残酷な描写あり
妖精王ニヴィアン
湖畔の城ラコス・カスタルムの城門を潜ったアイヴァンは謁見の間に通される。
玉座に水色のドレスを身に纏い、緑色の髪、大理石のように色白でありながら、角度によっては樹皮のように見える顔の女性が座っている。横には水色のローブに身を包む女性、赤い服の男、緑色の簡素な服を纏う女性、土色の鎧を着た男が侍る。先に進んでいたサイラムとサリオンは玉座の下、左右に分かれ、立ち止まって、振り返りアイヴァンに止まるように目で合図する。
ーー“泉の貴婦人“妖精王ニヴィアンと四大精霊!
四大精霊は持ち回りで宰相としてニヴィアンの補佐を担う。今は水色のローブに身を包む水の精霊ウンディーネがその任に当たっている。
アイヴァンは自分が本当に『七柱の真なる王』の一柱である妖精王ニヴィアンに召し出されたことを改めて実感し、慌てて跪く。
「面を上げることを許す」
ウンディーネが厳かにアイヴァンに宣う。
「エルミアの子アイヴァン。”泉の貴婦人“妖精王ニヴィアン様のご下問にに答えよ。直答を許す」
「は」
ウンディーネの言葉にアイヴァンは襟を正しニヴィアンの問いを待つ。
「黒土国において、其方が冥王に遭遇した時の事を話しなさい」
◇◆◇
「では、冥王が放った『八大邪』の力を利用して、大賢者アルネ・サクヌッセンムが仲間の一人を大賢者とすべく『時の狭間』に誘った。そして、私、そして魔王と戦ってみるのもいいと冥王が言った……。ということですね」
「はい。しかし、冥王が言ったことなので俄には信じられず……。そもそも、あの者が冥王とは……」
「貴方達が言う冥王の封印は60年も前に効力を失っている……。故に其方が遭遇したのは冥王で間違いなく、彼の者のそう言う以上、其方の仲間が今代の大賢者となるという話も間違いないでしょう」
「60年前? では今まで冥王は何を?」
「自身の力を増すことと、冥王軍の再建です。かつての右腕、冥魔将ラクシュバリーの後継となるスケルトンは既にいるようですね」
「はい。失われたとされる冥魔将の武具『餓骨杖』は不完全ながら復元されているようです」
ここでニヴィアンは少し思索に入る。
「………。冥王が私と戦うために妖精郷に来ると言うのであれば、通り道となるエルフの森が危ないですね。ならば、その際にはエルフの村に降り立ち、私が冥王の相手をしましょう」
ーー!!
その場にいた全員が固まる。
「ニヴィアン様! 御身自ら対処せずとも我らが!」
ウンディーネが声を上げる。
「彼の者が私に用があるならば、私が出向くのが筋でしょう」
「しかし!」
ニヴィアンが左手を伸ばすと一振りの剣が顕れる。大きな力が秘められている事が伝わってくる。
「王たる者が前に出ずして何が王でしょう。我が神器『カルブルヌス』がこの手にある限り、私が冥王に遅れを取ったとしても、私が斃れることはあり得ません」
ーー『カルブルヌス』!! 真なる王たちが持つ最強の武具の一つ!
アイヴァンはカルブルヌスの威容に目を見張る。
神器とは、『七柱の真なる王』たちが持つ最強の武具である。
神王ゼウスが持つ“雷霆”ケラウノス、海王ポセイドンの“三つ叉の矛”トライデント、魔王リュツィフェールの“災厄を呼ぶもの”レーヴァテイン、黄金龍アルハザードの“輝けるもの”火輪、邪悪龍ヴァデュグリィの“冴え渡るもの”氷輪、冥王ハデスの“二叉の槍”バイデント……。そして、妖精王ニヴィアンの“硬く切り裂くもの"カルブルヌス。
カルブルヌスは武器としての剣よりも、その鞘に本領があり、その所持者は世界を破壊する程の力を受けても死ぬことはなく、どんな傷でも一日もあれば癒してしまう。この鞘の力を知る者はニヴィアン本人と他の真なる王たち、そして四大精霊に限られる。
ニヴィアンの言葉を受け、四大精霊とサイラムとサリオンは言葉を呑む。ニヴィアンがここまで言う以上、覆らないことが分かり切っており、更にニヴィアンが敗北するとは思ってもいないからだ。
「エルミアの子アイヴァンよ。三歩前に進む事を許す」
唐突にニヴィアン言われ、アイヴァンは慌てて三歩前に出る。
「其方の母エルミアに面影がありますね。星の定めを背負った目の輝きも同じ……」
ニヴィアンはアイヴァンの目を見て呟く。
「あの子がエルフの村を出て成した事の意味……。其方が知る日も来るでしょう。そして、其方が生まれた事もあの子が外に出た意味の一つとなるよう願い、私は其方にこれを贈ろう」
アイヴァンの目の前に弓と矢筒が現れる。
「古き人の王より献上されたその銘はラヴァナストロン。永き間、妖精郷のマナの中にあり、力を得たその弓矢。必ずや其方の力となろう。新たなる大賢者と共に世界に平安をもたらす事を私は願います」
アイヴァンは平伏し、ラヴァナストロンを受け取るのだった。
◇◆◇
アイヴァンがサイラムとサリオンと共に城から出た後、ニヴィアンは200年より少し前のアイヴァンの母エルミアがいた日々に想いを馳せる。
ーーサイラムとサリオンがいくら目を光らせても、ここに忍び込んできたものでした。そんなあの子には、ここは狭すぎた……。
『ニヴィアン様。村の者たちの不信を招きます。私たちにお構いなきようお願い致します』
アイヴァンを宿し旅から戻ってきたエルミアに会いに行った折に、ニヴィアンがエルミアから最後に聞いた言葉はいつもニヴィアンの胸を締め付ける。
ふと、面前の空気が動いたような気がした。
過ぎ去った日々に懐かしさと後悔を感じていたところに、エルミアがニヴィアンの前を駆け抜け、笑いながら振り返る姿を見たように感じたのだった……。
◇◆◇
アイヴァンはエルフの村の者たちに別れを告げ、ナージと落ち合う約束をしたアステリア王国の王都に向かう。
誰もいない森の中、アイヴァンは何かとすれ違ったように感じたが誰もいないため、そのまま行くことにした。
その『何か』はエルフの村を通り妖精郷に入る。湖畔の城ラコス・カスタルムの前で兜を脱ぎ、その『何か』は姿を顕す。
「止まれ」
サイラムとサリオンがその『何か』を呼び止める。
ーー冥王!! どうやってここまで来た? 何故、冥王がここに至るまで気付かなかった?
サイラムとサリオンが『何か』の正体を悟り身構える。
「大事な話があるので、妖精王サンに取り次いで頂けると嬉しいですねえ」
冥王は丁度良いところに来たと言わんばかりにサイラムとサリオンに話しかける。
それからしばらく後。
各地の鉱山で産出されていた鉄・銅を始めとする鉱産資源が魔族領以外で枯渇し、妖精郷の入り口にあったエルフの村を始めとする各地のエルフの居住地が地上から消え去った。
魔族たちは『冥王により妖精王ニヴィアンが封印された』と嘯くのだった
玉座に水色のドレスを身に纏い、緑色の髪、大理石のように色白でありながら、角度によっては樹皮のように見える顔の女性が座っている。横には水色のローブに身を包む女性、赤い服の男、緑色の簡素な服を纏う女性、土色の鎧を着た男が侍る。先に進んでいたサイラムとサリオンは玉座の下、左右に分かれ、立ち止まって、振り返りアイヴァンに止まるように目で合図する。
ーー“泉の貴婦人“妖精王ニヴィアンと四大精霊!
四大精霊は持ち回りで宰相としてニヴィアンの補佐を担う。今は水色のローブに身を包む水の精霊ウンディーネがその任に当たっている。
アイヴァンは自分が本当に『七柱の真なる王』の一柱である妖精王ニヴィアンに召し出されたことを改めて実感し、慌てて跪く。
「面を上げることを許す」
ウンディーネが厳かにアイヴァンに宣う。
「エルミアの子アイヴァン。”泉の貴婦人“妖精王ニヴィアン様のご下問にに答えよ。直答を許す」
「は」
ウンディーネの言葉にアイヴァンは襟を正しニヴィアンの問いを待つ。
「黒土国において、其方が冥王に遭遇した時の事を話しなさい」
◇◆◇
「では、冥王が放った『八大邪』の力を利用して、大賢者アルネ・サクヌッセンムが仲間の一人を大賢者とすべく『時の狭間』に誘った。そして、私、そして魔王と戦ってみるのもいいと冥王が言った……。ということですね」
「はい。しかし、冥王が言ったことなので俄には信じられず……。そもそも、あの者が冥王とは……」
「貴方達が言う冥王の封印は60年も前に効力を失っている……。故に其方が遭遇したのは冥王で間違いなく、彼の者のそう言う以上、其方の仲間が今代の大賢者となるという話も間違いないでしょう」
「60年前? では今まで冥王は何を?」
「自身の力を増すことと、冥王軍の再建です。かつての右腕、冥魔将ラクシュバリーの後継となるスケルトンは既にいるようですね」
「はい。失われたとされる冥魔将の武具『餓骨杖』は不完全ながら復元されているようです」
ここでニヴィアンは少し思索に入る。
「………。冥王が私と戦うために妖精郷に来ると言うのであれば、通り道となるエルフの森が危ないですね。ならば、その際にはエルフの村に降り立ち、私が冥王の相手をしましょう」
ーー!!
その場にいた全員が固まる。
「ニヴィアン様! 御身自ら対処せずとも我らが!」
ウンディーネが声を上げる。
「彼の者が私に用があるならば、私が出向くのが筋でしょう」
「しかし!」
ニヴィアンが左手を伸ばすと一振りの剣が顕れる。大きな力が秘められている事が伝わってくる。
「王たる者が前に出ずして何が王でしょう。我が神器『カルブルヌス』がこの手にある限り、私が冥王に遅れを取ったとしても、私が斃れることはあり得ません」
ーー『カルブルヌス』!! 真なる王たちが持つ最強の武具の一つ!
アイヴァンはカルブルヌスの威容に目を見張る。
神器とは、『七柱の真なる王』たちが持つ最強の武具である。
神王ゼウスが持つ“雷霆”ケラウノス、海王ポセイドンの“三つ叉の矛”トライデント、魔王リュツィフェールの“災厄を呼ぶもの”レーヴァテイン、黄金龍アルハザードの“輝けるもの”火輪、邪悪龍ヴァデュグリィの“冴え渡るもの”氷輪、冥王ハデスの“二叉の槍”バイデント……。そして、妖精王ニヴィアンの“硬く切り裂くもの"カルブルヌス。
カルブルヌスは武器としての剣よりも、その鞘に本領があり、その所持者は世界を破壊する程の力を受けても死ぬことはなく、どんな傷でも一日もあれば癒してしまう。この鞘の力を知る者はニヴィアン本人と他の真なる王たち、そして四大精霊に限られる。
ニヴィアンの言葉を受け、四大精霊とサイラムとサリオンは言葉を呑む。ニヴィアンがここまで言う以上、覆らないことが分かり切っており、更にニヴィアンが敗北するとは思ってもいないからだ。
「エルミアの子アイヴァンよ。三歩前に進む事を許す」
唐突にニヴィアン言われ、アイヴァンは慌てて三歩前に出る。
「其方の母エルミアに面影がありますね。星の定めを背負った目の輝きも同じ……」
ニヴィアンはアイヴァンの目を見て呟く。
「あの子がエルフの村を出て成した事の意味……。其方が知る日も来るでしょう。そして、其方が生まれた事もあの子が外に出た意味の一つとなるよう願い、私は其方にこれを贈ろう」
アイヴァンの目の前に弓と矢筒が現れる。
「古き人の王より献上されたその銘はラヴァナストロン。永き間、妖精郷のマナの中にあり、力を得たその弓矢。必ずや其方の力となろう。新たなる大賢者と共に世界に平安をもたらす事を私は願います」
アイヴァンは平伏し、ラヴァナストロンを受け取るのだった。
◇◆◇
アイヴァンがサイラムとサリオンと共に城から出た後、ニヴィアンは200年より少し前のアイヴァンの母エルミアがいた日々に想いを馳せる。
ーーサイラムとサリオンがいくら目を光らせても、ここに忍び込んできたものでした。そんなあの子には、ここは狭すぎた……。
『ニヴィアン様。村の者たちの不信を招きます。私たちにお構いなきようお願い致します』
アイヴァンを宿し旅から戻ってきたエルミアに会いに行った折に、ニヴィアンがエルミアから最後に聞いた言葉はいつもニヴィアンの胸を締め付ける。
ふと、面前の空気が動いたような気がした。
過ぎ去った日々に懐かしさと後悔を感じていたところに、エルミアがニヴィアンの前を駆け抜け、笑いながら振り返る姿を見たように感じたのだった……。
◇◆◇
アイヴァンはエルフの村の者たちに別れを告げ、ナージと落ち合う約束をしたアステリア王国の王都に向かう。
誰もいない森の中、アイヴァンは何かとすれ違ったように感じたが誰もいないため、そのまま行くことにした。
その『何か』はエルフの村を通り妖精郷に入る。湖畔の城ラコス・カスタルムの前で兜を脱ぎ、その『何か』は姿を顕す。
「止まれ」
サイラムとサリオンがその『何か』を呼び止める。
ーー冥王!! どうやってここまで来た? 何故、冥王がここに至るまで気付かなかった?
サイラムとサリオンが『何か』の正体を悟り身構える。
「大事な話があるので、妖精王サンに取り次いで頂けると嬉しいですねえ」
冥王は丁度良いところに来たと言わんばかりにサイラムとサリオンに話しかける。
それからしばらく後。
各地の鉱山で産出されていた鉄・銅を始めとする鉱産資源が魔族領以外で枯渇し、妖精郷の入り口にあったエルフの村を始めとする各地のエルフの居住地が地上から消え去った。
魔族たちは『冥王により妖精王ニヴィアンが封印された』と嘯くのだった
アイヴァンの母親については慌てて設定を作ったため、どうなるかと思いましたが、ニヴィアンの掘り下げにもなり良かったと思います。
ニヴィアンの発言はフラグそのものですが、実際はどうだったかについては、カクヨム版の『三王合意』の辺りを読んで頂ければと思います。
次回も楽しみにして頂ければ幸いです。
ニヴィアンの発言はフラグそのものですが、実際はどうだったかについては、カクヨム版の『三王合意』の辺りを読んで頂ければと思います。
次回も楽しみにして頂ければ幸いです。