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作者: 神無城 衛
*ユカの場合*
セシリアが朝食後のココアを飲み終えてから食器を自動洗浄乾燥機に入れた。主計課の仕事はそれぞれの持ち場でやっていて、主計長である母はこの時間洗濯機を回しに行っている。
 宇宙船内では水は貴重で、飲用以外の水はそれぞれの水場の浄水循環システムでリサイクルしながら使っている。昼食の仕込みについて考えているとルイーサが子供たちを連れてやってきた。
「ごめんなさい、勉強を教えていたのだけれど、休憩も兼ねて子供たちに何かおやつをもらえないかしら」
「あれ、そういえばもうそんな時間ね。待ってて、何か探すから」
キッチンから食糧庫に向かい、入り口にかけてある食材のリストを見る。クルーの中にも甘いものが欲しいという人がいるので、こういう時に出せる食べ物もある。
「あったあった」
 携行食料の棚に常用食として置いてあるお菓子があった。棚から金太郎飴のように棒状に並べて封をされた赤いパッケージのチョコチップクッキーを取り出す。
「ユカおねえちゃんありがとう!」
 食堂で四人分の紅茶を淹れて、ソーサーにひと口大のチョコチップクッキーを三枚添えて、子供たちに出す分には角砂糖を二つ添える。
「あら、私もいいの?」
「ルイーサ先生も教えるのに頭を使うから糖分要るかなって、甘いものは苦手?」
「いいえ、いただくわ」
 食堂では楽しいお茶会が始まった。
「あら、紅茶はローズマリーね」
「記憶のハーブと呼ばれているからお勉強にはいいんじゃないかなって」
「そうなのね、知らなかった。美味しいわね、この紅茶はどこの紅茶なの?」
「シリウスの紅茶よ、高価なものではないからどこといわれると分からないけど、ティーパックで売られているの」
「そうなのね、今度私も試してみようかな」
そんな話をしているうちに食洗器が洗い物を終えたアラームが鳴った。

洗浄機の乾燥機能で熱された食器が冷めるまでの間、とりとめもなく談笑しているとセシリアが来た。
少し表情が浮かないようだったので気分転換になるように冷たいココアを出した。冷たいココアは作り置きしていて、特にセシリアの好物なので冷蔵庫から切らすことはない。
「セシリア、なんか悩んでるの? 話聞こうか?」
「ユカ、ありがとう。大丈夫よ」
「そう」
セシリアとは幼い時からの付き合いで、士官学校に通う間は顔を合わせていないとはいえ、なんとなく分かる。
今のセシリアは多分もう悩みごとの答えは自分で結論していて、相談するほどではないのだろう。そして本当に困ったときは私に意見を求めてくることも知っている。
ユカにとってセシリアに頼られることは本当の姉妹のようでとても誇らしい気持になる。だからセシリアの力になれるなら何でもしたいとも思っている。
「セシリアおねえちゃん、泣いてるの?」
子供たちも気が付いて声をかけた。
「ユカおねえちゃん、セシリアおねえちゃんにもおやつあげて、きっと元気になるから」
 一番年上のジーナが言った。
「そうね、チョコチップクッキーを出してあげようね」
 ユカは小皿に少し、チョコチップクッキーを載せて出した。
「ありがとうユカ、ジーナもありがとう」
ココアを一口飲んで、チョコチップクッキーを一つ口にした。甘さとほろ苦さが今の私に元気をくれるような気がした。

そんな様子を見ていたユカもほっこりした気持ちになった。
 一時のこととはいえ子供たちを船に乗せたことは良かったかもしれない。あくまでこの船は準軍船だから危ないことはある。けれどこの船長とクルーなら協力してこの先何があってもやっていける、そんな気がした。
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