第四六話 五条家でのお茶会
五条を警戒する必要は無いと判断した弥勒らは、招きに応じて五条邸でお茶会をする。
弥勒は、渋川が全ての情報を共有された上で、自分達に協力を惜しまず仲間でいてくれるということを、巳代から聞いた。それから弥勒と巳代、渋川の三人は五条家の屋敷を訪れることにした。彼女の招きに応じて、遊びに来たのである。三人は大宰府にて、人脈を作ろうとしていた。情報の入手先となる基盤が欲しかったのだ。その為三人は、招きに応じたのだった。
三人を屋敷に招き入れた五条は「ここはいつも同じ顔ぶれだから、外から来た人とお友達になりたい」といった。
五条家の屋敷で茶菓子を頬張りながら、四人は談話する予定だったが、生憎(あいにく)、会話は弾まなかった──。弥勒は未だに五条を警戒していて、巳代は社交的ではなく、渋川は秋月よりも明るい五条に気後れしていたのだ。
「所で三人は、どうして私の家に来てくれたん? どっちかっていうと嫌われとるんかなーとすら思ってたくらいやったっちゃん」
三人は回答に窮した。三人がここを訪れたのは、巳代の案だった。巳代は、五条を警戒する必要はないと考えていた。それは五条となん度も会う中で、彼女が発する神通力の波長に濁りがなく、そしてそれが真相心理、つまり彼女の人格の核の部分だと確信したからだ。
彼女の心の内は憧れで満ちていた。自由に楽しく美味しいものを食べて、胸を焦がす恋がしたいという、平民の幸せに対する憧れである。その一心で五条は、秋月にはなかった両親を説得するだけの胆力と、血肉に染み付いた気品の高さを隠す努力を続けているのだ。
そんな女が反逆者のスパイとなる筈がない──それが巳代が彼女への疑いを晴らした理由だった。
「だんまりやん」
「大丈夫だよ五条さん。紅茶の良い香りしかしてない」
「遠回しに指摘されてる感じでちょっと傷つくな……」
そういって苦笑いする五条に対し、巳代と渋川は笑い返した。そして巳代は弥勒の肩に手を置き、ポンポンっと二回叩いた。特に意味などないことだが、弥勒は巳代の存在をより強く感じ、安心した。
そして、巳代が心中穏やかでいることに気がついた。弥勒は、巳代が五条を警戒する必要が無いといっていたことを思い出した。そして下を向いて一度深呼吸をし、五条の方を向き直した。
「五条さんはいつも僕達に興味を持ってくれたから、お友達になりたいと思ったんだ。大宰府の皆は……五条さんを慕っている。それは五条さんの積極的な人となりが理由だと思う。僕達は見ての通り社交的じゃないから……五条さんとまずお友達になりたいって思ったんだ」
「んー堅い! 流石は旧皇族(きゅうこうぞく)って感じやん」
そういうと五条は笑いだした。
「ねぇ渋川ちゃん、私は本当はこんな風にお茶を飲むなんてあんまり好きじゃないんよ」
「私は大好きなのに、どうして?」
「だって、下品な冗談もいえんやん? オホホホホなんていいたくないし、とにかく退屈だわ」
「そんなことないわ。オホホホホなんて笑う必要はないし、下品な冗談だって皆いってるわ。程度によるけれど」
「ねぇあなた処女?」
「へっ……?」
「程度によるのは、確かにそうね」
凍りつく渋川をよそに、巳代は紅茶を飲んでいた。ティーカップの持ち手ではなく、淵をそのまま数本の指で掴んで、啜り飲む。作法などあったものではない。巳代はこういうはしたない飲み方を常に行っていた。
「五条、お前はなにをしてる時が楽しい時なんだ。渋川でも耐えられる程の刺激に収めてくれよ」
「人を不純異性交友愛好家みたいにいわんでよね。でもそうねぇ……天神とか大名で過ごす夜は最高よ?」
「そりゃ楽しいだろうな。都会の真価は夜にこそ発揮されるものだ。なぁ、その刺激的な夜に、惟神学園のお友達も参加するのか」
「もちろんよ。あなたは私と同じくリベラルなんやね有馬君。皆で遊びに行かん? お友達は多い方が楽しいよ」
「大歓迎だ。理由は様々だが、九州の都、福岡を堪能したいと思っているんだ」
三人を屋敷に招き入れた五条は「ここはいつも同じ顔ぶれだから、外から来た人とお友達になりたい」といった。
五条家の屋敷で茶菓子を頬張りながら、四人は談話する予定だったが、生憎(あいにく)、会話は弾まなかった──。弥勒は未だに五条を警戒していて、巳代は社交的ではなく、渋川は秋月よりも明るい五条に気後れしていたのだ。
「所で三人は、どうして私の家に来てくれたん? どっちかっていうと嫌われとるんかなーとすら思ってたくらいやったっちゃん」
三人は回答に窮した。三人がここを訪れたのは、巳代の案だった。巳代は、五条を警戒する必要はないと考えていた。それは五条となん度も会う中で、彼女が発する神通力の波長に濁りがなく、そしてそれが真相心理、つまり彼女の人格の核の部分だと確信したからだ。
彼女の心の内は憧れで満ちていた。自由に楽しく美味しいものを食べて、胸を焦がす恋がしたいという、平民の幸せに対する憧れである。その一心で五条は、秋月にはなかった両親を説得するだけの胆力と、血肉に染み付いた気品の高さを隠す努力を続けているのだ。
そんな女が反逆者のスパイとなる筈がない──それが巳代が彼女への疑いを晴らした理由だった。
「だんまりやん」
「大丈夫だよ五条さん。紅茶の良い香りしかしてない」
「遠回しに指摘されてる感じでちょっと傷つくな……」
そういって苦笑いする五条に対し、巳代と渋川は笑い返した。そして巳代は弥勒の肩に手を置き、ポンポンっと二回叩いた。特に意味などないことだが、弥勒は巳代の存在をより強く感じ、安心した。
そして、巳代が心中穏やかでいることに気がついた。弥勒は、巳代が五条を警戒する必要が無いといっていたことを思い出した。そして下を向いて一度深呼吸をし、五条の方を向き直した。
「五条さんはいつも僕達に興味を持ってくれたから、お友達になりたいと思ったんだ。大宰府の皆は……五条さんを慕っている。それは五条さんの積極的な人となりが理由だと思う。僕達は見ての通り社交的じゃないから……五条さんとまずお友達になりたいって思ったんだ」
「んー堅い! 流石は旧皇族(きゅうこうぞく)って感じやん」
そういうと五条は笑いだした。
「ねぇ渋川ちゃん、私は本当はこんな風にお茶を飲むなんてあんまり好きじゃないんよ」
「私は大好きなのに、どうして?」
「だって、下品な冗談もいえんやん? オホホホホなんていいたくないし、とにかく退屈だわ」
「そんなことないわ。オホホホホなんて笑う必要はないし、下品な冗談だって皆いってるわ。程度によるけれど」
「ねぇあなた処女?」
「へっ……?」
「程度によるのは、確かにそうね」
凍りつく渋川をよそに、巳代は紅茶を飲んでいた。ティーカップの持ち手ではなく、淵をそのまま数本の指で掴んで、啜り飲む。作法などあったものではない。巳代はこういうはしたない飲み方を常に行っていた。
「五条、お前はなにをしてる時が楽しい時なんだ。渋川でも耐えられる程の刺激に収めてくれよ」
「人を不純異性交友愛好家みたいにいわんでよね。でもそうねぇ……天神とか大名で過ごす夜は最高よ?」
「そりゃ楽しいだろうな。都会の真価は夜にこそ発揮されるものだ。なぁ、その刺激的な夜に、惟神学園のお友達も参加するのか」
「もちろんよ。あなたは私と同じくリベラルなんやね有馬君。皆で遊びに行かん? お友達は多い方が楽しいよ」
「大歓迎だ。理由は様々だが、九州の都、福岡を堪能したいと思っているんだ」