残酷な描写あり
冥王vs魔王②
スケルトンの背中に生えた二対の腕のそれぞれに武具が握られる。それを見た魔族たちに更なる動揺が走る。
「オジンサの鍬……、オサイリスの鎌……、隕鉄の杖……、真鍮のフォークだと? まさか悪魔公爵……?」
悪魔公爵は地獄の最下層近くに存在する最上位の悪魔で、偽りを司ると云われている。現世に度々現れては遭遇した者を騙し、愚かな欲望の代価を支払わせ、地獄においては死者を炎で焼くと云う。そして、その手には長い柄と3本の歯を備えた『真鍮のフォーク』が握られていると云われている。
「あの腕は悪魔の骨だ……。悪魔公爵を討ち取り、アンデッドにしたと言うのか?」
魔族たちは手の甲に4の数字が描かれている腕を見て慄然とする。悪魔をアンデッドに変えるという話は聞いたことがないのだ。
「他の腕が持っている武具も厄介なものばかり……」
生命を操る『オジンサの鍬』、死と眠りを操る『オサイリスの鎌』、時空魔法を極めた者のみが持つとされる『隕鉄の杖』……。
「ヒョヒョヒョ! 『餓骨杖』に生命力を吸われながらも、それだけ口が動くとは大したものだ! では、これではどうだ?」
四本の腕に握られた武具が妖しく光る。魔族たちは何処からか生えてきた蔦に身体を拘束され、床から伸びてきた溶岩で作られたかのような腕が魔族たちの足をつかむ。急激な眠気と更なるマナの消失を感じる。そして、身体の動きと思考速度が遅くなってしまっている……。
ーー五重に……弱体化を……かけ……られて、い……る?
ーーこれ……では、魔王さ……の救援どころ……では、ない……!
その時だった。
「ぬおおぉぉぉぉ!」
覇王グランバーズが五重にかけられた弱体化を振り切り、スケルトンに斬りかかったのだった。
◇◆◇
数多の黒い羽が上空で対峙する魔王と冥王の間を漂う。その羽は並人ならば、その場にへたり込んでしまいたくなるような不気味な空気を纏っている。
「ホホホ。ちょっとした小技でアクセントですか……」
冥王が呟き、指をバチンと鳴らす。
バン!
この場に漂っていた羽が全て爆発し消え失せる。
「やはり貴様相手には牽制にもならぬか」
「ホホホ。まあ、景気づけには丁度良いんじゃないですかねえ。次はちょっとした大技なんかがいいんじゃないですかぁ?」
冥王はそう言うと左腕に魔力を込め始める。
「深紫の手……。久しぶりに見るな。では……」
魔王も同様に左腕に魔力を込める。黒味がかった緋色の魔力が魔王の右腕を覆う。
「深緋の手……。ワタシの深紫の手は耐えるか同等以上の攻撃をぶつけるしかありませんからねえ」
「貴様の描いた絵が見えてきたな……。昔から貴様は……。まあ、いい」
そう言い捨てると魔王は冥王に飛びかかる。冥王も同様に距離を詰める。
「深紫の手!」
「深緋の手!
両者の左腕と右腕が激突し、紫と緋色の光が雷のように放たれる。これを見た者は、ある者は歓喜に、またある者は恐怖に震えるのだった……。
◇◆◇
アステリア王国王都大神殿
アステリア王国の王都に七柱の真なる王のうち、神王ゼウス、海王ポセイドン、黄金龍アルハザード、妖精王ニヴィアンの四柱を祀る大神殿がある。元は七柱全員を祀っていたのだが、魔王リュツィフェール、邪悪龍ヴァデュグリィ、冥王ハデスについては闇・邪に連なる邪神とされ、それを理由にその当時の神殿を打ち捨て、場所を移し現在に至る。打ち捨てられた旧神殿周辺はすっかり寂れてしまい、スラムとなっている。ゼニスが生まれ育った場所でもある。
移転後、神殿に対しアステリア王家は莫大な寄進を行い、神殿は圧倒的な壮麗さを誇っている。しかし、それは見た目だけの話ではなく、魔族に対する防衛・反撃も可能な術法的な意味がある。
そんな大神殿の奥に神託の巫女と呼ばれる者がいる。現世、幽界、冥府、神界のどこでもない世界の全てを収める大図書館と言われる存在から僅かな真実を感知し、あるいは神々の言葉を聞き、もしくは遥か遠くを見渡し、それを伝える。
そんな彼女には名はなく、姿は白い布で覆われて見ることができない。人が知り得ぬものを知るが故に名も姿もないものでなければならないと言われているからである……。
彼女がいつものように祭壇で祈っている時に『それ』を感じた。
--この強大な力のぶつかり合いは……、魔王と冥王? 何故……。
その時、彼女の頭が真っ白になり、声が聞こえ、頭に情景が映し出される。
『偽りし王 倒れる時 新たなる闇の王顕れる
その時 愚かなる者 二つの道の前に立たされん』
視えたのは戦場。大軍がぶつかり合い、強き者はその力をぶつけ合う。それは過去幾度となく行われてきた大戦と変わらないものだった。
それは鮮明なものではなかったが、凄惨な戦場だということは分かる。
「今感じた力のぶつかり合い……。神託と視えた情景……。新たなる大戦が起こるということ……?」
そう呟いた直後。
世界に赤と紫の火の玉が世界中に落下したのだった……。
「オジンサの鍬……、オサイリスの鎌……、隕鉄の杖……、真鍮のフォークだと? まさか悪魔公爵……?」
悪魔公爵は地獄の最下層近くに存在する最上位の悪魔で、偽りを司ると云われている。現世に度々現れては遭遇した者を騙し、愚かな欲望の代価を支払わせ、地獄においては死者を炎で焼くと云う。そして、その手には長い柄と3本の歯を備えた『真鍮のフォーク』が握られていると云われている。
「あの腕は悪魔の骨だ……。悪魔公爵を討ち取り、アンデッドにしたと言うのか?」
魔族たちは手の甲に4の数字が描かれている腕を見て慄然とする。悪魔をアンデッドに変えるという話は聞いたことがないのだ。
「他の腕が持っている武具も厄介なものばかり……」
生命を操る『オジンサの鍬』、死と眠りを操る『オサイリスの鎌』、時空魔法を極めた者のみが持つとされる『隕鉄の杖』……。
「ヒョヒョヒョ! 『餓骨杖』に生命力を吸われながらも、それだけ口が動くとは大したものだ! では、これではどうだ?」
四本の腕に握られた武具が妖しく光る。魔族たちは何処からか生えてきた蔦に身体を拘束され、床から伸びてきた溶岩で作られたかのような腕が魔族たちの足をつかむ。急激な眠気と更なるマナの消失を感じる。そして、身体の動きと思考速度が遅くなってしまっている……。
ーー五重に……弱体化を……かけ……られて、い……る?
ーーこれ……では、魔王さ……の救援どころ……では、ない……!
その時だった。
「ぬおおぉぉぉぉ!」
覇王グランバーズが五重にかけられた弱体化を振り切り、スケルトンに斬りかかったのだった。
◇◆◇
数多の黒い羽が上空で対峙する魔王と冥王の間を漂う。その羽は並人ならば、その場にへたり込んでしまいたくなるような不気味な空気を纏っている。
「ホホホ。ちょっとした小技でアクセントですか……」
冥王が呟き、指をバチンと鳴らす。
バン!
この場に漂っていた羽が全て爆発し消え失せる。
「やはり貴様相手には牽制にもならぬか」
「ホホホ。まあ、景気づけには丁度良いんじゃないですかねえ。次はちょっとした大技なんかがいいんじゃないですかぁ?」
冥王はそう言うと左腕に魔力を込め始める。
「深紫の手……。久しぶりに見るな。では……」
魔王も同様に左腕に魔力を込める。黒味がかった緋色の魔力が魔王の右腕を覆う。
「深緋の手……。ワタシの深紫の手は耐えるか同等以上の攻撃をぶつけるしかありませんからねえ」
「貴様の描いた絵が見えてきたな……。昔から貴様は……。まあ、いい」
そう言い捨てると魔王は冥王に飛びかかる。冥王も同様に距離を詰める。
「深紫の手!」
「深緋の手!
両者の左腕と右腕が激突し、紫と緋色の光が雷のように放たれる。これを見た者は、ある者は歓喜に、またある者は恐怖に震えるのだった……。
◇◆◇
アステリア王国王都大神殿
アステリア王国の王都に七柱の真なる王のうち、神王ゼウス、海王ポセイドン、黄金龍アルハザード、妖精王ニヴィアンの四柱を祀る大神殿がある。元は七柱全員を祀っていたのだが、魔王リュツィフェール、邪悪龍ヴァデュグリィ、冥王ハデスについては闇・邪に連なる邪神とされ、それを理由にその当時の神殿を打ち捨て、場所を移し現在に至る。打ち捨てられた旧神殿周辺はすっかり寂れてしまい、スラムとなっている。ゼニスが生まれ育った場所でもある。
移転後、神殿に対しアステリア王家は莫大な寄進を行い、神殿は圧倒的な壮麗さを誇っている。しかし、それは見た目だけの話ではなく、魔族に対する防衛・反撃も可能な術法的な意味がある。
そんな大神殿の奥に神託の巫女と呼ばれる者がいる。現世、幽界、冥府、神界のどこでもない世界の全てを収める大図書館と言われる存在から僅かな真実を感知し、あるいは神々の言葉を聞き、もしくは遥か遠くを見渡し、それを伝える。
そんな彼女には名はなく、姿は白い布で覆われて見ることができない。人が知り得ぬものを知るが故に名も姿もないものでなければならないと言われているからである……。
彼女がいつものように祭壇で祈っている時に『それ』を感じた。
--この強大な力のぶつかり合いは……、魔王と冥王? 何故……。
その時、彼女の頭が真っ白になり、声が聞こえ、頭に情景が映し出される。
『偽りし王 倒れる時 新たなる闇の王顕れる
その時 愚かなる者 二つの道の前に立たされん』
視えたのは戦場。大軍がぶつかり合い、強き者はその力をぶつけ合う。それは過去幾度となく行われてきた大戦と変わらないものだった。
それは鮮明なものではなかったが、凄惨な戦場だということは分かる。
「今感じた力のぶつかり合い……。神託と視えた情景……。新たなる大戦が起こるということ……?」
そう呟いた直後。
世界に赤と紫の火の玉が世界中に落下したのだった……。