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作者: 唯響-Ion
第四十話 日常に溶け込む
 太宰府分校に転校し、弥勒は舞楽部に所属する。しかし、舞楽の強豪での修行という、表向きの方便に舞楽を用いることに対する悲しさを感じる。
 巳代が語る軍事クーデターというのが、弥勒の中でも腑に落ちた。その可能性は、今考えられる最も合理的な手法であったからだ。
 だがそれを止める手立てなどあるのだろうか。弥勒には分からなかった。そして同時に、違和感も覚えた。
「でも巳代、もしクーデターを行うというのならば、わざわざ県知事を狙ったり、犯罪組織を味方に入れた理由はなに? そんなことをすれば余計に惟神庁の警戒心を刺激するだけじゃないのかな。現に僕達がこうして九州に派遣されたことを鑑みても、神童とまで呼ばれた男がそんな無駄なことに時間と労力を割くとは思わない」
「そうだな……それは俺も考えたことだ。だからこれはあくまで、可能性の一つだ。相手は着実に勢力を伸ばして、目的達成に近づいているんだ。犯罪組織や自衛団を使った複合的な手で、俺達を出し抜こうとしていると考えるべきだ。事はそう単純じゃなく、大計かも知れない……」
 敵の手口は複雑で大掛かりなものだと考えるべきだと、弥勒は思った。予想は常に悪い方にしておかなくては、負けてしまう。自分よりも賢い巳代と常に一緒に居るせいか、少しづつ、論理的な思考が身について来た気がした。側に居るだけで影響を受けるなんて、まるで怪異の様だと思い、少し可笑しく感じた。しかし怪異であっても、元はただの人間である。側に居る人で自分も変わってしまうというのは、今も昔も変わらない、人の普遍的な性質なのだろうかと、弥勒は思った。

 太宰府に来てから、弥勒、巳代、渋川は目的を果たす為、早速長崎へ向かう予定を作った。それは全員の予定が合う、次の土日であった。
「それまで、大人しくしとこうかな。大友の味方が全くいないと決まった訳じゃないんだ……この太宰府分校に、僕達を監視して大友へその情報を伝えるスパイが居る可能性は十分にある。その為に……」
 月曜日、弥勒は太宰府分校でも舞楽部に所属する運びとなった。転校した目的を、敵に知られない様にする為のカモフラージュだ。弥勒は、愛する舞楽を方便として利用することに悲しみを感じていたが、政治家の息子というのはこういう体面を綺麗にしていなくはならないという意識は、子供の頃からあった。だから、外面を取り付くろうことに対する抵抗感は、人よりも少なかった。
「こういうのを秋月さんは毛嫌いしてたんだろうな……気持ちは分かるよ。でも、その生まれに抗うよりも、運命を受け入れたい。僕にしか出来ないことをやり遂げる為に、僕は生まれてきたのだと思うから」
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