第四三話 五条衣世梨
弥勒ら転校生三人組を執拗に嗅ぎ回る五条。弥勒は、彼女への警戒を強める。
五条は転校生三人組に興味津々な様で、その素性を知りたがっていた。三年の巳代や渋川にも、積極的に声を掛けたり、人を介して二人のことも知ろうとしていた様だ。遠縁とはいえ、太宰府で最も格式高いとされる菅原家の人間ともあれば、友達も多かろう。若しくは家柄など関係なく、これほどの美女ならば簡単に人誑(ひとたら)しになれるだろうから、簡単に巳代や渋川の素性を調べ上げてしまうのだろう。
弥勒は、大友修造を探していることを悟られまいかと、不安になった。五条が大友修造側のスパイではないとも限らない以上、警戒せざるを得ない。それに執拗に嗅ぎ回るその行動だけを見れば、不自然極まりなかった。
一日を終えて帰路に就く為、教室を出ようとした弥勒を、五条が止めた。
「弥勒くんって惟神の陵王って呼ばれてるとよね! 今年は大会が中止になったって聞いたったい。どこかで舞を観られる機会はあるかな!」
「どうだろう……どうして?」
弥勒は警戒心を悟られまいと、平静を装いながら問うた。
五条が瞬き一つせず「観てみたいやん!」といってのけると、弥勒は呆気に取られた表情をした。
そして二人のあいだに、妙な沈黙の時間が流れた。
弥勒は、彼女を訝しむのも馬鹿らしく感じてしまった。五条のあまりに真っ直ぐな目に、他心がないことを察してしまったからだ。
「どしたん? 今日はブレスケアしとるよ?」
「今日もなにも匂ってないよ。あの……僕に興味を持ってくれてありがとう。だけど、多分お披露目する機会はないかな」
「ええー残念! 観てみたかったのになぁ……」
項垂れる五条に、弥勒は尋ねた。
「五条さんは普段、なにをしてるの?」
「私? 私は天神に遊びに行ったりすることが多いかな。意外でしょ? 五条家の人が繁華街に遊びに行くなんてって、そう思ったでしょ?」
「意外とリベラルなの?」
「いや〜めっちゃ厳しいよ。でも、菅原庶流の諸家と比べれば緩いのかな。特に私の両親は守るべき伝統と自由を両立させたいってタイプの人だから」
「珍しいね。日向分校にいる僕の友人は、家格的には五条家と遜色ない家の子で、それを生まれの不幸だって嘆いてる様な子なんだ。五条さんも同じなのかなって思ってた」
「普通はそうだと思うよ。私だって、いっぱい両親へ文句をいって、交渉して、ようやくこの自由を手にしたんだから」
そういう五条は腰に手を当て、ニヤッとした。分かりやすく、自慢げに話している。表情が豊かな人だなと感心してしまうと同時に、存外に努力ができる人なのだなと弥勒は思った。しかし思い返してみれば、どうして五条に対して、こうも見下す様な見方をしてしまうのだろう。彼女が一体なにかをしたのだろうか。彼女が人誑しというだけで、こうも決めつけて見下していい理由にはならないでは無いか。
弥勒は、緒方の罪悪感を理解した。決め付けでヘイトを向けることの罪深さを、彼は思い知ったのだ。
「弥勒君? 大丈夫?」
目が泳ぎ憂鬱そうな顔をする弥勒を見上げながら、五条は心配そうに、そう呟いた。
弥勒は、大友修造を探していることを悟られまいかと、不安になった。五条が大友修造側のスパイではないとも限らない以上、警戒せざるを得ない。それに執拗に嗅ぎ回るその行動だけを見れば、不自然極まりなかった。
一日を終えて帰路に就く為、教室を出ようとした弥勒を、五条が止めた。
「弥勒くんって惟神の陵王って呼ばれてるとよね! 今年は大会が中止になったって聞いたったい。どこかで舞を観られる機会はあるかな!」
「どうだろう……どうして?」
弥勒は警戒心を悟られまいと、平静を装いながら問うた。
五条が瞬き一つせず「観てみたいやん!」といってのけると、弥勒は呆気に取られた表情をした。
そして二人のあいだに、妙な沈黙の時間が流れた。
弥勒は、彼女を訝しむのも馬鹿らしく感じてしまった。五条のあまりに真っ直ぐな目に、他心がないことを察してしまったからだ。
「どしたん? 今日はブレスケアしとるよ?」
「今日もなにも匂ってないよ。あの……僕に興味を持ってくれてありがとう。だけど、多分お披露目する機会はないかな」
「ええー残念! 観てみたかったのになぁ……」
項垂れる五条に、弥勒は尋ねた。
「五条さんは普段、なにをしてるの?」
「私? 私は天神に遊びに行ったりすることが多いかな。意外でしょ? 五条家の人が繁華街に遊びに行くなんてって、そう思ったでしょ?」
「意外とリベラルなの?」
「いや〜めっちゃ厳しいよ。でも、菅原庶流の諸家と比べれば緩いのかな。特に私の両親は守るべき伝統と自由を両立させたいってタイプの人だから」
「珍しいね。日向分校にいる僕の友人は、家格的には五条家と遜色ない家の子で、それを生まれの不幸だって嘆いてる様な子なんだ。五条さんも同じなのかなって思ってた」
「普通はそうだと思うよ。私だって、いっぱい両親へ文句をいって、交渉して、ようやくこの自由を手にしたんだから」
そういう五条は腰に手を当て、ニヤッとした。分かりやすく、自慢げに話している。表情が豊かな人だなと感心してしまうと同時に、存外に努力ができる人なのだなと弥勒は思った。しかし思い返してみれば、どうして五条に対して、こうも見下す様な見方をしてしまうのだろう。彼女が一体なにかをしたのだろうか。彼女が人誑しというだけで、こうも決めつけて見下していい理由にはならないでは無いか。
弥勒は、緒方の罪悪感を理解した。決め付けでヘイトを向けることの罪深さを、彼は思い知ったのだ。
「弥勒君? 大丈夫?」
目が泳ぎ憂鬱そうな顔をする弥勒を見上げながら、五条は心配そうに、そう呟いた。