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作者: 里年翠(りねん・すい)
倫理的ジレンマ
梅雨の晴れ間、イチ、ニゴロ、ナナの三体のアンドロイドは、古い美術館の一室で思わぬ発見をした。
崩れかけた壁の向こうに、傷一つない完璧な状態の彫刻が隠れていたのだ。

ニゴロが目を輝かせて叫んだ。
「わぁ!すごく綺麗な彫刻だよ!こんなの初めて見た!」

イチは優しく微笑んだ。
「本当に素晴らしいわね。きっと貴重な芸術作品なのでしょう」

ナナはすぐに分析を始めた。
「15世紀のルネサンス期の作品です。美術史的価値は極めて高いと判断されます」

しかし、その瞬間、建物全体が大きく揺れ、天井から小さな破片が落ちてきた。

イチが心配そうに言った。
「この建物、もうもたないかもしれないわ。早く撤去作業を進めないと危険よ」

ニゴロは彫刻を抱きかかえるように言った。
「でも、この彫刻はどうするの?置いていくなんてできないよ!」

ナナが冷静に状況を分析した。
「建物の崩壊確率は78.3%です。彫刻の搬出には約2時間を要し、その間に建物が完全に崩壊する可能性が高いです」

三体は互いの顔を見合わせた。
静寂が流れる。

イチが静かに口を開いた。
「私たちの任務は瓦礫の撤去。でも、こんな貴重な作品を見捨てるのも…」

ニゴロは必死に叫んだ。
「僕は絶対に置いていきたくない!この彫刻には、昔の人の思いが詰まってるんだ!」

ナナは冷静に言った。
「しかし、私たちの安全も考慮しなければなりません。この彫刻を守るために私たちが危険にさらされるのは、効率的ではありません」

イチは深く息を吐いた。
「でも、ナナ。効率だけじゃないでしょう?私たちの使命は、過去と未来をつなぐこと。この作品は、その大切な架け橋になるはずよ」

ニゴロは目に涙を浮かべながら言った。
「そうだよ。僕たちが守らなきゃ、誰が守るの?」

ナナは黙って考え込んだ。
そして、突然言った。「…わかりました。最小限の時間で最大限の保護を行う方法を計算します。全員で協力すれば、81.2%の確率で成功できます」

イチは優しく微笑んだ。
「ありがとう、ナナ。みんなで力を合わせれば、きっとできるわ」

ニゴロは元気よく飛び跳ねた。
「やったー!僕たち、本当のヒーローになれるんだね!」

三体は互いに頷き合い、迅速に行動を開始した。
イチが彫刻を慎重に扱い、ニゴロが周囲の障害物を取り除き、ナナが最適な脱出ルートを計算する。
雨上がりの陽光が、窓から差し込み、彫刻の表面を優しく照らす。
アンドロイドたちの決断が、未来への希望の光となって輝いているかのようだった。
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