意味のあるバトン その3
この状況をお客さんに見られたらどんな顔をされるのだろうか。立ち並ぶ棚の中に収まっている靴たち。それに囲まれている美鶴ちゃんは立ち止まるとあいさつもしないで頭を下げている。
「あの。申し訳ございませんでした」
もう泣いてるんじゃないかと思うくらい、声は震えているし枯れている。この子の性格から申し訳ないと思っているのがよく伝わってくるし、追い込まれているのだろうと思う。だから、精一杯明るい声で対応しなくちゃならいと咳き込んで喉の調子を整えた。
その咳で美鶴ちゃんが驚いて小さく跳ねたのを見てしまったと思ったがもう遅い。がんばって取り繕おう。
「大丈夫だから。顔を上げてよ。ね。こうやって仕事には復帰出来てるわけだしさ。命に関わるようなことでもなかった。むしろ美鶴ちゃんに怪我がなくてよかったくらいだよ」
練習中の事故。そう言えば聞こえが良いが、よろけた美鶴ちゃんを支えようとして無理に身体を動かし、そして無理に氷の上で踏ん張ったりなんかした結果が脚の腱が切れるなんて状況に繋がってしまった。
ストレッチ不足だったのは自分の責任だし。よろめいた美鶴ちゃんに手を差し出したのも自分の責任だ。それをこうやって謝られるとこちらが申し訳なくなってくる。
大体、学がさそって対抗戦に参加してもらっているのだ。そこで起きたことであればやっぱり美鶴ちゃんが気にすることじゃない。
「で、でも。それでご迷惑をかけたのは事実ですから」
やっと顔を上げてくれた美鶴ちゃんの目尻は少し腫れているように見えた。わざわざ病院に個別でお見舞いになんてこなくていいよと断ったのがいけなかった。ずっと気に病んでいたのだろう。さっさとこんな怪我なんでもないと言ってあげられなかったことが悔やまれる。
「大丈夫だよ。こうやって仕事に支障もないしな」
それは本当のことだ。だから今だってこうやって店番をしている。
「あれは事故だったんだ。絶対に美鶴ちゃんのせいじゃない」
「それは……」
言葉が詰まったのか黙ってしまった美鶴ちゃんをどうしてあげればいいのか分からない。
「気にするなって。頑張った結果なんだからさ。ほら、今日も練習だろ。後で俺も行くから行っておいで」
練習に行く途中でわざわざ寄ってもらって、ほんとに気にしているのはよく分かる。でもそんなことより先に進んで欲しい。
「わかりました。でも無理しないでくださいね」
「おう。ありがとうな」
ちょっとだけだけど、美鶴ちゃんの口角があがったのを見て胸をなでおろす。
無理はできないんだけどなぁ。歳の影響も大きいし、怪我をしたことへのショックも大きかった。
順当に衰えているな。
それは昔ほど悲観的なものでも、抗えるものでもないと理解している以上、受け入れられる。それでも改めて実感させられるとこうも思い知らされるものか。
これから先、フェードアウトしていくことを考えなくてはならない時期なのだろう。で、あるにしてもだ。
「あんな顔されるような真似だけはしたくないな」
思わず口から言葉が落ちた。
「あの。申し訳ございませんでした」
もう泣いてるんじゃないかと思うくらい、声は震えているし枯れている。この子の性格から申し訳ないと思っているのがよく伝わってくるし、追い込まれているのだろうと思う。だから、精一杯明るい声で対応しなくちゃならいと咳き込んで喉の調子を整えた。
その咳で美鶴ちゃんが驚いて小さく跳ねたのを見てしまったと思ったがもう遅い。がんばって取り繕おう。
「大丈夫だから。顔を上げてよ。ね。こうやって仕事には復帰出来てるわけだしさ。命に関わるようなことでもなかった。むしろ美鶴ちゃんに怪我がなくてよかったくらいだよ」
練習中の事故。そう言えば聞こえが良いが、よろけた美鶴ちゃんを支えようとして無理に身体を動かし、そして無理に氷の上で踏ん張ったりなんかした結果が脚の腱が切れるなんて状況に繋がってしまった。
ストレッチ不足だったのは自分の責任だし。よろめいた美鶴ちゃんに手を差し出したのも自分の責任だ。それをこうやって謝られるとこちらが申し訳なくなってくる。
大体、学がさそって対抗戦に参加してもらっているのだ。そこで起きたことであればやっぱり美鶴ちゃんが気にすることじゃない。
「で、でも。それでご迷惑をかけたのは事実ですから」
やっと顔を上げてくれた美鶴ちゃんの目尻は少し腫れているように見えた。わざわざ病院に個別でお見舞いになんてこなくていいよと断ったのがいけなかった。ずっと気に病んでいたのだろう。さっさとこんな怪我なんでもないと言ってあげられなかったことが悔やまれる。
「大丈夫だよ。こうやって仕事に支障もないしな」
それは本当のことだ。だから今だってこうやって店番をしている。
「あれは事故だったんだ。絶対に美鶴ちゃんのせいじゃない」
「それは……」
言葉が詰まったのか黙ってしまった美鶴ちゃんをどうしてあげればいいのか分からない。
「気にするなって。頑張った結果なんだからさ。ほら、今日も練習だろ。後で俺も行くから行っておいで」
練習に行く途中でわざわざ寄ってもらって、ほんとに気にしているのはよく分かる。でもそんなことより先に進んで欲しい。
「わかりました。でも無理しないでくださいね」
「おう。ありがとうな」
ちょっとだけだけど、美鶴ちゃんの口角があがったのを見て胸をなでおろす。
無理はできないんだけどなぁ。歳の影響も大きいし、怪我をしたことへのショックも大きかった。
順当に衰えているな。
それは昔ほど悲観的なものでも、抗えるものでもないと理解している以上、受け入れられる。それでも改めて実感させられるとこうも思い知らされるものか。
これから先、フェードアウトしていくことを考えなくてはならない時期なのだろう。で、あるにしてもだ。
「あんな顔されるような真似だけはしたくないな」
思わず口から言葉が落ちた。