残酷な描写あり
大賢者アルネ・サクヌッセンム
光は消え、ゼニスもまた消えてしまった。
「ゼ……ゼニス……!」
アイヴァンが全身が麻痺している中、声を絞り出す。
「ホホホ。生身のまま冥府へと送って差し上げようと思ったのですが……。邪魔が入ってしまったようですねえ」
「邪魔……だと?」
アイヴァンと同じく麻痺しているナージは冥王からゼニスの安否を確認するための情報を引き出そうとする。冥王の魔法は人知を超えるものであったため、ナージには何も分からない。このため、本人が一言でも発してくれるなら、値千金の情報足り得る。
「ホホホ。時の狭間に在る大賢者アルネ・サクヌッセンムがワタシの魔法の力を利用して、あの男を時の狭間へと引き込んだようですねえ。時の狭間への移動は莫大な力が必要なのですが……、上手く利用されてしまいましたねえ」
--時の狭間?! 何だ? それは! 実在するのか? 大賢者アルネ・サクヌッセンムだと? それに……、何故、こいつは嬉しそうにしている?
ナージは冥王の言葉に混乱する。何かヒントになればと思ったら、知りたいことの多くを語ってくれた。しかし、出てきた言葉が伝説上のものだったため、ナージの理解が追いつかなかったのだ。
「生きてい……るのか?」
冥王の言葉を聞いたアイヴァンが尋ねる。時の狭間は大賢者アルネ・サクヌッセンムが存在する場所であると伝えられているが、サクヌッセンム以外の者が時の狭間に行ったという話を聞いたことがないため、時の狭間に行った人間がどうなるか分からず、そもそも、冥王の魔法で絶命している可能性もあるのだ。
「ホホホ。ワタシの魔法を受けてタダで済む訳がないのですが……。あの大賢者が何とかするでしょうねえ。そろそろ勇者と大賢者が顕れる頃合いですしねえ」
--勇者と大賢者が顕れるだと?! 『大戦』の始まりの予兆!
『大戦』とは魔族と人との世界を巻き込んだ戦いである。それに備えて勇者と大賢者は地上に顕れる。大賢者は時の狭間から大賢者アルネ・サクヌッセンムの啓示を受けることで誕生するのだ。
「ホホホ。素晴らしいですねえ。先の『真魔大戦』では、サクヌッセンム本人が時の狭間から地上に顕れましたが……、此度の大戦ではサクヌッセンムが直接鍛え上げた者が大賢者になるかも知れない……。このような前例にない事態、喜ばしいとは思いませんかぁ!!」
冥王は興奮してアイヴァンたちに語る。
「何故……、喜ぶ」
アイヴァンは冥王に尋ねる。強大な敵が現れることを何故喜ぶのか理解できない。
「ホホホ。ワタシは蟻を踏み潰すような趣味は持ち合わせていないのですよ。戦うのであれば強者と。強ければ強いほどいい……」
「だったら、魔王とでも戦ってろよ……」
冥王の言葉にナージが毒づく。
「それもいいですねえ! 今のアナタ方との戦いでは少し物足りなかったですからねえ。久しぶりにあのウスノロと戦うのも悪くないですねえ!!」
「ヒョヒョヒョ! 魔王如き、冥王様のお手を煩わせずともこの私めが……」
「ホホホ。それじゃあ、ワタシの楽しみが無くなってしまうじゃないですか!」
「ヒョヒョヒョ! これは差し出がましいことを申し上げてしまい、申し訳ございません!」
「ホホホ。妖精郷に赴いて、妖精王サンと戦ってみるのも楽しそうですねえ」
「ヒョヒョヒョ! 邪悪龍が封印されて暇でしょうから、ボケ防止に良いでしょうなぁ!」
いつの間にかロープから抜け出たガイコツが冥王の横で合いの手を打っている。
--冥王は魔王軍じゃねーのかよ! あのスケルトン、いつの間に……!
--妖精郷だと? エルフの村が……!
ナージは魔王軍であるはずの冥王が部下共々、魔王を何とも軽く見ていることに驚き、ガイコツがロープで締め上げられていたことを歯牙にもかけていない様子に自分たちが遊ばれていたことに気づく。
アイヴァンは、妖精郷の通り道になるエルフの村が冥王に蹂躙されることを危惧する。
「ホホホ。あの男が時の狭間から戻って来るのが楽しみですねえ。それまで、魔王サンと妖精王サンにお相手してもらいましょうか……」
「ヒョヒョヒョ! 冥王様のご計画も順調ですからなぁ! 『あの痴れ者』の吠え面を拝む日も近いですなぁ!」
そう言いながら冥王とガイコツは去っていった。
そして……、しばらく後に鉱産資源が魔族領以外で枯渇した。このことから大地の管理を担う妖精王ニヴィアンが封印されたという噂が流れ、更にザドレニア大陸の魔王城上空で魔王と冥王の魔力がぶつかり合う衝撃が世界を覆うのだった……。
◇◆◇
ゼニスが目を開くと、広い部屋が目の前に広がる。どうやら、その部屋の床で寝ていたようだ。床の材質は今まで触れたことのないものだ。滑らかで硬さを感じるのだが、磨いた石材とは違う。爪を立ててみると微かにへこむのを感じる。部屋の中を見回すと、不可思議な形状の椅子と灰色の机。その上には四角い厚みのある板が立てられていて、板の側面は光を放っている。
「目覚めたか」
ゼニスの背後に二つの人影が現れる。振り返ると、白いローブを纏い、同じ色の三角帽子を被った初老の男と、人の姿でありながら人とは思えない体表の召使いの女がいる。
「ここは……? 貴方がたは……?」
貴族であっても無礼な態度をとることを厭わないゼニスだが、この初老の男に命を救われたことを理解し、礼を失さないよう立ち上がり背筋を伸ばす。
「儂はお前たちから、『時の狭間に在る大賢者』と呼ばれるアルネ・サクヌッセンム。この者はシーアール。儂の身の回りの世話を担当している」
シーアールと紹介された召使いの女が不自然にまで整った顔を微動だにざせずに会釈をする。
ーー大賢者アルネ・サクヌッセンム? ここは時の狭間か?
「お前の体は冥王の 魔法でボロボロになっていたが癒しておいた。冥王め……瘴気の力を込めれるだけ込めおって……。お陰でお前を時の狭間に導けたとも言えるのだがな」
「助けて頂きありがとうございます。しかし、何故、俺……、いや私を時の狭間に?」
ゼニスは疑問を口にする。助けてもらったのはありがたいが、自身のことを賢者と言っても各種魔法を小器用に使えるだけに過ぎないと思っている。しかし、大賢者アルネ・サクヌッセンムから啓示を受けたものが当代の大賢者になるという言い伝え、アルネがわざわざ自分を時の狭間に呼び寄せたことに啓示を与える以上のことを自分にするのではないかと言う想像をしている。
「お前の想像通りだ。ゼニス。儂はお前を大賢者にすべく時の狭間に呼び寄せたのだ。この世界を争いの頸木から解放するためにな……」
想像が当たった事にゼニスは全身が震えるのを感じたのだった……。
「ゼ……ゼニス……!」
アイヴァンが全身が麻痺している中、声を絞り出す。
「ホホホ。生身のまま冥府へと送って差し上げようと思ったのですが……。邪魔が入ってしまったようですねえ」
「邪魔……だと?」
アイヴァンと同じく麻痺しているナージは冥王からゼニスの安否を確認するための情報を引き出そうとする。冥王の魔法は人知を超えるものであったため、ナージには何も分からない。このため、本人が一言でも発してくれるなら、値千金の情報足り得る。
「ホホホ。時の狭間に在る大賢者アルネ・サクヌッセンムがワタシの魔法の力を利用して、あの男を時の狭間へと引き込んだようですねえ。時の狭間への移動は莫大な力が必要なのですが……、上手く利用されてしまいましたねえ」
--時の狭間?! 何だ? それは! 実在するのか? 大賢者アルネ・サクヌッセンムだと? それに……、何故、こいつは嬉しそうにしている?
ナージは冥王の言葉に混乱する。何かヒントになればと思ったら、知りたいことの多くを語ってくれた。しかし、出てきた言葉が伝説上のものだったため、ナージの理解が追いつかなかったのだ。
「生きてい……るのか?」
冥王の言葉を聞いたアイヴァンが尋ねる。時の狭間は大賢者アルネ・サクヌッセンムが存在する場所であると伝えられているが、サクヌッセンム以外の者が時の狭間に行ったという話を聞いたことがないため、時の狭間に行った人間がどうなるか分からず、そもそも、冥王の魔法で絶命している可能性もあるのだ。
「ホホホ。ワタシの魔法を受けてタダで済む訳がないのですが……。あの大賢者が何とかするでしょうねえ。そろそろ勇者と大賢者が顕れる頃合いですしねえ」
--勇者と大賢者が顕れるだと?! 『大戦』の始まりの予兆!
『大戦』とは魔族と人との世界を巻き込んだ戦いである。それに備えて勇者と大賢者は地上に顕れる。大賢者は時の狭間から大賢者アルネ・サクヌッセンムの啓示を受けることで誕生するのだ。
「ホホホ。素晴らしいですねえ。先の『真魔大戦』では、サクヌッセンム本人が時の狭間から地上に顕れましたが……、此度の大戦ではサクヌッセンムが直接鍛え上げた者が大賢者になるかも知れない……。このような前例にない事態、喜ばしいとは思いませんかぁ!!」
冥王は興奮してアイヴァンたちに語る。
「何故……、喜ぶ」
アイヴァンは冥王に尋ねる。強大な敵が現れることを何故喜ぶのか理解できない。
「ホホホ。ワタシは蟻を踏み潰すような趣味は持ち合わせていないのですよ。戦うのであれば強者と。強ければ強いほどいい……」
「だったら、魔王とでも戦ってろよ……」
冥王の言葉にナージが毒づく。
「それもいいですねえ! 今のアナタ方との戦いでは少し物足りなかったですからねえ。久しぶりにあのウスノロと戦うのも悪くないですねえ!!」
「ヒョヒョヒョ! 魔王如き、冥王様のお手を煩わせずともこの私めが……」
「ホホホ。それじゃあ、ワタシの楽しみが無くなってしまうじゃないですか!」
「ヒョヒョヒョ! これは差し出がましいことを申し上げてしまい、申し訳ございません!」
「ホホホ。妖精郷に赴いて、妖精王サンと戦ってみるのも楽しそうですねえ」
「ヒョヒョヒョ! 邪悪龍が封印されて暇でしょうから、ボケ防止に良いでしょうなぁ!」
いつの間にかロープから抜け出たガイコツが冥王の横で合いの手を打っている。
--冥王は魔王軍じゃねーのかよ! あのスケルトン、いつの間に……!
--妖精郷だと? エルフの村が……!
ナージは魔王軍であるはずの冥王が部下共々、魔王を何とも軽く見ていることに驚き、ガイコツがロープで締め上げられていたことを歯牙にもかけていない様子に自分たちが遊ばれていたことに気づく。
アイヴァンは、妖精郷の通り道になるエルフの村が冥王に蹂躙されることを危惧する。
「ホホホ。あの男が時の狭間から戻って来るのが楽しみですねえ。それまで、魔王サンと妖精王サンにお相手してもらいましょうか……」
「ヒョヒョヒョ! 冥王様のご計画も順調ですからなぁ! 『あの痴れ者』の吠え面を拝む日も近いですなぁ!」
そう言いながら冥王とガイコツは去っていった。
そして……、しばらく後に鉱産資源が魔族領以外で枯渇した。このことから大地の管理を担う妖精王ニヴィアンが封印されたという噂が流れ、更にザドレニア大陸の魔王城上空で魔王と冥王の魔力がぶつかり合う衝撃が世界を覆うのだった……。
◇◆◇
ゼニスが目を開くと、広い部屋が目の前に広がる。どうやら、その部屋の床で寝ていたようだ。床の材質は今まで触れたことのないものだ。滑らかで硬さを感じるのだが、磨いた石材とは違う。爪を立ててみると微かにへこむのを感じる。部屋の中を見回すと、不可思議な形状の椅子と灰色の机。その上には四角い厚みのある板が立てられていて、板の側面は光を放っている。
「目覚めたか」
ゼニスの背後に二つの人影が現れる。振り返ると、白いローブを纏い、同じ色の三角帽子を被った初老の男と、人の姿でありながら人とは思えない体表の召使いの女がいる。
「ここは……? 貴方がたは……?」
貴族であっても無礼な態度をとることを厭わないゼニスだが、この初老の男に命を救われたことを理解し、礼を失さないよう立ち上がり背筋を伸ばす。
「儂はお前たちから、『時の狭間に在る大賢者』と呼ばれるアルネ・サクヌッセンム。この者はシーアール。儂の身の回りの世話を担当している」
シーアールと紹介された召使いの女が不自然にまで整った顔を微動だにざせずに会釈をする。
ーー大賢者アルネ・サクヌッセンム? ここは時の狭間か?
「お前の体は冥王の 魔法でボロボロになっていたが癒しておいた。冥王め……瘴気の力を込めれるだけ込めおって……。お陰でお前を時の狭間に導けたとも言えるのだがな」
「助けて頂きありがとうございます。しかし、何故、俺……、いや私を時の狭間に?」
ゼニスは疑問を口にする。助けてもらったのはありがたいが、自身のことを賢者と言っても各種魔法を小器用に使えるだけに過ぎないと思っている。しかし、大賢者アルネ・サクヌッセンムから啓示を受けたものが当代の大賢者になるという言い伝え、アルネがわざわざ自分を時の狭間に呼び寄せたことに啓示を与える以上のことを自分にするのではないかと言う想像をしている。
「お前の想像通りだ。ゼニス。儂はお前を大賢者にすべく時の狭間に呼び寄せたのだ。この世界を争いの頸木から解放するためにな……」
想像が当たった事にゼニスは全身が震えるのを感じたのだった……。
冥王さまはバトル物の「強者と戦いたい」系のキャラクターですが、この手のキャラクターに対するツッコミである「お前のとこのボスと戦え」を実行に移すことにしました。
時の狭間でゼニスは大賢者アルネ・サクヌッセンムに会うことになりましたが、第一話に書いている通り、サクヌッセンムは普通の人間ではありません。
これからどうなるか、楽しみにしていただけると嬉しいです。
時の狭間でゼニスは大賢者アルネ・サクヌッセンムに会うことになりましたが、第一話に書いている通り、サクヌッセンムは普通の人間ではありません。
これからどうなるか、楽しみにしていただけると嬉しいです。