残酷な描写あり
紫衣の男
「誰だ? 貴様は」
ゼニスは紫色の法衣を着た男を睨む。スケルトンを引き連れていることから、死霊術師であることが窺われる。
「ゼニス、ナージ。その男は!」
何かに気づいたアイヴァンが声を上げる。
「ああ、尋常じゃねぇ空気が漂っているぜ……。話に聞く死霊術師か?」
ナージが身構えながらアイヴァンに答える。死霊術師は、死霊を呼びだす力を得た神官が堕落した者たちを原型とする。神官は死せる魂を呼び寄せ、儀式をもって浄化して冥府へと送る力を修行によって得る。更にこの力を発展させると呼び寄せた死霊を使役することも可能となる。このような力を私利私欲のために用いる者を死霊術師という。強大な死霊術師は呼び寄せた魂を用いてスケルトンなどのアンデッドを作り出し、使役すると云う。
「ヒョヒョヒョ! 愚かなる人間が偉大なる冥王さまを死霊術師呼ばわりとは、ものを知らぬとはあまりに滑稽!」
紫衣の男に付き従うスケルトンが笑い出す。
「ホホホ。ガイコツさん、墓場泥棒如きが物知りな訳ないですよ」
「ヒョヒョヒョ! 私としたことが墓場泥棒にものを知ることを期待するとは……。愚かな真似をしてしまい、申し訳ありません!」
「さて……。墓場泥棒の皆さんにはお引き取り頂ければ嬉しいのですがねえ」
スケルトンとの話を終えた紫衣の男はゼニスたちに向き直る。
「お前が『冥王』だと? 冥王は『真魔大戦』の時に封印されたはず! どうやって封印から抜け出した!」
アイヴァンが紫衣の男に問いただす。
160年前の真魔大戦において、『冥王』を名乗る者が魔王軍に加わった。ただ、冥界を統べる『冥王ハデス』とは別物とされ、『冥王を僭称する魔族』と云われている。しかし、その実力は勇者たちを独力で蹴散らすほどで、神王ゼウスが雷霆の力を勇者に貸し与えたことにより、ようやく封印できたという。その封印の効力は、同時期に封印された邪悪龍ヴァデュグリィと同じ300年と云われていたのだが……。
「ホホホ。そう言えば、ワタシの封印は300年ということになっていたんでしたねえ。しかし……、大賢者アルネ・サクヌッセンムはそんな事を言っていたんですかねえ?」
ーーまさか……。邪悪龍ヴァデュグリィの封印については、大賢者アルネ・サクヌッセンムが黄金龍アルハザードから封印を委託されたと聞いてているが……。冥王については『雷霆により、冥王と冥王軍が灼かれ、封印された』としか聞いていない! 邪悪龍同様、大賢者によって封印されたと思っていたのだが違うのか!
紫衣の男の言葉に160年前の記憶を手繰り寄せたアイヴァンは自身の勘違いに目を見開く。邪悪龍ヴァデュグリィと冥王の封印は、時の狭間に在る大賢者アルネ・サクヌッセンムが行ったとされている。そして、大賢者は冥王の封印を終えてすぐ、勇者に魔王討伐を託し、時の狭間に帰ったという。このため、冥王の封印について大賢者が語ったことは、邪悪龍ヴァデュグリィに比べて遥かに少なかったのだ。このため、『冥王の封印は邪悪龍ヴァデュグリィと同じ300年』という誤解が生じたのだ。
「この男が冥王、もしくは冥王を名乗るに足る力を持つ者であることは間違いないない……。貴様が放つ空気……瘴気だな?」
「ホホホ。よく分かりましたねえ。怨みを遺して冥府へと旅立った者の遺骸から湧き立ったモノをワタシが吸収したのですが……、少々漏れ出ているようですねえ。つい先日まで、戦場でしたから新鮮な瘴気が満ちていましたよ」
ーーくそ! あまりの事に基本的なことを忘れていた! ここは戦場跡の割に清浄過ぎる!
ゼニスの冥王への問いに対する答えを聞きゼニスは毒づく。先日まで戦場であったこの地は、瘴気が湧き、死霊が闊歩する地でもおかしくはないはずだったにも関わらず、それらは無かった。そして、それらが無かったのは、この紫衣を纏う男の仕業だった事にゼニスは衝撃を受ける。
「冥王。この地に留まっていた死霊はどうした?」
ゼニスは頭をよぎった疑問を口にする。瘴気を吸収したとしても、その発生源である怨念を抱いた死霊が見当たらないのだ。
「ホホホ。ごく一部を除いて、丁重に冥府へと送って差し上げましたよ。勇敢に戦った者の魂に相応しい礼儀を払ってねえ」
「『ごく一部を除いて』だと? どういう事だ?」
ーーほう。この男は……。面白い。
冥王を問いただすゼニスの目を見て、冥王はゼニスの定めの星を見い出す。
「ホホホ。それを知りたければ、ワタシに力を示しなさい。ガイコツさん、アナタにはそこの二人のご相手をお願いします。ワタシはそこの男の器を計らせて頂くと致しましょうかぁ!!」
言い終えた冥王はゼニスに向けて黒い炎を放つのであった……。
ゼニスは紫色の法衣を着た男を睨む。スケルトンを引き連れていることから、死霊術師であることが窺われる。
「ゼニス、ナージ。その男は!」
何かに気づいたアイヴァンが声を上げる。
「ああ、尋常じゃねぇ空気が漂っているぜ……。話に聞く死霊術師か?」
ナージが身構えながらアイヴァンに答える。死霊術師は、死霊を呼びだす力を得た神官が堕落した者たちを原型とする。神官は死せる魂を呼び寄せ、儀式をもって浄化して冥府へと送る力を修行によって得る。更にこの力を発展させると呼び寄せた死霊を使役することも可能となる。このような力を私利私欲のために用いる者を死霊術師という。強大な死霊術師は呼び寄せた魂を用いてスケルトンなどのアンデッドを作り出し、使役すると云う。
「ヒョヒョヒョ! 愚かなる人間が偉大なる冥王さまを死霊術師呼ばわりとは、ものを知らぬとはあまりに滑稽!」
紫衣の男に付き従うスケルトンが笑い出す。
「ホホホ。ガイコツさん、墓場泥棒如きが物知りな訳ないですよ」
「ヒョヒョヒョ! 私としたことが墓場泥棒にものを知ることを期待するとは……。愚かな真似をしてしまい、申し訳ありません!」
「さて……。墓場泥棒の皆さんにはお引き取り頂ければ嬉しいのですがねえ」
スケルトンとの話を終えた紫衣の男はゼニスたちに向き直る。
「お前が『冥王』だと? 冥王は『真魔大戦』の時に封印されたはず! どうやって封印から抜け出した!」
アイヴァンが紫衣の男に問いただす。
160年前の真魔大戦において、『冥王』を名乗る者が魔王軍に加わった。ただ、冥界を統べる『冥王ハデス』とは別物とされ、『冥王を僭称する魔族』と云われている。しかし、その実力は勇者たちを独力で蹴散らすほどで、神王ゼウスが雷霆の力を勇者に貸し与えたことにより、ようやく封印できたという。その封印の効力は、同時期に封印された邪悪龍ヴァデュグリィと同じ300年と云われていたのだが……。
「ホホホ。そう言えば、ワタシの封印は300年ということになっていたんでしたねえ。しかし……、大賢者アルネ・サクヌッセンムはそんな事を言っていたんですかねえ?」
ーーまさか……。邪悪龍ヴァデュグリィの封印については、大賢者アルネ・サクヌッセンムが黄金龍アルハザードから封印を委託されたと聞いてているが……。冥王については『雷霆により、冥王と冥王軍が灼かれ、封印された』としか聞いていない! 邪悪龍同様、大賢者によって封印されたと思っていたのだが違うのか!
紫衣の男の言葉に160年前の記憶を手繰り寄せたアイヴァンは自身の勘違いに目を見開く。邪悪龍ヴァデュグリィと冥王の封印は、時の狭間に在る大賢者アルネ・サクヌッセンムが行ったとされている。そして、大賢者は冥王の封印を終えてすぐ、勇者に魔王討伐を託し、時の狭間に帰ったという。このため、冥王の封印について大賢者が語ったことは、邪悪龍ヴァデュグリィに比べて遥かに少なかったのだ。このため、『冥王の封印は邪悪龍ヴァデュグリィと同じ300年』という誤解が生じたのだ。
「この男が冥王、もしくは冥王を名乗るに足る力を持つ者であることは間違いないない……。貴様が放つ空気……瘴気だな?」
「ホホホ。よく分かりましたねえ。怨みを遺して冥府へと旅立った者の遺骸から湧き立ったモノをワタシが吸収したのですが……、少々漏れ出ているようですねえ。つい先日まで、戦場でしたから新鮮な瘴気が満ちていましたよ」
ーーくそ! あまりの事に基本的なことを忘れていた! ここは戦場跡の割に清浄過ぎる!
ゼニスの冥王への問いに対する答えを聞きゼニスは毒づく。先日まで戦場であったこの地は、瘴気が湧き、死霊が闊歩する地でもおかしくはないはずだったにも関わらず、それらは無かった。そして、それらが無かったのは、この紫衣を纏う男の仕業だった事にゼニスは衝撃を受ける。
「冥王。この地に留まっていた死霊はどうした?」
ゼニスは頭をよぎった疑問を口にする。瘴気を吸収したとしても、その発生源である怨念を抱いた死霊が見当たらないのだ。
「ホホホ。ごく一部を除いて、丁重に冥府へと送って差し上げましたよ。勇敢に戦った者の魂に相応しい礼儀を払ってねえ」
「『ごく一部を除いて』だと? どういう事だ?」
ーーほう。この男は……。面白い。
冥王を問いただすゼニスの目を見て、冥王はゼニスの定めの星を見い出す。
「ホホホ。それを知りたければ、ワタシに力を示しなさい。ガイコツさん、アナタにはそこの二人のご相手をお願いします。ワタシはそこの男の器を計らせて頂くと致しましょうかぁ!!」
言い終えた冥王はゼニスに向けて黒い炎を放つのであった……。
冥王の登場です。
冥王は主人公の一人ですので、込み入った設定が存在します。
分かりにくい場合は、ご指摘頂くと助かります。
冥王は主人公の一人ですので、込み入った設定が存在します。
分かりにくい場合は、ご指摘頂くと助かります。