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作者: 万吉8
残酷な描写あり
廃墟
 冒険者として名を挙げ、『賢者』としての名声を得るようになったゼニスは、仲間たちとともに本拠地であるアステリア王国のあるアステリア大陸から海を隔てたゴンドアド大陸のドワーフ七支族の支配領域にある黒土国シュパッツェブルグの廃墟に呆然と立ち尽くしていた。
 
 黒曜石で作られた堅牢な城は半ば崩れており、気のいいドワーフたちが闊歩していた城下町もその残骸が残るだけだった。数年前に訪れた時に大酒飲みのドワーフたちと語り合った酒場も、終始賑わっていた市場もない。そのことにゼニスは打ちひしがれるのだった。
 
「ゼニス……」
 
 仲間の一人であるアイヴァンが何を言っていいか分からないまま声をかける。永きを生きるハーフエルフのアイヴァンにとっては何度か見た光景であるが、二十を少し超えたに過ぎないゼニスには衝撃的なものだった。ゼニスも王都のスラム街で育ったため、多少の悲劇は経験しているが国ごと無くなってしまうという事態は未経験だったのだ。
 
「アイヴァン……、ナージ。すまない」
 
 ゼニスはアイヴァンともう一人の仲間であるナージに謝る。ゼニスたちは視線を合わせ、広場の跡から王宮跡へ歩を進める。ゼニスたちがドワーフ七支族が一つ黒土国を訪れたのは、アステリア王からの『ドワーフ六支族の国々と周辺4ヶ国の連合軍による黒土シュパッツェボードゥン族への侵攻を止めるよう調停せよ』という依頼によるものだった。アステリア王がゼニスたちに依頼したのは、数年前にゼニスたちがドワーフ七支族の国々を巡り、七支族の国々から声望を得ていたことによる。特に黒土国シュパッツェブルグのガルラ王からは絶大な信頼を得ていたのであった。
 
 こうして依頼を受けたゼニスたちはアステリア大陸の港町、ポルト・ブレイザーから海路、ゴンドアド大陸に向かった。しかし、到着したころには黒土国は壊滅状態で、ドワーフ七支族の支配領域に到達した頃には黒土国シュパッツェブルグは滅亡していたのだった……。
 
 ゼニスたちは王宮に入り、生き残りがいないか探索を始めようとする。
 
 そこに、
 
「ホホホ。滅亡した国に冒険者御一行ですか……。随分と目敏い墓泥棒ですねえ」
 
 一体のスケルトンを引き連れた紫色の法衣の男が姿を現したのだった……。
 
カクヨム版では、『混沌戦争』末期からのスタートでしたが、こちらは開戦のきっかけとなった『無道戦役』直後からのスタートになっています。
このようになったのは、カクヨム版を執筆中に『無道戦役』の設定が作られたからです。
カクヨム版での『無道戦役』の説明が分かりにくかったのではないかとの反省から、カクヨム版にないエピソードから始めています。
楽しんで頂けると幸いです!
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