残酷な描写あり
魔宰相の糺問①
「ホホホ。ノロマなアナタにしては随分と早い対応ですねえ」
会議室に入った冥王は魔王を挑発する。
「朕が全てを取り仕切るよりも、それなりに出来る者にある程度任せた方が良いと言われたのでその通りにしただけだ。結果として幾分か対応が早くなったな」
魔王は左側に座る宰相と秘書官たちを一瞥して冥王に答える。その様子には冥王の挑発に乗る様子はない。
ーーアレが魔宰相として名高いオカ=メギルさんですか……。能力の高さ故に他者に任せられず、結果として迅速に事を進める事ができなかった魔王サンに考えを改めさせるとは……。
今までの大戦を思い出し冥王は感慨深げにオカ=メギルを見る。が、
「ホホホ。アナタともあろう者が随分とのんびりしているのですねえ」
冥王は魔王を小馬鹿にするような言葉を続ける。冥王の記憶にある魔王は、配下に意見を述べさせて話し合わせるという悠長なこととは無縁だったからだ。配下に求めるのは事実の報告のみ。全ての判断は魔王が行う--それが冥王の知る魔族のあり方だったはず……。
「ふん。心配性な者が臣下に多くてな」
泰然と魔王は答える。その様子に冥王は魔宰相オカ=メギルに興味が湧いてくる。
その時だった。
「冥王殿! 拙者から貴殿に確認したき儀があるでゴザル!」
魔宰相オカ=メギルが冥王を問い糺し始めるのだった……。
◇◆◇
「拙者から冥王殿に確認したいのは2点でゴザル。まずは妖精郷の消失についてでゴザル」
「ホホホ。妖精郷が現世との関わりを断ち、四大精霊から地水火風の管理から離れ、更にはエルフの居住地まで幽界に引っ込んだ件ですかねえ?」
「そうでゴザル。大森林にある妖精郷の入り口となっていた場所には貴殿と邪悪龍殿の魔力が検知されたというではゴザらぬか。貴殿らは一体何をしたでゴザろうか?」
オカ=メギルは先ほど魔王に報告していた妖精郷の消失について冥王に問いかける。冥王と邪悪龍の魔力が検知されたこと。妖精郷の入り口がある大森林には邪悪龍ヴァデュグリィが封印されている腐海があるため、冥王は何らかの手段を用いて封印中の邪悪龍の力を用いて妖精郷に何かをしたのではないかと行政府は考えている。しかし、それならエルフたち、そして妖精王ニヴィアンが黙っている訳がない上に、世界各地のエルフの居住地までもが幽界に移ったことの説明にはならない。
結果だけを見ると魔王にとって邪魔でしかない妖精王やエルフたちの干渉がなくなり、地水火風の力を魔族が手にする機会が訪れたということになるので、軍部は細かい経緯には興味はないが、行政府としては関与している者が大物過ぎるので、ことの経緯を把握したいのだ。
「ホホホ。妖精郷で妖精王サンと邪悪龍サンと語らっただけですよ。ただ、妖精王サンがエルフともども幽界に引っ込むという話はなかったですねえ。ワタシはが妖精郷を辞した後、その辺りの話がされたかも知れませんがねえ」
「な……! 封印中の邪悪龍殿と語らうなどということができるはずは……」
160年前の『真魔大戦』にて邪悪龍ヴァデュグリィは黄金龍アルハザードに敗れ、大賢者アルネ・サクヌッセンムによって大森林の奥地に封印された。封印の効力は300年とされているが、100年を過ぎたあたりから封印の力が弱まり始め、封印の地周辺は法則自体がねじ曲がる『腐海』と言われる地域となってしまった。この封印に力を注ぎ、『腐海』の拡大を食い止めているのが妖精王ニヴィアンである。
「ホホホ。簡単なことです。100年近くも力の押し合いをしていたのです。その間に意思疎通の手段ができていてもおかしくはないでしょう」
「言われてみればそうかも知れないでゴザル……」
オカ=メギルは納得するが釈然としない。
--何か重要なことの確認を忘れているような……でゴザル。
「! 冥王殿! 貴殿と邪悪龍殿、妖精王と何を語らったでゴザルか?」
邪悪龍ヴァデュグリィと妖精王ニヴィアンとの間に意思の疎通が図られているという事実を前に、オカ=メギルは冥王がこの二柱と語らったことは何かという点を失念しかけてしまった。
「ホホホ。人間とドワーフの支配領域の地下にある鉱産資源を引き上げる提案をしたのですよ」
「な! 人間とドワーフどもの混乱は貴殿の差し金でゴザったのか……!」
地下の鉱産資源については、大地に権能を有する邪悪龍と妖精王の管轄に属する。この二柱が結託すれば可能ではあるのだが……。聖邪に別れ、大地の権能を巡って対立していた彼女たちが結託したこと、それが冥王の仲介によるものとさえ思えること……。あまりに前代未聞だった。
オカ=メギルを始めとする行政府の面々は驚愕とともに余計なことをしてくれたとも思う。魔族たちと敵対する人間やドワーフたちの混乱は魔族にとって歓迎すべきことである。しかし、魔王の力が完全になった後でも良かったのではないかとも思う。
「ホホホ。妖精王サンは此度のドワーフと人間どもの暴虐に思うところがあったようですねえ。特にドワーフは遠いとは言え精霊の末裔。つまりは妖精王サンの管轄です。それがあのようなことをしでかすとは、聖の陣営たる妖精王サンにとって忸怩たるものがあったのでしょうねえ」
「なるほど……でゴザルな……」
オカ=メギルは納得する。妖精王ニヴィアンのドワーフや人間に対する怒りに乗じて鉱産資源を引き上げさせるのは、このタイミングしかなかったのだ。魔王の力が完全に戻るタイミングで全てが都合よく整う訳ではないのだ。
--この件については事実の確認ができたことで良しとしなければならないでゴザルな……。
オカ=メギルはあまりのことに眩暈を覚えたが、それは後々、行政府内で検討するしかない。行政府には力は弱いながらも優秀な者たちが集まっている。彼らに諮り、必要なら策を練らなければならないだろう……。
会議室に入った冥王は魔王を挑発する。
「朕が全てを取り仕切るよりも、それなりに出来る者にある程度任せた方が良いと言われたのでその通りにしただけだ。結果として幾分か対応が早くなったな」
魔王は左側に座る宰相と秘書官たちを一瞥して冥王に答える。その様子には冥王の挑発に乗る様子はない。
ーーアレが魔宰相として名高いオカ=メギルさんですか……。能力の高さ故に他者に任せられず、結果として迅速に事を進める事ができなかった魔王サンに考えを改めさせるとは……。
今までの大戦を思い出し冥王は感慨深げにオカ=メギルを見る。が、
「ホホホ。アナタともあろう者が随分とのんびりしているのですねえ」
冥王は魔王を小馬鹿にするような言葉を続ける。冥王の記憶にある魔王は、配下に意見を述べさせて話し合わせるという悠長なこととは無縁だったからだ。配下に求めるのは事実の報告のみ。全ての判断は魔王が行う--それが冥王の知る魔族のあり方だったはず……。
「ふん。心配性な者が臣下に多くてな」
泰然と魔王は答える。その様子に冥王は魔宰相オカ=メギルに興味が湧いてくる。
その時だった。
「冥王殿! 拙者から貴殿に確認したき儀があるでゴザル!」
魔宰相オカ=メギルが冥王を問い糺し始めるのだった……。
◇◆◇
「拙者から冥王殿に確認したいのは2点でゴザル。まずは妖精郷の消失についてでゴザル」
「ホホホ。妖精郷が現世との関わりを断ち、四大精霊から地水火風の管理から離れ、更にはエルフの居住地まで幽界に引っ込んだ件ですかねえ?」
「そうでゴザル。大森林にある妖精郷の入り口となっていた場所には貴殿と邪悪龍殿の魔力が検知されたというではゴザらぬか。貴殿らは一体何をしたでゴザろうか?」
オカ=メギルは先ほど魔王に報告していた妖精郷の消失について冥王に問いかける。冥王と邪悪龍の魔力が検知されたこと。妖精郷の入り口がある大森林には邪悪龍ヴァデュグリィが封印されている腐海があるため、冥王は何らかの手段を用いて封印中の邪悪龍の力を用いて妖精郷に何かをしたのではないかと行政府は考えている。しかし、それならエルフたち、そして妖精王ニヴィアンが黙っている訳がない上に、世界各地のエルフの居住地までもが幽界に移ったことの説明にはならない。
結果だけを見ると魔王にとって邪魔でしかない妖精王やエルフたちの干渉がなくなり、地水火風の力を魔族が手にする機会が訪れたということになるので、軍部は細かい経緯には興味はないが、行政府としては関与している者が大物過ぎるので、ことの経緯を把握したいのだ。
「ホホホ。妖精郷で妖精王サンと邪悪龍サンと語らっただけですよ。ただ、妖精王サンがエルフともども幽界に引っ込むという話はなかったですねえ。ワタシはが妖精郷を辞した後、その辺りの話がされたかも知れませんがねえ」
「な……! 封印中の邪悪龍殿と語らうなどということができるはずは……」
160年前の『真魔大戦』にて邪悪龍ヴァデュグリィは黄金龍アルハザードに敗れ、大賢者アルネ・サクヌッセンムによって大森林の奥地に封印された。封印の効力は300年とされているが、100年を過ぎたあたりから封印の力が弱まり始め、封印の地周辺は法則自体がねじ曲がる『腐海』と言われる地域となってしまった。この封印に力を注ぎ、『腐海』の拡大を食い止めているのが妖精王ニヴィアンである。
「ホホホ。簡単なことです。100年近くも力の押し合いをしていたのです。その間に意思疎通の手段ができていてもおかしくはないでしょう」
「言われてみればそうかも知れないでゴザル……」
オカ=メギルは納得するが釈然としない。
--何か重要なことの確認を忘れているような……でゴザル。
「! 冥王殿! 貴殿と邪悪龍殿、妖精王と何を語らったでゴザルか?」
邪悪龍ヴァデュグリィと妖精王ニヴィアンとの間に意思の疎通が図られているという事実を前に、オカ=メギルは冥王がこの二柱と語らったことは何かという点を失念しかけてしまった。
「ホホホ。人間とドワーフの支配領域の地下にある鉱産資源を引き上げる提案をしたのですよ」
「な! 人間とドワーフどもの混乱は貴殿の差し金でゴザったのか……!」
地下の鉱産資源については、大地に権能を有する邪悪龍と妖精王の管轄に属する。この二柱が結託すれば可能ではあるのだが……。聖邪に別れ、大地の権能を巡って対立していた彼女たちが結託したこと、それが冥王の仲介によるものとさえ思えること……。あまりに前代未聞だった。
オカ=メギルを始めとする行政府の面々は驚愕とともに余計なことをしてくれたとも思う。魔族たちと敵対する人間やドワーフたちの混乱は魔族にとって歓迎すべきことである。しかし、魔王の力が完全になった後でも良かったのではないかとも思う。
「ホホホ。妖精王サンは此度のドワーフと人間どもの暴虐に思うところがあったようですねえ。特にドワーフは遠いとは言え精霊の末裔。つまりは妖精王サンの管轄です。それがあのようなことをしでかすとは、聖の陣営たる妖精王サンにとって忸怩たるものがあったのでしょうねえ」
「なるほど……でゴザルな……」
オカ=メギルは納得する。妖精王ニヴィアンのドワーフや人間に対する怒りに乗じて鉱産資源を引き上げさせるのは、このタイミングしかなかったのだ。魔王の力が完全に戻るタイミングで全てが都合よく整う訳ではないのだ。
--この件については事実の確認ができたことで良しとしなければならないでゴザルな……。
オカ=メギルはあまりのことに眩暈を覚えたが、それは後々、行政府内で検討するしかない。行政府には力は弱いながらも優秀な者たちが集まっている。彼らに諮り、必要なら策を練らなければならないだろう……。