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作者: 里年翠(りねん・すい)
再生の兆し:signs
春の柔らかな日差しが、瓦礫の山々を優しく照らしていた。
イチ、ニゴロ、ナナの三体のアンドロイドは、数週間前に清掃を終えたエリアの点検に訪れていた。

「わぁ!」突然、ニゴロが歓声を上げた。
「見て見て!ここに、お花が咲いてる!」

イチとナナが駆け寄ると、瓦礫の隙間から一輪の可憐な花が顔を覗かせていた。

イチは優しく微笑んだ。
「まあ、素敵ね。生命の力って本当に素晴らしいわ」

ナナは冷静に観察しながら言った。
「興味深い現象です。この花はタンポポの一種ですね。放射線耐性が高く、劣悪な環境でも生育可能な植物です」

ニゴロは目を輝かせて言った。
「へぇ、すごいね!でも、なんでタンポポってわかったの?」

「簡単よ」イチが優しく説明した。
「黄色い花びらと、特徴的な葉の形を見れば分かるわ。昔はよく道端に生えていたのよ」

ナナは付け加えた。
「正確には、学名はTaraxacum officinale。繁殖力が強く、種子の発芽率は...」

「わあ、ごめんね」ニゴロが首をかしげながら遮った。
「難しくてよく分からないや。でも、このお花、強いんだね!」

イチは優しく笑いながら言った。
「そうよ、ニゴロ。この小さな花が教えてくれているわ。どんなに厳しい環境でも、諦めなければ必ず希望は芽生えるって」

ナナは少し困惑した表情で言った。
「希望、ですか? データで測れるものではありませんが...確かに、この現象は統計的に見ても稀有な出来事です」

三体は黙ってタンポポを見つめた。
春風が優しく花を揺らし、まるで彼女たちに手を振っているかのようだった。

「ねえ」ニゴロが小さな声で言った。
「このお花、守りたいな」

イチは優しく頷いた。
「そうね。私たちの仕事は、こういった新しい命を守ることでもあるのよ」

ナナは珍しく感情的な口調で言った。
「保護する価値は十分にあります。この個体の生存は、環境回復の重要な指標となるでしょう」

イチが静かに、しかし力強く言った。
「みんな、約束しましょう。これからは瓦礫を片付けるだけじゃなく、こういった命の芽を大切に守っていくって」

ニゴロは元気よく両手を挙げた。
「うん!僕、毎日お水あげに来るよ!」

ナナも珍しく柔らかな表情で答えた。
「私も定期的な観察と記録を行います。このタンポポの成長が、他の植物の再生にどう影響するか、とても興味深いです」

三体のアンドロイドは、新たな使命を胸に秘めながら、再び作業に戻っていった。
彼女たちの動きには、今までにない優しさと決意が感じられた。
春の陽光が、タンポポを中心に広がる小さな希望の輪を照らしていた。
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