＊２＊
「というわけで説得に応じてくれました。ただし参戦するには私とナイアガラ号をルイーサの部隊に編入することが条件です」
「分かった…、ギルドにはそのように伝えよう」
翌日、軌道ステーションで待つ老虎に直接事情を話すと渋い顔をしながらも承諾してくれた。ひとまず令嬢を見つけることが当初の目標だったことを考えると十分に譲歩してもお釣りが来る成果だと思う。あとは父親であるCEOがどうにかするだろう。
老虎がギルドへの報告に向かうとセシリアもナイアガラ号の停泊するポートに向かった。
船に戻ったセシリアは部門長を食堂へ集め、自身はメールを確認した。
ギルドからいくつか連絡があり、いよいよ作戦行動が開始される旨が書かれていた。そのメールが昨日付けのものだったので、今回のルイーサのことを受けて編成、指揮官と作戦の内容が告げられるだろう。
「ということで、私たちの所属はちょっと複雑になりました」
主要な部門長を集めて事の一端を報告した。やはりというか、部門長もざわついた。唯一堂々と構えているのはヤマモト機関長だけで、他の部門長は困惑している。
「ルイーサの指揮下に入るのは良いとして、俺たちのやることには変わりないんだろ？」
しばらく腕を組んで考えていたヤマモト機関長が開口した。
「そうね、前線に立つか、補給や医療班の護衛に付くかの違いはあれど、どの道戦闘は避けられないと思うわ」
「だったら俺たちのやることに変わりはねぇ、艦長の指揮のもとで船を動かすだけだ」
ヤマモトの言葉に一同が黙って頷いた。
「船長、俺たちは今までと同じく命を預けるから、あとはよろしく頼む」
セシリアも黙って頷いた。
そうして会議は満場一致で終了した。
翌朝、ギルドからメールで連絡があった。
正式にルイーサの指揮下で動くことが決まったこと、ルイーサの号令によりアダルヘイムの離反部隊が動くこと、ルイーサは輸送、救護のための艦隊の指揮を執り、ナイアガラ号はルイーサの血路を開くための先遣隊に編入されることが決定した。
動き始めるのは明後日からで、ルイーサの初めの仕事はシリウス星系からアシハラ星系に赴き、2か月ほど前からアダルヘイムが占領するハチカンを取り戻すための部隊の補給と負傷者の救護を行うということだった。
この派兵にはルイーサも前線指揮と同時に医療部隊として参戦する。ナイアガラ号の他には先の演習で対戦した航空巡洋艦、その他にアダルヘイム離反組の中から熟練したクルーが運用する駆逐艦数隻が護衛に就くことが決まった。
旧来の国際法の流れをくむギルドの戦時特別法でも捕虜や非戦闘員、医療従事者への攻撃は違法だが、今回のように正規軍や国軍の傘下を離れ、暴走する軍事組織には法が通用しない可能性もあるため、過度に取れるような警戒は必要との判断である。
とはいえ、ルイーサを支持するアダルヘイム離反者としてもかつての同胞に武器を用いるのは気が進まないことに変わりはないので、今回はギルドの戦時特別法に基づき、通常より高電圧のプラズマ兵器の使用が認められた。とはいえギルドにもこの特殊弾頭の備えは少ないので、離反軍と武装商船団はアダルヘイム艦を撃沈しないことを努力義務とした。高威力の弾頭の問題は生産の一部を担っているアシハラ星系のハチカンを取り戻すことで解消できる見込みで、ハチカンを奪還したあかつきには武装商船団にも供与するという。
基本的に宇宙戦闘で敵機を破壊してはならないとギルド宇宙環境法のスペースデブリ対策の項に定めがあるので、セシリアとしては特に困ることはなかった。ただし艦隊護衛という目的を考えると逃げ切ることを目的とする必殺の衝角戦ができないことが懸案事項でもある。
その点も含めて戦術立案の会議を招集する必要がありそうだ。正規軍ともなるとプラズマ砲爆撃の対策も堅く、雷撃と艦砲射撃が主となるナイアガラ号はどのように立ち回るかが問題だ。特に通商航路の密集する今回の宙域では実体弾による攻撃は厳禁で、先の海賊のような無法者ならまだしも、準軍属としてギルドに登録しているナイアガラ号は非常事態とはいえ戦後措置とギルド法とを考え合わせるとこれを無視するわけにはいかない。
頭の痛い問題を抱えながらルーティーンでメールを開くと、ギルドからメールが来ていた。内容は、ヤマトへ逃れたウェバー博士が開発中の新型兵器が完成し、5個程度完成したという。ただしこの件を含めた詳細な内容は極秘のため直前に味方艦隊に効果範囲を知らせる他に情報は開示できないとのことだった。
セシリアはウェバー博士から聞いて事前に知っていたが、効果的とはいえあまり気が進まなかった。少なくとも巻き込まれた者は急激な圧縮により意識を失う前に原子レベルで喪失し、痛みを感じないのが不幸中の幸いだが、血を流さないだけで多くの命を奪う。もし実戦で使うことになればルイーサにはどう説明するべきか、さらに頭の痛い問題になった。
「分かった…、ギルドにはそのように伝えよう」
翌日、軌道ステーションで待つ老虎に直接事情を話すと渋い顔をしながらも承諾してくれた。ひとまず令嬢を見つけることが当初の目標だったことを考えると十分に譲歩してもお釣りが来る成果だと思う。あとは父親であるCEOがどうにかするだろう。
老虎がギルドへの報告に向かうとセシリアもナイアガラ号の停泊するポートに向かった。
船に戻ったセシリアは部門長を食堂へ集め、自身はメールを確認した。
ギルドからいくつか連絡があり、いよいよ作戦行動が開始される旨が書かれていた。そのメールが昨日付けのものだったので、今回のルイーサのことを受けて編成、指揮官と作戦の内容が告げられるだろう。
「ということで、私たちの所属はちょっと複雑になりました」
主要な部門長を集めて事の一端を報告した。やはりというか、部門長もざわついた。唯一堂々と構えているのはヤマモト機関長だけで、他の部門長は困惑している。
「ルイーサの指揮下に入るのは良いとして、俺たちのやることには変わりないんだろ？」
しばらく腕を組んで考えていたヤマモト機関長が開口した。
「そうね、前線に立つか、補給や医療班の護衛に付くかの違いはあれど、どの道戦闘は避けられないと思うわ」
「だったら俺たちのやることに変わりはねぇ、艦長の指揮のもとで船を動かすだけだ」
ヤマモトの言葉に一同が黙って頷いた。
「船長、俺たちは今までと同じく命を預けるから、あとはよろしく頼む」
セシリアも黙って頷いた。
そうして会議は満場一致で終了した。
翌朝、ギルドからメールで連絡があった。
正式にルイーサの指揮下で動くことが決まったこと、ルイーサの号令によりアダルヘイムの離反部隊が動くこと、ルイーサは輸送、救護のための艦隊の指揮を執り、ナイアガラ号はルイーサの血路を開くための先遣隊に編入されることが決定した。
動き始めるのは明後日からで、ルイーサの初めの仕事はシリウス星系からアシハラ星系に赴き、2か月ほど前からアダルヘイムが占領するハチカンを取り戻すための部隊の補給と負傷者の救護を行うということだった。
この派兵にはルイーサも前線指揮と同時に医療部隊として参戦する。ナイアガラ号の他には先の演習で対戦した航空巡洋艦、その他にアダルヘイム離反組の中から熟練したクルーが運用する駆逐艦数隻が護衛に就くことが決まった。
旧来の国際法の流れをくむギルドの戦時特別法でも捕虜や非戦闘員、医療従事者への攻撃は違法だが、今回のように正規軍や国軍の傘下を離れ、暴走する軍事組織には法が通用しない可能性もあるため、過度に取れるような警戒は必要との判断である。
とはいえ、ルイーサを支持するアダルヘイム離反者としてもかつての同胞に武器を用いるのは気が進まないことに変わりはないので、今回はギルドの戦時特別法に基づき、通常より高電圧のプラズマ兵器の使用が認められた。とはいえギルドにもこの特殊弾頭の備えは少ないので、離反軍と武装商船団はアダルヘイム艦を撃沈しないことを努力義務とした。高威力の弾頭の問題は生産の一部を担っているアシハラ星系のハチカンを取り戻すことで解消できる見込みで、ハチカンを奪還したあかつきには武装商船団にも供与するという。
基本的に宇宙戦闘で敵機を破壊してはならないとギルド宇宙環境法のスペースデブリ対策の項に定めがあるので、セシリアとしては特に困ることはなかった。ただし艦隊護衛という目的を考えると逃げ切ることを目的とする必殺の衝角戦ができないことが懸案事項でもある。
その点も含めて戦術立案の会議を招集する必要がありそうだ。正規軍ともなるとプラズマ砲爆撃の対策も堅く、雷撃と艦砲射撃が主となるナイアガラ号はどのように立ち回るかが問題だ。特に通商航路の密集する今回の宙域では実体弾による攻撃は厳禁で、先の海賊のような無法者ならまだしも、準軍属としてギルドに登録しているナイアガラ号は非常事態とはいえ戦後措置とギルド法とを考え合わせるとこれを無視するわけにはいかない。
頭の痛い問題を抱えながらルーティーンでメールを開くと、ギルドからメールが来ていた。内容は、ヤマトへ逃れたウェバー博士が開発中の新型兵器が完成し、5個程度完成したという。ただしこの件を含めた詳細な内容は極秘のため直前に味方艦隊に効果範囲を知らせる他に情報は開示できないとのことだった。
セシリアはウェバー博士から聞いて事前に知っていたが、効果的とはいえあまり気が進まなかった。少なくとも巻き込まれた者は急激な圧縮により意識を失う前に原子レベルで喪失し、痛みを感じないのが不幸中の幸いだが、血を流さないだけで多くの命を奪う。もし実戦で使うことになればルイーサにはどう説明するべきか、さらに頭の痛い問題になった。