残酷な描写あり
R-15
ハウルの目論見
再びレンはハウルと対決となる。
理由は簡単で、前回同様にハウルがレンに勝負を仕掛けてきたという事。
クラスメイトたちが口を揃えてレンとサクラのペアが優勝するだろうと発言した事でハウルが自分の方が上だと主張したのだ。
レンはハウルの挑発に対して冷静に了承して対戦カードが組まれたのだった。
一方でサムは非常に困ってしまう。
パートナーというものが非常に強力だからだ。
それは契約を結んだ二人なら特級クラスにも匹敵する戦闘能力の向上、魔法の変質、簡単な意思疎通という欲張りセットが付いてくるから。
それだけの契約の力を中等級の即席ペアと当てる訳にはいかないため、対策を考えていたのだが、レンが了承した事でその計画は無駄になる。
――レン。パートナー契約を甘く見るなよ……!ハウルたちは単純な特級クラス相当じゃないぞ……!
サムはレンとサクラに事故が起こらないことを願い、両者を位置につかせる。
レンとサクラは魔道具を構え、ハウルは木剣を構える。
「相手のどちらかに有効打を与えた時点で決着となる。いいな?それでは――はじめっ!」
「『唸りを上げる烈風よ、砂塵を巻き上げろ!』」
「『武神と韋駄天よ、我に力を与えたまえ!』」
「『惑わしの姿よ、代わる代わる入れ替わり、敵の目を欺け!』」
「『我の脚力を強化し、軽やかになれ!』」
四人が一度に魔法を発動し、レンの魔法がグラウンドの砂を巻き上げ、視界を遮る。
サクラの魔法で三人の分身体を生成し、身を潜める。
ハウルは以前使用していた【強化】の魔法とは少し違い、レンは魔力を漲らせて魔力纏いを行う。
――呪文の系統から速さを手に入れたみたいだ!変質した魔法は強力……。なら、魔力の消費も激しいはずだ!
レンの予想は間違っていない。
そこに誤算があるとすれば、今のハウルは特級クラスに匹敵する戦闘能力を保有しているということ。
ハウルには目隠しが通用せず、サクラの分身体ダミーも効いていなかった。
正確なレンの位置を捉えており、砂埃の隙間から拳と共にハウルが目前に迫っていた。
「もらったぁぁぁぁっ!」
「――!?」
レンは右の膝を曲げて上体を逸らす。
ハウルの拳を避け、カウンターに魔力凝縮による右アッパーをハウルの顎に向けて放つが、ハウルは後方宙返りして躱した。
「……っ!タイミングバッチリだったのに……!」
「生意気にカウンター狙ってたとはな!甘いんだよ!俺はお前と違って毎日戦闘訓練してんだ!肉弾戦を仕掛けるなんて十年早いんだよ!」
レンとハウルはお互いに間合いを取り、魔力を昂らせる。
するとハウルの背後からサクラが水の杖を向けて魔法を放つ。
「『荒れ狂う流れよ、周りを水で埋め尽くせ!』」
「『大地よ、隆起しろ!』」
レンはサクラの魔法に合わせてグラウンドの各地に岩を隆起させて足場を作る。
ハウルはつまらなさそうにサクラを横目で見る。
ハウルの魔力はサクラよりも多く、魔力纏いでサクラの水魔法を弾いていた。
悔しそうな表情を浮かべていると、ハウルの歪んだ笑顔がサクラに向けられ、背筋を凍らせる。
「魔法競技祭に出ておいてその程度かよ」
「まだまだに決まってるじゃないっ!そんな事よりレンくんから目を離して良かったの?」
「あん?」
サクラがレンに向かって指を指すと、ハウルは面倒くさそうに振り向く。
既にハウルの懐に入り込んでいたレンはハウルの腹に向かって拳を打ち込んだ。
鈍い音が響き渡り、サムは片腕を上げかけたが様子が違うことに気がついた。
――ここまで差が生まれるとは……!
レンの一撃はハウルの魔力の壁を突破できずに留まった。
レンはハウルから発せられる冷たい雰囲気を感じ取り、飛び退くとハウルの拳が振り下ろされ、地面に直撃する。
その威力は半径五メートルほどのクレーターを形成し、レンとサクラは吹き飛ばされ、分身は全て消え去る。
猫族は空中でも体を捻ることができるため、グルンと翻して着地する。
レンは打ち上げられているサクラを確認して跳びあがるが、上空から何かに撃ち落とされ、地面に激突する。
助けようとしたレンよりも早くハウルは跳び、レンにかかと落としをして撃ち落としたのだ。
なおも追撃を与えようとレンに拳を振り落とした瞬間、サムの腕がそれを受け止め、腹部に重たい一撃を与える。
「ガッ……!?て……めぇっ!生徒に向かって……!?」
「悪いな。いくら生徒でもルールを守らないやつは実力行使してもいいって規則なんでね。有効打を与えた時点で終わりだって言っただろ?」
「うるせぇっ!領主の息子に対して歯向かうやつにはこうしてやるんだよっ……!」
「領主って……ただの土地持ちなんだろう?経営権があるだけで実質的な統治権は無いはずだが?この国の統治権を持っているのはふく様とヴォルフ様だけ。その代理として王族がいる。そしてお前の父親は王族ではない。なんでレンに対してそのような態度なんだ?」
「親父の孤児院を使ってた下人だからに決まってんだろ!そんなやつと同等に見られるのは我慢ならねぇ!親が負け犬の癖して醜いんだよ!」
今にも噛みつくような勢いのハウルに対してサムは毅然とした態度を取る。
すると、ハウルのパートナーが二人の間に割って入り、ハウルを見る。
怒りに燃えていた表情が少し和らぐが、女子の表情が怒りに染まっていることに気がつくと、一歩下がる。
「ねえ」
その短い一言でハウルと女子の立場が逆転したことがわかり、狼狽える。
「な、なんだよ……!お前も俺に逆らうのかよ……!」
「逆らう?何言ってんの?うちはあんたのお父様の孤児院出身よ?うちらのことそんなふうに思ってたなんて、ガッカリだわ。戦災孤児をそんな風に思ってるんなら、うちの方から願い下げよ。パートナー解消するわ!」
「ま、待てって!」
「『我、汝との契約を破棄することをここに誓う』」
ハウルの中で【何か】が抜け落ち、膝から崩れ落ちる。
サムは額に手を当ててため息を吐くと、レンの身体を持ち上げる。
するとレンの身体が水に変わりサムはずぶ濡れになる。
濡れた身体のまま振り返るとサクラに肩を貸しているレンが立っていた。
――アイツら、いつのまにか実体分身まで作れるようになったんだ!
サムはずぶ濡れにされた事などお構いなしに、二人が痛手をほとんど追わずに立っていた事に嬉しくなり、ニィッと口角を上げたのだった。
理由は簡単で、前回同様にハウルがレンに勝負を仕掛けてきたという事。
クラスメイトたちが口を揃えてレンとサクラのペアが優勝するだろうと発言した事でハウルが自分の方が上だと主張したのだ。
レンはハウルの挑発に対して冷静に了承して対戦カードが組まれたのだった。
一方でサムは非常に困ってしまう。
パートナーというものが非常に強力だからだ。
それは契約を結んだ二人なら特級クラスにも匹敵する戦闘能力の向上、魔法の変質、簡単な意思疎通という欲張りセットが付いてくるから。
それだけの契約の力を中等級の即席ペアと当てる訳にはいかないため、対策を考えていたのだが、レンが了承した事でその計画は無駄になる。
――レン。パートナー契約を甘く見るなよ……!ハウルたちは単純な特級クラス相当じゃないぞ……!
サムはレンとサクラに事故が起こらないことを願い、両者を位置につかせる。
レンとサクラは魔道具を構え、ハウルは木剣を構える。
「相手のどちらかに有効打を与えた時点で決着となる。いいな?それでは――はじめっ!」
「『唸りを上げる烈風よ、砂塵を巻き上げろ!』」
「『武神と韋駄天よ、我に力を与えたまえ!』」
「『惑わしの姿よ、代わる代わる入れ替わり、敵の目を欺け!』」
「『我の脚力を強化し、軽やかになれ!』」
四人が一度に魔法を発動し、レンの魔法がグラウンドの砂を巻き上げ、視界を遮る。
サクラの魔法で三人の分身体を生成し、身を潜める。
ハウルは以前使用していた【強化】の魔法とは少し違い、レンは魔力を漲らせて魔力纏いを行う。
――呪文の系統から速さを手に入れたみたいだ!変質した魔法は強力……。なら、魔力の消費も激しいはずだ!
レンの予想は間違っていない。
そこに誤算があるとすれば、今のハウルは特級クラスに匹敵する戦闘能力を保有しているということ。
ハウルには目隠しが通用せず、サクラの分身体ダミーも効いていなかった。
正確なレンの位置を捉えており、砂埃の隙間から拳と共にハウルが目前に迫っていた。
「もらったぁぁぁぁっ!」
「――!?」
レンは右の膝を曲げて上体を逸らす。
ハウルの拳を避け、カウンターに魔力凝縮による右アッパーをハウルの顎に向けて放つが、ハウルは後方宙返りして躱した。
「……っ!タイミングバッチリだったのに……!」
「生意気にカウンター狙ってたとはな!甘いんだよ!俺はお前と違って毎日戦闘訓練してんだ!肉弾戦を仕掛けるなんて十年早いんだよ!」
レンとハウルはお互いに間合いを取り、魔力を昂らせる。
するとハウルの背後からサクラが水の杖を向けて魔法を放つ。
「『荒れ狂う流れよ、周りを水で埋め尽くせ!』」
「『大地よ、隆起しろ!』」
レンはサクラの魔法に合わせてグラウンドの各地に岩を隆起させて足場を作る。
ハウルはつまらなさそうにサクラを横目で見る。
ハウルの魔力はサクラよりも多く、魔力纏いでサクラの水魔法を弾いていた。
悔しそうな表情を浮かべていると、ハウルの歪んだ笑顔がサクラに向けられ、背筋を凍らせる。
「魔法競技祭に出ておいてその程度かよ」
「まだまだに決まってるじゃないっ!そんな事よりレンくんから目を離して良かったの?」
「あん?」
サクラがレンに向かって指を指すと、ハウルは面倒くさそうに振り向く。
既にハウルの懐に入り込んでいたレンはハウルの腹に向かって拳を打ち込んだ。
鈍い音が響き渡り、サムは片腕を上げかけたが様子が違うことに気がついた。
――ここまで差が生まれるとは……!
レンの一撃はハウルの魔力の壁を突破できずに留まった。
レンはハウルから発せられる冷たい雰囲気を感じ取り、飛び退くとハウルの拳が振り下ろされ、地面に直撃する。
その威力は半径五メートルほどのクレーターを形成し、レンとサクラは吹き飛ばされ、分身は全て消え去る。
猫族は空中でも体を捻ることができるため、グルンと翻して着地する。
レンは打ち上げられているサクラを確認して跳びあがるが、上空から何かに撃ち落とされ、地面に激突する。
助けようとしたレンよりも早くハウルは跳び、レンにかかと落としをして撃ち落としたのだ。
なおも追撃を与えようとレンに拳を振り落とした瞬間、サムの腕がそれを受け止め、腹部に重たい一撃を与える。
「ガッ……!?て……めぇっ!生徒に向かって……!?」
「悪いな。いくら生徒でもルールを守らないやつは実力行使してもいいって規則なんでね。有効打を与えた時点で終わりだって言っただろ?」
「うるせぇっ!領主の息子に対して歯向かうやつにはこうしてやるんだよっ……!」
「領主って……ただの土地持ちなんだろう?経営権があるだけで実質的な統治権は無いはずだが?この国の統治権を持っているのはふく様とヴォルフ様だけ。その代理として王族がいる。そしてお前の父親は王族ではない。なんでレンに対してそのような態度なんだ?」
「親父の孤児院を使ってた下人だからに決まってんだろ!そんなやつと同等に見られるのは我慢ならねぇ!親が負け犬の癖して醜いんだよ!」
今にも噛みつくような勢いのハウルに対してサムは毅然とした態度を取る。
すると、ハウルのパートナーが二人の間に割って入り、ハウルを見る。
怒りに燃えていた表情が少し和らぐが、女子の表情が怒りに染まっていることに気がつくと、一歩下がる。
「ねえ」
その短い一言でハウルと女子の立場が逆転したことがわかり、狼狽える。
「な、なんだよ……!お前も俺に逆らうのかよ……!」
「逆らう?何言ってんの?うちはあんたのお父様の孤児院出身よ?うちらのことそんなふうに思ってたなんて、ガッカリだわ。戦災孤児をそんな風に思ってるんなら、うちの方から願い下げよ。パートナー解消するわ!」
「ま、待てって!」
「『我、汝との契約を破棄することをここに誓う』」
ハウルの中で【何か】が抜け落ち、膝から崩れ落ちる。
サムは額に手を当ててため息を吐くと、レンの身体を持ち上げる。
するとレンの身体が水に変わりサムはずぶ濡れになる。
濡れた身体のまま振り返るとサクラに肩を貸しているレンが立っていた。
――アイツら、いつのまにか実体分身まで作れるようになったんだ!
サムはずぶ濡れにされた事などお構いなしに、二人が痛手をほとんど追わずに立っていた事に嬉しくなり、ニィッと口角を上げたのだった。