残酷な描写あり
R-15
調伏された神
男は何事もなかったような素振りで三人の元へ一歩、また一歩と迫る。
荒れ狂う魔力の波に三人には抵抗する手段も気力も残っておらず、死を覚悟する。
レンは男に対して敵意だけは残しており、気力を振り絞って声を上げる。
「……なんで、あの攻撃が効いてないんだ……!?」
「簡単だ。お前たちの攻撃は俺に届いていない。魔力纏いぐらい知っているだろう?お前たちが凍らせたのは俺の周りだけだ」
レンは悔しそうな表情で男を睨みつけていると、男が右腕を振り上げる。
「ぼるふ、それ以上はやめるのじゃ」
部室の外から女性の声が掛かると男は三人に興味を無くしたようで部室の外へ出ていく。
三人は突然のことで呆然としているとメリルが帰ってくる。
そして、そのまま三人を同時に抱きしめる。
「せ、先生……!?」
「く、苦しいです……」
「ど、どういうこと……!?」
「怖い思いをさせてすまない。ヴォルフ様にレンの父親のことを話したら急に飛び出してしまって……。大体の事情はわかっている。よく、耐えた……!」
男がこの国――世界の神:ヴォルフである事を知らされ、驚く。
それと同時に自分たちが神に対して攻撃してしまったことに絶望する。
どのような処罰が待っているのか不安になり、サクラは涙をこぼす。
それを見たメリルはサクラの頭を撫で、外にいる女性と目を合わせて呼ぶ。
「どうしたのじゃ?」
「恐らくですが、ヴォルフ様に対して無礼を働いてしまったことに後悔をしているのかと……」
「あのクソ犬に無礼も何も無いのじゃ。先に仕掛けたのは彼奴じゃろう?ぼるふっ!まずはこの子達に謝るのじゃ!」
神であるはずのヴォルフは女性にこっ酷く叱られ、耳を垂らしながら三人の前に立つ。
悄気た顔つきで頭を下げて謝罪する。
そこに神の威厳は一切なかった。
「急に襲って、悪かった……」
「伏せて誠意を見せるのじゃ!」
完全に調伏されている神の様子を見て、レンたちはどういった対応をすればいいのか分からず困惑する。
そして、レンは女性の顔をしっかりと確認するとキツネの女王:ふくだった。
ふくはレンたちの前に座り、深々と頭を下げる。
「この度はうちのクソ犬が悪い事をしたのじゃ。謝罪を受け入れてくれぬだろうか?この通りじゃ」
「ちょちょちょ……女王様も神様も顔をあげてください……!お、オレたちは何も怒ってないですよ……!」
「じゃがの……。ほれ、りこは怒っておるようじゃ」
レンはリコの方へ振り向くとふくの言う通り完全に怒っていた。
――そうだった……。リコさんは野狐族の絡みで女王様の事が……。それにヴォルフ様から攻撃も受けてるし、怒るよなぁ……。どうしよ……。
レンはどうしたらリコの怒りが収まるのか考えていると、答えが出るより早くリコが立ち上がる。
「私は……四十年ほど前の首領、ウルチの孫です。生まれた時から迫害も受けてきた身です。もう、野狐族には裏切るような輩はいないはずです。隔離措置を撤回してくれるなら許します」
「!?」
「リコ……っ!」
「……?」
リコの条件にメリルが止めに入ろうとした瞬間、ふくが魔法の縄でメリルを拘束して止める。
ふくは立ち上がり、リコの前に立つ。
腕を組んで少し難しそうな表情をすると、リコを見上げて口を開く。
「お前は、まだ知らぬようじゃ。話が長くなるのじゃが、よいか?」
リコは野狐族の事でまだ知らない事があると聞き、不機嫌そうな顔をするが、レンの顔を見て渋々頷く。
「??」
「……いえ、教えてもらえるのであれば、聴きたいです」
「そうじゃの……。何故、隔離という措置をとったという話をしようかの」
ふくはリコの不満を払拭するために国の端に隔離した話を始める。
その内容はふく自身が野狐族だった頃の話まで遡る。
「わしには綱彦と呼ばれる野狐族の長と無理やり番にさせられておったのじゃ。奴は【洗脳】の魔法の持ち主での、わしはその力に侵されておった。ある時、ぼるふがそれを解いてくれたのじゃが、わしの腹には玉藻が身籠っておった。そして玉藻が生まれた時、綱彦は玉藻を攫い、どこかへ隠した。綱彦はぼるふに斃され、綱彦によって【洗脳】された共謀者諸共、一度目の隔離をしたのじゃ。それだけ、【洗脳】の魔法が強かったのじゃ」
ふくは時々苦しそうな表情を浮かべ、その度にヴォルフがふくの手を握り、ふくの心を安定させる。
リコは一度目の隔離の話を聞き、あまり納得していなかった。
――綱彦というヒトが悪いのであって、野狐族全体が悪いというのは、あまりに横暴かと思います。
「そう思うじゃろう?」
リコの思っていたことは全てふくに筒抜けであった事に目をまん丸にして驚く。
「まあ、勝手に心を読んだのはすまないの。続きを話そうかの」
ふくは指一つで部室の家具や道具を動かして、元の位置へと戻していく。
大規模でなくとも洗練された魔法の技術が披露され、ヴォルフとは正反対の強さである事がわかる。
元の位置に戻された椅子に腰を掛け、リコも座るように促す。
リコが座ると過去話を再開する。
「しばらく経って、今から四十年ほど前、お前の祖父である粳(うるち)達が王族を殺したのじゃ。身体の強い獅子の男じゃったが、野狐族によって殺されたのじゃ」
リコの目が驚きのあまり見開くと、ふくは仕方がないといった様子で首を横に振る。
「原因は綱彦の【洗脳】じゃ。奴の魔法は死して尚、野狐を操っておった。今までは野狐族の中で起こった事件じゃったから大目に見てもらっておったが、流石に他の国民の前で王族を殺すといった暴挙は庇う事ができなかったのじゃ。二度目の隔離は民の感情を考慮すると、より厳しくする他ならなかったのじゃ。いくら【洗脳】が原因じゃとしても、他の者には判らぬ。それから国の端に集落を作らせ、他の民との一切交流をさせないという条件で落ち着いた。これが野狐族の隔離の顛末じゃ。ここまで聴いて、お前の中の蟠りは消えたかの?」
リコは野狐族の隔離の全てを聞き終え、力無く頷いた。
蟠りがなくなったといえば嘘になるが、死んで尚効果を与え続ける魔法が野狐族にかかっているかもしれないという理由を知り、納得する他なかったのである。
荒れ狂う魔力の波に三人には抵抗する手段も気力も残っておらず、死を覚悟する。
レンは男に対して敵意だけは残しており、気力を振り絞って声を上げる。
「……なんで、あの攻撃が効いてないんだ……!?」
「簡単だ。お前たちの攻撃は俺に届いていない。魔力纏いぐらい知っているだろう?お前たちが凍らせたのは俺の周りだけだ」
レンは悔しそうな表情で男を睨みつけていると、男が右腕を振り上げる。
「ぼるふ、それ以上はやめるのじゃ」
部室の外から女性の声が掛かると男は三人に興味を無くしたようで部室の外へ出ていく。
三人は突然のことで呆然としているとメリルが帰ってくる。
そして、そのまま三人を同時に抱きしめる。
「せ、先生……!?」
「く、苦しいです……」
「ど、どういうこと……!?」
「怖い思いをさせてすまない。ヴォルフ様にレンの父親のことを話したら急に飛び出してしまって……。大体の事情はわかっている。よく、耐えた……!」
男がこの国――世界の神:ヴォルフである事を知らされ、驚く。
それと同時に自分たちが神に対して攻撃してしまったことに絶望する。
どのような処罰が待っているのか不安になり、サクラは涙をこぼす。
それを見たメリルはサクラの頭を撫で、外にいる女性と目を合わせて呼ぶ。
「どうしたのじゃ?」
「恐らくですが、ヴォルフ様に対して無礼を働いてしまったことに後悔をしているのかと……」
「あのクソ犬に無礼も何も無いのじゃ。先に仕掛けたのは彼奴じゃろう?ぼるふっ!まずはこの子達に謝るのじゃ!」
神であるはずのヴォルフは女性にこっ酷く叱られ、耳を垂らしながら三人の前に立つ。
悄気た顔つきで頭を下げて謝罪する。
そこに神の威厳は一切なかった。
「急に襲って、悪かった……」
「伏せて誠意を見せるのじゃ!」
完全に調伏されている神の様子を見て、レンたちはどういった対応をすればいいのか分からず困惑する。
そして、レンは女性の顔をしっかりと確認するとキツネの女王:ふくだった。
ふくはレンたちの前に座り、深々と頭を下げる。
「この度はうちのクソ犬が悪い事をしたのじゃ。謝罪を受け入れてくれぬだろうか?この通りじゃ」
「ちょちょちょ……女王様も神様も顔をあげてください……!お、オレたちは何も怒ってないですよ……!」
「じゃがの……。ほれ、りこは怒っておるようじゃ」
レンはリコの方へ振り向くとふくの言う通り完全に怒っていた。
――そうだった……。リコさんは野狐族の絡みで女王様の事が……。それにヴォルフ様から攻撃も受けてるし、怒るよなぁ……。どうしよ……。
レンはどうしたらリコの怒りが収まるのか考えていると、答えが出るより早くリコが立ち上がる。
「私は……四十年ほど前の首領、ウルチの孫です。生まれた時から迫害も受けてきた身です。もう、野狐族には裏切るような輩はいないはずです。隔離措置を撤回してくれるなら許します」
「!?」
「リコ……っ!」
「……?」
リコの条件にメリルが止めに入ろうとした瞬間、ふくが魔法の縄でメリルを拘束して止める。
ふくは立ち上がり、リコの前に立つ。
腕を組んで少し難しそうな表情をすると、リコを見上げて口を開く。
「お前は、まだ知らぬようじゃ。話が長くなるのじゃが、よいか?」
リコは野狐族の事でまだ知らない事があると聞き、不機嫌そうな顔をするが、レンの顔を見て渋々頷く。
「??」
「……いえ、教えてもらえるのであれば、聴きたいです」
「そうじゃの……。何故、隔離という措置をとったという話をしようかの」
ふくはリコの不満を払拭するために国の端に隔離した話を始める。
その内容はふく自身が野狐族だった頃の話まで遡る。
「わしには綱彦と呼ばれる野狐族の長と無理やり番にさせられておったのじゃ。奴は【洗脳】の魔法の持ち主での、わしはその力に侵されておった。ある時、ぼるふがそれを解いてくれたのじゃが、わしの腹には玉藻が身籠っておった。そして玉藻が生まれた時、綱彦は玉藻を攫い、どこかへ隠した。綱彦はぼるふに斃され、綱彦によって【洗脳】された共謀者諸共、一度目の隔離をしたのじゃ。それだけ、【洗脳】の魔法が強かったのじゃ」
ふくは時々苦しそうな表情を浮かべ、その度にヴォルフがふくの手を握り、ふくの心を安定させる。
リコは一度目の隔離の話を聞き、あまり納得していなかった。
――綱彦というヒトが悪いのであって、野狐族全体が悪いというのは、あまりに横暴かと思います。
「そう思うじゃろう?」
リコの思っていたことは全てふくに筒抜けであった事に目をまん丸にして驚く。
「まあ、勝手に心を読んだのはすまないの。続きを話そうかの」
ふくは指一つで部室の家具や道具を動かして、元の位置へと戻していく。
大規模でなくとも洗練された魔法の技術が披露され、ヴォルフとは正反対の強さである事がわかる。
元の位置に戻された椅子に腰を掛け、リコも座るように促す。
リコが座ると過去話を再開する。
「しばらく経って、今から四十年ほど前、お前の祖父である粳(うるち)達が王族を殺したのじゃ。身体の強い獅子の男じゃったが、野狐族によって殺されたのじゃ」
リコの目が驚きのあまり見開くと、ふくは仕方がないといった様子で首を横に振る。
「原因は綱彦の【洗脳】じゃ。奴の魔法は死して尚、野狐を操っておった。今までは野狐族の中で起こった事件じゃったから大目に見てもらっておったが、流石に他の国民の前で王族を殺すといった暴挙は庇う事ができなかったのじゃ。二度目の隔離は民の感情を考慮すると、より厳しくする他ならなかったのじゃ。いくら【洗脳】が原因じゃとしても、他の者には判らぬ。それから国の端に集落を作らせ、他の民との一切交流をさせないという条件で落ち着いた。これが野狐族の隔離の顛末じゃ。ここまで聴いて、お前の中の蟠りは消えたかの?」
リコは野狐族の隔離の全てを聞き終え、力無く頷いた。
蟠りがなくなったといえば嘘になるが、死んで尚効果を与え続ける魔法が野狐族にかかっているかもしれないという理由を知り、納得する他なかったのである。
いつもお読み頂き誠にありがとうございます。
次回更新は5/26となります。
スローペースですが、よろしくお願いいたします。
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