珍しい一日
「ジリリリリリリリィ!!」
忙しく目覚まし時計が鳴っている。どうやら先程までのことは夢であったようだ。気怠そうにボタンを押し、アラームを止める。
「さて、今の時間は…?」
目覚まし時計のディスプレイは、九月一日の午前七時三十二分を示していた。
「ちょうどいいっちゃ、ちょうどいいか」
通常課外があるので学校が始まるのは七時四十五分からで、学校までは自転車で十五分かかるため完全に遅刻だが、今日は始業式の日なので課外はなく、開始時間も八時四十五分だった。
太樹は寝起きの覚束ない足取りで洗面所に向かい、顔を洗った。顔を洗い目が覚めて来たところで、トースターでパンを焼き、三分程で食べ終え、歯磨きをしに再び洗面所に向かった。
(あの夢の女の子は……。なんで僕の名前を…?)
太樹の頭の中はそのことでいっぱいになり、不意に、歯磨きブラシを握っている右手の動きが止まった。
「おゎぁ! 水がぁ!」
水を出しっ放しにしていたせいで、排水口が水を処理しきれずに風呂のように水が溜まっていた。
「あーだこーだ考えるのは後にしよう。億劫だけど、とりあえず、学校に行こう」
その後、歯磨きを手早く終わらせ、身支度をして学校へと向かった。
午後一時。部活に所属していない――正しくはさせてもらえなかったであるが――太樹は、学校が終わるなり、とてつもない驚きと嬉しさを感じながら、そそくさと帰宅していた。地元の公立校ということもあり小、中と同じ学校だった同級生も多く、始業式だろうが卒業式だろうが、一日も欠かすことなく嫌がらせや暴力を受けていた。
それが今日は、誰一人としていきなり頬にビンタを張ったり、トイレから出ようとしたときに数人がかりで囲んでリンチしたり、立ったときに椅子を引いたり、靴箱に呪いの手紙や画鋲を置いたりといったことをして来なかったのだ。もっとも、太樹に誰も話しかけてこないということだけは変わらなかったが。
「ま、どうでもいいか。いじめられてることに変わりはねえし。さてさて、今日の食事分の買い出しをしないとね」
そんな事を言いながらも、何もされなかったことが嬉しかったのか、店主との会話がどうも苦手――そもそも太樹は人と話すのが苦手である――話しかけられたくないのと、その上家から一時間近くかかるため、普段は絶対にいかない商店街の方に足を向けていた。
「スーパーと違って、いいもの売ってるなー」
昼間とはいえ、今時の商店街にしては珍しく人混みが出来ている。そこには当然学生服を着た同級生 ――太樹をいじめている奴ら――もいる。こんなところで色々されても困るので、太樹は目立たないように隅っこの方をそっと歩いていた。
「へい兄ちゃん! 北海道産トマトはどうだい?!」
「今日はコロッケが安いわよー? 学生さんだからサービスしてあげるわよ?」
「へい! 今日の夕飯にアジはどうや?! ヒラマサもあるぞ!」
店を通りかかる度に太樹はその店の店主から声を掛けられる。一瞬立ち止まり話かけようと試みるがどうしていいかわからず、結局全部無視をしてまっすぐ商店街の端へと歩いていった。
「こういうとこはやっぱりあわないみた……?!!!」
そう言おうとした時、何者かに太樹は、建物と建物の間に引きずりこまれていった。
忙しく目覚まし時計が鳴っている。どうやら先程までのことは夢であったようだ。気怠そうにボタンを押し、アラームを止める。
「さて、今の時間は…?」
目覚まし時計のディスプレイは、九月一日の午前七時三十二分を示していた。
「ちょうどいいっちゃ、ちょうどいいか」
通常課外があるので学校が始まるのは七時四十五分からで、学校までは自転車で十五分かかるため完全に遅刻だが、今日は始業式の日なので課外はなく、開始時間も八時四十五分だった。
太樹は寝起きの覚束ない足取りで洗面所に向かい、顔を洗った。顔を洗い目が覚めて来たところで、トースターでパンを焼き、三分程で食べ終え、歯磨きをしに再び洗面所に向かった。
(あの夢の女の子は……。なんで僕の名前を…?)
太樹の頭の中はそのことでいっぱいになり、不意に、歯磨きブラシを握っている右手の動きが止まった。
「おゎぁ! 水がぁ!」
水を出しっ放しにしていたせいで、排水口が水を処理しきれずに風呂のように水が溜まっていた。
「あーだこーだ考えるのは後にしよう。億劫だけど、とりあえず、学校に行こう」
その後、歯磨きを手早く終わらせ、身支度をして学校へと向かった。
午後一時。部活に所属していない――正しくはさせてもらえなかったであるが――太樹は、学校が終わるなり、とてつもない驚きと嬉しさを感じながら、そそくさと帰宅していた。地元の公立校ということもあり小、中と同じ学校だった同級生も多く、始業式だろうが卒業式だろうが、一日も欠かすことなく嫌がらせや暴力を受けていた。
それが今日は、誰一人としていきなり頬にビンタを張ったり、トイレから出ようとしたときに数人がかりで囲んでリンチしたり、立ったときに椅子を引いたり、靴箱に呪いの手紙や画鋲を置いたりといったことをして来なかったのだ。もっとも、太樹に誰も話しかけてこないということだけは変わらなかったが。
「ま、どうでもいいか。いじめられてることに変わりはねえし。さてさて、今日の食事分の買い出しをしないとね」
そんな事を言いながらも、何もされなかったことが嬉しかったのか、店主との会話がどうも苦手――そもそも太樹は人と話すのが苦手である――話しかけられたくないのと、その上家から一時間近くかかるため、普段は絶対にいかない商店街の方に足を向けていた。
「スーパーと違って、いいもの売ってるなー」
昼間とはいえ、今時の商店街にしては珍しく人混みが出来ている。そこには当然学生服を着た同級生 ――太樹をいじめている奴ら――もいる。こんなところで色々されても困るので、太樹は目立たないように隅っこの方をそっと歩いていた。
「へい兄ちゃん! 北海道産トマトはどうだい?!」
「今日はコロッケが安いわよー? 学生さんだからサービスしてあげるわよ?」
「へい! 今日の夕飯にアジはどうや?! ヒラマサもあるぞ!」
店を通りかかる度に太樹はその店の店主から声を掛けられる。一瞬立ち止まり話かけようと試みるがどうしていいかわからず、結局全部無視をしてまっすぐ商店街の端へと歩いていった。
「こういうとこはやっぱりあわないみた……?!!!」
そう言おうとした時、何者かに太樹は、建物と建物の間に引きずりこまれていった。