▼詳細検索を開く
作者: 甲斐てつろう
#3
『ヒーローに、ならなきゃ。』
快と瀬川は二人で話せる場所を探してホテルの廊下を歩いていた。
するとある一室から女の声二人分のやり取りが聞こえて来る。

「今更心配するような言い方しないでよっ……!」

すぐにそれが愛里のものであると分かった快はその部屋に駆け付ける。

「与方さん、無事だったんだ……!!」

先ほどの戦いで巻き込まれていないか心配だった愛里の元気そうな声が聞こえて喜んで部屋に入ったがその状況はとても喜べるものではなかった。

「あんなに無視してたのに今更親友ヅラ?なら最初からあんな扱いしないでよ……!」

愛里と咲希が何やら言い合っている。

「アタシだって仕方なかったんだよ、愛里だったら許してくれると思ったから……」

どうやら咲希は危険に巻き込まれた愛里を心配したらしいが暫く放っておかれた愛里にとってそれは今更であったらしい。

「許されるなら何しても良い訳じゃないでしょ、現に私こんなに辛かったのに……」

そこまで話したタイミングで快と瀬川の存在に気付く。

「あっ、快くん目ぇ覚めたんだ……!!」

そして今度は逆に咲希を放って快に駆け寄る。

「うん、お陰様で……」

目覚めたのを喜ばれる快だが咲希の苦しそうな表情を見て複雑な感情を抱いていた。

「よぉ河島、悪かったと思うなら素直に謝るのが吉だぜ」

快が愛里と話している間、瀬川は咲希に話しかける。
自分も同じ身として咲希にも再チャンスはあると思っているのだ。

「俺と同じなんだろ、怖かっただけで。だったら素直に気持ち伝えた方がいいぜ」

しかし咲希は瀬川を通り過ぎて部屋を出ようとしてしまう。

「誰がアンタと同じなのっ、分かった気にならないで……っ!」

そのまま部屋を出てしまった。



部屋を出た咲希は一人で床にへたり込んでしまう。
そして以前のルシフェルとの会話を思い出していた。


『今は鍵とゼノメサイアの仲を深めるのが優先だ、自分から二人きりになるなんてチャンスじゃねーか』


本当は咲希も愛里と仲良くしていたかった。
しかし快との仲を邪魔しないためにあえて離れさせられていたのだ。

「くっ……待っててね愛里、これを乗り越えたらずっと一緒に居られるからっ……」

決意を固めて計画を遂行する事を誓うのだった。





咲希が去った後の部屋で快と瀬川、そして愛里の三人は沈黙だった。
それに耐え兼ねたのか愛里が口を開く。

「ごめんね、さっちゃん変だよね……」

すると思う事があったのか瀬川が答えた。

「いや、河島も思う事あるんだろうからな。俺だって快に冷たくしちまったし……」

そして快の方を向き反省するように言う。

「だからきっと仲直りは出来るからさ、あんま責めないでやって欲しい」

今の快と瀬川の様子を見て事情を察する。
彼らは歩み寄ろうとしているのだ。

「うん、そうだよね……」

そこで快が新たな話題を振る。

「でも良かった、与方さん無事で……」

ゼノメサイアとして戦っていた時に見かけた愛里の無事を安心したのだ。
しかし愛里は少し怒るような発言をする。

「それはこっちの台詞!いきなり飛び出してさ、そのタイミングで罪獣でしょ?心配したのはこっちの方だよ!!」

「…………」

ヒーローになるどころか逆に心配されるような発言を聞いて不安になってしまう。

「何とか助けられたと思ったから……」

「何だって?」

二人に聞こえないほどの小声で言ったため聞き返されてしまう。

「いや、ヒーローになりたかったから……危険な目に遭わせたくなかった」

今度はこう答えた。

「でもやっぱ心配されるようじゃダメだよね、俺はヒーローに相応しくない……」

先ほどから夢に見るほど悩んでいた事を話す。

「せっかく二人とも俺に歩み寄ってヒーローの夢を応援してくれたんだ、なのに応えられなくて……」

二人の顔は怖くて見れなかった。


「俺の存在してる意味って何なんだろう……?」


この発言にまた先ほどのような冷たい沈黙が訪れてしまう。

「……お前またそうやって」

流石に心配の度が過ぎた瀬川が言った。
その反応に快も思わず感情的に返してしまう。

「だって仕方ないだろ⁈俺なんかよりもっと相応しい人を沢山見たんだ!英美さんや純希、瀬川だってそうだよ……!」

「俺が……?」

「純希から俺を助けてくれた、あんな勇敢さ俺にはない……こんな俺、誰も愛してくれない……っ」

そして次は愛里の方を向いて言ってしまう。

「あの時、英美さんより俺が死ねばよかった……!」

次の瞬間、愛里は立ち上がる。

「っ!!」

そして思い切り快の頬を平手で叩いた。

「……え?」

突然頬に衝撃が伝い一瞬時が止まったような気がする。

「そんなこと言わないで、死んで良かった人なんて居ないから……っ!!」

眉間にしわを寄せて震えているため激怒しているのが分かる。
それと同時に目に涙を浮かべていた。

「どれだけ快くんに感謝してると思ってるの、英美ちゃんを失った私に希望を与えてくれたじゃん……!!」

「そんな事……」

自暴自棄さが残っており否定したくなる快だが愛里はその隙を与えない。

「前に私の事もヒーローって言ってくれたよね?それなら快くんもヒーローだよ、だってこんな状況でも私に歩み寄ってくれてるもん……!!」

「え……?」

たった今自分はヒーローなんかではないと悟ったばかりだと言うのに一番応援されたい人の口から"既にヒーロー"と言われたのだ。
少し混乱してしまっている。

「自分に出来る事をして私のためになってくれた、しっかり人としてもヒーローとしても成長してる!だから死ねば良かったなんて言わないで……っ」

そしてとうとう大粒の涙をポロポロとこぼし始めた愛里。
その一粒一粒が美しく快の顔を反射している。

「そうだぜ。お前の理想は知らんけどさ、少なくとも与方さんにとってはヒーローになってるんだ」

瀬川が快の肩に手を置いて言った。

「それを受け入れるのも歩み寄るって事だと思うぜ」

そう言われて考えてみる。
頭には愛里と初めて深く話した夕焼けの中庭での事が浮かんでいた。

「確かに俺、ヒーローの夢を応援された時はテレビみたいな皆んなから愛されるヒーローになってやるって思ってた」

二人の顔をしっかりと見て語り出す。

「愛されるためにはそれだけカッコよくて魅力的にならなきゃって盲目的になってたんだ……」

胸に手を当てて自分の心臓の鼓動を感じてみる。

「正直まだそんなんじゃないけどさ、この胸に何か温かいものが生まれた気がするんだ。本当にまだ小さいけど……」

すると瀬川が嬉しそうに笑顔で言う。


「それ多分、愛が生まれたんじゃないか?」


その言葉を聞いてハッとする。
妙にしっくり来たのだ。

「そうなのかな、まだ詳しく理解できてないけど……でもいつか俺はこの気持ちを深く理解したい」

決意を固めて宣言する。

「そうすれば愛が何なのか、どうすれば愛が生まれるのか分かると思うから……!!」

その言葉を聞いた二人は優しい笑顔を浮かべた。
もう愛里は泣いていない。
するとそこで廊下から慌てるような声が聞こえる。

「みんな!Connect ONEが緊急生放送だってよ!!」

その言葉を聞いて慌ててスマホを点けて確認する。
そこには長官である新生が一人で映っていた。





Connect ONE本部の放送室で新生長官がカメラに向かって語り出した。
主な内容はこれからの大阪での作戦概要だ。

「大阪の皆さん今晩は、Connect ONE長官の新生継一です」

緊迫感が溢れる中で彼だけは余裕そうに微笑んでいた。
不安に怯える市民に安心感を与えるためであろうか。

「現在停止している罪獣は分析の結果、明け方の午前三時ごろに再度動き出すと予想されます。我々はそれに合わせて作戦を決行、被害を最小限に抑え撃破する事を約束しましょう」


その映像を見ていた快たち。
瀬川は一つ疑問に思った事がある。

「動き出してから決行するのか?」

「確かに、その前の方がいいのにね」

そこに関しては更なる作戦の詳しい概要の説明で明かされた。


「眠っているヤツの体表は冷えて固まりそれをを砕くには我らの火力では足りません、そのためヤツのマグマのような性質を利用します」

そう言いながらしっかり市民にも納得が行くように配慮してモニターに図面を写しながら解説していく。
瀬川たちも作戦の概要はある程度理解できたがどうしても少し不安が残っているのが見えた。

「では私からはこれで。大阪にいち早く安心が戻るよう努めます」

新生長官がそう言って生放送を終えようとしたタイミングである人物が画面上に現れる。

「後は彼からのメッセージです、よく聞いて下さい」

現れたのはTWELVE隊長の名倉だった。
ガチガチに緊張しているが決意に満ちた表情をしている。
一体何を語るのだろうか。



生放送が始まる少し前。
作戦の信憑性を高めるためにコンピューターのシミュレーターで作戦の実験が行われた。
しかし結果はイマイチだった。

「やっぱり火力が心配だな……」

時止主任が呟く。

「やっぱりまだTWELVEもメンバーが揃ってないからな、今の戦力だけじゃいくらヤツを柔らかくしても砕き切れない……」

「元が硬すぎるからね、絶対に成功させられるかと言われたら微妙な所だね」

新生長官と時止主任が二人で難しい顔をしている。
後ろでTWELVE隊員たちはその話を聞いて不安になった。

「そんな、じゃあどうするんですか……」

陽が明らかに不安を見せた。
すると新生長官は答える。

「やはりゼノメサイアの協力が必要不可欠だね」

その言葉を聞いて一同は驚いた。

「え、でもやられたじゃないですか?生きてるんですか?」

すると時止主任が難しそうな顔をしながら言った。

「生体反応が消えてないんだ。前から分析をしてたんだがゼノメサイアは消えた後にその生体反応を人間サイズに小さくして人混みに消える、今回もそのパターンだったんだよ」

それを聞いて疑問を抱いた者が一人。

「って事は何?ゼノメサイアは普段人間に紛れてるって事?」

「……!!」

蘭子がそのように言った。
その言葉に名倉隊長も反応する。

「そういう推測だな、普段は人間の姿で普通に生活してるのかも知れない」

時止主任が推測を述べる間、新生長官は無言だった。
しかしそれが本当なら彼らはどうすべきか。

「し、新生さん……っ!」

「何かな?」

名倉隊長が声を上げる。

「この後の生放送、最後に俺にも喋らせて下さい……!!」

決意に満ちた表情を見せる名倉隊長に新生長官は了承したのであった。



そしてカメラの前に立った名倉隊長。
一体どんなメッセージを伝えるのだろうか。





つづく
つづきます
Twitter