残酷な描写あり
17-2 夏休みの苦悩(前)
「明日、一緒に遊ばない?」
勉強して暇を弄ぶ毎日を裂くように、弥生からの連絡が投げ込まれた。
もちろん断る理由もないので、日和は何も気にせず即返事をしている。
集合場所は駅だ。
昨日、風呂から戻った後メールが入っていた。
今年の始め、駅の隣に大型の商業施設ができたらしい。
数多の雑貨やファッションが集まる店だけでなく、なんと最上階には映画館があるようで、そこへ行こうという話だった。
……といっても当の日和は興味すら持つことはない。
そもそもそういった商業施設は初体験である。
「あ!日和いたいたー! おはよー!」
午前10時、待ち合わせ場所に向かうとシャツの裾を結び、ショートパンツを履く現代の若者がそこに立っていた。
ヘソ出しに髪はしっかりと巻いて、とても活き活きとしたギャル系女子高生だ。
明らかに夏を満喫していてとても眩しい。
「おはよ、弥生……」
一方そんな友人の学校での姿とのあまりの違いにあっけにとられた日和の服装は、山吹色地に部分的に白いレースがあしらわれたワンピース。
夏らしさはあるものの、弥生に比べればかなり大人しい方である。
一応華月には「私がお選びしましょうか?」と目を輝かせていたが、断った。
服なんてとりあえず着て可笑しく見られなければそれでいい、という認識だったのだが……今日、その認識を崩されることをこの時の日和はまだ知らない。
「んー、日和って予想通りお嬢様だよね。好きなの?」
「そもそも自分で服選ばないから……」
口に指を当ててうーん、と唸る弥生に対し、日和は控え目に笑う。
日和の言葉を聞いて弥生は両手を叩いた。
「じゃあ今日は日和の着せ替えごっこの日ね!」
「えっ、なにそれ……!」
にっこり笑う弥生に日和は驚く。
だけどそれ以上に驚くことがあった。
弥生とは合流したのに、一切動きだす様子を見せないのだ。
どうしたのかと、日和はつい聞いてみる。
「……行かないの?」
「行かないよ! だってあと一人足りないもん」
「え?」
弥生はどうやら三人で行く気だったらしい。
いつも弥生とは二人でいるので誰が来るのかと思案する。
そのまま少し待つと、背後からやけにコツコツと靴音を鳴らして誰かが近づいてきた。
「あら、もう揃ってるのね。おはよう」
「なっ、波音!?」
「あ、きたきた! おはー」
聞き覚えのあり過ぎる声に日和は驚き、弥生はテンション高めに挨拶を返す。
日和が振り向くと、白いバックリボントップスに赤系のフレアハーフスカートを履いた波音がいた。
こちらは可愛さが全面に出ているが、波音のきりっとした表情は格好良さも感じる。
やっぱり日和が一番大人しいファッションをしているようだ。
「二人とも服のレベルが違う……」
「何よ、折角の女の子なんだから身のこなしや衣装で相手に印象を与えなきゃ駄目でしょう? このくらいの嗜み、当たり前よ」
足首に巻かれたリボンが特徴的なハイヒールサンダルをコツンと鳴らしながら、波音は日和をじっと見る。
そうだった。
波音は真のお嬢様だった。
「日和は夏用何着持ってるの?」
弥生はすかさず顔を覗き込むように屈んで聞いてくる。
期待の目が怖いが、日和はたじたじになって答えた。
「へ? えっと……さ、3着ほど……」
正確にはもう数枚あるが、全てハルから頂いた物で日和はまだ袖を通していない。
買ってくれるのは嬉しいが、どうしても気が退けてしまうのだ。
許してほしい。
「はっ?」「少なっ!」
そして酷い顔で驚く二人に声を重ねられ、なんだか恥ずかしくなった。
こうして日和は商業施設へと連行されることになった。
何だかんだでこの二人の女子力はすごい。
すごいとしか言いようがない。
何がすごいのかと言うと、今、波音と弥生により私はマネキンと化している。
既に5,6着くらい着ただろうか。
語彙力がごっそりと抜かれて頭も会話もついていけない。
「日和は綺麗めだからエレガントな感じとか似合うよねー」
そう口にするのは洗練されたデザインや体のラインがしっかり出る服を着せてくる弥生だ。
「日和はもう少し可愛さがあるフェミニン系でもいいと思うわ」
一方レースやふわりとした生地を選んでくるのは波音だ。
着せ替えをする度に店員さんが「素敵です!お似合いです!」を連発している。
AIじゃないかと疑いそうだが、後で弥生や波音から服のポイントを聞いているあたり本気で言っているらしい。
まだ1店舗なのにもう2万近くが飛んでいった。
服に対しての語彙力が底を尽きそうだ。
次に向かったのはシックな色使いのアパレルショップ。
白と黒のコントラストがとても目を惹くが、地味に露出が高い。
「「日和、これ着て!」」
店の入り口でマネキンが着ている服を着させられた。
一見首は半分ほど隠れる襟に袖の無い黒トップスだが、背中が半分以上開いている。
裾に柄の入った赤いラインのある魅惑的なスカートは巻いたデザインになっていてはいるが、かなりスリットが深い。
恥ずかしい以外の何物でもなかった。
こういったメリハリの出る衣服は自分より華月の方が似合うかもしれない。
「あ、あの……」
そんなことを考えていた日和だが、今は黙り込む二人に話しかけられない状況である。
二人とも神妙な顔つきになっていてとても怖い。
「これは、手を出してはいけない所に来ちゃったかしら……」
「いくらなんでも犯罪かも……日和が外に出られなくなるからやめよ……」
それはどういう意味で言っているのだろう。
さて、3店舗目はアクセサリーショップ。
皆それぞれ好きに回っているようで、弥生はイヤリングやイヤーカフ、波音はネックレスを中心に見ているようだ。
一方の日和は見るものを特に何も決めておらず、万遍なく眺めている。
寧ろファッションに興味がない人間がアクセサリーなど気にするはずがなく。
使用用途はわかっても何を見たらいいのかすら分からない。
結果、星やハート、花など様々なモチーフがあるアクセサリーを見るくらいしか浮かぶものは何もなかった。
存外三角や四角でもお洒落なアクセサリーとして売られているのだから不思議なものだ。
きっと本来とは違う角度だとは思うが、それはそれで興味が湧いた。
「……ん?」
リングのコーナーに差しかかった所、一つの指輪に視線が止まった。
深い藍色のような石がついた指輪。
見れば見るほど夜の闇のようで、自身トラウマとして夜が怖いというのについ魅入ってしまい、思わず手に取った。
「お、日和それ買うの?」
「ヘっ!? や、でも……」
「日和、服もアクセも一期一会だよ!」
そこへ突然話しかけてきた弥生に諭されてしまった。
確かにこんな機会は滅多にないのかもしれない。
日和はこの指輪を購入することになった。
昼食。
6階は飲食店街になっており、十数件の中から店を選んだ。
和食・中華・洋食・カフェのような軽食の店からカツやハンバーグといった肉々しい店など様々な種類がある。
そんな中で選ばれたのは、皆で好きなものをとバイキング形式の店だった。
既に好みのものを皿に揃え、食べ始めている。
ちなみに好みという好みのない日和は端から適当に選んでいった。
「へぇー、綺麗な色じゃない。気付かなかったわ」
最初は食事に対しての会話は戦利品――購入したものの話になった。
中でも指輪を買ったのが波音には意外だったようで、話題を振られた。
「うん、なんか目に入っちゃって。こういう色苦手なのにね」
「せっかくだからつけてみたら?」
購入した指輪を入れた袋ごと指でなぞる。
すると弥生が提案をしてきたが、不思議とそれを今つけようとは思えなかった。
「うーん、帰ったらつけてみるよ。なんかまだ気恥ずかしくて……」
「恥ずかしいはともかく、アクセサリー類はなんとなく抵抗を持ってそうよね」
「日和が恥ずかしいなんて意外ー」
波音も弥生も口を揃えて酷い言い草である。
残念なことに反論はないが。
「なんか既に色んなもの見た気分だよ……二人共強いね」
「何言ってるの?まだまだよ」
『全然足りない』
序の口だと言わんばかりに、波音が嘲笑うような笑みを見せる。
「こんなくらいで疲れてたら女の子なんてやってらんないよー」
「えっ」
にんまりと無邪気に笑う弥生は、まだまだこれからと捲し立ててくる。
「今まで女性の嗜みに興味を持たなかったツケね。私達の前で払いなさい」
「えっ」
「あ、ねえねえ! 次メイク見よ、メイク! あと男性のファッションも気になるなぁー!」
「そこは女性に関係あるの……!?」
「私、帽子や靴下も見たいわ。あ、鞄も良いわね」
「波音もまだ体力が有り余ってる……」
波音と弥生は完全にノリノリだ。
寧ろ誰もこの二人を止められない事に今更気付いた。
「女性の買い物」を理解できるようになるのは、日和にはまだ先のようだ。
食事を終えると最初に見たのはメンズファッションの店。
女性の衣服でもあまり興味がなかった日和にとっては、男性用の衣服なんてもっと意識の外だ。
「こういうバケットハットってかっこいいよねー」
「今は夏だしストローハットもかっこいいと思うわよ?」
しかし、やはりこの女子二人はそんな事は関係ないらしい。
日和は完全に静かに後ろから見ている状態だった。
話題に乗れないし、どうしようもない。
あまり興味の沸かないまま周囲をぐるりと見渡して、一つの物に視線が向く。
「……」
手に取ったのは、小物コーナーに並べられた格子に花のワンポイントが入った和柄のハンカチ。
何故か頭に竜牙が浮かんだ。
日和はハンカチをそのままレジへ持ち込み、会計を済ませる。
さっきの指輪で財布の紐がかなり緩んでしまったのかもしれない。
そんな風に思いながら、購入した小袋を鞄のポケットに入れた。
「……ふぅーん、ハンカチ、ねぇ……」
「しかも男性物。明らかにプレゼントだよね、それ」
背後にぞくり、と悪寒が走った。
卑しい視線を送る波音と弥生が、にやにやと笑いながら立っている。
「日和の財布の紐もそろそろ緩んだでしょう?」
「じゃあ、今から沢山買おうねっ」
「え、あ……これは、その……」
二人に腕を引っ張られ、店を後にする。
そして、手酷い洗礼を受けた。
お金なんていくらあっても足りなそうだ。
それから日和は一人、軽くなった財布に深いため息をついて、深く反省をするのだった。
勉強して暇を弄ぶ毎日を裂くように、弥生からの連絡が投げ込まれた。
もちろん断る理由もないので、日和は何も気にせず即返事をしている。
集合場所は駅だ。
昨日、風呂から戻った後メールが入っていた。
今年の始め、駅の隣に大型の商業施設ができたらしい。
数多の雑貨やファッションが集まる店だけでなく、なんと最上階には映画館があるようで、そこへ行こうという話だった。
……といっても当の日和は興味すら持つことはない。
そもそもそういった商業施設は初体験である。
「あ!日和いたいたー! おはよー!」
午前10時、待ち合わせ場所に向かうとシャツの裾を結び、ショートパンツを履く現代の若者がそこに立っていた。
ヘソ出しに髪はしっかりと巻いて、とても活き活きとしたギャル系女子高生だ。
明らかに夏を満喫していてとても眩しい。
「おはよ、弥生……」
一方そんな友人の学校での姿とのあまりの違いにあっけにとられた日和の服装は、山吹色地に部分的に白いレースがあしらわれたワンピース。
夏らしさはあるものの、弥生に比べればかなり大人しい方である。
一応華月には「私がお選びしましょうか?」と目を輝かせていたが、断った。
服なんてとりあえず着て可笑しく見られなければそれでいい、という認識だったのだが……今日、その認識を崩されることをこの時の日和はまだ知らない。
「んー、日和って予想通りお嬢様だよね。好きなの?」
「そもそも自分で服選ばないから……」
口に指を当ててうーん、と唸る弥生に対し、日和は控え目に笑う。
日和の言葉を聞いて弥生は両手を叩いた。
「じゃあ今日は日和の着せ替えごっこの日ね!」
「えっ、なにそれ……!」
にっこり笑う弥生に日和は驚く。
だけどそれ以上に驚くことがあった。
弥生とは合流したのに、一切動きだす様子を見せないのだ。
どうしたのかと、日和はつい聞いてみる。
「……行かないの?」
「行かないよ! だってあと一人足りないもん」
「え?」
弥生はどうやら三人で行く気だったらしい。
いつも弥生とは二人でいるので誰が来るのかと思案する。
そのまま少し待つと、背後からやけにコツコツと靴音を鳴らして誰かが近づいてきた。
「あら、もう揃ってるのね。おはよう」
「なっ、波音!?」
「あ、きたきた! おはー」
聞き覚えのあり過ぎる声に日和は驚き、弥生はテンション高めに挨拶を返す。
日和が振り向くと、白いバックリボントップスに赤系のフレアハーフスカートを履いた波音がいた。
こちらは可愛さが全面に出ているが、波音のきりっとした表情は格好良さも感じる。
やっぱり日和が一番大人しいファッションをしているようだ。
「二人とも服のレベルが違う……」
「何よ、折角の女の子なんだから身のこなしや衣装で相手に印象を与えなきゃ駄目でしょう? このくらいの嗜み、当たり前よ」
足首に巻かれたリボンが特徴的なハイヒールサンダルをコツンと鳴らしながら、波音は日和をじっと見る。
そうだった。
波音は真のお嬢様だった。
「日和は夏用何着持ってるの?」
弥生はすかさず顔を覗き込むように屈んで聞いてくる。
期待の目が怖いが、日和はたじたじになって答えた。
「へ? えっと……さ、3着ほど……」
正確にはもう数枚あるが、全てハルから頂いた物で日和はまだ袖を通していない。
買ってくれるのは嬉しいが、どうしても気が退けてしまうのだ。
許してほしい。
「はっ?」「少なっ!」
そして酷い顔で驚く二人に声を重ねられ、なんだか恥ずかしくなった。
こうして日和は商業施設へと連行されることになった。
何だかんだでこの二人の女子力はすごい。
すごいとしか言いようがない。
何がすごいのかと言うと、今、波音と弥生により私はマネキンと化している。
既に5,6着くらい着ただろうか。
語彙力がごっそりと抜かれて頭も会話もついていけない。
「日和は綺麗めだからエレガントな感じとか似合うよねー」
そう口にするのは洗練されたデザインや体のラインがしっかり出る服を着せてくる弥生だ。
「日和はもう少し可愛さがあるフェミニン系でもいいと思うわ」
一方レースやふわりとした生地を選んでくるのは波音だ。
着せ替えをする度に店員さんが「素敵です!お似合いです!」を連発している。
AIじゃないかと疑いそうだが、後で弥生や波音から服のポイントを聞いているあたり本気で言っているらしい。
まだ1店舗なのにもう2万近くが飛んでいった。
服に対しての語彙力が底を尽きそうだ。
次に向かったのはシックな色使いのアパレルショップ。
白と黒のコントラストがとても目を惹くが、地味に露出が高い。
「「日和、これ着て!」」
店の入り口でマネキンが着ている服を着させられた。
一見首は半分ほど隠れる襟に袖の無い黒トップスだが、背中が半分以上開いている。
裾に柄の入った赤いラインのある魅惑的なスカートは巻いたデザインになっていてはいるが、かなりスリットが深い。
恥ずかしい以外の何物でもなかった。
こういったメリハリの出る衣服は自分より華月の方が似合うかもしれない。
「あ、あの……」
そんなことを考えていた日和だが、今は黙り込む二人に話しかけられない状況である。
二人とも神妙な顔つきになっていてとても怖い。
「これは、手を出してはいけない所に来ちゃったかしら……」
「いくらなんでも犯罪かも……日和が外に出られなくなるからやめよ……」
それはどういう意味で言っているのだろう。
さて、3店舗目はアクセサリーショップ。
皆それぞれ好きに回っているようで、弥生はイヤリングやイヤーカフ、波音はネックレスを中心に見ているようだ。
一方の日和は見るものを特に何も決めておらず、万遍なく眺めている。
寧ろファッションに興味がない人間がアクセサリーなど気にするはずがなく。
使用用途はわかっても何を見たらいいのかすら分からない。
結果、星やハート、花など様々なモチーフがあるアクセサリーを見るくらいしか浮かぶものは何もなかった。
存外三角や四角でもお洒落なアクセサリーとして売られているのだから不思議なものだ。
きっと本来とは違う角度だとは思うが、それはそれで興味が湧いた。
「……ん?」
リングのコーナーに差しかかった所、一つの指輪に視線が止まった。
深い藍色のような石がついた指輪。
見れば見るほど夜の闇のようで、自身トラウマとして夜が怖いというのについ魅入ってしまい、思わず手に取った。
「お、日和それ買うの?」
「ヘっ!? や、でも……」
「日和、服もアクセも一期一会だよ!」
そこへ突然話しかけてきた弥生に諭されてしまった。
確かにこんな機会は滅多にないのかもしれない。
日和はこの指輪を購入することになった。
昼食。
6階は飲食店街になっており、十数件の中から店を選んだ。
和食・中華・洋食・カフェのような軽食の店からカツやハンバーグといった肉々しい店など様々な種類がある。
そんな中で選ばれたのは、皆で好きなものをとバイキング形式の店だった。
既に好みのものを皿に揃え、食べ始めている。
ちなみに好みという好みのない日和は端から適当に選んでいった。
「へぇー、綺麗な色じゃない。気付かなかったわ」
最初は食事に対しての会話は戦利品――購入したものの話になった。
中でも指輪を買ったのが波音には意外だったようで、話題を振られた。
「うん、なんか目に入っちゃって。こういう色苦手なのにね」
「せっかくだからつけてみたら?」
購入した指輪を入れた袋ごと指でなぞる。
すると弥生が提案をしてきたが、不思議とそれを今つけようとは思えなかった。
「うーん、帰ったらつけてみるよ。なんかまだ気恥ずかしくて……」
「恥ずかしいはともかく、アクセサリー類はなんとなく抵抗を持ってそうよね」
「日和が恥ずかしいなんて意外ー」
波音も弥生も口を揃えて酷い言い草である。
残念なことに反論はないが。
「なんか既に色んなもの見た気分だよ……二人共強いね」
「何言ってるの?まだまだよ」
『全然足りない』
序の口だと言わんばかりに、波音が嘲笑うような笑みを見せる。
「こんなくらいで疲れてたら女の子なんてやってらんないよー」
「えっ」
にんまりと無邪気に笑う弥生は、まだまだこれからと捲し立ててくる。
「今まで女性の嗜みに興味を持たなかったツケね。私達の前で払いなさい」
「えっ」
「あ、ねえねえ! 次メイク見よ、メイク! あと男性のファッションも気になるなぁー!」
「そこは女性に関係あるの……!?」
「私、帽子や靴下も見たいわ。あ、鞄も良いわね」
「波音もまだ体力が有り余ってる……」
波音と弥生は完全にノリノリだ。
寧ろ誰もこの二人を止められない事に今更気付いた。
「女性の買い物」を理解できるようになるのは、日和にはまだ先のようだ。
食事を終えると最初に見たのはメンズファッションの店。
女性の衣服でもあまり興味がなかった日和にとっては、男性用の衣服なんてもっと意識の外だ。
「こういうバケットハットってかっこいいよねー」
「今は夏だしストローハットもかっこいいと思うわよ?」
しかし、やはりこの女子二人はそんな事は関係ないらしい。
日和は完全に静かに後ろから見ている状態だった。
話題に乗れないし、どうしようもない。
あまり興味の沸かないまま周囲をぐるりと見渡して、一つの物に視線が向く。
「……」
手に取ったのは、小物コーナーに並べられた格子に花のワンポイントが入った和柄のハンカチ。
何故か頭に竜牙が浮かんだ。
日和はハンカチをそのままレジへ持ち込み、会計を済ませる。
さっきの指輪で財布の紐がかなり緩んでしまったのかもしれない。
そんな風に思いながら、購入した小袋を鞄のポケットに入れた。
「……ふぅーん、ハンカチ、ねぇ……」
「しかも男性物。明らかにプレゼントだよね、それ」
背後にぞくり、と悪寒が走った。
卑しい視線を送る波音と弥生が、にやにやと笑いながら立っている。
「日和の財布の紐もそろそろ緩んだでしょう?」
「じゃあ、今から沢山買おうねっ」
「え、あ……これは、その……」
二人に腕を引っ張られ、店を後にする。
そして、手酷い洗礼を受けた。
お金なんていくらあっても足りなそうだ。
それから日和は一人、軽くなった財布に深いため息をついて、深く反省をするのだった。