残酷な描写あり
2-3 日常は目まぐるしく
放課後になり、教室を出る。
弥生はバイトがあるからと今日は真っ先に帰ってしまった。
玲もきっと部活だろう。だから一人で帰ろうと歩いていると、校門で見覚えのある人物が立っていた。
「あ、この前の手帳の人!」
少年は私を見るなり声を上げて、ぱぁっと嬉しそうに笑う。
その様子は可愛いには可愛いけれど、ついどうしてここにいるのだろうと疑問が湧いた。
暗緑色の髪が似合う、ここからかなり離れた男子中の制服を着た男の子。
そう、生徒手帳を拾ってくれた少年だ。
「この前の……あ、手帳ありがとう。羽根混じってたけど綺麗で……あれ?」
昨日の羽根を思い出して手帳を広げる。
そこに入っていたはずの綺麗な羽根は紫に汚く染まっていた。
「あぁ……これはすごいですね。大丈夫ですよ、交換しますね」
男の子は一切表情を崩す事なく、羽根を回収し新たな羽根を取り出す。
一体何枚持ってるんだろう。
寧ろ、これは一体??
「厄除けの羽根なのでそんなものですよ。僕、見えるんです」
厄除けの羽根。
にこりと笑っているが、この子も随分と謎が多い少年だ。
「あら、夏樹もう来てたの……って、知り合い?」
背後から、本日何度も聞いた声がかかった。
また、水鏡波音だ。
「……先日、買い物中に落とした生徒手帳拾ってくれて」
「へぇ、そうなの。……それで、今日は早かったじゃない」
真顔で頷く波音は少年に向き直り、腕を組み高圧的になる。
当然見た目では波音の方が年上だが、波音はどの相手でもこの態度で居るのだろうか。
特に嫌とは思わないが、少し怖い。
「早く来ないと波音さん怒るでしょ」
「当たり前じゃない。今から行くんだから早くしときたいでしょ」
「はいはい。それじゃお姉さん、また」
「気をつけて帰るのよ。……まあ、それがあるなら軽く安心しておいていいわよ」
そう言い残すと波音と少年は早足に何処かへ行ってしまった。
それ、は一体何を指しているんだろう。もしかしてこの羽根だろうか?
「悪霊退散、かな」
「何が退散なの?」
ぼそっと呟いた言葉を拾うように後ろからまた、声がかかる。
「あ、兄さん」
今度は玲だ。
なんか、いろんな人に会うな……。
「日和ちゃんは今から帰るところ?」
「うん。兄さんは?」
「僕は今から部活。ちょうど日和ちゃんの背中が見えたから声かけただけだよ」
にこりと微笑む玲の後方、遠くから男子生徒の「おーい」と呼ぶ声が聞こえた。
玲は振り返り、腕を振ると「気をつけて帰ってね」と言ってそちらに走っていってしまった。
どうやら部活動の生徒らしい。
日和はその姿を見送り、校門を出た。
「……?」
門を超えて道路に足を踏み入れた瞬間、ふわりと変な風を感じた。
まるで今まで居た場所が全く別の場所に変わったような、不思議な感覚。
周りを見渡し、日和はそれが気のせいではない事を確信した。
下校する生徒、先ほどまで校庭や運動場で部活動をしていた生徒、校門の外を歩く歩行者達、その全てがその場から消え失せていいる。
それはまるで元々誰も居なかったかのように。
よく知った景色なのに、目に移る姿は全く別の世界に変わった。
「驚かせたか?すまない。一応こちらの主に確認を取ったら……この方法が一番安全だから、と」
突然、目の前に竜牙が現れた。
腕を組み、昼間のように少し難しい顔をしている。
「主……さん。置野君、ではなく?」
「ああ、そうだな……。私達術士を雇っている、世話人。統率者とも呼ばれている」
「統率者……お偉い方なんですね。ところで、これは?」
日和は周囲を見渡す。
周りには相変わらず人っ子一人いない。
「これは結界だ。術士が使うもので……一般の人間、力を持っていても式神を持っている人間以外は中の者を視認できない」
「そうなんですか。不思議……。私がその中に入っても、大丈夫なんですか?」
「その方が何かあれば即対応できる。家まで送るが、いいか?」
眉ひとつ動かさず喋る竜牙はなんというか、最初出会った頃と何かが違う。
しかし何が違うのか分からないまま、日和はその提案を受け入れた。
「はい、じゃあ……お願いします」
竜牙は腕を袖の中に入れ、無言で前を歩く。
185cm程の大きな体、がっしりとした背中がとても印象強い。
膝丈までに伸びた長い髪はゆらゆらと揺れて、綺麗な銀色がきらきらと輝いてとても美しい。
その背中を日和は追う。
「――すまない。家の場所を聞いていなかったな。こっちで合ってるか?」
「はい、大丈夫です。その……ありがとうございます」
ぴたりと足を止めた竜牙に日和は駆け寄って隣へ並ぶ。
なんでもない帰り道。
人が一人増えただけの、帰り道。
それなのになんとなく、心臓がいつもより跳ねたように鳴るのを不思議に思いながら、今日はその帰路を辿る。
結局何か会話をする、ことはなく無事に家へと送り届けられた。
「あの、ありがとうございました」
家を背後に、日和は深々とお辞儀する。
竜牙は真っ直ぐに日和の顔を見ているが、変わらず表情は崩さない。
「毎日こうやって送る事になる。多少は過保護だと感じるかもしれないが、問題ないか?」
「そうなんですか……私は大丈夫です」
「じゃあ周りにも伝えておく。すまないが、これからよろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
互いに頭を下げて日和は先に家の中へ入った。
自分の部屋に帰り生徒手帳を開くと、羽根は一切染まっておらず本当に何も起こらなかったらしい。
しかし式神に結界、お守り、となると益々自分が珍しく冗談で放った「悪霊退散」が中々現実のものではないか、と感じてしまう。
そういう類いに鳥の羽根、というのは些か意外性があるが、あの染みやこの羽根の輝きを見ると結構信憑性が高いのではないだろうか。
「……不思議な羽根」
羽根は、掲げるととても美しく感じられた。
「日和ちゃん」
廊下の方から、名前を呼ばれた気がする。
部屋から顔を出すと、下の階から祖父が微笑みながらこちらを見ていることに気付いた。
「あ、おじいちゃん。ただいま」
「おかえり、日和ちゃん。今日は珍しく日和ちゃんが先だったんだね」
にこにこと朗らかな表情をしていた祖父は、買い物袋を手に提げていた。
どうやら外出ついでに買い物に出ていたらしい。
「うん、でも今帰って来た所だから。……おじいちゃん、手伝うよ」
弥生はバイトがあるからと今日は真っ先に帰ってしまった。
玲もきっと部活だろう。だから一人で帰ろうと歩いていると、校門で見覚えのある人物が立っていた。
「あ、この前の手帳の人!」
少年は私を見るなり声を上げて、ぱぁっと嬉しそうに笑う。
その様子は可愛いには可愛いけれど、ついどうしてここにいるのだろうと疑問が湧いた。
暗緑色の髪が似合う、ここからかなり離れた男子中の制服を着た男の子。
そう、生徒手帳を拾ってくれた少年だ。
「この前の……あ、手帳ありがとう。羽根混じってたけど綺麗で……あれ?」
昨日の羽根を思い出して手帳を広げる。
そこに入っていたはずの綺麗な羽根は紫に汚く染まっていた。
「あぁ……これはすごいですね。大丈夫ですよ、交換しますね」
男の子は一切表情を崩す事なく、羽根を回収し新たな羽根を取り出す。
一体何枚持ってるんだろう。
寧ろ、これは一体??
「厄除けの羽根なのでそんなものですよ。僕、見えるんです」
厄除けの羽根。
にこりと笑っているが、この子も随分と謎が多い少年だ。
「あら、夏樹もう来てたの……って、知り合い?」
背後から、本日何度も聞いた声がかかった。
また、水鏡波音だ。
「……先日、買い物中に落とした生徒手帳拾ってくれて」
「へぇ、そうなの。……それで、今日は早かったじゃない」
真顔で頷く波音は少年に向き直り、腕を組み高圧的になる。
当然見た目では波音の方が年上だが、波音はどの相手でもこの態度で居るのだろうか。
特に嫌とは思わないが、少し怖い。
「早く来ないと波音さん怒るでしょ」
「当たり前じゃない。今から行くんだから早くしときたいでしょ」
「はいはい。それじゃお姉さん、また」
「気をつけて帰るのよ。……まあ、それがあるなら軽く安心しておいていいわよ」
そう言い残すと波音と少年は早足に何処かへ行ってしまった。
それ、は一体何を指しているんだろう。もしかしてこの羽根だろうか?
「悪霊退散、かな」
「何が退散なの?」
ぼそっと呟いた言葉を拾うように後ろからまた、声がかかる。
「あ、兄さん」
今度は玲だ。
なんか、いろんな人に会うな……。
「日和ちゃんは今から帰るところ?」
「うん。兄さんは?」
「僕は今から部活。ちょうど日和ちゃんの背中が見えたから声かけただけだよ」
にこりと微笑む玲の後方、遠くから男子生徒の「おーい」と呼ぶ声が聞こえた。
玲は振り返り、腕を振ると「気をつけて帰ってね」と言ってそちらに走っていってしまった。
どうやら部活動の生徒らしい。
日和はその姿を見送り、校門を出た。
「……?」
門を超えて道路に足を踏み入れた瞬間、ふわりと変な風を感じた。
まるで今まで居た場所が全く別の場所に変わったような、不思議な感覚。
周りを見渡し、日和はそれが気のせいではない事を確信した。
下校する生徒、先ほどまで校庭や運動場で部活動をしていた生徒、校門の外を歩く歩行者達、その全てがその場から消え失せていいる。
それはまるで元々誰も居なかったかのように。
よく知った景色なのに、目に移る姿は全く別の世界に変わった。
「驚かせたか?すまない。一応こちらの主に確認を取ったら……この方法が一番安全だから、と」
突然、目の前に竜牙が現れた。
腕を組み、昼間のように少し難しい顔をしている。
「主……さん。置野君、ではなく?」
「ああ、そうだな……。私達術士を雇っている、世話人。統率者とも呼ばれている」
「統率者……お偉い方なんですね。ところで、これは?」
日和は周囲を見渡す。
周りには相変わらず人っ子一人いない。
「これは結界だ。術士が使うもので……一般の人間、力を持っていても式神を持っている人間以外は中の者を視認できない」
「そうなんですか。不思議……。私がその中に入っても、大丈夫なんですか?」
「その方が何かあれば即対応できる。家まで送るが、いいか?」
眉ひとつ動かさず喋る竜牙はなんというか、最初出会った頃と何かが違う。
しかし何が違うのか分からないまま、日和はその提案を受け入れた。
「はい、じゃあ……お願いします」
竜牙は腕を袖の中に入れ、無言で前を歩く。
185cm程の大きな体、がっしりとした背中がとても印象強い。
膝丈までに伸びた長い髪はゆらゆらと揺れて、綺麗な銀色がきらきらと輝いてとても美しい。
その背中を日和は追う。
「――すまない。家の場所を聞いていなかったな。こっちで合ってるか?」
「はい、大丈夫です。その……ありがとうございます」
ぴたりと足を止めた竜牙に日和は駆け寄って隣へ並ぶ。
なんでもない帰り道。
人が一人増えただけの、帰り道。
それなのになんとなく、心臓がいつもより跳ねたように鳴るのを不思議に思いながら、今日はその帰路を辿る。
結局何か会話をする、ことはなく無事に家へと送り届けられた。
「あの、ありがとうございました」
家を背後に、日和は深々とお辞儀する。
竜牙は真っ直ぐに日和の顔を見ているが、変わらず表情は崩さない。
「毎日こうやって送る事になる。多少は過保護だと感じるかもしれないが、問題ないか?」
「そうなんですか……私は大丈夫です」
「じゃあ周りにも伝えておく。すまないが、これからよろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
互いに頭を下げて日和は先に家の中へ入った。
自分の部屋に帰り生徒手帳を開くと、羽根は一切染まっておらず本当に何も起こらなかったらしい。
しかし式神に結界、お守り、となると益々自分が珍しく冗談で放った「悪霊退散」が中々現実のものではないか、と感じてしまう。
そういう類いに鳥の羽根、というのは些か意外性があるが、あの染みやこの羽根の輝きを見ると結構信憑性が高いのではないだろうか。
「……不思議な羽根」
羽根は、掲げるととても美しく感じられた。
「日和ちゃん」
廊下の方から、名前を呼ばれた気がする。
部屋から顔を出すと、下の階から祖父が微笑みながらこちらを見ていることに気付いた。
「あ、おじいちゃん。ただいま」
「おかえり、日和ちゃん。今日は珍しく日和ちゃんが先だったんだね」
にこにこと朗らかな表情をしていた祖父は、買い物袋を手に提げていた。
どうやら外出ついでに買い物に出ていたらしい。
「うん、でも今帰って来た所だから。……おじいちゃん、手伝うよ」
竜牙(たつが)
?月?日・男・??歳
身長:185cm
髪:銀
目:青
好きな食べ物:酒。辛口で度が高い物。今は主に影響が出るので控え中。
18歳に亡くなったので見た目はめちゃ若い。20前後。
髪はポニーテールなのに降ろせば床に着くのでは。邪魔じゃないの?って思うけど邪魔ならそもそも切ってるらしい。
首と手くらいしか肌を出さないけどメインの中では一番筋肉がヤバい人。
両耳につけている青い石のピアスはお守り。着物に袴、羽織をしているけどどれも何かしら効果がある。
?月?日・男・??歳
身長:185cm
髪:銀
目:青
好きな食べ物:酒。辛口で度が高い物。今は主に影響が出るので控え中。
18歳に亡くなったので見た目はめちゃ若い。20前後。
髪はポニーテールなのに降ろせば床に着くのでは。邪魔じゃないの?って思うけど邪魔ならそもそも切ってるらしい。
首と手くらいしか肌を出さないけどメインの中では一番筋肉がヤバい人。
両耳につけている青い石のピアスはお守り。着物に袴、羽織をしているけどどれも何かしら効果がある。