残酷な描写あり
冥王との戦い
「くそ! 盾よ!」
ゼニスが突き出した両腕の前に現れた魔力の盾が冥王が放った黒い炎を防ぐ。
「ぐあっ!」
炎の勢いと熱に押されゼニスはよろめく。
「炎よ!」
ゼニスはよろめきながらも炎を放ち、冥王は炎に包まれる。
「やったか?」
しかし……。
炎が治まり、そこからゼニスが炎を放つ前と変わらない姿勢で立つ冥王がいた。
ーー炎が効かない? 炎を無効化できるのか?
「ホホホ。『防御結界』というんですよ。アナタの灯火程度の魔法なら、完全に防ぐことができるのですが……。ご存知ありませんでしたかぁ?!」
言い終えた冥王は一瞬で間合いを詰め、ゼニスの鳩尾の少し上に手を当てる。
「冥衝」
全身が振動するような衝撃を受け、ゼニスは吹き飛ばされる。
「ゼニス!」
アイヴァンとナージがゼニスの救援に入ろうとするが……。
「ヒョヒョヒョ! 貴様等の相手はこの私だ!」
冥王にガイコツと呼ばれていたスケルトンが杖の長さの骨を振るい、ナージとアイヴァンの行く手を阻んだのだった。
◇◆◇
アイヴァンとナージの視線の先にはガイコツと呼ばれるスケルトン、その向こうには冥王と起き上がれないでいるゼニスがいた。
「ヒョヒョヒョ! 二人がかりでその程度か? ものを知らない上にこうまでノロマとは! 情けなくて泣けてくるわ!」
ガイコツは骨を振るいながらアイヴァンとナージを手玉に取る。ナージは背中に背負っっていた鋼鉄製の棒で応戦するが、アイヴァンは本来の武器である弓を使う暇さえなく、腰に差していたナイフで戦っていた。
「おい、おっさん。おかしくねえか?」
ナージは少しずつ体が重くなるのを感じ、アイヴァンに問いかける。
「気づきましたか。あの骨が私たちを掠めるたびに生命力が失われていっているのです」
200歳を超えるアイヴァンのことをナージはおっさんと呼ぶ。アイヴァンとしては面白くはないのだが、そうは言っていられない。
「まさか、これは『餓骨杖』? いや、『餓骨杖』なら既に死んでいてもおかしくない……」
『餓骨杖』とは、冥王軍を預かる『冥魔将ラクシュバリー』の武具である。ラクシュバリーは元は人間であり、死後、冥王によりアンデッドとして復活を遂げたという。人間であったラクシュバリーが死の際に抱いた憎しみと絶望が形となった物が『餓骨杖』と云われている。その怨念がこもった『餓骨杖』は生者の生命力を打ち消すと云われる。
「はぁ? 餓骨杖?! じゃあ、あいつは冥魔将か?」
この間もガイコツの攻撃がナージとアイヴァンに襲い掛かる。攻撃自体はナージとアイヴァンを捉えるに至っていないが、二人の生命力は徐々に失われていく。
「餓骨杖なら私たちは死んでいます。餓骨杖はラクシュバリー共々、雷霆で灼き払われたのですから……。大方、模造品でしょう」
160年前の『真魔大戦』にて時の勇者は神王ゼウスから雷の力を借り受け、その力で冥王を冥王軍ごと焼き払ったと云う。その際に冥魔将ラクシュバリーは存在自体が滅び、餓骨杖もまた消失したとされる。
「けっ。パチモンかよ!」
「模造品と言っても、生命力を失わせるのは餓骨杖と同じです。あのスケルトンの技量もアンデッドとは思えません!」
「あぁ、分かってらあ!」
アイヴァンの注意にナージは気合いを入れ直す。死霊術師が作るアンデッドの動きにはどこか不自然な部分があるのだが、目の前にいるスケルトンにはそれがない。下手をすれば自分たちの動きの方が不自然に感じるほどだ。
「だが! 所詮はスケルトン! パワーがねえ!!」
ナージはガイコツが振るう骨を鉄杖で受け、力で押し込む。ガイコツは押し負け後退りする。アイヴァンはその隙に弓に矢をつがえ、放とうとする。
ドシャァ!
ガイコツは力を抜きナージの鉄杖をいなし、骨で足を払い転ばせたのだった。
シュッ!
そして、ナイフがアイヴァンに放たれる。ガイコツの右腕が2本に増え、増えた腕がナイフを放ったのだった。
ーーな!
アイヴァンは矢を放つのを止めナイフを躱す。
ガイコツは倒れたナージの腹を踏み付け一時的に行動不能にし、アイヴァンに襲い掛かるのだった。
◇◆◇
その様子をゼニスは倒れながらも見ていた。冥王はゼニスが立ち上がるのを待っているかのように動こうとしない。
ーー馬鹿にするな!
全身の骨にヒビが入ったかのような激痛に堪えながら胸に手を当て、回復魔法で回復させ立ち上がる。
「ホホホ。アナタの力はその程度のようですねえ。もしやと思い、お相手して差し上げたのですが、期待はずれでしたねえ」
「炎よ!」
再びゼニスは魔法を放つ。
「ホホホ。馬鹿の一つ覚えというヤツですかねえ」
冥王は呆れたまま微動だにしない。
「氷よ!」
「ホホホ。少しは考えたようですが……」
バァァァン!
ゼニスが放った氷は、先に放った炎に衝突して爆発する。
その隙にゼニスは懐からボーラ--ロープの両の先端に錘が付いた狩猟道具--を取り出し、ガイコツに投げつける。
ボーラはガイコツの足に絡みつき転倒させ、そのまま縛り上げる。ボーラには転倒させた者を縛り上げるよう、ゼニスは予め魔法をかけていたのだ。
「癒しの泉!」
ゼニスは倒れているナージを回復させる。ガイコツはロープを外そうとするが、抜け出せないでいる。
--この時を措いて、この男は倒せん!
ゼニスはアイヴァンと立ち上がったナージに目配せをする。
しかし……。
バン!
アイヴァンとナージの胸元で爆発が起こり、二人は倒れたのだった。
◇◆◇
「ホホホ。まさか、アナタがガイコツさんを無力化するとは思いませんでしたねえ」
冥王が感心したような面持ちでゼニスを見る。
「ホホホ。心配なさらずとも、見た目以上にダメージはないですねえ。邪魔されるのは嫌なので、アナタと同じように麻痺をかけただけですからねえ」
気づかないうちに麻痺をかけられ動けないゼニスの額に冷や汗が流れる。
「そんなアナタに敬意を表し、このワタシの秘術をもって冥府へと旅立っていただくと致しましょうか!」
言い終えた冥王は腕を交差させ詠唱を始める。
「狂……」
冥王の足元に昏い紫色の球体が現れ、『狂』の文字が現れる。
「戯……」
その球体から斜め右側にに同じように球体が現れ、『戯』の文字が現れる。
「乱……」
更に『乱』の文字が現れた球体が少し上に現れる。
「盗…… 淫…… 弄…… 悦…… 惑……」
冥王が一つの言葉を発する度に球体が現れ、その一つ一つに文字が現れ、力場で結ばれ、冥王の前に冥王の背丈と同じ大きさの直径の円を形成する。
そして冥王の体から、この戦場で吸収した瘴気が注がれ、球体と力場から発せられる力が大きくなっていく。
「冥王秘術……」
ここで冥王は一呼吸置き……。
「八大邪!!」
冥王前に現れた八つの球体から昏い紫色の波動が放たれ、ゼニスを飲み込んでいく。そして、いつの間にか開いた冥界への穴が波動とともにゼニスを飲み込もうとする。
『冥王よ。その男、儂が頂く』
誰のものか分からない声が響く。
その声と同時に、ゼニスを飲み込もうとしていた冥界への穴が光輝き、光とともにゼニスの姿は消えていったのだった……。
ゼニスが突き出した両腕の前に現れた魔力の盾が冥王が放った黒い炎を防ぐ。
「ぐあっ!」
炎の勢いと熱に押されゼニスはよろめく。
「炎よ!」
ゼニスはよろめきながらも炎を放ち、冥王は炎に包まれる。
「やったか?」
しかし……。
炎が治まり、そこからゼニスが炎を放つ前と変わらない姿勢で立つ冥王がいた。
ーー炎が効かない? 炎を無効化できるのか?
「ホホホ。『防御結界』というんですよ。アナタの灯火程度の魔法なら、完全に防ぐことができるのですが……。ご存知ありませんでしたかぁ?!」
言い終えた冥王は一瞬で間合いを詰め、ゼニスの鳩尾の少し上に手を当てる。
「冥衝」
全身が振動するような衝撃を受け、ゼニスは吹き飛ばされる。
「ゼニス!」
アイヴァンとナージがゼニスの救援に入ろうとするが……。
「ヒョヒョヒョ! 貴様等の相手はこの私だ!」
冥王にガイコツと呼ばれていたスケルトンが杖の長さの骨を振るい、ナージとアイヴァンの行く手を阻んだのだった。
◇◆◇
アイヴァンとナージの視線の先にはガイコツと呼ばれるスケルトン、その向こうには冥王と起き上がれないでいるゼニスがいた。
「ヒョヒョヒョ! 二人がかりでその程度か? ものを知らない上にこうまでノロマとは! 情けなくて泣けてくるわ!」
ガイコツは骨を振るいながらアイヴァンとナージを手玉に取る。ナージは背中に背負っっていた鋼鉄製の棒で応戦するが、アイヴァンは本来の武器である弓を使う暇さえなく、腰に差していたナイフで戦っていた。
「おい、おっさん。おかしくねえか?」
ナージは少しずつ体が重くなるのを感じ、アイヴァンに問いかける。
「気づきましたか。あの骨が私たちを掠めるたびに生命力が失われていっているのです」
200歳を超えるアイヴァンのことをナージはおっさんと呼ぶ。アイヴァンとしては面白くはないのだが、そうは言っていられない。
「まさか、これは『餓骨杖』? いや、『餓骨杖』なら既に死んでいてもおかしくない……」
『餓骨杖』とは、冥王軍を預かる『冥魔将ラクシュバリー』の武具である。ラクシュバリーは元は人間であり、死後、冥王によりアンデッドとして復活を遂げたという。人間であったラクシュバリーが死の際に抱いた憎しみと絶望が形となった物が『餓骨杖』と云われている。その怨念がこもった『餓骨杖』は生者の生命力を打ち消すと云われる。
「はぁ? 餓骨杖?! じゃあ、あいつは冥魔将か?」
この間もガイコツの攻撃がナージとアイヴァンに襲い掛かる。攻撃自体はナージとアイヴァンを捉えるに至っていないが、二人の生命力は徐々に失われていく。
「餓骨杖なら私たちは死んでいます。餓骨杖はラクシュバリー共々、雷霆で灼き払われたのですから……。大方、模造品でしょう」
160年前の『真魔大戦』にて時の勇者は神王ゼウスから雷の力を借り受け、その力で冥王を冥王軍ごと焼き払ったと云う。その際に冥魔将ラクシュバリーは存在自体が滅び、餓骨杖もまた消失したとされる。
「けっ。パチモンかよ!」
「模造品と言っても、生命力を失わせるのは餓骨杖と同じです。あのスケルトンの技量もアンデッドとは思えません!」
「あぁ、分かってらあ!」
アイヴァンの注意にナージは気合いを入れ直す。死霊術師が作るアンデッドの動きにはどこか不自然な部分があるのだが、目の前にいるスケルトンにはそれがない。下手をすれば自分たちの動きの方が不自然に感じるほどだ。
「だが! 所詮はスケルトン! パワーがねえ!!」
ナージはガイコツが振るう骨を鉄杖で受け、力で押し込む。ガイコツは押し負け後退りする。アイヴァンはその隙に弓に矢をつがえ、放とうとする。
ドシャァ!
ガイコツは力を抜きナージの鉄杖をいなし、骨で足を払い転ばせたのだった。
シュッ!
そして、ナイフがアイヴァンに放たれる。ガイコツの右腕が2本に増え、増えた腕がナイフを放ったのだった。
ーーな!
アイヴァンは矢を放つのを止めナイフを躱す。
ガイコツは倒れたナージの腹を踏み付け一時的に行動不能にし、アイヴァンに襲い掛かるのだった。
◇◆◇
その様子をゼニスは倒れながらも見ていた。冥王はゼニスが立ち上がるのを待っているかのように動こうとしない。
ーー馬鹿にするな!
全身の骨にヒビが入ったかのような激痛に堪えながら胸に手を当て、回復魔法で回復させ立ち上がる。
「ホホホ。アナタの力はその程度のようですねえ。もしやと思い、お相手して差し上げたのですが、期待はずれでしたねえ」
「炎よ!」
再びゼニスは魔法を放つ。
「ホホホ。馬鹿の一つ覚えというヤツですかねえ」
冥王は呆れたまま微動だにしない。
「氷よ!」
「ホホホ。少しは考えたようですが……」
バァァァン!
ゼニスが放った氷は、先に放った炎に衝突して爆発する。
その隙にゼニスは懐からボーラ--ロープの両の先端に錘が付いた狩猟道具--を取り出し、ガイコツに投げつける。
ボーラはガイコツの足に絡みつき転倒させ、そのまま縛り上げる。ボーラには転倒させた者を縛り上げるよう、ゼニスは予め魔法をかけていたのだ。
「癒しの泉!」
ゼニスは倒れているナージを回復させる。ガイコツはロープを外そうとするが、抜け出せないでいる。
--この時を措いて、この男は倒せん!
ゼニスはアイヴァンと立ち上がったナージに目配せをする。
しかし……。
バン!
アイヴァンとナージの胸元で爆発が起こり、二人は倒れたのだった。
◇◆◇
「ホホホ。まさか、アナタがガイコツさんを無力化するとは思いませんでしたねえ」
冥王が感心したような面持ちでゼニスを見る。
「ホホホ。心配なさらずとも、見た目以上にダメージはないですねえ。邪魔されるのは嫌なので、アナタと同じように麻痺をかけただけですからねえ」
気づかないうちに麻痺をかけられ動けないゼニスの額に冷や汗が流れる。
「そんなアナタに敬意を表し、このワタシの秘術をもって冥府へと旅立っていただくと致しましょうか!」
言い終えた冥王は腕を交差させ詠唱を始める。
「狂……」
冥王の足元に昏い紫色の球体が現れ、『狂』の文字が現れる。
「戯……」
その球体から斜め右側にに同じように球体が現れ、『戯』の文字が現れる。
「乱……」
更に『乱』の文字が現れた球体が少し上に現れる。
「盗…… 淫…… 弄…… 悦…… 惑……」
冥王が一つの言葉を発する度に球体が現れ、その一つ一つに文字が現れ、力場で結ばれ、冥王の前に冥王の背丈と同じ大きさの直径の円を形成する。
そして冥王の体から、この戦場で吸収した瘴気が注がれ、球体と力場から発せられる力が大きくなっていく。
「冥王秘術……」
ここで冥王は一呼吸置き……。
「八大邪!!」
冥王前に現れた八つの球体から昏い紫色の波動が放たれ、ゼニスを飲み込んでいく。そして、いつの間にか開いた冥界への穴が波動とともにゼニスを飲み込もうとする。
『冥王よ。その男、儂が頂く』
誰のものか分からない声が響く。
その声と同時に、ゼニスを飲み込もうとしていた冥界への穴が光輝き、光とともにゼニスの姿は消えていったのだった……。
冥王との初戦闘です。
舐めプしていた隙をついて、部下のガイコツを行動不能にしましたが、地力が違います。
冥府へと落ちたのではなく、光とともに消えたゼニスはどこへ……?
次回も楽しみにして頂けると嬉しいです?
舐めプしていた隙をついて、部下のガイコツを行動不能にしましたが、地力が違います。
冥府へと落ちたのではなく、光とともに消えたゼニスはどこへ……?
次回も楽しみにして頂けると嬉しいです?