残酷な描写あり
〈第七章あらすじ&登場人物紹介〉
===第七章 あらすじ===
メイシアを連れ去ろうとするリュイセンを目撃したものの、ルイフォンは阻止することができなかった。その結果、メイシアは〈蝿〉に囚われ、裏切り行為を働いたリュイセンは本人不在のまま、鷹刀一族からの追放処分となった。
リュイセンに斬られた腹の傷のため、ルイフォンは絶対安静を言い渡された。しかし、エルファンが現れ、地下にいる〈ベロ〉と話をしたいと、彼を強引に連れて行く。
エルファンは、〈ケルベロス〉はセレイエのために作られたシステムで、〈天使〉の力を無効化できる。だから、メイシアが『セレイエの〈影〉』にされるのを阻止して欲しい、と〈ベロ〉に頼んだ。しかし、不可能だと言われてしまう。
何故なら、〈ケルベロス〉は『〈天使〉の力の源』を破壊する手段であり、個々の〈天使〉の力を消すものではないからだ、と。
〈ベロ〉が、『〈天使〉の力の源』とは『〈冥王〉』である、と言ったとき、〈ベロ〉に〈悪魔〉の『契約』が発動した。
どうやら『〈冥王〉』という言葉は、王族の『秘密』と関係があるらしい。また、『人』だったときの記憶を持っているために『契約』が発動した、と〈ベロ〉に説明されたことで、〈ケルベロス〉は『人』の記憶を利用して作られていることが判明した。
〈ベロ〉は別れ際、『契約』に抵触するから詳しいことは言えないが、メイシアがセレイエの〈影〉にされることはないから安心するように、と告げた。
リュイセンを憂い、温室に籠もったミンウェイに、シュアンは、リュイセンは愛するミンウェイのために裏切ったのだ、と断言する。シュアンの推測によれば、リュイセンは〈蝿〉に『この薬を投与しなければ、ミンウェイは母親と同じ病で死ぬ』などと言われて従っているのだろう、と。
ミンウェイは、自分の体は母親と違って健康体だと反論するが、シュアンは、リュイセンが信じさえすれば、嘘でもいいんだと言い張る。だが、どちらにせよ、閉じ籠もっていないで、ルイフォンと協力して現状を抜け出すべきだと、ミンウェイは心を入れ替えた。
〈蝿〉の地下研究室で目を覚ましたメイシアは、〈蝿〉に、鷹刀セレイエを見つけるのが目的だ、と言われる。メイシアの中に刻まれた『セレイエの記憶』が居場所を知っているはずだ、と。
また、王族の血を引くメイシアは、『メイシア本人』と『セレイエ』の両方の記憶を同時に持つことが可能であるため、『セレイエの記憶』を思い出しても〈影〉にはならない。リュイセンに教えたことは半分嘘だったと告げられる。
セレイエを探す理由を問うたメイシアに、〈蝿〉は『生を享けた以上、生をまっとうする』という妻との約束を守るために、セレイエと手を組むか、あるいはセレイエを摂政に売って身の安全を確保するためだと答えた。
〈蝿〉はメイシアに、『デヴァイン・シンフォニア計画』は、セレイエが殺された息子を生き返らせるための計画であると教えた。つまり、〈神の御子〉の『ライシェン』は、セレイエの子供のクローンであると。そして、〈蝿〉が『ライシェン』を見せたとき、メイシアの世界は暗転した。
気を失ったメイシアの頭に「『最強の〈天使〉』の力で、ルイフォンと共に『ライシェン』を守って」というセレイエの願いが響き、メイシアはセレイエの記憶を得る。その中で、ライシェンの父親は、先王の甥であり、現女王の婚約者ヤンイェンだと分かる。また、ヤンイェンが先王を殺したのは、息子ライシェンを殺されたためであったと知った。
一方、鷹刀一族の屋敷では、ルイフォンとミンウェイが手を取り合った直後に、口論を始めた。『リュイセンはミンウェイのために裏切った』ことは共通の認識でありながら、リュイセンを弁護するミンウェイに対し、ルイフォンはなんの相談もせずにメイシアを連れ去った兄貴分を許せないと言い張ったためだ。
そこにシュアンが現れ、ハオリュウからの伝言により、ルイフォンは、『メイシアはリュイセンと共に逃げようとしているはずだ』と気づく。そして、リュイセンが〈蝿〉に追い込まれているのなら、弟分の自分こそが助けるべきだと考え直す。
シュアンは、リュイセンは嘘の薬を求めて〈蝿〉に踊らされているのではないか、と持論を主張した。それを聞いたルイフォンは、『天性の勘を持ったリュイセンは嘘には騙されない。つまり〈蝿〉は、ミンウェイに関する抗いようもない事実でリュイセンを従わせたのだ』と気づく。
そして、『ミンウェイが健康であること』こそが、脅しの事実だと悟る。
展望塔に囚われたメイシアは、『セレイエの記憶』の首尾を聞きにきた〈蝿〉に「楽しい記憶しか思い出せない」と嘘を言った。それは、どんな些細な情報も教えたくなかったためと、これからどうすればいいのか考える時間が欲しかったためである。危うい交渉の末、彼女は一週間の猶予をもぎ取った。
リュイセンがメイシアの世話係となり、彼と話す機会を得たが、顔向けできないと、口を閉ざされてしまった。
黄昏どきに紛れ、ファンルゥが、メイシアを助けるために現れた。ファンルゥの考えた方法での脱出は無理だったが、メイシアはファンルゥの『毒針が出る腕輪』が嘘であると気づく。そして、ファンルゥとタオロンに協力してもらう作戦を思いついた。
タオロンはメイシアからの『密書』に従って、〈蝿〉から外出許可を得て、見張りの男に『いい思い』の約束で協力させ、娼館に行く。そこで待っていたのは女装姿のルイフォンだった。密会の場として店を貸す代償として、シャオリエとスーリンに悪ふざけの餌食にされたのだった。
タオロンは正式に味方になり、なんでもするとルイフォンに約束した。同時に、ルイフォンは『何故メイシアは、タオロンの武力で〈蝿〉を捕まえて逃げてくるのではなく、タオロンに苦手な嘘と演技を頼んで、携帯端末を持ってくることを願ったのか』と疑問に思う。
ルイフォンとメイシアは電話での再会を果たした。感極まったメイシアが落ち着いたあと、ルイフォンは彼女に、どうしてタオロンに『〈蝿〉を捕まえて欲しい』と頼まなかったのかを尋ねた。
するとメイシアは、セレイエの記憶を受け取った自分は『デヴァイン・シンフォニア計画』のすべてを知っている。だから、〈蝿〉には情報源としての価値はなくなってしまった。〈蝿〉のことは『捕まえる』ではなくて『殺す』べき。けれど、自分には『殺して』とは言えなかった、と泣き出した。
ルイフォンは、メイシアの気持ちは当然のことだと言い、タオロンには鷹刀一族や〈猫〉からの正式な依頼として、〈蝿〉殺害を頼もうと決める。しかしそのとき、〈蝿〉に引導を渡す役は、リュイセンであるべきだと思い立った。
リュイセンは〈蝿〉に逆らえないのでは? と尋ねるメイシアに、ルイフォンは「俺がリュイセンの束縛を解いてやる」と答える。ルイフォンには、リュイセンが〈蝿〉に従っている理由が分かったのだ。ただし、まだ推測に過ぎない。だから、「これから証拠を手に入れて、リュイセンを解放する」と彼は宣言した。
===登場人物===
鷹刀ルイフォン
凶賊鷹刀一族総帥、鷹刀イーレオの末子。十六歳。
――ということになっているが、本当は次期総帥エルファンの息子なので、イーレオの孫にあたる。
母親のキリファから、〈猫〉というクラッカーの通称を継いでいる。
端正な顔立ちであるのだが、表情のせいでそうは見えない。
長髪を後ろで一本に編み、毛先を母の形見である金の鈴と、青い飾り紐で留めている。
凶賊の一員ではなく、何にも属さない「対等な協力者〈猫〉」であることを主張し、認められている。
※「ハッカー」という用語は、本来「コンピュータ技術に精通した人」の意味であり、悪い意味を持たない。むしろ、尊称として使われている。
対して、「クラッカー」は、悪意を持って他人のコンピュータを攻撃する者を指す。
よって、本作品では、〈猫〉を「クラッカー」と表記する。
メイシア
もと貴族で、藤咲家の娘。十八歳。
ルイフォンと共に居るために、表向き死亡したことになっている。
箱入り娘らしい無知さと明晰な頭脳を持つ。
すなわち、育ちの良さから人を疑うことはできないが、状況の矛盾から嘘を見抜く。
白磁の肌、黒絹の髪の美少女。
王族の血を色濃く引くため、『最強の〈天使〉の器』としてセレイエに選ばれ、ルイフォンとの出逢いを仕組まれた。
セレイエの〈影〉であったホンシュアを通して、セレイエの『記憶』を受け取った。
[鷹刀一族]
凶賊と呼ばれる、大華王国マフィアの一族。
秘密組織〈七つの大罪〉の介入により、近親婚によって作られた「強く美しい」一族。
――と、説明されていたが、実は〈七つの大罪〉が〈贄〉として作った一族であった。
鷹刀イーレオ
凶賊鷹刀一族の総帥。六十五歳。
若作りで洒落者。
かつては〈七つの大罪〉の研究者、〈悪魔〉の〈獅子〉であった。
鷹刀エルファン
イーレオの長子。次期総帥。
ルイフォンとは親子ほど歳の離れた異母兄弟ということになっているが、実は父親。
感情を表に出すことが少ない。冷静、冷酷。
鷹刀リュイセン
エルファンの次男。イーレオの孫。十九歳。本人は知らないが、ルイフォンの異母兄にあたる。
文句も多いが、やるときはやる男。
『神速の双刀使い』と呼ばれている。
長男の兄が一族を抜けたため、エルファンの次の総帥になる予定であり、最後の総帥となる決意をした。
〈蝿〉に脅迫され、不本意ながら彼の部下となっている。
鷹刀ミンウェイ
母親がイーレオの娘であり、イーレオの孫娘にあたる。二十代半ばに見える。
鷹刀一族の屋敷を切り盛りしている。
緩やかに波打つ長い髪と、豊満な肉体を持つ絶世の美女。ただし、本来は直毛。
薬草と毒草のエキスパート。医師免状も持っている。
かつて〈ベラドンナ〉という名の毒使いの暗殺者として暗躍していた。
父親ヘイシャオに、溺愛という名の虐待を受けていた。
草薙チャオラウ
イーレオの護衛にして、ルイフォンの武術師範。
無精髭を弄ぶ癖がある。
料理長
鷹刀一族の屋敷の料理長。
恰幅の良い初老の男。人柄が体格に出ている。
キリファ
ルイフォンの母。四年前に当時の国王シルフェンに首を落とされて死亡。
天才クラッカー〈猫〉。
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈蠍〉に〈天使〉にされた。
また〈蠍〉に右足首から下を斬られたため、歩行は困難だった。
もとエルファンの愛人で、セレイエとルイフォンを産んだ。
ただし、イーレオ、ユイランと結託して、ルイフォンがエルファンの息子であることを隠していた。
ルイフォンに『手紙』と称し、人工知能〈スー〉のプログラムを託した。
〈ケル〉〈ベロ〉〈スー〉
キリファが作った三台の兄弟コンピュータ。
表向きは普通のスーパーコンピュータだが、それは張りぼて。本体は〈七つの大罪〉の技術により、人間の記憶を利用して作られた光の珠である。
『〈天使〉の力の源である〈冥王〉を破壊するためのもの』であるらしい。
〈ベロ〉の人格は、シャオリエのオリジナル『パイシュエ』である。
〈ケル〉は、キリファの親友といってもよい間柄である。
また〈スー〉は、ルイフォンがキリファの『手紙』を正確に打ち込まないと出てこない。
セレイエ
エルファンとキリファの娘。
表向きは、ルイフォンの異父姉となっているが、同父母姉である。
リュイセンにとっては、異母姉になる。
生まれながらの〈天使〉。
貴族と駆け落ちして消息不明と思われていたが……、王族のヤンイェンと恋仲になり、ライシェンという〈神の御子〉を産んだ。
ライシェンを先王シルフェンに殺されたため、ライシェンを生き返らせるための計画『デヴァイン・シンフォニア計画』を作り、身を隠した――というのが真相。
『最強の〈天使〉』となり得るメイシアを選び、ルイフォンと引き合わせた。
メイシアのペンダントの元の持ち主で、『目印』としてメイシアに渡した。
四年前にルイフォンに会いに来て、〈天使〉の能力で何かをした。
パイシュエ
イーレオ曰く、『俺を育ててくれた女』。
故人。鷹刀一族を〈七つの大罪〉の支配から解放するために〈悪魔〉となり、その身を犠牲にして未来永劫、一族を〈贄〉にせずに済む細工を施した。
自分の死後、一族を率いていくことになるイーレオを助けるために、シャオリエという〈影〉を遺した。
また、どこかに残されていた彼女の『記憶』を使い、キリファは〈ベロ〉を作った。
すなわち、パイシュエというひとりの人間から、『シャオリエ』と〈ベロ〉が作られている。
[〈七つの大罪〉・他]
〈七つの大罪〉
現代の『七つの大罪』=『新・七つの大罪』を犯す『闇の研究組織』。
実は、王の私設研究機関。
王家に、王になる資格を持つ〈神の御子〉が生まれないとき、『過去の王のクローンを作り、王家の断絶を防ぐ』という役割を担っている。
〈悪魔〉
知的好奇心に魂を売り渡した研究者を〈悪魔〉と呼ぶ。
〈悪魔〉は〈神〉から名前を貰い、潤沢な資金と絶対の加護、蓄積された門外不出の技術を元に、更なる高みを目指す。
代償は体に刻み込まれた『契約』。――王族の『秘密』を口にすると死ぬという、〈天使〉による脳内介入を受けている。
『契約』
〈悪魔〉が、王族の『秘密』を口外しないように施される脳内介入。
記憶の中に刻まれるため、〈七つの大罪〉とは縁を切ったイーレオも、『契約』に縛られている。
〈天使〉
「記憶の書き込み」ができる人体実験体。
脳内介入を行う際に、背中から光の羽を出し、まるで天使のような姿になる。
〈天使〉とは、脳という記憶装置に、記憶や命令を書き込むオペレーター。いわば、人間に侵入して相手を乗っ取るクラッカー。
羽は、〈天使〉と侵入対象の人間との接続装置であり、限度を超えて酷使すれば熱暴走を起こす。
〈影〉
〈天使〉によって、脳を他人の記憶に書き換えられた人間。
体は元の人物だが、精神が別人となる。
『呪い』・便宜上、そう呼ばれているもの
〈天使〉の脳内介入によって受ける影響、被害といったもの。悪魔の『契約』も『呪い』の一種である。
服従が快楽と錯覚するような他人を支配する命令や、「パパがチョコを食べていいと言った」という他愛のない嘘の記憶まで、いろいろである。
『di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア計画』
セレイエによる、殺された息子ライシェンを生き返らせるための計画。
『di』は、『ふたつ』を意味する接頭辞。『vine』は、『蔓』。
つまり、『ふたつの蔓』――転じて、『二重螺旋』『DNAの立体構造』――『命』の暗喩。
『sin』は『罪』。『fonia』は、ただの語呂合わせ。
これらの意味を繋ぎ合わせて『命に対する冒涜』と、ホンシュアは言った。
ヘイシャオ
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈蝿〉。ミンウェイの父。故人。
医者で暗殺者。
病弱な妻のために〈悪魔〉となった。
〈七つの大罪〉の技術を否定したイーレオを恨んでいるらしい。
娘を、亡くした妻の代わりにするという、異常な愛情で溺愛していた。
そのため、娘に、妻と同じ名前『ミンウェイ』と名付けている。
十数年前に、娘のミンウェイを連れて現れ、自殺のようなかたちでエルファンに殺された。
現在の〈蝿〉
セレイエが『ライシェン』を作らせるために、蘇らせたヘイシャオ。
セレイエに吹き込まれた嘘のせいで、イーレオの命を狙ってきた。
死の間際のホンシュアから、メイシアに『セレイエの記憶』が刻まれていると教えられ、セレイエの居場所を知るために、リュイセンを脅迫をして、メイシアを囚えた。
ヘイシャオそのものだが、記憶と肉体の年齢が合っていない。
ホンシュア
殺されたライシェンの侍女であり、自害するくらいならとセレイエの〈影〉となって『デヴァイン・シンフォニア計画』に協力した。体は〈天使〉化してあった。
〈影〉にされたメイシアの父親に、死ぬ前だけでも本人に戻れるような細工をしたため、体が限界を超え、熱暴走を起こして死亡。
メイシアにセレイエの記憶を潜ませ、鷹刀に行くように仕向けた、いわば発端を作った人物である。
〈蛇〉
セレイエの〈悪魔〉としての名前。
〈蝿〉が、セレイエの〈影〉であるホンシュアを〈蛇〉と呼んでいたため、ホンシュアを指すこともある。
ライシェン
殺されたセレイエの息子の名前。
〈神の御子〉だった。
斑目タオロン
よく陽に焼けた浅黒い肌に、意思の強そうな目をした斑目一族の若い衆。
堂々たる体躯に猪突猛進の性格。
二十四歳だが、童顔ゆえに、二十歳そこそこに見られる。
〈蝿〉の部下となっていたが、娘のファンルゥに着けられていた毒針の腕輪が嘘だと分かり、ルイフォンたちの味方になった。
斑目ファンルゥ
タオロンの娘。四、五歳くらい。
くりっとした丸い目に、ぴょんぴょんとはねた癖っ毛が愛らしい。
彼女の優しさのおかげで、状況が一転し、解決へと向かい始めた。
[藤咲家・他]
藤咲ハオリュウ
メイシアの異母弟。十二歳。
父親を亡くしたため、若年ながら藤咲家の当主を継いだ。
十人並みの容姿に、子供とは思えない言動。いずれは一角の人物になると目される。
異母姉メイシアを自由にするために、表向き死亡したことにしたのは彼である。
女王陛下の婚礼衣装制作に関して、草薙レイウェンと提携を決めた。
緋扇シュアン
『狂犬』と呼ばれるイカレ警察隊員。三十路手前程度。イーレオには『野犬』と呼ばれた。
ぼさぼさに乱れまくった頭髪、隈のできた血走った目、不健康そうな青白い肌をしている。
凶賊の抗争に巻き込まれて家族を失っており、凶賊を恨んでいる。
凶賊を殲滅すべく、情報を求めて鷹刀一族と手を結んだ。
敬愛する先輩が〈蝿〉の手に堕ちてしまい、自らの手で射殺した。
似た境遇に遭ったハオリュウに庇護欲を感じ、彼に協力することにした。
[王家・他]
アイリー
大華王国の現女王。十五歳。
彼女の婚約を開始条件に、すべてが――『デヴァイン・シンフォニア計画』が始まったと思われる。
メイシアの再従姉妹にあたるが、メイシア曰く『私は数多の貴族のひとりに過ぎなかった』。
シルフェン
先王。四年前、腹心だった甥のヤンイェンに殺害された。
〈神の御子〉に恵まれなかった先々王が〈七つの大罪〉に作らせた『過去の王のクローン』である。
ヤンイェン
先王の甥。女王の婚約者。
実は先王が〈神の御子〉を求めて姉に産ませた隠し子で、女王アイリーや摂政カイウォルの異母兄弟に当たる。
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉だったセレイエと恋仲になり、ライシェンが生まれた。
しかし、〈神の御子〉であったライシェンは殺され、その復讐として先王を殺害した。
メイシアの再従兄妹にあたる。
カイウォル
摂政。女王の兄に当たる人物。
摂政を含む、女王以外の兄弟は〈神の御子〉の外見を持たないために、王位継承権はない。
異母兄にあたるヤンイェンとの結婚を嫌がる妹、女王アイリーのため、ハオリュウに『君が女王の婚約者になれば、女王の結婚が延期される』と陰謀を持ちかけた。
[草薙家]
草薙レイウェン
エルファンの長男。リュイセンの兄。
エルファンの後継者であったが、幼馴染で妻のシャンリーを外の世界で活躍させるために
鷹刀一族を出た。
――ということになっているが、リュイセンに後継者を譲ろうと、シャンリーと画策したというのが真相。
服飾会社、警備会社など、複数の会社を興す。
草薙シャンリー
レイウェンの妻。チャオラウの姪だが、赤子のころに両親を亡くしたためチャオラウの養女になっている。
王宮に召されるほどの剣舞の名手。
遠目には男性にしかみえない。本人は男装をしているつもりはないが、男装の麗人と呼ばれる。
草薙クーティエ
レイウェンとシャンリーの娘。リュイセンの姪に当たる。十歳。
可愛らしく、活発。
鷹刀ユイラン
エルファンの正妻。レイウェン、リュイセンの母。
レイウェンの会社の専属デザイナーとして、鷹刀一族の屋敷を出た。
ルイフォンが、エルファンの子であることを隠したいキリファに協力して、愛人をいじめる正妻のふりをしてくれた。
メイシアの異母弟ハオリュウに、メイシアの花嫁衣装を依頼された。
また、ヘイシャオの実の姉でもある。
[繁華街]
シャオリエ
高級娼館の女主人。年齢不詳。
外見は嫋やかな美女だが、中身は『姐さん』。
実は〈影〉であり、イーレオを育てた、パイシュエという人物の記憶を持つ。
スーリン
シャオリエの店の娼婦。
くるくる巻き毛のポニーテールが似合う、小柄で可愛らしい少女。ということになっているが妖艶な美女という説もある。
本人曰く、もと女優の卵である。実年齢は不明。
ルイリン
ルイフォンの女装姿につけられた名前。
タオロンと好い仲の少女娼婦。癖の強い、長い黒髪の美少女。
少女にしては長身で、そのことを気するかのように猫背である。
――という設定になっている。
===大華王国について===
黒髪黒目の国民の中で、白金の髪、青灰色の瞳を持つ王が治める王国である。
身分制度は、王族、貴族、平民、自由民に分かれている。
また、暴力的な手段によって団結している集団のことを凶賊と呼ぶ。彼らは平民や自由民であるが、貴族並みの勢力を誇っている。
メイシアを連れ去ろうとするリュイセンを目撃したものの、ルイフォンは阻止することができなかった。その結果、メイシアは〈蝿〉に囚われ、裏切り行為を働いたリュイセンは本人不在のまま、鷹刀一族からの追放処分となった。
リュイセンに斬られた腹の傷のため、ルイフォンは絶対安静を言い渡された。しかし、エルファンが現れ、地下にいる〈ベロ〉と話をしたいと、彼を強引に連れて行く。
エルファンは、〈ケルベロス〉はセレイエのために作られたシステムで、〈天使〉の力を無効化できる。だから、メイシアが『セレイエの〈影〉』にされるのを阻止して欲しい、と〈ベロ〉に頼んだ。しかし、不可能だと言われてしまう。
何故なら、〈ケルベロス〉は『〈天使〉の力の源』を破壊する手段であり、個々の〈天使〉の力を消すものではないからだ、と。
〈ベロ〉が、『〈天使〉の力の源』とは『〈冥王〉』である、と言ったとき、〈ベロ〉に〈悪魔〉の『契約』が発動した。
どうやら『〈冥王〉』という言葉は、王族の『秘密』と関係があるらしい。また、『人』だったときの記憶を持っているために『契約』が発動した、と〈ベロ〉に説明されたことで、〈ケルベロス〉は『人』の記憶を利用して作られていることが判明した。
〈ベロ〉は別れ際、『契約』に抵触するから詳しいことは言えないが、メイシアがセレイエの〈影〉にされることはないから安心するように、と告げた。
リュイセンを憂い、温室に籠もったミンウェイに、シュアンは、リュイセンは愛するミンウェイのために裏切ったのだ、と断言する。シュアンの推測によれば、リュイセンは〈蝿〉に『この薬を投与しなければ、ミンウェイは母親と同じ病で死ぬ』などと言われて従っているのだろう、と。
ミンウェイは、自分の体は母親と違って健康体だと反論するが、シュアンは、リュイセンが信じさえすれば、嘘でもいいんだと言い張る。だが、どちらにせよ、閉じ籠もっていないで、ルイフォンと協力して現状を抜け出すべきだと、ミンウェイは心を入れ替えた。
〈蝿〉の地下研究室で目を覚ましたメイシアは、〈蝿〉に、鷹刀セレイエを見つけるのが目的だ、と言われる。メイシアの中に刻まれた『セレイエの記憶』が居場所を知っているはずだ、と。
また、王族の血を引くメイシアは、『メイシア本人』と『セレイエ』の両方の記憶を同時に持つことが可能であるため、『セレイエの記憶』を思い出しても〈影〉にはならない。リュイセンに教えたことは半分嘘だったと告げられる。
セレイエを探す理由を問うたメイシアに、〈蝿〉は『生を享けた以上、生をまっとうする』という妻との約束を守るために、セレイエと手を組むか、あるいはセレイエを摂政に売って身の安全を確保するためだと答えた。
〈蝿〉はメイシアに、『デヴァイン・シンフォニア計画』は、セレイエが殺された息子を生き返らせるための計画であると教えた。つまり、〈神の御子〉の『ライシェン』は、セレイエの子供のクローンであると。そして、〈蝿〉が『ライシェン』を見せたとき、メイシアの世界は暗転した。
気を失ったメイシアの頭に「『最強の〈天使〉』の力で、ルイフォンと共に『ライシェン』を守って」というセレイエの願いが響き、メイシアはセレイエの記憶を得る。その中で、ライシェンの父親は、先王の甥であり、現女王の婚約者ヤンイェンだと分かる。また、ヤンイェンが先王を殺したのは、息子ライシェンを殺されたためであったと知った。
一方、鷹刀一族の屋敷では、ルイフォンとミンウェイが手を取り合った直後に、口論を始めた。『リュイセンはミンウェイのために裏切った』ことは共通の認識でありながら、リュイセンを弁護するミンウェイに対し、ルイフォンはなんの相談もせずにメイシアを連れ去った兄貴分を許せないと言い張ったためだ。
そこにシュアンが現れ、ハオリュウからの伝言により、ルイフォンは、『メイシアはリュイセンと共に逃げようとしているはずだ』と気づく。そして、リュイセンが〈蝿〉に追い込まれているのなら、弟分の自分こそが助けるべきだと考え直す。
シュアンは、リュイセンは嘘の薬を求めて〈蝿〉に踊らされているのではないか、と持論を主張した。それを聞いたルイフォンは、『天性の勘を持ったリュイセンは嘘には騙されない。つまり〈蝿〉は、ミンウェイに関する抗いようもない事実でリュイセンを従わせたのだ』と気づく。
そして、『ミンウェイが健康であること』こそが、脅しの事実だと悟る。
展望塔に囚われたメイシアは、『セレイエの記憶』の首尾を聞きにきた〈蝿〉に「楽しい記憶しか思い出せない」と嘘を言った。それは、どんな些細な情報も教えたくなかったためと、これからどうすればいいのか考える時間が欲しかったためである。危うい交渉の末、彼女は一週間の猶予をもぎ取った。
リュイセンがメイシアの世話係となり、彼と話す機会を得たが、顔向けできないと、口を閉ざされてしまった。
黄昏どきに紛れ、ファンルゥが、メイシアを助けるために現れた。ファンルゥの考えた方法での脱出は無理だったが、メイシアはファンルゥの『毒針が出る腕輪』が嘘であると気づく。そして、ファンルゥとタオロンに協力してもらう作戦を思いついた。
タオロンはメイシアからの『密書』に従って、〈蝿〉から外出許可を得て、見張りの男に『いい思い』の約束で協力させ、娼館に行く。そこで待っていたのは女装姿のルイフォンだった。密会の場として店を貸す代償として、シャオリエとスーリンに悪ふざけの餌食にされたのだった。
タオロンは正式に味方になり、なんでもするとルイフォンに約束した。同時に、ルイフォンは『何故メイシアは、タオロンの武力で〈蝿〉を捕まえて逃げてくるのではなく、タオロンに苦手な嘘と演技を頼んで、携帯端末を持ってくることを願ったのか』と疑問に思う。
ルイフォンとメイシアは電話での再会を果たした。感極まったメイシアが落ち着いたあと、ルイフォンは彼女に、どうしてタオロンに『〈蝿〉を捕まえて欲しい』と頼まなかったのかを尋ねた。
するとメイシアは、セレイエの記憶を受け取った自分は『デヴァイン・シンフォニア計画』のすべてを知っている。だから、〈蝿〉には情報源としての価値はなくなってしまった。〈蝿〉のことは『捕まえる』ではなくて『殺す』べき。けれど、自分には『殺して』とは言えなかった、と泣き出した。
ルイフォンは、メイシアの気持ちは当然のことだと言い、タオロンには鷹刀一族や〈猫〉からの正式な依頼として、〈蝿〉殺害を頼もうと決める。しかしそのとき、〈蝿〉に引導を渡す役は、リュイセンであるべきだと思い立った。
リュイセンは〈蝿〉に逆らえないのでは? と尋ねるメイシアに、ルイフォンは「俺がリュイセンの束縛を解いてやる」と答える。ルイフォンには、リュイセンが〈蝿〉に従っている理由が分かったのだ。ただし、まだ推測に過ぎない。だから、「これから証拠を手に入れて、リュイセンを解放する」と彼は宣言した。
===登場人物===
鷹刀ルイフォン
凶賊鷹刀一族総帥、鷹刀イーレオの末子。十六歳。
――ということになっているが、本当は次期総帥エルファンの息子なので、イーレオの孫にあたる。
母親のキリファから、〈猫〉というクラッカーの通称を継いでいる。
端正な顔立ちであるのだが、表情のせいでそうは見えない。
長髪を後ろで一本に編み、毛先を母の形見である金の鈴と、青い飾り紐で留めている。
凶賊の一員ではなく、何にも属さない「対等な協力者〈猫〉」であることを主張し、認められている。
※「ハッカー」という用語は、本来「コンピュータ技術に精通した人」の意味であり、悪い意味を持たない。むしろ、尊称として使われている。
対して、「クラッカー」は、悪意を持って他人のコンピュータを攻撃する者を指す。
よって、本作品では、〈猫〉を「クラッカー」と表記する。
メイシア
もと貴族で、藤咲家の娘。十八歳。
ルイフォンと共に居るために、表向き死亡したことになっている。
箱入り娘らしい無知さと明晰な頭脳を持つ。
すなわち、育ちの良さから人を疑うことはできないが、状況の矛盾から嘘を見抜く。
白磁の肌、黒絹の髪の美少女。
王族の血を色濃く引くため、『最強の〈天使〉の器』としてセレイエに選ばれ、ルイフォンとの出逢いを仕組まれた。
セレイエの〈影〉であったホンシュアを通して、セレイエの『記憶』を受け取った。
[鷹刀一族]
凶賊と呼ばれる、大華王国マフィアの一族。
秘密組織〈七つの大罪〉の介入により、近親婚によって作られた「強く美しい」一族。
――と、説明されていたが、実は〈七つの大罪〉が〈贄〉として作った一族であった。
鷹刀イーレオ
凶賊鷹刀一族の総帥。六十五歳。
若作りで洒落者。
かつては〈七つの大罪〉の研究者、〈悪魔〉の〈獅子〉であった。
鷹刀エルファン
イーレオの長子。次期総帥。
ルイフォンとは親子ほど歳の離れた異母兄弟ということになっているが、実は父親。
感情を表に出すことが少ない。冷静、冷酷。
鷹刀リュイセン
エルファンの次男。イーレオの孫。十九歳。本人は知らないが、ルイフォンの異母兄にあたる。
文句も多いが、やるときはやる男。
『神速の双刀使い』と呼ばれている。
長男の兄が一族を抜けたため、エルファンの次の総帥になる予定であり、最後の総帥となる決意をした。
〈蝿〉に脅迫され、不本意ながら彼の部下となっている。
鷹刀ミンウェイ
母親がイーレオの娘であり、イーレオの孫娘にあたる。二十代半ばに見える。
鷹刀一族の屋敷を切り盛りしている。
緩やかに波打つ長い髪と、豊満な肉体を持つ絶世の美女。ただし、本来は直毛。
薬草と毒草のエキスパート。医師免状も持っている。
かつて〈ベラドンナ〉という名の毒使いの暗殺者として暗躍していた。
父親ヘイシャオに、溺愛という名の虐待を受けていた。
草薙チャオラウ
イーレオの護衛にして、ルイフォンの武術師範。
無精髭を弄ぶ癖がある。
料理長
鷹刀一族の屋敷の料理長。
恰幅の良い初老の男。人柄が体格に出ている。
キリファ
ルイフォンの母。四年前に当時の国王シルフェンに首を落とされて死亡。
天才クラッカー〈猫〉。
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈蠍〉に〈天使〉にされた。
また〈蠍〉に右足首から下を斬られたため、歩行は困難だった。
もとエルファンの愛人で、セレイエとルイフォンを産んだ。
ただし、イーレオ、ユイランと結託して、ルイフォンがエルファンの息子であることを隠していた。
ルイフォンに『手紙』と称し、人工知能〈スー〉のプログラムを託した。
〈ケル〉〈ベロ〉〈スー〉
キリファが作った三台の兄弟コンピュータ。
表向きは普通のスーパーコンピュータだが、それは張りぼて。本体は〈七つの大罪〉の技術により、人間の記憶を利用して作られた光の珠である。
『〈天使〉の力の源である〈冥王〉を破壊するためのもの』であるらしい。
〈ベロ〉の人格は、シャオリエのオリジナル『パイシュエ』である。
〈ケル〉は、キリファの親友といってもよい間柄である。
また〈スー〉は、ルイフォンがキリファの『手紙』を正確に打ち込まないと出てこない。
セレイエ
エルファンとキリファの娘。
表向きは、ルイフォンの異父姉となっているが、同父母姉である。
リュイセンにとっては、異母姉になる。
生まれながらの〈天使〉。
貴族と駆け落ちして消息不明と思われていたが……、王族のヤンイェンと恋仲になり、ライシェンという〈神の御子〉を産んだ。
ライシェンを先王シルフェンに殺されたため、ライシェンを生き返らせるための計画『デヴァイン・シンフォニア計画』を作り、身を隠した――というのが真相。
『最強の〈天使〉』となり得るメイシアを選び、ルイフォンと引き合わせた。
メイシアのペンダントの元の持ち主で、『目印』としてメイシアに渡した。
四年前にルイフォンに会いに来て、〈天使〉の能力で何かをした。
パイシュエ
イーレオ曰く、『俺を育ててくれた女』。
故人。鷹刀一族を〈七つの大罪〉の支配から解放するために〈悪魔〉となり、その身を犠牲にして未来永劫、一族を〈贄〉にせずに済む細工を施した。
自分の死後、一族を率いていくことになるイーレオを助けるために、シャオリエという〈影〉を遺した。
また、どこかに残されていた彼女の『記憶』を使い、キリファは〈ベロ〉を作った。
すなわち、パイシュエというひとりの人間から、『シャオリエ』と〈ベロ〉が作られている。
[〈七つの大罪〉・他]
〈七つの大罪〉
現代の『七つの大罪』=『新・七つの大罪』を犯す『闇の研究組織』。
実は、王の私設研究機関。
王家に、王になる資格を持つ〈神の御子〉が生まれないとき、『過去の王のクローンを作り、王家の断絶を防ぐ』という役割を担っている。
〈悪魔〉
知的好奇心に魂を売り渡した研究者を〈悪魔〉と呼ぶ。
〈悪魔〉は〈神〉から名前を貰い、潤沢な資金と絶対の加護、蓄積された門外不出の技術を元に、更なる高みを目指す。
代償は体に刻み込まれた『契約』。――王族の『秘密』を口にすると死ぬという、〈天使〉による脳内介入を受けている。
『契約』
〈悪魔〉が、王族の『秘密』を口外しないように施される脳内介入。
記憶の中に刻まれるため、〈七つの大罪〉とは縁を切ったイーレオも、『契約』に縛られている。
〈天使〉
「記憶の書き込み」ができる人体実験体。
脳内介入を行う際に、背中から光の羽を出し、まるで天使のような姿になる。
〈天使〉とは、脳という記憶装置に、記憶や命令を書き込むオペレーター。いわば、人間に侵入して相手を乗っ取るクラッカー。
羽は、〈天使〉と侵入対象の人間との接続装置であり、限度を超えて酷使すれば熱暴走を起こす。
〈影〉
〈天使〉によって、脳を他人の記憶に書き換えられた人間。
体は元の人物だが、精神が別人となる。
『呪い』・便宜上、そう呼ばれているもの
〈天使〉の脳内介入によって受ける影響、被害といったもの。悪魔の『契約』も『呪い』の一種である。
服従が快楽と錯覚するような他人を支配する命令や、「パパがチョコを食べていいと言った」という他愛のない嘘の記憶まで、いろいろである。
『di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア計画』
セレイエによる、殺された息子ライシェンを生き返らせるための計画。
『di』は、『ふたつ』を意味する接頭辞。『vine』は、『蔓』。
つまり、『ふたつの蔓』――転じて、『二重螺旋』『DNAの立体構造』――『命』の暗喩。
『sin』は『罪』。『fonia』は、ただの語呂合わせ。
これらの意味を繋ぎ合わせて『命に対する冒涜』と、ホンシュアは言った。
ヘイシャオ
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈蝿〉。ミンウェイの父。故人。
医者で暗殺者。
病弱な妻のために〈悪魔〉となった。
〈七つの大罪〉の技術を否定したイーレオを恨んでいるらしい。
娘を、亡くした妻の代わりにするという、異常な愛情で溺愛していた。
そのため、娘に、妻と同じ名前『ミンウェイ』と名付けている。
十数年前に、娘のミンウェイを連れて現れ、自殺のようなかたちでエルファンに殺された。
現在の〈蝿〉
セレイエが『ライシェン』を作らせるために、蘇らせたヘイシャオ。
セレイエに吹き込まれた嘘のせいで、イーレオの命を狙ってきた。
死の間際のホンシュアから、メイシアに『セレイエの記憶』が刻まれていると教えられ、セレイエの居場所を知るために、リュイセンを脅迫をして、メイシアを囚えた。
ヘイシャオそのものだが、記憶と肉体の年齢が合っていない。
ホンシュア
殺されたライシェンの侍女であり、自害するくらいならとセレイエの〈影〉となって『デヴァイン・シンフォニア計画』に協力した。体は〈天使〉化してあった。
〈影〉にされたメイシアの父親に、死ぬ前だけでも本人に戻れるような細工をしたため、体が限界を超え、熱暴走を起こして死亡。
メイシアにセレイエの記憶を潜ませ、鷹刀に行くように仕向けた、いわば発端を作った人物である。
〈蛇〉
セレイエの〈悪魔〉としての名前。
〈蝿〉が、セレイエの〈影〉であるホンシュアを〈蛇〉と呼んでいたため、ホンシュアを指すこともある。
ライシェン
殺されたセレイエの息子の名前。
〈神の御子〉だった。
斑目タオロン
よく陽に焼けた浅黒い肌に、意思の強そうな目をした斑目一族の若い衆。
堂々たる体躯に猪突猛進の性格。
二十四歳だが、童顔ゆえに、二十歳そこそこに見られる。
〈蝿〉の部下となっていたが、娘のファンルゥに着けられていた毒針の腕輪が嘘だと分かり、ルイフォンたちの味方になった。
斑目ファンルゥ
タオロンの娘。四、五歳くらい。
くりっとした丸い目に、ぴょんぴょんとはねた癖っ毛が愛らしい。
彼女の優しさのおかげで、状況が一転し、解決へと向かい始めた。
[藤咲家・他]
藤咲ハオリュウ
メイシアの異母弟。十二歳。
父親を亡くしたため、若年ながら藤咲家の当主を継いだ。
十人並みの容姿に、子供とは思えない言動。いずれは一角の人物になると目される。
異母姉メイシアを自由にするために、表向き死亡したことにしたのは彼である。
女王陛下の婚礼衣装制作に関して、草薙レイウェンと提携を決めた。
緋扇シュアン
『狂犬』と呼ばれるイカレ警察隊員。三十路手前程度。イーレオには『野犬』と呼ばれた。
ぼさぼさに乱れまくった頭髪、隈のできた血走った目、不健康そうな青白い肌をしている。
凶賊の抗争に巻き込まれて家族を失っており、凶賊を恨んでいる。
凶賊を殲滅すべく、情報を求めて鷹刀一族と手を結んだ。
敬愛する先輩が〈蝿〉の手に堕ちてしまい、自らの手で射殺した。
似た境遇に遭ったハオリュウに庇護欲を感じ、彼に協力することにした。
[王家・他]
アイリー
大華王国の現女王。十五歳。
彼女の婚約を開始条件に、すべてが――『デヴァイン・シンフォニア計画』が始まったと思われる。
メイシアの再従姉妹にあたるが、メイシア曰く『私は数多の貴族のひとりに過ぎなかった』。
シルフェン
先王。四年前、腹心だった甥のヤンイェンに殺害された。
〈神の御子〉に恵まれなかった先々王が〈七つの大罪〉に作らせた『過去の王のクローン』である。
ヤンイェン
先王の甥。女王の婚約者。
実は先王が〈神の御子〉を求めて姉に産ませた隠し子で、女王アイリーや摂政カイウォルの異母兄弟に当たる。
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉だったセレイエと恋仲になり、ライシェンが生まれた。
しかし、〈神の御子〉であったライシェンは殺され、その復讐として先王を殺害した。
メイシアの再従兄妹にあたる。
カイウォル
摂政。女王の兄に当たる人物。
摂政を含む、女王以外の兄弟は〈神の御子〉の外見を持たないために、王位継承権はない。
異母兄にあたるヤンイェンとの結婚を嫌がる妹、女王アイリーのため、ハオリュウに『君が女王の婚約者になれば、女王の結婚が延期される』と陰謀を持ちかけた。
[草薙家]
草薙レイウェン
エルファンの長男。リュイセンの兄。
エルファンの後継者であったが、幼馴染で妻のシャンリーを外の世界で活躍させるために
鷹刀一族を出た。
――ということになっているが、リュイセンに後継者を譲ろうと、シャンリーと画策したというのが真相。
服飾会社、警備会社など、複数の会社を興す。
草薙シャンリー
レイウェンの妻。チャオラウの姪だが、赤子のころに両親を亡くしたためチャオラウの養女になっている。
王宮に召されるほどの剣舞の名手。
遠目には男性にしかみえない。本人は男装をしているつもりはないが、男装の麗人と呼ばれる。
草薙クーティエ
レイウェンとシャンリーの娘。リュイセンの姪に当たる。十歳。
可愛らしく、活発。
鷹刀ユイラン
エルファンの正妻。レイウェン、リュイセンの母。
レイウェンの会社の専属デザイナーとして、鷹刀一族の屋敷を出た。
ルイフォンが、エルファンの子であることを隠したいキリファに協力して、愛人をいじめる正妻のふりをしてくれた。
メイシアの異母弟ハオリュウに、メイシアの花嫁衣装を依頼された。
また、ヘイシャオの実の姉でもある。
[繁華街]
シャオリエ
高級娼館の女主人。年齢不詳。
外見は嫋やかな美女だが、中身は『姐さん』。
実は〈影〉であり、イーレオを育てた、パイシュエという人物の記憶を持つ。
スーリン
シャオリエの店の娼婦。
くるくる巻き毛のポニーテールが似合う、小柄で可愛らしい少女。ということになっているが妖艶な美女という説もある。
本人曰く、もと女優の卵である。実年齢は不明。
ルイリン
ルイフォンの女装姿につけられた名前。
タオロンと好い仲の少女娼婦。癖の強い、長い黒髪の美少女。
少女にしては長身で、そのことを気するかのように猫背である。
――という設定になっている。
===大華王国について===
黒髪黒目の国民の中で、白金の髪、青灰色の瞳を持つ王が治める王国である。
身分制度は、王族、貴族、平民、自由民に分かれている。
また、暴力的な手段によって団結している集団のことを凶賊と呼ぶ。彼らは平民や自由民であるが、貴族並みの勢力を誇っている。