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作者: 神無城 衛
*2*
救難信号の船の後方2,000キロ、海賊船船内…
携行食の食べた殻などで散らかった、生活感のあふれる艦長席にふんぞり返る男がいた。
時々彼は夢を見る。地球に孤児として生まれ、親の顔も知らないうちに安価な労働力として売買され、ぼろ雑巾のようにこき使われ、物心ついたときには武器を持たされて消耗品のように戦場に送り出され、ある時詰め込まれた輸送船で反乱を起こして乗っ取った船で海賊稼業を始め、今の地位とつぎはぎだらけの船を駆って海賊をしている今までのことを…、そんな彼についたあだ名は
「ラッキーボッサ、獲物がかかったようです」
副官の声でうたた寝から目が覚めた。よだれを袖で拭うと指示を出す。
「ようしおめぇら、仕事の時間だ!いつも通りにやればいい。気張っていけ」


救難信号の船小さな輸送船で、移乗するとかろうじてライフラインを維持していることが分かった。船内をくまなく調べたところ、格納庫に子供を含む男女5人の乗客がいたほかは誰もおらず、彼らの話によるとグリニッジ時間で3日ほど前に海賊に襲撃され、船の機関部が破壊され自走が困難になったところで乗組員は早々に逃げ出したという。
「バートランド商会です。助けに来ました、もう安心ですよ」
「海賊がまだ近くにいるにちげぇねぇ、早く逃げてくれ」
 機関部の船員だったという男が叫んだ。彼はこの中では唯一の船員で、階級の低い使い捨ての人員であったことから船に取り残されたのだという。
「海賊? それなら心配要りません、我がバートランド商会は海賊に屈することはありません」
 移乗の指揮を執るクルーに必死で訴える彼と残りの乗客をナイアガラ号に移すよう指示を出し、艦長に向けて空間戦闘機部隊に再度索敵を強化するように具申した。

警戒に当たっていた瑞雲Ⅱから無線が入ったのはクルーが装載艇に乗客を乗せ、廃船を発進したところだった。
『船長、不審な船が接近しています。識別信号によればずいぶん前に廃船になった船です、停止命令にも従いません』
「距離500キロに達するかこちらに加速するまで停船するよう警告を続けてください。500を切ったら再度警告の上プラズマ弾で威嚇射撃を加えてください」
 艦橋にピリピリとした緊張感が高まる。500キロに不審船が近づき、アラートが鳴り、近づいてくる船から無線が入った。
 モニターに繋ぐとずいぶん汚い不審船の艦橋が映りその真ん中にふんぞり返る汚らしい身なりに手の込んだドレッドヘアの浅黒い肌の男が映し出された。
『ようおめぇら、俺様はラッキーボッサだ。お前らの船は俺の船の射程内に入ってる。怪我したくなかったら金目の物をよこしな』
「バートランド商会、ナイアガラ号船長のセシリアです、あなた方が誰かは存じませんがお断りします。我々の船は貴艦を捕捉し、離艦した空間戦闘機部隊がいつでもあなた方に攻撃する用意があります。そちらこそ返り討ちに遭いたくなかったらすぐに引き返しなさい」
『がははは、おめぇが船長だと?今日も俺様は運がいい、血の気の多い小娘だ、後悔させてやるぜ』
 下品なジェスチャーを残して向こうから通信が切れると、敵艦は熱光学兵器による砲撃を仕掛けてきた。射線から船の後ろを取っていることが分かるが、狙いが甘いらしい。命中どころかかすりもしない。

『セシリアから飛行隊に通達、敵船に向け攻撃開始してください。兵装使用は戦時航宙国際法に則りプラズマ弾頭と機銃のみ許可します。あくまで船の機能を停止させるのが目的です。状況開始してください』
 偵察に出ていた飛行隊は二個編隊で、ナイアガラ号の瑞雲Ⅱ多用途空間戦闘機一機とコリント大尉が乗るアンサラー空間爆撃機一機の隊と、同じくナイアガラ号の瑞雲Ⅱ一機に803飛行隊のスペースインセクト空間戦闘機三機の編成で、一番近くにいたコリント隊が応戦する。アンサラーと瑞雲Ⅱは巧みな操縦で海賊船の機銃掃射をかいくぐり、船首から船尾に回り込むと、機関部に向けてプラズマ魚雷を二発撃ちこむ。そのうちの一発、アンサラーの魚雷がエンジンノズルの隙間を貫いて炸裂し、敵船に強烈なプラズマを発生させた。
瑞雲とリンクしていたモニターに映された敵船は一瞬青白い閃光を放ってすべての機関が停止した。
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