残酷な描写あり
R-15
競技の選択
レンとサクラは出る競技に悩んでいた。
サクラは【幻惑】という魔法を持ち、魔法としては実態のない分身を作るというものだった。
このことから精密射撃などの遠距離部門が候補から外れる。
サクラの持っている魔法が元素魔法であれば二人が唯一勝てる見込みのあった部門だったが世の中そううまくいくはずがない。
レンは紋章魔法でサクラに遠距離魔法を持たせる事を考えていたが、メリルによって却下される。
それは単純に練度の問題であった。
いくらリコがでたらめな威力を放つ特別な個体であるのは置いたとしても、レンですら木偶人形の上半身を吹き飛ばし、危うく生徒に攻撃するところだったからだ。
未熟な魔法を大きな祭の場で使用させるわけにはいかなかった。
したがって、レンは紋章魔法を、サクラは【幻惑】魔法で挑むこととなった。
「レンくん。レンくんは走るの得意?」
「まぁ、それなりに?」
「それならさ、戦闘演習に出てみない?」
「えっ!?待って待って!せんとうえ特級クラスのヒトたちに勝てるわけ無いよ!」
「誰も真っ向勝負しようなんて言ってないわよ。そうですよね?先生」
レンはサクラの言う意味が理解できず、首を傾げる。
メリルは腕を組んで頷く。
「サクラの言うことはわかるぞ。戦闘演習の勝利条件は相手選手の降伏か拠点に置いてある魔道具を自陣に持って帰るというルールだ。理論上戦闘行為無しでも勝利条件は満たすことができる」
「ね?」
レンはメリルからのルルールを聴き、納得する。
しかし、『理論上』という言葉にレンは引っかかっていた。
「先生、理論上って言いましたが、それってどういう意味なんですか?」
「私もそうだが、魔力の保有量が多い者は魔力を薄く広範囲に広げることで擬似的な探知能力があるんだよ。これは五感よりも鋭くてごまかしが効かない。だから隠密行動を想定しているだろうが、残念ながら上手くいかないことを想定するんだ。……納得がいかないなら私が目隠しした状態でこの部屋に隠れるお前たちを探し出してみようか?」
自信満々なメリルを見て二人は本当のことなんだろうと理解する。
しかし、サクラは諦めていなかった。
「アタシ、少しは隠れられると思う……!」
「ほう?ではやってみるとしよう。私は目隠しして十秒経ったら探すから好きに隠れると良い」
メリルは窓際に行き、部屋を背にして目隠しと耳当てをした。
完全に外界からシャットダウンした状態で探し出すという余裕っぷりにレンはワクワクした基地になり、棚の上にある箱の中に身を隠し、息を潜める。
猫は液体。
獣人であってもそれは変わらず、スルスルと箱の中に入ることができる。
箱の隙間から部室を覗くとサクラは心を落ち着かせ、詠唱に入っていた。
「『我の体を幻とし、適を欺け!』」
サクラの分身が三体ほど現れ、倉庫の中と机の下、メリルのすぐ隣に配置し、自身はロッカーの中に身を潜めた。
すると十秒経ったのだろう。
メリルが立ち上がり、振り返る。
耳当てと目隠しをした状態で周囲を確認する。
「む?隠れる気がないのか?」
サクラの分身に手を触れた瞬間、霧散して消えていった。
「おや、これが【幻惑】か……本当によくできている。魔力だけだとサクラがその場にいるように感じられるな。……倉庫と机の下は分身だな。棚の上の箱の中にレン、ロッカーの中に桜がいるのだろう?出ておいで」
メリルは目隠しと耳当てを外し、二人が出てくるのを待つ。
レンは顔をひょっこりと出し、照れたように笑う。
サクラはロッカーから出てこなかった。
「往生際が悪いぞ」
メリルがロッカーの扉を開けるとサクラが立っていた。
不敵な笑みを浮かべ、サクラにタッチするとサクラが消えた。
「ん……!?読み違えたか?」
「え……確かにロッカーに入ったのが本物だったはずなのに……!」
「わぁっ!!びっくりした?」
レンは机の下から現れたサクラに驚かされ、尻餅をつく。
サクラはそれを見てケタケタと笑うと、メリルが顎に手を当てて考える。
サクラは得意そうに魔法の説明をする。
「アタシの【幻惑】は少し変わっているの。分身と実体を入れ替えられるのよ。だから先生の魔力による探知を潜り抜けたの。すごいでしょ!」
「ふむ……サクラの自信があるというのがよくわかった。確かにコレなら優勝できるかもしれないな。タネが割れないようにこの魔法は隠しておいたほうが良さそうだ」
「すごいなぁ……オレももっと頑張らないと……!」
「レンは少し魔道具を作ってみようか?高性能なものは流石にできないだろうが、魔本のようなものでもあるだけマシかもしれないな」
レンはその言葉に頷くと、倉庫へと向かう。
ミスリス鉄鉱と木材を取り出し、机の上に一つずつ並べる。
「何をするつもりなんだ?」
「一回リコさんのために作った杖の魔道具を作ってみようと思ったんです。まぁ不出来だったから一回の魔法で破壊しちゃったけど……」
「じゃあさ!杖じゃなくて、短剣の魔道具にしてよ!アタシは杖よりもそっちのほうが得意だからさ!」
「うん……!やってみるよ!」
レンは木材を短剣状の形にするところから始まることとなった。
その日はサクラによる微調整もあり、木材を形作るだけで一日が終わり、準備期間は明日だけとなるのだった。
サクラは【幻惑】という魔法を持ち、魔法としては実態のない分身を作るというものだった。
このことから精密射撃などの遠距離部門が候補から外れる。
サクラの持っている魔法が元素魔法であれば二人が唯一勝てる見込みのあった部門だったが世の中そううまくいくはずがない。
レンは紋章魔法でサクラに遠距離魔法を持たせる事を考えていたが、メリルによって却下される。
それは単純に練度の問題であった。
いくらリコがでたらめな威力を放つ特別な個体であるのは置いたとしても、レンですら木偶人形の上半身を吹き飛ばし、危うく生徒に攻撃するところだったからだ。
未熟な魔法を大きな祭の場で使用させるわけにはいかなかった。
したがって、レンは紋章魔法を、サクラは【幻惑】魔法で挑むこととなった。
「レンくん。レンくんは走るの得意?」
「まぁ、それなりに?」
「それならさ、戦闘演習に出てみない?」
「えっ!?待って待って!せんとうえ特級クラスのヒトたちに勝てるわけ無いよ!」
「誰も真っ向勝負しようなんて言ってないわよ。そうですよね?先生」
レンはサクラの言う意味が理解できず、首を傾げる。
メリルは腕を組んで頷く。
「サクラの言うことはわかるぞ。戦闘演習の勝利条件は相手選手の降伏か拠点に置いてある魔道具を自陣に持って帰るというルールだ。理論上戦闘行為無しでも勝利条件は満たすことができる」
「ね?」
レンはメリルからのルルールを聴き、納得する。
しかし、『理論上』という言葉にレンは引っかかっていた。
「先生、理論上って言いましたが、それってどういう意味なんですか?」
「私もそうだが、魔力の保有量が多い者は魔力を薄く広範囲に広げることで擬似的な探知能力があるんだよ。これは五感よりも鋭くてごまかしが効かない。だから隠密行動を想定しているだろうが、残念ながら上手くいかないことを想定するんだ。……納得がいかないなら私が目隠しした状態でこの部屋に隠れるお前たちを探し出してみようか?」
自信満々なメリルを見て二人は本当のことなんだろうと理解する。
しかし、サクラは諦めていなかった。
「アタシ、少しは隠れられると思う……!」
「ほう?ではやってみるとしよう。私は目隠しして十秒経ったら探すから好きに隠れると良い」
メリルは窓際に行き、部屋を背にして目隠しと耳当てをした。
完全に外界からシャットダウンした状態で探し出すという余裕っぷりにレンはワクワクした基地になり、棚の上にある箱の中に身を隠し、息を潜める。
猫は液体。
獣人であってもそれは変わらず、スルスルと箱の中に入ることができる。
箱の隙間から部室を覗くとサクラは心を落ち着かせ、詠唱に入っていた。
「『我の体を幻とし、適を欺け!』」
サクラの分身が三体ほど現れ、倉庫の中と机の下、メリルのすぐ隣に配置し、自身はロッカーの中に身を潜めた。
すると十秒経ったのだろう。
メリルが立ち上がり、振り返る。
耳当てと目隠しをした状態で周囲を確認する。
「む?隠れる気がないのか?」
サクラの分身に手を触れた瞬間、霧散して消えていった。
「おや、これが【幻惑】か……本当によくできている。魔力だけだとサクラがその場にいるように感じられるな。……倉庫と机の下は分身だな。棚の上の箱の中にレン、ロッカーの中に桜がいるのだろう?出ておいで」
メリルは目隠しと耳当てを外し、二人が出てくるのを待つ。
レンは顔をひょっこりと出し、照れたように笑う。
サクラはロッカーから出てこなかった。
「往生際が悪いぞ」
メリルがロッカーの扉を開けるとサクラが立っていた。
不敵な笑みを浮かべ、サクラにタッチするとサクラが消えた。
「ん……!?読み違えたか?」
「え……確かにロッカーに入ったのが本物だったはずなのに……!」
「わぁっ!!びっくりした?」
レンは机の下から現れたサクラに驚かされ、尻餅をつく。
サクラはそれを見てケタケタと笑うと、メリルが顎に手を当てて考える。
サクラは得意そうに魔法の説明をする。
「アタシの【幻惑】は少し変わっているの。分身と実体を入れ替えられるのよ。だから先生の魔力による探知を潜り抜けたの。すごいでしょ!」
「ふむ……サクラの自信があるというのがよくわかった。確かにコレなら優勝できるかもしれないな。タネが割れないようにこの魔法は隠しておいたほうが良さそうだ」
「すごいなぁ……オレももっと頑張らないと……!」
「レンは少し魔道具を作ってみようか?高性能なものは流石にできないだろうが、魔本のようなものでもあるだけマシかもしれないな」
レンはその言葉に頷くと、倉庫へと向かう。
ミスリス鉄鉱と木材を取り出し、机の上に一つずつ並べる。
「何をするつもりなんだ?」
「一回リコさんのために作った杖の魔道具を作ってみようと思ったんです。まぁ不出来だったから一回の魔法で破壊しちゃったけど……」
「じゃあさ!杖じゃなくて、短剣の魔道具にしてよ!アタシは杖よりもそっちのほうが得意だからさ!」
「うん……!やってみるよ!」
レンは木材を短剣状の形にするところから始まることとなった。
その日はサクラによる微調整もあり、木材を形作るだけで一日が終わり、準備期間は明日だけとなるのだった。