懐かしい景色 その11
「久しぶりだね。元気だった?」
この前、泣かせてしまった女の子は笑顔で氷の上に立っている。スケートリンクで彼女を見たときに胸が跳ねたのが自分でもわかった。それと同時にホッとしていた。また来てくれたのだ。スケートを嫌いにならなくてよかった。そう思う。そしてその原因が琥珀自身だなんてことになったらきっとやりきれない。
「先生っ。よろしくお願いします」
「うんっ。よろしくね。じゃあ、この前のこと覚えてるかな」
「えっと、足を真っ直ぐおいて。トントントン。手を横。それでスーッて」
小刻みに足をトントントンと上げて下ろすだけで足は推進力を得る。手を横にしてバランスをとって足を止めるとそのまま滑り始める。それがちゃんと出来ている。
「そうそう。スーッて」
いい感じだ。段々と氷の上にいるという感覚に慣れてきているのだろう。前回よりちゃんと滑れている。
「上手上手」
「スーッて私もいつか先生みたいに滑れるようになるかな」
えっ。
「私みたい?」
「うん。先生がここで滑っていたの見たの。すっごいキラキラしてた。それがすごいって思ったの」
何を言っているんだ。琥珀がここで滑っていたのは五年以上も前のことだ。女の子が当時のことを覚えているはずはない。
「そうなんだ。でもきっと人違いだよ。私はそんなにキラキラしてたことはないもの」
言ってしまってからハッとする。小さな子に対して何を言ってしまっているのだ。思いがけないことを言われて反射的に否定してしまった。女の子が不思議そうにしてくれているのだけが救いだ。きっと琥珀の言ったことの意味が分からなかったのだ。
「でも。靴が違うね。だからあの時みたいにキラキラしてないの?」
その言葉にさらにドキッとする。
「靴ってどんな靴だったの」
「黒いの!」
私だ。いや、違うかもしれないけれど可能性がぐっと上がった。フィギュアスケートの女子の演技を見ていればわかることだが、ほとんどの人が白い靴を履いている。曲によってや衣装によっても変わるのだけれど黒を選ぶ人は少ない。
琥珀はそんな中のひとりだった。演技の系統が落ち着いたものが多く、印象を与えるものが多かったからなのだが、それだけなのであれば黒いカバーをかければいいだけだった。
それでも黒にこだわった理由は大切な、なにかだったはずだ。
でもそれがキラキラしているとは思えない。
「黒いのがいいの?」
「うん! キラキラしてるから」
白いほうがよっぽどキラキラしていると思うのだけど、女の子にとってはそうでないみたいだ。
最初、黒がいいと言ったとき両親もコーチからも反対された。それでも押し通したのはなぜだったのか。単なる反抗心か。でも女の子が言うようにキラキラして見えた。そんな気もする。
『きっと後悔するわよ』
ああ。あのときだってそう言われた。
「そっか。そうだよね。キラキラしてたよね」
いや。きっと今だってキラキラしている。眠ってしまっているだけだ。眠らせてしまったのも起こせるのも自分だけだ。
「またキラキラするの見れる?」
「うん。きっと見れるよ」
優太にも見せてあげたい。そう思い始めている自分に琥珀は気づいて思わず拳に力が入った。
「それじゃキラキラできるように練習しようか」
「うん!」
初めて最後まで泣かずに練習できそうな勢いの返事だった。
この前、泣かせてしまった女の子は笑顔で氷の上に立っている。スケートリンクで彼女を見たときに胸が跳ねたのが自分でもわかった。それと同時にホッとしていた。また来てくれたのだ。スケートを嫌いにならなくてよかった。そう思う。そしてその原因が琥珀自身だなんてことになったらきっとやりきれない。
「先生っ。よろしくお願いします」
「うんっ。よろしくね。じゃあ、この前のこと覚えてるかな」
「えっと、足を真っ直ぐおいて。トントントン。手を横。それでスーッて」
小刻みに足をトントントンと上げて下ろすだけで足は推進力を得る。手を横にしてバランスをとって足を止めるとそのまま滑り始める。それがちゃんと出来ている。
「そうそう。スーッて」
いい感じだ。段々と氷の上にいるという感覚に慣れてきているのだろう。前回よりちゃんと滑れている。
「上手上手」
「スーッて私もいつか先生みたいに滑れるようになるかな」
えっ。
「私みたい?」
「うん。先生がここで滑っていたの見たの。すっごいキラキラしてた。それがすごいって思ったの」
何を言っているんだ。琥珀がここで滑っていたのは五年以上も前のことだ。女の子が当時のことを覚えているはずはない。
「そうなんだ。でもきっと人違いだよ。私はそんなにキラキラしてたことはないもの」
言ってしまってからハッとする。小さな子に対して何を言ってしまっているのだ。思いがけないことを言われて反射的に否定してしまった。女の子が不思議そうにしてくれているのだけが救いだ。きっと琥珀の言ったことの意味が分からなかったのだ。
「でも。靴が違うね。だからあの時みたいにキラキラしてないの?」
その言葉にさらにドキッとする。
「靴ってどんな靴だったの」
「黒いの!」
私だ。いや、違うかもしれないけれど可能性がぐっと上がった。フィギュアスケートの女子の演技を見ていればわかることだが、ほとんどの人が白い靴を履いている。曲によってや衣装によっても変わるのだけれど黒を選ぶ人は少ない。
琥珀はそんな中のひとりだった。演技の系統が落ち着いたものが多く、印象を与えるものが多かったからなのだが、それだけなのであれば黒いカバーをかければいいだけだった。
それでも黒にこだわった理由は大切な、なにかだったはずだ。
でもそれがキラキラしているとは思えない。
「黒いのがいいの?」
「うん! キラキラしてるから」
白いほうがよっぽどキラキラしていると思うのだけど、女の子にとってはそうでないみたいだ。
最初、黒がいいと言ったとき両親もコーチからも反対された。それでも押し通したのはなぜだったのか。単なる反抗心か。でも女の子が言うようにキラキラして見えた。そんな気もする。
『きっと後悔するわよ』
ああ。あのときだってそう言われた。
「そっか。そうだよね。キラキラしてたよね」
いや。きっと今だってキラキラしている。眠ってしまっているだけだ。眠らせてしまったのも起こせるのも自分だけだ。
「またキラキラするの見れる?」
「うん。きっと見れるよ」
優太にも見せてあげたい。そう思い始めている自分に琥珀は気づいて思わず拳に力が入った。
「それじゃキラキラできるように練習しようか」
「うん!」
初めて最後まで泣かずに練習できそうな勢いの返事だった。