残酷な描写あり
魔宰相の糺問②
「冥王殿。妖精郷の消失についてはここまででゴザル。次は獣郷についてでゴザル」
獣人族の本拠について、獣人族は『獣王の郷』としているが、魔族たちは『獣王』の称号を認めていないため、『獣郷』と呼んでいる。
「ホホホ。そう言えば、獣王の郷の『のぞみの神殿』に封印されていた五獣が活動を再開したようですねえ」
魔宰相オカ=メギルに対して冥王は他人事のように答える。それにオカ=メギルは苛立ちを抑え言葉を続ける。
「地水火風の力が四大精霊から離れ始め、現在、四元魔将がその掌握に乗り出しているでゴザル。そこに五獣の介入というのは迷惑極まりないでゴザル!」
「ホホホ。迷惑と言っても実害は出ているんですかねえ? 四大精霊が握っていた力はあまりに大きいので、四元魔将の皆さんと言えど、その力の全てを握るのは困難だと思うのですが……。四元魔将の皆さんが掌握できない分を五獣の皆さんが扱う分には問題はないのでは? それに……、その話とワタシに何の関係があるのですかねえ?」
詳しく状況を把握している冥王の返答にオカ=メギルは、冥王がこの件に一枚噛んでいることを確信する。
「五獣が封印されている『のぞみの神殿』から貴殿の魔力が感知されたという報告が上がっているでゴザル! しかも、『のぞみの神殿』に結界が張られ魔族の監察官の侵入を拒んでいるという話でゴザル! しかもその結界を張ったのは貴殿の配下であるスケルトンだというでゴザらんか!」
獣人族の本拠である獣王の郷には、魔族の監察官が置かれている。変事に気づいた監察官が『のぞみの神殿』に赴いたところ、赤いバンダナを巻いたスケルトンが現れ、結界を張り、監察官の侵入を阻んだという。そして、そのスケルトンは間違いなく冥王の配下である気配が感じられたという。
「ホホホ。『のぞみの神殿』にて五獣の皆さんと少々お話ししたのは事実ですねえ。そして、このワタシの力を知りつつ立ちはだかろうとした勇敢な巫女の方々がいらっしゃったので、褒美として配下を護衛につけて差し上げたのですが……。彼女が結界を張ったということは……。何か不埒なことを巫女の方々にしようとしたんじゃないですかねえ? 監察官の役目は獣王の郷の管理であって、獣人族の皆さんに無体を働くことではないですからねえ」
「くっ……でゴザル……」
冥王の言葉にオカ=メギルは口籠る。獣王の郷の支配については魔王に対する貢納さえしていれば、他のことについては監察官の好き勝手を黙認していたからだ。行政府にこれを懸念する者はいるが、豊かとは言えない魔族領の統治を優先させているため、獣人族支配が適切になされているかについては後回しにされていたのだ。
一般的な魔族の感覚からは、弱き者をいかに扱おうと好きにすればいいのだが、行政府の官吏たちはそのような考えを採らない。権限と役割を明確にして、強いからといって弱き者に無体を働くことを制限しようとしている。そうする事で無駄に死ぬ魔族を減らし、戦力の増強を狙っている。このように考えるようになったのは、行政府に弱い魔族が多いからだ。このため、獣人族に対する扱いについて言及されることは行政府の長であるオカ=メギルにとっては弱みになるのだった。
「そ、それでも! 冥王殿には獣郷から手を引いて頂きたいでゴザル!」
動揺を何とか立て直したオカ=メギルは冥王に要求する。
「お断りいたします」
「な! 冥王殿は魔王さまの臣下のはず! ならば、魔王さまの宰相たる拙者の要求を無視すべきではないでゴザル!」
「ホホホ。ワタシが魔王サンの臣下? いつからワタシは魔王サンの臣下になったんですかねえ?」
「な……!」
予想外の反応に魔王以外のその場にいる魔族たちが凍りつく。ここにいる冥王は『冥王を僭称する魔族』であり、魔族であるならば魔族の長たる魔王の臣下であると認識していたからだ。
「ホホホ。ワタシが魔王サンの下で戦うのはかつて結ばれた盟約に基づいてのことです。盟約で定められたこと以外でアレコレ言われるのは甚だ心外ですねえ」
「そうだな。冥王が朕に従うのは盟約の範囲においてだ。そして、魔族領ならいざ知らず、属領については盟約の範囲外か。朕としたことが抜かったわ」
魔王と冥王が視線を交わしニヤリに笑う。その様子は互いのことを知り尽くした知己のように見える。
「しかし……!」
「ホホホ。そうそう忘れていました」
オカ=メギルの言葉を遮り、冥王がさも思い出したかのように言葉を発する。
「近々、大賢者が誕生するので、その報告に来たのですよ」
「ほう……」
魔王は興味深そうな様子を見せるが、他の魔族たちには緊張が走る。大賢者の誕生は同時に魔王を弑し得る勇者の誕生を促すからだ。
「どういうことでゴザルかぁぁぁ!」
一連の流れから、大賢者の誕生にも冥王が関与していると直感したオカ=メギルの声が会議室に響き渡ったのだった……。
獣人族の本拠について、獣人族は『獣王の郷』としているが、魔族たちは『獣王』の称号を認めていないため、『獣郷』と呼んでいる。
「ホホホ。そう言えば、獣王の郷の『のぞみの神殿』に封印されていた五獣が活動を再開したようですねえ」
魔宰相オカ=メギルに対して冥王は他人事のように答える。それにオカ=メギルは苛立ちを抑え言葉を続ける。
「地水火風の力が四大精霊から離れ始め、現在、四元魔将がその掌握に乗り出しているでゴザル。そこに五獣の介入というのは迷惑極まりないでゴザル!」
「ホホホ。迷惑と言っても実害は出ているんですかねえ? 四大精霊が握っていた力はあまりに大きいので、四元魔将の皆さんと言えど、その力の全てを握るのは困難だと思うのですが……。四元魔将の皆さんが掌握できない分を五獣の皆さんが扱う分には問題はないのでは? それに……、その話とワタシに何の関係があるのですかねえ?」
詳しく状況を把握している冥王の返答にオカ=メギルは、冥王がこの件に一枚噛んでいることを確信する。
「五獣が封印されている『のぞみの神殿』から貴殿の魔力が感知されたという報告が上がっているでゴザル! しかも、『のぞみの神殿』に結界が張られ魔族の監察官の侵入を拒んでいるという話でゴザル! しかもその結界を張ったのは貴殿の配下であるスケルトンだというでゴザらんか!」
獣人族の本拠である獣王の郷には、魔族の監察官が置かれている。変事に気づいた監察官が『のぞみの神殿』に赴いたところ、赤いバンダナを巻いたスケルトンが現れ、結界を張り、監察官の侵入を阻んだという。そして、そのスケルトンは間違いなく冥王の配下である気配が感じられたという。
「ホホホ。『のぞみの神殿』にて五獣の皆さんと少々お話ししたのは事実ですねえ。そして、このワタシの力を知りつつ立ちはだかろうとした勇敢な巫女の方々がいらっしゃったので、褒美として配下を護衛につけて差し上げたのですが……。彼女が結界を張ったということは……。何か不埒なことを巫女の方々にしようとしたんじゃないですかねえ? 監察官の役目は獣王の郷の管理であって、獣人族の皆さんに無体を働くことではないですからねえ」
「くっ……でゴザル……」
冥王の言葉にオカ=メギルは口籠る。獣王の郷の支配については魔王に対する貢納さえしていれば、他のことについては監察官の好き勝手を黙認していたからだ。行政府にこれを懸念する者はいるが、豊かとは言えない魔族領の統治を優先させているため、獣人族支配が適切になされているかについては後回しにされていたのだ。
一般的な魔族の感覚からは、弱き者をいかに扱おうと好きにすればいいのだが、行政府の官吏たちはそのような考えを採らない。権限と役割を明確にして、強いからといって弱き者に無体を働くことを制限しようとしている。そうする事で無駄に死ぬ魔族を減らし、戦力の増強を狙っている。このように考えるようになったのは、行政府に弱い魔族が多いからだ。このため、獣人族に対する扱いについて言及されることは行政府の長であるオカ=メギルにとっては弱みになるのだった。
「そ、それでも! 冥王殿には獣郷から手を引いて頂きたいでゴザル!」
動揺を何とか立て直したオカ=メギルは冥王に要求する。
「お断りいたします」
「な! 冥王殿は魔王さまの臣下のはず! ならば、魔王さまの宰相たる拙者の要求を無視すべきではないでゴザル!」
「ホホホ。ワタシが魔王サンの臣下? いつからワタシは魔王サンの臣下になったんですかねえ?」
「な……!」
予想外の反応に魔王以外のその場にいる魔族たちが凍りつく。ここにいる冥王は『冥王を僭称する魔族』であり、魔族であるならば魔族の長たる魔王の臣下であると認識していたからだ。
「ホホホ。ワタシが魔王サンの下で戦うのはかつて結ばれた盟約に基づいてのことです。盟約で定められたこと以外でアレコレ言われるのは甚だ心外ですねえ」
「そうだな。冥王が朕に従うのは盟約の範囲においてだ。そして、魔族領ならいざ知らず、属領については盟約の範囲外か。朕としたことが抜かったわ」
魔王と冥王が視線を交わしニヤリに笑う。その様子は互いのことを知り尽くした知己のように見える。
「しかし……!」
「ホホホ。そうそう忘れていました」
オカ=メギルの言葉を遮り、冥王がさも思い出したかのように言葉を発する。
「近々、大賢者が誕生するので、その報告に来たのですよ」
「ほう……」
魔王は興味深そうな様子を見せるが、他の魔族たちには緊張が走る。大賢者の誕生は同時に魔王を弑し得る勇者の誕生を促すからだ。
「どういうことでゴザルかぁぁぁ!」
一連の流れから、大賢者の誕生にも冥王が関与していると直感したオカ=メギルの声が会議室に響き渡ったのだった……。