃げるぞ!」

そんな瀬川の手を掴み逃げるように諭す委員長。

「待て快と与方さんが!!」

「そんなこと言ってる場合じゃねーだろ!!」

快と愛里を心配するが委員長に手を引かれその場からどんどん離れて行く瀬川。
余計に二人の安否が気になってしまう。

「(アイツ来るよね)」

彼らと共に逃げる咲希は快がゼノメサイアになって来るのを待っていた。

「(今回のルシフェルは前より強いよ)」

修学旅行に来る直前のルシフェルとのやり取りを思い返す。


『従者ども、罪獣の力を俺に貸してくれ』

ルシフェルの言葉によると罪獣に憑依する事でその力の一部を取り込んで使えるらしい、つまり通常より強化されると言うのだ。

『じゃあコイツとか良いんじゃない?』

そう言って咲希が差し出したのは溶岩のような姿で炎の力を司る罪獣ペイモンだった。
喜んでルシフェルはそれに憑依する。
そして生まれたのが現在現れた強化された"ルシフェル・ペイモン"である。


『さっさと来いゼノメサイアぁ!!』

そして現在、大阪の街で暴れているルシフェル・ペイモン。
そこへ予測通りに彼は現れる。

『デェアッ!』

ヒーローを目指すゼノメサイア、勢いよくルシフェル・ペイモンの前に着地してみせた。

『待ってたぜぇ……』

そう呟くルシフェルを見てゼノメサイアこと快は考える。

『あれっ、生きてる……?』

まずはルシフェルの生存に驚くがすぐに戦闘に考えを移した。

『(前と姿違うけど一度勝った相手だ、これなら証明できる……っ!!)』

楽にヒーローである事を示せて自尊心を保てると喜ぶ快。
しかしその見通しは甘かった、今回のルシフェルは前回よりも強化されている事を知らない。

『オォォォッ!!』

まだTWELVEが来る前だがとにかく格好つけたかった快は思い切り突進する。
そしてルシフェル・ペイモンの変化もお構いなしに胸部を全力で殴った。

『……ッ⁈』

しかし予想以上に硬い、相手も全く動じている様子がなく前回の戦いと明らかに違うとここで悟った。

『さすが硬さナンバーワンの従者だな、感謝するぜっ!!』

そのままルシフェルはゼノメサイアを全力で蹴飛ばす。

『ドワァァァッ……』

後方に大きく吹き飛ばされたゼノメサイアは背後のビルに激突しいきなり大ダメージを負ってしまった。

『(何だっ、前より強い……!!)』

今の硬さと一撃だけで以前戦った時のルシフェルより遥かに強化されている事が分かる。
見た目だけではなかったのだ。

『グゥゥッ……』

何とか体を起こし向き直る。
構えを取り油断してはいけないと自分に言い聞かせた。
しかし焦りから震えてしまっている。
するとそこへ援軍がやって来た。

「目標を捕捉、これより駆逐にあたる!」

TWELVEの機体がキャリー・マザーから降ろされ戦闘体制に入ったのだ。

『(来ちゃったか……)』

なるべく一人で戦いたかった快だったがここはもう割り切るしかない。

『(でも彼らと一緒なら絶対勝てる、何とかギリギリ自尊心は保てそうだ……!!)』

そう更に言い聞かせて気合を入れる。
その様子を見たTWELVE隊員たち、特に名倉隊長は違和感を覚えていた。

「(何だ、また焦っているのか……?)」

以前と同じような人間臭い様子に名倉隊長は少し不安を感じる。
一方で他の隊員たちは生きていたルシフェルのオーラに圧倒されていた。

「てかコイツ生きてたのかよ……!!」

「前よりヤバそうだな……」

そう感じたのはオペレーターの蘭子も同じ。
なので彼女は無線で用心する事を伝える。
ゼノメサイアにも伝わるようにスピーカーもオンにしていた。

『コイツ前より強いよ、連携を大事にして!』

連携、その言葉が今回は何よりも重要だろう。

「「「了解っ!!」」」

そのために冷静さを保とうとするTWELVE隊員たちだがゼノメサイアは真逆だった。

『オォォ、セアァァ……』

とにかく焦りから息が乱れている。
このまま上手く戦えるのだろうか。





つづく
つづきます
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