サンドイッチとアイスクリーム
十二時を少し過ぎた辺り。私と摩耶はとある大手カフェチェーン店で昼食をとることにした。
「ねえねえ? 何にする? この店は何がおいしい?」
摩耶が無邪気な表情と声のトーンで尋ねてくる。答えてあげたいのはやまやまなのだが、私もこの店のことは残念ながらよく知らないから、答えられない。
わからないねえ、と私は苦笑いで返した。
十分以上悩んだ結果、少し値は張るが“日替わりセット”を頼むことにした。この日のメニューは二つのサンドイッチとコーヒー、そしてバニラアイスだった。
「うまい! めっちゃうまい!」
摩耶はおいしそうに、サンドイッチを頬張っている。まだ手をつけていなかった私も一口食べてみる。
なるほど、パンはふっくらとしていて、レタスもみずみずしさが残っている。トマトも程よい酸っぱさがあり、ハムの味とマッチしている。どうやら、摩耶の味覚は正しかったようだ。
「本当ね。美味しいわ」
「でしょ? これにしてよかったよ」
摩耶は満足気な表情をしている。少し背伸びして選んだけどこの店にしてよかった、と心の底から思った。
その時、視線を少し下にやると、摩耶のバスケットからサンドイッチが消えていることに気がついた。おそらくもう食べきってしまったのだろう。その事を尋ねてみると、やはり食べきっていたようだ。
あまりにも早過ぎて少し呆れてしまったが、よく考えてみると摩耶は元々食べる量が多い子だ。
さらに、今日は来る前に走ってきていて、運動量が私よりも多い。食べる速度が速くなってしまうのも当然だ。
「仕方がないわね。これ一個あげるわ」
私はまだ食べていないサンドイッチをあげることにした。
「別にいいよー。そんなのあたしが我慢すればいいんだからさ」
「いいのよ。私は小食だから。それに摩耶が美味しそうに食べてるのみてるだけでいいから」
そういって、摩耶のバスケットの上にサンドイッチを置いた。
「そこまでするならありがたくいただくよ」
摩耶は私のサンドイッチにパクリとかぶりつき、味を確かめるようにじっくりとかみしめている。その様子はまさに食べる幸せを体現しているようだった。
こんな風にいつも摩耶は幸せそうに食べる。それを見ているだけで幸せな気分になれる。
そんな摩耶を見ながら、私は残っているバニラアイスをスプーンで掬う。そして、口に含んだ瞬間、今までに経験したことのないほど濃厚でまろやかな風味が口いっぱいに広がった。
なるほど、伊達に高いわけじゃないんだな。私は感心しながらアイスを食べ進めた。
私が食べ終えたと同じくらいのタイミングで、摩耶もサンドイッチを食べ終わった。どうやら、いつも以上に食べるペース早かったようだ。
あとは摩耶がアイスを食べ終わるのをまつだけだなあ、と思っていた時だった。摩耶は自分のアイスの皿を私に差し出してきたのだ。
「摩耶? これは?」
「あげるよ。さっきサンドイッチくれたし、優衣がおいしそうに食べてたからさ」
摩耶はそう言った。確かにもう一つ食べたくなるくらいこのアイスはおいしかったし、貰えるなら貰いたい。だけど、この味を摩耶が楽しめないなんてもったいない。
それに、摩耶がこのアイスをどれくらい幸せそうに食べてくれるのか見てみたい。
「いいよ。私これで丁度いいから」
私は摩耶の皿をそっと戻した。
「ええー。でもお返ししないと自分の気が済まないんだよねえ」
「いいのよ。お返しなんて。摩耶と一緒にご飯食べられるだけで十分だから」
「うーん。じゃあさ、一口だけでいいからさ。一口ならそんな量減らないからさ。ねっ! お願い!」
摩耶が手を前で合わせている。ここまで来てしまうと、断ることが申し訳なくなってきた。
「じゃ、じゃあ一口もらうね」
そう言ってアイスを掬おうとした時だった。摩耶は自分のスプーンでアイスを掬ってた。
「せっかくだから、あたしが食べさせてあげるよ!」
「え、ええーーーーっ?!」
予想外の事態に、思わず店内中に響き渡るほど大きな声で叫んでしまっていた。突然聞こえてきた叫び声に店内中は静まり返る。
少し経つとその声の主である私に視線が集まっていた。私は顔を赤らめ笑いながらその場を誤魔化した。
「驚き過ぎだよ。このくらいのことで」
「だだだって、それって恋人同士があーんってやるやつで間接キスに――」
「あたし達はカップルじゃん。問題ないでしょ?」
「そ、そうだけどそれにしても心の準備ってのが……」
「次にする時に気を付けるからさ。それより、アイス融けそうだし、早く早く! あーん」
摩耶は急かすようにアイスを掬ったスプーンを差し出してきた。まったく。こうやって恥じらいもなく抱きしめてきたり、食べさせてきてくれたりしてくれるのはいいんだけど、されるこっちの身にもなって欲しい。いきなりやってくるから心の準備ができやしない。
けど、嫌じゃない。むしろ、嬉しい。
私は摩耶のスプーンを受け入れた。口の中には濃厚なバニラの風味ではなく、幸福感が広がっていた。
「ねえねえ? 何にする? この店は何がおいしい?」
摩耶が無邪気な表情と声のトーンで尋ねてくる。答えてあげたいのはやまやまなのだが、私もこの店のことは残念ながらよく知らないから、答えられない。
わからないねえ、と私は苦笑いで返した。
十分以上悩んだ結果、少し値は張るが“日替わりセット”を頼むことにした。この日のメニューは二つのサンドイッチとコーヒー、そしてバニラアイスだった。
「うまい! めっちゃうまい!」
摩耶はおいしそうに、サンドイッチを頬張っている。まだ手をつけていなかった私も一口食べてみる。
なるほど、パンはふっくらとしていて、レタスもみずみずしさが残っている。トマトも程よい酸っぱさがあり、ハムの味とマッチしている。どうやら、摩耶の味覚は正しかったようだ。
「本当ね。美味しいわ」
「でしょ? これにしてよかったよ」
摩耶は満足気な表情をしている。少し背伸びして選んだけどこの店にしてよかった、と心の底から思った。
その時、視線を少し下にやると、摩耶のバスケットからサンドイッチが消えていることに気がついた。おそらくもう食べきってしまったのだろう。その事を尋ねてみると、やはり食べきっていたようだ。
あまりにも早過ぎて少し呆れてしまったが、よく考えてみると摩耶は元々食べる量が多い子だ。
さらに、今日は来る前に走ってきていて、運動量が私よりも多い。食べる速度が速くなってしまうのも当然だ。
「仕方がないわね。これ一個あげるわ」
私はまだ食べていないサンドイッチをあげることにした。
「別にいいよー。そんなのあたしが我慢すればいいんだからさ」
「いいのよ。私は小食だから。それに摩耶が美味しそうに食べてるのみてるだけでいいから」
そういって、摩耶のバスケットの上にサンドイッチを置いた。
「そこまでするならありがたくいただくよ」
摩耶は私のサンドイッチにパクリとかぶりつき、味を確かめるようにじっくりとかみしめている。その様子はまさに食べる幸せを体現しているようだった。
こんな風にいつも摩耶は幸せそうに食べる。それを見ているだけで幸せな気分になれる。
そんな摩耶を見ながら、私は残っているバニラアイスをスプーンで掬う。そして、口に含んだ瞬間、今までに経験したことのないほど濃厚でまろやかな風味が口いっぱいに広がった。
なるほど、伊達に高いわけじゃないんだな。私は感心しながらアイスを食べ進めた。
私が食べ終えたと同じくらいのタイミングで、摩耶もサンドイッチを食べ終わった。どうやら、いつも以上に食べるペース早かったようだ。
あとは摩耶がアイスを食べ終わるのをまつだけだなあ、と思っていた時だった。摩耶は自分のアイスの皿を私に差し出してきたのだ。
「摩耶? これは?」
「あげるよ。さっきサンドイッチくれたし、優衣がおいしそうに食べてたからさ」
摩耶はそう言った。確かにもう一つ食べたくなるくらいこのアイスはおいしかったし、貰えるなら貰いたい。だけど、この味を摩耶が楽しめないなんてもったいない。
それに、摩耶がこのアイスをどれくらい幸せそうに食べてくれるのか見てみたい。
「いいよ。私これで丁度いいから」
私は摩耶の皿をそっと戻した。
「ええー。でもお返ししないと自分の気が済まないんだよねえ」
「いいのよ。お返しなんて。摩耶と一緒にご飯食べられるだけで十分だから」
「うーん。じゃあさ、一口だけでいいからさ。一口ならそんな量減らないからさ。ねっ! お願い!」
摩耶が手を前で合わせている。ここまで来てしまうと、断ることが申し訳なくなってきた。
「じゃ、じゃあ一口もらうね」
そう言ってアイスを掬おうとした時だった。摩耶は自分のスプーンでアイスを掬ってた。
「せっかくだから、あたしが食べさせてあげるよ!」
「え、ええーーーーっ?!」
予想外の事態に、思わず店内中に響き渡るほど大きな声で叫んでしまっていた。突然聞こえてきた叫び声に店内中は静まり返る。
少し経つとその声の主である私に視線が集まっていた。私は顔を赤らめ笑いながらその場を誤魔化した。
「驚き過ぎだよ。このくらいのことで」
「だだだって、それって恋人同士があーんってやるやつで間接キスに――」
「あたし達はカップルじゃん。問題ないでしょ?」
「そ、そうだけどそれにしても心の準備ってのが……」
「次にする時に気を付けるからさ。それより、アイス融けそうだし、早く早く! あーん」
摩耶は急かすようにアイスを掬ったスプーンを差し出してきた。まったく。こうやって恥じらいもなく抱きしめてきたり、食べさせてきてくれたりしてくれるのはいいんだけど、されるこっちの身にもなって欲しい。いきなりやってくるから心の準備ができやしない。
けど、嫌じゃない。むしろ、嬉しい。
私は摩耶のスプーンを受け入れた。口の中には濃厚なバニラの風味ではなく、幸福感が広がっていた。