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金で装飾された王の間に、緊迫感を漂わせる五人が真剣な面持ちでいた。
玉座に座るは老いた男――オーディン。この世界の最高神である。
彼の輝かしい金色の髪は眩しく輝き、優しげな片眼が緊張で固まっている兄妹を見つめている。
「それでオーディン様。彼等を――」
「うむ、良いぞ!」
オーディンはこれまでの経緯をバルドルから聞きながらも、最後まで話を聞かずに勢いよく了承の言葉を出した。
彼の発言に、四人はポカンと口を開けている。そんな彼等をよそに、オーディンはニコニコと陽気に微笑んでいる。
「お、オーディン様。まだ、私からの話は終わっていないのですが」
「ふっ。最後まで聞かずとも分かる。その兄妹をこの神の国に住まわせたいのだろう?」
「え、えぇ……」
「良いに決まってる! 身寄りや記憶がないのなら、尚更。我等が世界樹の加護を持って導いてやるのが良いだろう。なぁ、ロキよ」
「――っ。な、なんだよ」
突然、名を呼ばれたロキは肩をびくりと震わせた。オーディンはロキの瞳をまっすぐと、何もかも見透かしているかのように見つめる。そんな彼の瞳に負けたのか、ロキは目線を床へと反らす。
「詳しく聞こうとはせん。しかし、お主が拾ったんだ。お主が、彼等を導く者になりなさい」
「……言われなくてもそうするよ」
◇
そうして、ぎこちないながらも話を終え、オーディンが兄妹に手をフリフリと動かす姿を最後に、王の間を後にした四人。
「アイツ、絶対にこの兄妹に興味持ったからなんだろうな。即決なのは」
「だろうな。彼等の髪色は、彼女と同じ銀色だ。あの時も、お父様は随分と興味を持たれていた」
バルドルの「彼女」という単語に、兄妹は少し引っかかる思いを抱えながらも、影を帯びるロキに、その事を聞こうとはしなかった。
「……………………。さーて。これからどうする?」
先程までの影のある表情から一変し、ロキは兄妹に笑顔で問いかける。
「……私。この神の国を色々知りたいです!」
ナルはロキのことをジッ――と見つめて、にっこりとロキへ笑みを向ける。そんな妹の言葉に「俺も!」と元気よく賛同する。兄妹の提案にロキが「そうだよなぁ」と頬を掻く。彼の表情からして、どうやら気が進まないように見える。そんなロキの表情を見抜いたバルドルは、咳払いをして小さく手を挙げる。
「では、私が案内しようか」
バルドルの提案――彼の気遣いに、ロキは「頼む」と笑みを見せる。
「そうだな。この国の紹介は、ボクよりもバルドルの方が向いているからな。彼に頼ってくれ」
そんなロキを。今度はナリがじーっと見つめている。そんな視線にロキが気づくと「な、なんだよ?」と首を傾げる。
「……なぁ、俺もアンタみたいに強くなるにはどうしたらいいんだ?」
ナリは唐突に、ロキへそんな問いかけをした。突拍子のない質問にロキは首を更に傾げるのである。
「えぇ? なんでそんなこと聞くんだよ」
ロキは面倒くさそうな、気だるげな声音で返すと。ナリは興奮気味に理由を話す。
「強くなりたいんだよ! 住む場所まで貰っちまったんだ。自分の事や妹の事は、自分の力で守りたい!」
その理由を聞いたロキは「ふーん」と、声は素っ気ないものの、彼の思いに対して向き合おうと真剣な眼差しから目を逸らそうとはしなかった。
「だから聞いたんだ。で? どうしたらいい? 俺、アンタがあの化け物――レムレスを倒した時に使った炎みたいなの出してみてぇよ!」
それに対して、ロキは「それは無理なんじゃねぇかな」と苦笑を見せる。その否定的な言葉に「なんでだよ!」と怒りを見せる。
「うーん。君は、きっと魔法を使えないだろう」
「魔法? それがアンタが使ってた炎のことなのか?」
「魔法、というのは。この世界では一部の者だけが扱える生まれ持った希少な力なのさ」
魔法の事について、間にバルドルが説明に入ってくる。
「神族なら……お父様や私、ロキなど上級神族。あとは、炎の巨人スルト。まぁ、ざっと出してもこれぐらいしか使えないんだ」
「生まれ持った……じゃあ、俺は無理かぁ」
それを聞いたナリは、大袈裟に肩を落とす。そんな姿に、ロキは頬を掻きながら「それなら……」と話を進める。
「剣の方はどうだ? 剣なら、まぁ、教えられなくもないぞ」
その提案に、ナリはとても目を輝かせながら「やる!」と首の骨が折れてしまうんじゃないかと思うほど、大きく強く首を縦に振る姿を見せるのである。そんな姿に、ロキは「ふはっ」と笑みを見せる。
「そんなに嬉しいのかよ……分かった分かった。バルドル、ボクとナリは鍛錬場に行ってくるよ。ナルちゃんは、君に頼んでもいいか?」
「あぁ、勿論だ」
その願いにバルドルが応えると、ロキははしゃいでいるナリを引き連れて鍛錬場のある方向へと進んでいった。
「それじゃあ、ナルさん。私達も行こうか」
「ハイッ!」
ナルは楽しげにバルドルと、ロキ達とは真逆の方向へと進んでいった。
そんな彼等を、世界樹が優しく見守っていた。
玉座に座るは老いた男――オーディン。この世界の最高神である。
彼の輝かしい金色の髪は眩しく輝き、優しげな片眼が緊張で固まっている兄妹を見つめている。
「それでオーディン様。彼等を――」
「うむ、良いぞ!」
オーディンはこれまでの経緯をバルドルから聞きながらも、最後まで話を聞かずに勢いよく了承の言葉を出した。
彼の発言に、四人はポカンと口を開けている。そんな彼等をよそに、オーディンはニコニコと陽気に微笑んでいる。
「お、オーディン様。まだ、私からの話は終わっていないのですが」
「ふっ。最後まで聞かずとも分かる。その兄妹をこの神の国に住まわせたいのだろう?」
「え、えぇ……」
「良いに決まってる! 身寄りや記憶がないのなら、尚更。我等が世界樹の加護を持って導いてやるのが良いだろう。なぁ、ロキよ」
「――っ。な、なんだよ」
突然、名を呼ばれたロキは肩をびくりと震わせた。オーディンはロキの瞳をまっすぐと、何もかも見透かしているかのように見つめる。そんな彼の瞳に負けたのか、ロキは目線を床へと反らす。
「詳しく聞こうとはせん。しかし、お主が拾ったんだ。お主が、彼等を導く者になりなさい」
「……言われなくてもそうするよ」
◇
そうして、ぎこちないながらも話を終え、オーディンが兄妹に手をフリフリと動かす姿を最後に、王の間を後にした四人。
「アイツ、絶対にこの兄妹に興味持ったからなんだろうな。即決なのは」
「だろうな。彼等の髪色は、彼女と同じ銀色だ。あの時も、お父様は随分と興味を持たれていた」
バルドルの「彼女」という単語に、兄妹は少し引っかかる思いを抱えながらも、影を帯びるロキに、その事を聞こうとはしなかった。
「……………………。さーて。これからどうする?」
先程までの影のある表情から一変し、ロキは兄妹に笑顔で問いかける。
「……私。この神の国を色々知りたいです!」
ナルはロキのことをジッ――と見つめて、にっこりとロキへ笑みを向ける。そんな妹の言葉に「俺も!」と元気よく賛同する。兄妹の提案にロキが「そうだよなぁ」と頬を掻く。彼の表情からして、どうやら気が進まないように見える。そんなロキの表情を見抜いたバルドルは、咳払いをして小さく手を挙げる。
「では、私が案内しようか」
バルドルの提案――彼の気遣いに、ロキは「頼む」と笑みを見せる。
「そうだな。この国の紹介は、ボクよりもバルドルの方が向いているからな。彼に頼ってくれ」
そんなロキを。今度はナリがじーっと見つめている。そんな視線にロキが気づくと「な、なんだよ?」と首を傾げる。
「……なぁ、俺もアンタみたいに強くなるにはどうしたらいいんだ?」
ナリは唐突に、ロキへそんな問いかけをした。突拍子のない質問にロキは首を更に傾げるのである。
「えぇ? なんでそんなこと聞くんだよ」
ロキは面倒くさそうな、気だるげな声音で返すと。ナリは興奮気味に理由を話す。
「強くなりたいんだよ! 住む場所まで貰っちまったんだ。自分の事や妹の事は、自分の力で守りたい!」
その理由を聞いたロキは「ふーん」と、声は素っ気ないものの、彼の思いに対して向き合おうと真剣な眼差しから目を逸らそうとはしなかった。
「だから聞いたんだ。で? どうしたらいい? 俺、アンタがあの化け物――レムレスを倒した時に使った炎みたいなの出してみてぇよ!」
それに対して、ロキは「それは無理なんじゃねぇかな」と苦笑を見せる。その否定的な言葉に「なんでだよ!」と怒りを見せる。
「うーん。君は、きっと魔法を使えないだろう」
「魔法? それがアンタが使ってた炎のことなのか?」
「魔法、というのは。この世界では一部の者だけが扱える生まれ持った希少な力なのさ」
魔法の事について、間にバルドルが説明に入ってくる。
「神族なら……お父様や私、ロキなど上級神族。あとは、炎の巨人スルト。まぁ、ざっと出してもこれぐらいしか使えないんだ」
「生まれ持った……じゃあ、俺は無理かぁ」
それを聞いたナリは、大袈裟に肩を落とす。そんな姿に、ロキは頬を掻きながら「それなら……」と話を進める。
「剣の方はどうだ? 剣なら、まぁ、教えられなくもないぞ」
その提案に、ナリはとても目を輝かせながら「やる!」と首の骨が折れてしまうんじゃないかと思うほど、大きく強く首を縦に振る姿を見せるのである。そんな姿に、ロキは「ふはっ」と笑みを見せる。
「そんなに嬉しいのかよ……分かった分かった。バルドル、ボクとナリは鍛錬場に行ってくるよ。ナルちゃんは、君に頼んでもいいか?」
「あぁ、勿論だ」
その願いにバルドルが応えると、ロキははしゃいでいるナリを引き連れて鍛錬場のある方向へと進んでいった。
「それじゃあ、ナルさん。私達も行こうか」
「ハイッ!」
ナルは楽しげにバルドルと、ロキ達とは真逆の方向へと進んでいった。
そんな彼等を、世界樹が優しく見守っていた。